遊ぼう


モニが、知的なハンサムでそのうえいまどき珍しい温厚で成熟した人格のその青年(わしのことね)と結婚して最も衝撃をうけたのは、わしが、結婚するまえにさんざん聞かされたナマケモノで何もしない人間だという誇張された悪い噂よりも現実はもっとものすごく何もしない人間で、およそ「労働」とかは、けけけ、と笑って鼻紙にして捨てる程度の興味しかもっていない、という事実を発見したことだったそうである。
ほんとうだとしたら、とんでもないやつだ。
ほんとうだけどね。
ほんにんがいうのだからまちがいはない。

朝、とゆってもたいてい午後一時くらいだが起きてくると、まっすぐラウンジのコーヒーテーブルに行ってMBP(MacBookパワーの事です。略するとカッコイイので略しているのね)を開けて黙って静かにブラウザを眺めている。
途中でたっていって、ものすごい集中力で淹れたコーヒーをモニのいる寝室にもっていってから、自分の机にもおく。
おもむろにコーヒーを飲みながら、
「今日はモニさんとビレッジのシシュアンに行くし」と考えます。
今週はダンダンミー(担々麺)を研究しているからで、めぼしい四川料理屋を発見してはあんまし中華料理が好きではないが四川料理だけはおいしいと思う事があるモニをひきずってゆく。
四川人が集まる店は、辛いだけであまりおいしくないようだ。
マレーヒルの日本人がいっぱいいる店は、胡麻の使い方が上手でうまい。
グランドシシュアンのチェーンも安い割においしいのだとゆわれている。

日本の担々麺は麵がスープに入浴しているが、NYCで中国人たちのつくる担々麺は一見素のままの麵にほうれん草と豚の挽肉がのってその上にトングが載って出てくる。
「丼」の半分くらいの大きさの鉢の下には、それが勝負所であるらしき、胡麻油とチリ油が混ざった油たれのようなものが沈潜していて、トングを使って、ぐあっとへっくりかえすといきなり辣油まみれになってところどころに件の豚挽肉がへばりついた混ざりものが出来上がるので、スパゲティと同じ要領でくるくるぱくりと食べます。

うめーんだよ。
なんど食べても不味いのかうまいのか判らなくて、いったいどっちなんだはっきりしろよな、と思いながら中華料理がそれほど好きとはゆえないわしが何度も食べてしまうのだから、きっとおいしいのだと思う。
高級店で食べても5ドルだし。

オークランドはNYCなど全然問題にならないくらいの割合で四川人が蟠踞しているが、四川料理屋に行くとニューヨークとは違って麵がスープに入浴しているのや、スープがないのや、これでもかこれでもかと豚挽肉が載っているのや担々麺って菜食麵ちゃうの?ちゅう感じのや、いろいろあるので、ああいう担々麺はNYCスタイルであるらしいが、いま思い出したが、わしは担々麺の話をしていたんじゃないやん。

閑話休題

モニは、わしが真剣な顔をして何か考えているときは決まって次の食事に何を食べるかということを考えているときだ、といって笑う。
そんなことはなくて、モニが考えるよりも遙かに計画性に富んだ知性の持ち主であるわしは次の次のご飯を考えているときもよくあるのだが、脳が溶けた鷹は爪がマニキュアで光るという。
マリファナくらいなら良いがトルエンは大脳が器質的に溶けてしまうので気をつけましょう。
次の食事のことを考えていることにしておいても良いと思う。

モニがでかける仕度をしているあいだに、わしは昨日の晩につくったバチャータの旋律にあわせて机の下の足でステップを踏みながら、ソリシタ(UK)やロイヤ(米)が書いた法律上のやりとりのメールを読みます。
表計算のシートも広がっている。
これは日本語のブログであって、まさかわしが日本語でこんなことをしてるなんて思う奴は、わしの手下(てか)にはひとりもおらないだろうからヘーキで書くと、わしが見ているシートにはずいぶんヘンなものもあって、わしはそういう些事シートを眺めて電気代の推移で事業に関する社長たちやマネージャーたちのウソを知っていたりする。
吝嗇な冷菜凍死家というのはこわいのよ。

バチャータはおもろい音楽で、なんでもかんでもバチャータに出来る。
「はるばるきたぜ函館へ」だってバチャータに出来ます。
あのひとも山口組の衆のまえで鼻をふくらませてないで、親分衆を舞台にあげてみなでラインを組んでバチャータを踊ればいいのい。
暴力団もいつまでも「伝統」にばかり頼っていては闇の組織になってしまうのではないか。
…あれは初めから闇の組織がバッジつけてえばっているのか。

若いマジメなお坊さんが、土地の有力者に無理強いされてつきあわされた売春宿の宴会で、ああ惨めなことになった、こんなことにつきあわされてしまって神様になんとゆって申し訳をすればいいだろうと唇をかみしめていると、
目の前で踊っていた白拍子が突然菩薩の姿に変化して、それまでの今様(いまよう)も唱和される経文に変わって、まばゆいばかりの光のなかの菩薩が、「悩まなくてもよいのです。わたしがあなたをゆるしてあげましょう」という。
わしは、あの日本の昔の説話が大好きだが、「遊ぶ」ということには神聖性がある、とわしは思う。

ホイジンガやカイヨワはマジメな秀才にしか過ぎなかったのでどうしても「遊び」に意味をみいださなければならなかったが、それでは「遊び」というものの本来の価値は見失われてしまうのではなかろうか。

意味は病気のようなもので、いちどものごとに意味をみいだしてしまうと、それは壁にも道路の表面にも水や空気にさえべったりとくっついて離れない。
病状がすすむと意味を呼吸するようにさえなります。
動物の進化をみてさえ「適者が生存したのだ」といいだす。
猿はもしかしたら、あるとき突然ただおったってしまったのではないか、と考えるのは適者生存の理屈を思いついたあとでは大変なのです。

現代社会では遊びは生産活動と対比して扱われさえする。
「仕事のストレスがたまったので遊ぶ」というひとまででてくる。
仕事のストレスと課長のハゲ頭が魂に充満して耐えられなくなって週末のバーに繰り出すのなら、それは遊んでいるのではなくて、まだ仕事をしているだけなのが判らないもののようである。

原稿料をもらっているのだから、ちゃんとしたものを書かなければ、ちゅうようなことを考える小説家が硬質の光と影が入り組んで軋みながら流れてゆくような物語を書けるものだろうか。

あるいは富の増大が職業である投資家ですら、それは同じことであって、カネをもうけようと思ってオカネが儲かった投資家などは後進社会にはいないとはいわないが、通常は少なくとも個人の資産で投資を行う投資家はゲームの追求者であって、たいしていりもしない財産をアイデアを現実の世界に投射してみたい一心で現実世界に投下して、ますます金持ちになっていっているにすぎない。
オモロイからやっているだけです。
ディアブロに狂っているゲーマーとなんら変わらない。

木の枝と缶と糸があれば、やはり楽器をつくりたくなる。
つくれば、弾きたくなるでしょう?
鉛筆と紙があれば、手にとって翼を休めて弓の手入れをする天使のたおやかな姿を描きたくなる。
音楽が聞こえてくれば足というものはステップを踏みたくなるものであるし、
可塑性のものがおいてあれば、それを使ってオモロイ形をつくりたくなる。

ガメちゃん、たったそれだけのことなのよ。
わしがチビガキのときに気が遠くなるくらい広い部屋にやたらと家具がおいてあるあのヘンな部屋で曾祖母はわしにそうゆってきかせたものであった。
ほかには、この世界にはなにもないのよ。
それが、ありのままにわかるように強い子供にならなければなりません。

と、ゆーわけで、わしはひーばーちゃんの言いつけを守って、仕事などはするわけにはいかむ。

どんなに世界が意味に濡れてしまって生産生産と叫びはじめても、わしは仕事をしてしまうわけにはいかないのさ。
きみがどんなに正義正義と叫んでも、わしはきみが信じている神様にはシッポが生えているのを知っているのと同じことです。

家訓だし。

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2 Responses to 遊ぼう

  1. papikko2525(とり) says:

    あっはっは(笑)
    なんとも、こころすく文章で家訓であることですな!『遊びをせんとや生まれけむ』かな。
     そういや私も「言葉のラベリングに拘ってもきりがないし、今を楽しむほうが私にとっては大事だもんね」「何を楽しむかと言うと歌を謳います」といってゼミで謳うという幼稚園児のようなことをして大学をかろうじて卒業しました(そのそも日本の大学そのものが幼稚園みたいなもんだけど)。楽しむのは好きだけれども、ゲームの勝敗に興味ないのでなかなかうまく世渡れないところが難儀ですが(苦笑)。

    ありのままって物凄く簡単なのに、なんでこんなに難しくなっちゃってるんでしょうね?ペーストした芋は芋だが、芋には戻らない、みたいな感じ。面白いですけどね。

  2. papikko2525さん、

    >ありのままって物凄く簡単なのに、なんでこんなに難しくなっちゃってるんでしょうね?

    ありのまま、は簡単だが、ありのままのものをありのままに理解するのは案外と難しいみたい。
    小林秀雄が志賀直哉について書いた文章を思い出しました。

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