夜は「Milpitas」
http://www.ci.milpitas.ca.gov/
へ行った。
Milpitasは面白い町で名前からしていきなり間違っておる。
メキシコに行くと「Milpillas」という町がいくつかありますが、Milpitasはやっぱり、っちゅうか
このMilpillasの間違いだそーである。スペイン語の語形変化、難しいからな(自分でもよく間違えるので、おもわず同情するわし)
シリコンバレーの端っこであって、Adaptec とかSanDiskの本社はここにある。
Symantecとか Creative とかCiscoのデカイ支社も、ここにあります。
コンピュータ社会の柏市だすな。
戸塚みたい、とも言えるかも知れぬ。
ここには全米でだかカリフォルニアでだかで「ひとつの建物としては」最も大きい
「Great Mall」
http://www.simon.com/mall/default.aspx?ID=1250
があります。むかしはふたつの建物だったそうですが、いまはなるほどまんなかがつながっているので、ひとつの建物といえないこともない。
なかに入ると、どわあっとひとの洪水であって、みんなアジアのひとです。
タガログ語が聞こえるところを見ると、フィリピンのひともおる。
見渡す限り「白い人」はひとりもいません。
モニが、みんなアジア人だな、と言っておもしろがってます。
歩き方ですぐわかる、日本のひとたちもたくさんいます。
眼がなれてくると、ところどころ、ふたりとか三人とかコーカシアンのおっちゃんもいますが、なんとなくアジアっぽい感じのひとたちで、奥さんはアジアのひとである。
欧州にはよくある中東式のエステ(糸を使って、くるくるっ、ぴっ、と毛を抜く)の店を合衆国で初めて見た。
中国マッサージの店もあります。
モールというよりもアウトレットですが、ディテールがアジアなので見ていて飽きません。
こんなにひとが多いモールは初めて見た、とモニが眼をまるくしています。
ちょうどモニの胸くらいの高さのひともいっぱいいて、まるでノームの世界に迷い込んだようでもある。
インド人の家族連れもたくさんいます。
むふふ。 ひらめいた。
わっしは、駐車場で紙袋を積み込んでいるインド人一家に話しかける。
「この辺に、おいしいインド料理屋ないっすかね?」
「ほんもののインド料理屋?」と母親ふうのおばちゃん(60歳くらい)が聞き返すのは、「白人はパチモンのインド料理のほうが好きである」という現実の観察にもとづく感想を持っているからでしょう。聞き返してしまってから自分でも笑っておった。
「ほんものがいいっすな」と厳粛な顔でわっしは答えます。
「でも、ベジタリアンはだめでしょう? やっぱり肉がないと」
と息子(30歳くらい)夫婦が言います。
そう。これも「白人はバカみたいに肉ばかり食べたがる」という観察に基づいておる。
「ベジタリアンのほうがいいくらいです」とモニ。
「わっしもこのひとも、ドサが好きですからな」とますます厳粛な顔で答えるわし。
「イギリス人ですか?」と息子が関係ないことを言う。
「アイムジャパニーズ。日本人です」と後半日本語でわしが答えると、家族5人でいっせいにのけぞる。(言い忘れたが、若夫婦には、やたらにかわいいちっこい女ガキが付属しておる)
「ジョーダンです」
みな、いっせいに、ほっとします。
他人のジョーダンに対する模範的なリアクションである。
モニが横で呆れておる。
ニューヨークでも同じことをやったが、あのときは全然受けなかったからな、受けてよかった。
体勢を立て直したかとおもったら、すぐ、息子が「イギリス人ですか?」とまた訊きます。しつこいね、きみは。
「いーえ。ニュージーランド人です」
「でも、イギリス訛ですね」
うー。なんならスコットランド訛で話して見せましょうか。低地ゴリラ訛もやれる。
ジェーン・グッドール直伝のチンパンジー語も話せます。
うおー、ほっほっほっほぉー。
パンジャビ訛だって話せるんだから。
「あー、あそこがいいな。この先にトルXXXビハXX」ちゅうところがあってね、と父親が言います。
レストランの名前にXが多いのは、伏せているではわけではない。
18 歳未満禁止なのでもありません。
長すぎて聞いた瞬間忘れてもうたからです。
通りの名前の方を必死で憶えて、お礼を言ってくるまに戻った。
モニはカレー味のポテトがはいったドサ(南インドのひとが食べるパリパリの無茶苦茶おいしいパン)を、わっしは「辛いカレーのタリ」(南インドの定食のことだす)を頼みました。
涙が出るほど、うまかった。
ウエイターのにーちゃんがやってきて、タリのお盆のまんかなにあるライスを指さして、食べ方を一生懸命教えてくれます。
熱いギー(インドのバターっすね)をもってきてかけてくれる。
その上から名前を忘れちった豆で出来たまっしろな粉をふりかけます。
それを混ぜて食べる。
塩入りのラッシーを飲みながら、広いレストランを見渡すと、たくさんあるテーブルはインドのひとでいっぱいです。
インド人以外の客は、モニとわっしの他には、見るからにお金持ちそーなドイツ人の若夫婦がいるだけである。
このひとたちは端っこのテーブルに腰掛けて目立たないように座っている感じで、とても感じのよいひとたちであった。
世代や考え方によって食べ方がいろいろである。
右手だけを優雅に使いこなして食べている人もいれば、ナイフとフォークで食べているひともいる。
店員同士はインドの言葉で話していますが、見た限りでは客たちはみな家族同士でも英語で話しています。
アジアの食べ物がどちらかというと苦手のモニも、ものすごくおいしかった、と言う。
見ると、支払いはみな丁度日本と同じように出口のところで払っています。
モニとわっしも帰る支度をしていたら、わっしらのところには、マネージャーが慌てて走ってきて勘定書をもってきた。
勘定書がケースにはいっていなくて裸なのでわっしが「チップは、テーブルに置いていくんすか?」と訊くと、「わかりません」と言い残してゆきます。
わかりません?
さっきのにーちゃんのほうがマシな英語だったので、直截チップを渡すべ、と考えて、にーちゃんに、さっきは、いろいろ説明してくれて、ほんとうにありがとう、と言ってチップを渡そうとすると、驚くべし、「そんなものは、受け取れません。わたしの当然の仕事をしただけですから」と言います。
あの、わっしの大好きな、アジア人のはにかみの笑いを浮かべておる。
合衆国にあると言っても、店のなかはほんとうにインドのルールで物事が行われているようです。
あーだこーだと言いくるめてチップを押しつけるのに成功したわっしは、ようやく寒くなった夜の駐車場に出ます。
「アジアのひとは、いいねえ」とモニが言う。
わっしも、そう思う。
なんというか、「親切」というものの在り方が西洋人とはずいぶん違うようです。
何の変哲もない上に町の名前が文法的に間違ってさえおるMilpitasという町が、モニもわっしも、すっかり好きになってしまいました。
画像はタリ。
実際は、まんなかのバスマティ・ライスの上にチャパティやなんかを載せてもってきます。
うめかった。
10ドルでした。
あんなにおいしいものを合衆国のような国で10ドルで出せるインドのひとの文明はすごい。