値札の付いた絵を見にゆく

オークションに出品される作品の下見に行った。
マンハッタンのサザビーズはルーズベルト島へのロープウエイの駅がある、(わしのアパートから見ると)すごおおおく北のほうにあります。
遠いんだよ。

わしはあんまり寝てなくてへろへろなので「タクシーで行くべ」と提案したが、モニさんは「良い季候だから歩いていきましょう」という。
うそおおお、眠いよお。
75thだよ、あそこ。
60ブロックあるねんで。
タクシーで行こうよお。
ダメならせめて地下鉄にしてくれ、とさんざん駄々をこねたが、ずっと駄々をこねながら歩いていたらグラマシーの辺りで調子がよくなってしまって元気になってしまった。
これだから、自分の身体は信用できない、と考えました。

懐かしい感じのするサザビーズの回転ドアをまわしてはいると、そこには大きな美人が艶然と微笑んでおる。
生姜色の髪に血色のよい頬、聡明を形にしたような額に、きみの眼ん玉にはクリスタルがしこんであるのかね、とゆいたくなるようなキラキラと輝く明るい青い眼が眼鏡の奥に輝いておる。
だから「美人」というほうは衆目の一致するところ問題ないとして「大きい」というほうは説明がいります。

ブログに書いちまうべ、と思ってさりげなく身長を確かめたら6フット2であった。
わしはごく最近までフットからセンチメートルへの変換に失敗して自分の身長も186センチだと思っていたくらいであるから、わしのcm感覚はあてにもならない。
今回はこの女びとの身長をグーグルセンセイにマジメに計算してもらったら、189センチであるそーです。
センセイ、計算、すごい。

モニさんは細っこいまま、ぴょおおおんと伸びて背が高いが「大きな美人」Kは、5フット6くらいのひとが微妙に縮尺を間違えて電送チューブから転送されてきました、ちゅう感じです。
全体に均整はとれているが、普通のひとが1割がたおおきくなったと思えばよろしい。
このひとは、美術型Rロボットみたいなひとであって、出展される作品についてすみずみまで知識をもっている。
美術史的な知識のみならず、前の持ち主、そもそもどういう経歴で作品が会場にたどりついたか、作家が美術史に占める位置、なんでも知っている。
帝国美術データバンクですのい。
画家が倒産したりすると、もう次の瞬間には知っているかもしれない。
与論島に住んでいる画家の年収を訊いてみようかしら。

ゴーギャンがでっち上げた胸像が12億円くらい。
マグリットのQuand L’Heure Sonneraが6億円くらい。
ピカソのFemmes Lisantが25億円。

たけえー、と思いながら、「説明するかね」というKに、「絵を観るだけでいいぴょん」とゆって、主にわしひとりとモニ+Kの二手に分かれて会場をうろうろするたわしたち。

こーゆーものも、当然ながら経済と連動していてたとえば合衆国の景気がよくなると現代絵画、とりわけピカソがびよよよよよおおおーんと高くなります。
おおむかし、日本の景気がよかったときはルノアールやゴッホ、シャガールの値段がやけくそみたい、っちゅうか、0が集団で行進しているようなバカ値段になった。

ところが合衆国の経済がおっこちてきても値段は案外こけないで高値で安定するので、だんだん「投資」として美術品を買うバカタレが出てくる。
バカタレというものは衆を為すという傾向があるので、みるみるうちに市場にバカタレが充満して最近はなんだか商業ビルの競売かこれは、という雰囲気になってきた。
なかには「俺が死んだら愛するゴッホの『ひまわり』と一緒に葬ってくれ」とバカタレが10乗されたようなキチガイバカタレの日本の生命保険会社の社長まで現れるようになった。
クリティーズだかサザビーズだかの社長が日本を名指しで「このクソ成金のおおばかたれが」と罵倒したのもこの頃だったが、それを聞かされたほうの反応は「あんたの言うこっちゃおまへんがな」であったと思います。
両方ともはっきりゆって不良会社だからな。

わしは「におくえん」とかゆわれると、もう自動的に美術物欲にシャッターがおりて、ゆってみれば長谷の大仏を眺めるように、ごく清明な清らかな気持ちになってしまうので、目玉の作品群は「たけえええー」と思っただけであった。
Kもモニももちろん、そういうわしの気持ちは知っているわけである。

ジャコメッティもこの頃は高杉晋作だの、とか、クレムトの鉛筆画になんでこんなに出すやつがおるんじゃ、と思いながらうろうろして結局10階のメンタマ作品で、ちょっと気持ちがよろめいて踏鞴を踏んだのはモニにすごーく似合いそうな一対のダイアモンドのイヤリングだけであった。
6階に降りるリフトのホールに向かいながら、「あのイヤリングを、どう思いますか?」とおそるおそる訊いたら、「わたしは、ああいうデザインは嫌いです」ということだったので、安堵しました。
よかった。
とても、よかった。

マンハッタンのサザビーは6階と7階がエスカレータでつながっておる。
今回は19世紀絵画であって、わしは、あのダッサアアアーイということになっている19世紀の人物画、とかがとても好きです。
えっ、安いからだろう?って、なんということを言う。
ほんとうのことをゆってはいけないと橋本浩二センセイもゆっておられるのを知らないのか。

下調べなんて全然しないででかけるわしは、ここで割と好きな、ちゅうかとても好きなJ.W.Godward の無茶苦茶カッチョイイ絵があったので狼狽してしまった。
1200万円くらいみたいなことが書いてあるが、これまでの経験でいうと800万円くらいで買えてしまうのではなかろうか。
こういう絵は、好きなやつが遭遇すると理性を失いやがるので、もしかすると1200万円くらいの外廊下になってしまうが、そのときはそのときだよねえ、と一瞬で電卓するわし。

ところが、この階にはRembrandt Bugatti
 http://en.wikipedia.org/wiki/Rembrandt_Bugatti 
の出来の良いブロンズ(特に象さんがかっこよかった)はあるわ、
大好きなGaetano Belleiのむひゃひゃなくらいよく描けている絵はあるわ、
新しく買ったラミュエラの家のエントランスホールの壁にばっちし決まりそうなFrederick
Goodallの例の「グランデ」な感じの絵はあるわで、
物欲が刺激されまくるのであった。

絵は、あんまり欲しい絵がいっぺんにあらわれると、ま、買わなくてもいいや、になるという不思議な性質を有する。
あんまり欲しいものがたくさんあったので、なんだかどうでもよくなってしまった。
そーゆー、わしの気持ちを見破ってKとモニが笑っておる。
笑いたければ笑いたまえ。
でも、良い作品を集めすぎよね。
くだらねえ地の作品が並んでれば、今頃はたくさん絵を買って泣いてたかもしんないけど。

助かったような。虚しいような。

帰りはマディソンアベニューのモニのアパートに寄って昼寝をしてふたりでチェルシーに帰りました。
タクシーで帰った。

イタリアン・バーで、季節外れの牡蠣とロブスターを食べながらスプマンテを二本とマティニと「反乱軍兵士」というカクテルを飲んだら、すげー酔っ払ってしまった。
帰りがけに春らしいスカートをゆらめかせて給仕長と話しているモニに見とれていたら、ポークパイハットを忘れて店を出るところであった。

この街のもう少し南にはトライベカというところがあって、昨日は午前2時頃、そこにひとが三々五々集まってきて、しまいには大群衆になって、ウサマ・ビン・ラディンというひとりの、自分で稼いだこともない金持ちのバカガキをぶち殺したことを大勢のひとびとが祝ったのだった。
ひとりの現実と頭のなかにあるものの区別がつかなくなった元バカガキを国家が殺したことを大勢の国民が祝うのは明らかに下品だが、
2年前、この同じ場所で、真冬の、「このひとがどうなったか知りませんか。どんな死に方をしたか、だけでもいいから教えてください。このひとは、私という妻と3歳と5歳のふたりの息子の良い父親でした」というようなメッセージボードが文字通り鈴なりになった金網の前に膝をついて、雪のなかで号泣していた若い男の姿を思い出すと、
無理もないか、と思わなくもない。

相変わらず大陸を横断した西海岸のそのまた向こうの太平洋の反対側で、「あれはパキスタンの裏切りだ」「あれでも国家か」と暇つぶしに陰謀論や自分たちがその腕の中で鼻提灯で眠りながらここまできた合衆国をあたかも無関係の国であるかのようにみなして無責任な「議論」を楽しんでいるひとびとよりも、わしにはまだわかりやすい。

バラク・オバマよりもクリントンのほうが演説が大統領然としていて、3回「オバマ大統領も言っているように」繰り返すたびに、なんとなくクリントンが立っている現在の微妙な位置がうかがえて苦笑させられるが、
「You can’t beat us」という言葉にこめられた合衆国の暴力的な矜恃は、まだこの原理によって世界を支えてゆくのだ、という決意が感じられて、すげー、と思わせた。

バラク・オバマという善意の塊ではあるがテレビのトークショーのホストみたいに見えなくもない大統領のあとに、トライベカに集まってひとりのバカ男の虐殺を祝った国民が、この次にどんな人間を大統領に選ぶか、興味がなくはないが、
わしは世界の外側に生きているようなものなので、ひどいことをいうと、
ま、どーでもいいか、と思わなくもない。
ショーバイに直截影響するからときどき政治のことをしぶしぶ考えるだけである。

絵、やっぱり二三個、買っちゃおうかしら。
さっきは書かなかったが、モローのLes Epreuvesもあったんだよね。

うー。

This entry was posted in アメリカ, ゲージツ. Bookmark the permalink.

2 Responses to 値札の付いた絵を見にゆく

  1. b_caramel says:

    オークションは、5月5日までなんですね? モローを買いますか?

    他は誰ひとり名前を知らなかったので、ぐぐってみたのです。ガメさんは、きれいな人物画が好きなんですね(^^)。
    Rembrandt Bugatti氏の象さんは確かにかっこいいと思いました。ガメさんが見たのは、どんなポーズの象さんかわからないけど。パンサーも渋いけど、自分で買えるとしたらやっぱり象さんかな。(b_caramel)

    • ハンドルにemailアカウント書いてはダメではないか、あああー、びっくりした。

      >ガメさんは、きれいな人物画が好きなんですね(^^)。

      買いたいものが、ころころ変わるの(^^) いまはでかい壁をうめるでかい人物がが5個くらい欲しいんす。

      > Rembrandt Bugatti氏の象さん

      Rembrandt Bugattiの野生動物像は、ものすごく良いのよ。カッチョイイのがいっぱいあります。

      >モローを買いますか?

      モロー、しょぼしょぼしててええのお。
      ブリジストン美術館にも良いのがあんだよね、あのひと。

      >自分で買えるとしたらやっぱり象さんかな。

      両手のひらにはいるくらいのブロンズ像って、ええですよ。
      日本の現代作家のとかは、すげーいいやつでも(営業が下手なひとのは)50万円くらいで、すげーいいのがあります。

      あと、(内緒で小さい声でいうと)、現代美術のカッチョイイのがいちばん安いのは、実は東京なんです。
      わしは、いまでも東京の知り合いから買う。
      タピエスなんかは、欧州市場の偽物よりも安いくらいなんだぞ(^^;)

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s