Lに

ルクセンブルクのポルトガルバーで会った日のことをおぼえていますか?

わっしは世界というものが嫌いな何も判っちゃいない大学生で、あなたは、こんな名前はあなたには相応しくないが、

あなたはそんなものよりも何倍も素晴らしいひとだったが、天使そのものだった。

他に、どんな呼び方がありうるだろう?

4月の季節外れの嵐のなかで、あなたと会った。

ホテルの男の子がやってきて、あなたのことを伝えに来た。

あなたは初めから妖精のようであった。

肉体がある、どころか、誇らしげに輝かしい肉体を誇示する妖精だった。

わっしは19歳で途方にくれている単純で蒙昧な肉体だったわけです。

あの灌木が茂った丘の上で、あなたとわっしは遠くまで続く田園を眺めた。

わっしが我慢できなくなって、「あなたは天使のようだ」というと、30歳になる天使なんていないわ、と言って笑った。

あなたがあれほど結婚しなさいとすすめたモニが今日はヘアドレッサーに行っていたのでよかった。

わしは狼狽した夫という姿を見られないですんだわけです。

日本という遙か彼方の国で、有楽町駅の前に立っていたわしの手元にあなたが死んだというメールがくる。

純粋な人間はみなあなたのように白い粉にまみれて死んでしまう。

わっしのように、すれっからしになる、という防衛策を持ち得た人間だけが生き延びてゆけるのです。

わしがいる東京は今日も神様の汚ない息で曇っています。

われわれの非人間的な神の圧倒的だが驕慢な知性でこの街の空も曇っている。

わっしは(あなたの死を知ったので)モニにあうために美容室を探しているのに、この知らない人たちがつくった街では東も西もわからなくて、どうしても見つからなくて泣きたくなる。

どうして、わしはこんなところにいるのだろう、と考えてばかばかしい気持ちになりました。

トンブリッジウエルの径を一緒に歩いた。

わしは、いまでも木洩れ日のなかに立っていたあなたの途方もない美しさをおぼえています。

あなたは人間は信頼するに足る存在だと言ったが、ほんとうなのだろうか。

あなたは人生は過ごすに価する時間だと言ったが、わしにはちゃんとは信じられないのです。

この国には、あなたと同じ「人間はウソをつくから信用できるのだ」という意見の小説家がいて、なにを言っているか誰にもわからなかった虚しい演説のあとで首と胴体が離ればなれになったのを、あなたは知っていましたか?

わっしはホテルのテラスに出て、あたりを照らす光のなかで あなたとモニが共通に好きなSeydou Keitaの写真集を見た。

夜のなかで囁き交わすひそやかな「声」を聴いた。

そして、こんな世界はもうたくさんだ、と考えました。

ばかばかしい。

もう、うんざりです。

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