バルセロナの犬

犬さん、というのは変わり者が揃っておる。

猫たちは経験からゆってわしよりもカシコイが、犬さんは賢くはない。

でも個性的です。

バルセロナの外れのタパス・バーでモニとわしは昼飯を食べておった。

海辺のバールであって、風が気持ちがよい。

ここは観光客が来るとにらんじゃったりするので有名な店ですが、なに、涼しい顔で受け流して二三回行けば、あっというまにほんとうは親切なひとたちなのがわかります。

わっしは、大好きである。

いっちゃん初めに行ったとき、おっちゃんにわっしが「おっちゃんとこの食べ物はムイビエンだのい」と言うと、

何を余計なことをぬかす、という眼でギロとにらみつけて、しばらくわしを睨んだまま黙っていましたが、「ブエーノなのか?」と訊く。「シ、ブエーノ」というわし。

おっちゃん暫く床に眼を落として沈思黙考していましたが、ぐっと深く頷くとそのまま何も言わずに厨房に消えてゆきます。

よろこんでおるのだ。

実は初めのとき、店にいれてもらえなかった。

観光客だからメニューを持って行かないといけなかったり説明したりしなくてはならなくて面倒くさい、と思ったのでしょう、席が空いているのに「ダメだ。帰れ」という。

手で、あっちゃ行け、をされた。

忙しいのは見て取れましたが、それはいくらなんでもひどいんでないの、とわっしが言おうとした瞬間、アタマにくることにかけてはわっしの十倍くらい早いモニが、ものすごい勢いのフランス語で「ふざけるな、この失礼な礼儀知らずのオタンコナスのノータリンの

バカカタロニアンの(….以下、言葉が悪すぎるので省略)」と怒ります。

おっちゃん、後じさりして怯えておる。

わっしは、やーい、怒られた、モニえらい、パチパチパチと拍手しようと一瞬思ったが、

そーゆーことをすると、今度はわしが怒られるに決まっておるので、マジメな顔をして横に立っておった。

もうほんとうに嫌々ながら、という感じでモニとわしのテーブルを用意したのを憶えています。

二回目は、何も言わないで店にいれてくれるようになった。

三回目はカスクを指さして、ビノ・ティント・デ・ラ・カサとゆっておるのに、厨房から素知らぬ顔で上等のワインを持ってきた。

しかも勘定についてません。

勘定書にワインを付けるのを忘れとるやん、というと、ぶすっとしたまま、

忘れたわけではない、とぶつぶつ聞こえにくい声で言う。

ニコリ、ともしないが、おっちゃんはおっちゃんのやり方で親切をクールに決めているのです。

このタパスバーの犬が変わり者であって、たとえば先週行ったときには地面の枯れ枝に向かって吠えておった。

どうも、「こっちへ来い、この愚か者」と枯れ枝を叱っているらしい。

しばらく枯れ枝を叱りつけていたかと思うと、今度はいきなり枯れ枝に飛びかかります。

吠えてもわからん奴には実力を行使するしかない、とおもったもののごとくである。

首輪にヒモがついているのでジャンプの着地寸前でクビが閉まって、ぐぎゃあ、と苦しがっておる。

いよいよ自分のほうに靡いてやってこようとしない枯れ枝に腹が立ってきたようです。

まるで林彪に裏切られた毛沢東のような怒り方である。

枯れ枝のほうは林彪と同じで裏切ったつもり、ないんだけどな。

そこから後は大変で倍する大音声で吠えまくるわ、諦めも悪く飛びかかってクビがしまっては気絶しかけて怒り狂うわで、そばのひとたちはうるさくて会話が出来ないようであった。

終いには風が吹いてコロコロコロと向側に枯れ枝が転がっていってしまったので、この小癪な枝のあまりの挑戦的な態度にキレた犬さんは吠え声、というよりも、キンキン声になって吠えまくります。

うるへーので、わっしは立ち上がって犬さんに枯れ枝をもっていってやった。

するとすごい勢いでバリバリに噛み砕いて、「勝った」をしておる。

バルセロナの犬さんたちは、おおむね幸せそうである。

おしっこもうん○もし放題であって、人間は用を足しにバールに行かなければいけないが、犬さんたちにとっては街全体がトイレみたいなものなので、頭を使う必要がないところがよいらしい。

だいたいどの犬も機嫌がよくて、ちょっと手をふったりすると、おもいきりしっぽを振ってくれるのであって愛想がよろしい。

もうちょっと犬のほうで油断すると人間が見ているのを忘れて手をふってしまいそうな勢いです。(猫族は人前で口を利かないこと、犬族は人前で手を使わないことが種族の掟になっておるのは有名である)

人間のほうは、難しい顔をして前方やや下方を向いて歩いているが、これはイタリアと同じでそうやって緊張して前方を監視していないと暖かくて二チャッとしたものを踏んでしまうからです。

でも、犬さんたちのなかでも、例外はある。

シープドッグたちは、みなひどく不幸そうであって、つまらなさそうです。

わしはニュージーランドの田舎者なので、シープドッグの気持ちがわかってしまう。

石ばっかりの街じゃ、やなのだ。

からかって遊ぶ相手の羊もおらんしな。

信号の向側でわっしをじーと見ているシープドッグを見ていると、眼をそらしてしまいます。

すまんが、いくら見つめても連れてはいかれん。

誘拐罪になってしまう。

わっしも、ほんとうは、一緒にニュージーランドに帰りたいけどな。

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