Daily Archives: September 23, 2008

鎮守の森で

土を盛り上げただけの細い道を歩いてゆくと、頭のうえに広がった輝くように青い青空とまったく同じ青空が足下にも広がっている。 風が強い日にはとても水蒸気で出来ているとは思われない質感の大きい真っ白で巨大な積雲が頭上と足下とで素晴らしい速度で移動してゆきます。 息をのむような美しさである。 どこの話かって? 日本の水田の話をしているのに決まっているではないか。 あの「二枚の空」の中間に立ったことがあるひとは、一生その美しさを忘れないと思う。 わしらの言葉ではmeadowという言葉には特別な響きがある。 ゆるやかな丘陵がつらなっていて太陽に輝く草原がどこまでも続いている。ところどころ牛が草をはんでいて、点在している樹木の葉が風にあおられて、きらきらと反射する。 自然は国によって異なるが、どこにいても美しい、と思う。 わしは旅行ばかりしているが、やはり都会よりも自然の多い田舎のほうが好きです。 ifeelgroovy.netの「シャチョー」が「日本にいるあいだに、とにかくおれの故郷を見ていってくれ」と言ってうるさいので、シャチョーの故郷、新潟県松之山、というところに行ったことがある。 http://blog.livedoor.jp/matunoyma_sato/?p=5 シャチョーが熱狂的に自慢するだけあって、美しい町であった。 ほんの僅かな斜面の平地にも田がつくられていて、その小さな小さな耕地の端正な作り方に、わしはなんだか泣き出したくなるような感動をおぼえた。 見ているだけで、その小さな田をつくったひとの祈りが伝わってくるような耕地であったからです。 くるまでしばらく行くと、今度は驚くべきことに「鎮守の森」がそのまま残っていた。 日本のひとたちが知っているように「鎮守の森」は明治政府の命令によって全国的に破壊された。南方熊楠 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%96%B9%E7%86%8A%E6%A5%A0 という変わり者の、しかし偉大な魂をもった学者が必死の反対運動を繰り広げたが、 アニミズムの痕跡を色濃く残していた神社の国家宗教化運動である「神社合祀」の号令のもとに進められた国家の命令に対して、ひとりの「へんくつなバカ学者」の運動など「蟷螂の斧」でしかなかったのである。 だから在所の鎮守の森、というようなものは、そのときに絶滅したのだとわっしは信じておった。 わしが当時日本で乗り回していたオンボロのMX5で起伏の多い国道を行くと、途中で「まるで鎮守の森であるかのような小さな森」を行きすぎた。 わしは狭い道から脇の用水にこけそうになりながら、くるまをまわして、その場所までもどった。 くるまを駐めて、その森のなかに歩いてはいったとき、友よ、わしはほんとうに泣いた。 それは、いまは存在しないはずの鎮守の森であって、名前も扁額もないその社は、鬱蒼とした巨木の林のなかに佇っている。 精霊たちが雄大な枝振りのそこここに座していて、お互いにささやき交わしている。 きっと「なーんじゃ、このへんなガイジンは」とでも言っていたのでしょう。 わしは、その森で、陶然としてしばらく夢を見ているような気持ちであった。 そこに立っていると、木を切り倒し、在所の神社を破壊したときに失われたものは木と古びた建物だけではないのがよくわかります。 日本のひとがともに育ち、日本のひとに言霊を与え、日本のひとに独自の感情を与えた精霊たちも一緒に殺してしまった。 素朴過ぎることをいうようだが、 日本のひとがやったことで、いちばんよくないことは自国の自然を破壊したことである、と思う。 それは自分の臓器や手足を切り売りして100グラムいくら、で売り渡してしまったひとと似ている。わっしは本州のいろいろなところに行ってみたが、もうわしが行った頃では日本の、本来は気が遠くなるように美しいはずの自然は、もう「かけら」としてしかのこっていなかった。砂浜はコンクリートで寸断され。川は、巨大なコンクリ用水のような無様さであった。 ロンドンというのはいまもむかしも碌でもない街だが、エールを片手に土で出来た堤のわきに腰掛けて草の匂いをかぎながら友人と議論できるパブが、まだいくらもある。 東京に明治の頃は築地の海軍将校たちが酒を飲めば連れだって泳ぎに行ったという隅田川が残っていたら、どれほど素晴らしかったろう、と思います。 銀座の盛り場から盛り場をめぐるボート遊びは、どんなにか楽しかったろう。 まるで自分の肉体を子供たちに食べさせて、ついには死に瀕している母親であるかのような日本の国土のことを考えると、傷ましい、という以外に表現が思いつきません。 なぜ自分で自分を傷つけるようなことを繰り返すのか。 わっしは、これからその理由を学習しようとしているところです。

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