A Real Kiwi

ときどき行くカフェの主人のベッキーさんの様子が変である。
ベッキーさんはニュージーランドで生まれて育った。
オークランドのハウィックというところです。
お母さんとお父さんは香港からニュージーランドにやってきた。
いつか訊いたらいまでも両親は英語をようしゃべらん、とゆって笑っていました。

ベッキーさんは、中国語もしゃべるが英語が母国語。どころか、バリバリのKiwi Englishで話す。

(Kiwiというのはニュージーランド人が自分たちを呼ぶときに使う呼び名です)

カフェの主人、と言ってもまだ24歳である。

わしから見ると東アジア人の特徴だが、頭の回転がものすごく速くて、わっしが10考えるあいだに1000くらい考えて、いらいらしながらわしの反応を待っているようなふうです。
「ガメさんは、ほんとうに、のんびりだから!」という。
「なんだか、いらいらする」と言いながら、でも、人の相性というものはそういうものなのでしょう、ベッキーさんとわしは「ウマがあう」のだ。

だからベッキーさんのカフェに新聞を持ってモニとふたりでゆく。
軽い夕食を食べにも行く。ベッキーさんが得意な「flat white」を飲みに行く。
ワインだけを飲みに行くこともあります。

今日は、ちょっとヘンだ。
いつもと同じににっこりはするものの、なんとなく顔が強ばっているような気がする。
受け答えもぎごちないし、そう思って疑うとモニとわしを避けているようにも見えます。

ヘンな奴、と思っているうちに他の客がいつのまにかいなくなった。
ところが驚いたことに、いつもなら客がいなくなるとこれ幸いとばかりにわしのいるテーブルに寄ってきて、6連装バルカン機関砲よりも速い饒舌がとんでくるのに、カウンタのほうへ行ったきり、こっちを見ようともしない。

ちょうどワインのグラスが空になったので、わっしは手をあげてベッキーに合図する。
やってきたベッキーに思い切って「どうしたんだよ。ヘンだろ」という。
しばらく、ぐっとあごをひいて、わしを見つめていましたが、えーい、と思い切ったとでもいうような感じで、「先週、旦那とクライストチャーチに行ったの」という。
ベッキーの「旦那」はアフリカ人で、物腰の柔らかな知的なひとです。
わしの新しい飲み友達でもある。

「旦那と道を歩いていたの」
「そしたら」と、なんだかそこでこおみあげてくるものを我慢するような顔になります。
「そしたら」それからみるみるうちに突然眼に涙をためだしたので、びっくりしてしまいました。
「I was yelled at!」という。
そのまま、よっぽどくやしかったのでしょう。おいおい泣き出してしまった。

ガメ、I was yelled at!

モニが立ち上がってベッキーの肩を抱いてやっておる。

I was yelled at!
というのは日本語には適切に訳せないが、「くそアジア人、てめえの国に帰れ」とか、
「ここはおまえのいるところじゃないだろう」とゆわれた、という意味です。

「クライストチャーチなんか、だいっきらい」
「カンタベリの奴らなんて最低だわよ。なによ、あんたたちって、ただのレイシストじゃないの」
わしはレイシストだったことはいちどもないぞ、と言うと、
わかってる、わかっているけど、思い出すとガメもクライストチャーチの出身だなあ、と思って、ガメなんか嫌いだ、と思うのよ。
わたしが、オークランドに戻ってくる飛行機のなかで考えていたのはそればっかり。
ガメだってカンタベリの奴なんだ。きっと、あのレイシストと同じなんだ。
ガメのバカ野郎、ガメなんか大嫌い、とそればっかり考えていた。

友よ。
わしは、ベッキーの悔しさが胸に迫って一緒に泣いた。
他にはわしには何も出来ないからな。

安心したことには、ひとしきり大泣きに泣いたあとベッキーは、「わたし客にクライストチャーチの悪口いいまくるけど、いい?」
「いつもみたいにガメが『クライストチャーチはいい町だ』と言うのはいいけど、わたしは決して同意しないと思う。それでも、いい?」と言いながら眼がいつものベッキーの明るい眼に戻っておる。
「十分、公平だとおもう」とわしはゆいました。

「あいつら、わたしたちKiwiの風上にもおけないやつらだわ。あんなひとたち、絶対許さない。ガメ、そう思うでしょう?」という。
もちろんだわさ。

ベッキー、この国を一緒によくすべ。
あの通りをクソグルマでいったりきたりして、くだらんことを叫んであるく一握りの負け犬のクソハゲどもを駆逐しよう。
カンタベリは、まだ田舎だから、アホがおる。
でも教育すれば、なんとかなるべ。

帰り道、今年初めての秋風に向かって歩きながらモニが「ベッキーはKiwiだな」と、なんだかおかしそうに言います。
「うん、あれは本物のKiwi」
不当な扱いには絶対に我慢しない、ほんまもんのKiwi。

もちろん人種差別ハゲどものほうがインチキなKiwiなのさ。
そうしてベッキーのような人間がいるかぎり、この戦いはKiwiたちの勝ちに決まっているのです。

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2 Responses to A Real Kiwi

  1. じゅん爺 says:

    >今年初めての秋風に向かって歩きながら
    今朝、きのうまでの氷雨と違った柔らかな春雨が、椿の花を濡らしておるよ。小鳥が蜜を吸いに集まって、枝が静かに揺れている。
    地球の反対側にいる人とお話しできるって、幸せなことやの。

    • じゅん爺さま。

      秋らしくなったと思ったら、またちょっと夏にもどってしまいました。夏、っちゅうても23度、とかですけど。
      日射しが強いので日向に座っていると暑いっす。

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