迷宮のなかで


グラシア
http://www.barcelona-tourist-guide.com/en/areas/gracia-barrio.html

の巨大な迷宮のような町を半日歩き回った。

スペイン語世界のぴんからトリオとゆわれている(とはいっても日本式な言い方をすれば「フランスのバンド」だが「何とか国人」であるという定義にはいまの世界では、たいした意味がないのはヒターノであることとはあまり関係がない)、Gipsy Kingsの「No Volvere」
http://www.youtube.com/watch?v=FZwEE2s3qxE

や「Gitano Soy」
http://www.youtube.com/watch?v=TfVSjDOR0Gg

を口ずさみながら、しばらく会わなかった町のあちこちにいる友達たちを訪ねて歩いた。

タパスバーに行けば別に隠しもせずおおっぴらにビールを飲みながら給仕する、あの誰でもひとめみればぐっと来て参ってしまうくたびれた顔つきのおっちゃんウエイタたちが、「おっ、珍しい奴が来たな」という顔で迎えてくれます。
いろいろなやりかたで料理したいもの上に目玉焼きをぶっかけてつぶしたカタロニア式のhuevos y jamon

http://www.directoalpaladar.com/recetas-de-huevos-y-tortillas/receta-de-huevos-rotos-con-jamon-en-virutas

がわしは大好きだが、カタロニアにおける料理店総本山の、というのは、取りもなおさず世界一食べ物がうまいグラシアでは、この料理が不味い店を探すほうがたいへんである。

今日の店は新しく出来た、「どうして、こんな所に店があるんだろう」と思うような小路をはいってずっと歩いて、そのまた奥にまた人がひとりやっと歩いていけるような径をしばらくいったところにひっそりとあるバー料理屋だったが、おおげさだと思われても、この世のものではないくらいおいしかった。
前に書いた北大路魯山人先生ならテーブルに抱きついて
「ぼく、絶対日本にかえらないもん、やだもん」と叫んだと思われる。
魯山人先生がモデルの海原雄作であれば、あの由井正雪が髪をブリーチしたみたいな髪の毛をいからせながら、「主人、おれはここに残るぞ!」と咆吼するに違いない。
そのくらい、おいしーんです。
ほんとよ。

ワイングラスではなくて、コップで出てくるテンプラニーニョを飲みながら、仕事がない同士で、フットボールの話に熱中しているおっちゃんたちや、主婦おばちゃんたちが子供の学校の話に夢中になっているのを、のんびり眺めていると、どんなに、わしにあわせてドレスダウンしていても、やはりこういう所にくれば場違いで、男たちがちらちら磁石のほうを向いてしまう釘でもあるかのように顔を向けてしまうモニに「ガメは、ほんとうに、こういうところが好きなんだな」と笑われてしまった。
フロレンスでもニューヨークでも、あなたが行くところはとてもよく似ているのに気が付いているか。

わしが世界でいちばん大好きな水である、いつでも微かに硫黄の匂いがする、Vichy Catalan
http://www.vichycatalan.jp/vichy_ca.html
を飲み終わって、チョコレートがはさんであって表面に蜂蜜を塗ってあるクロワッサンでカフェコンレチェを一杯。
おいしかったにゃあー、と思いながら、あまりの幸福にぼんやりしてしまった頭で考えてみる世界というには脈絡というものがなくて、輪郭もはっきりせず、言葉で考えられるものであるよりも視覚や味覚によって「感じられる」ものであるような気がしてきてしまう。
感覚がほんの少し位相がずれて人間という「語彙」の外側に出てしまうような奇妙な感覚があります。

テラスにびっしり鉢植えがぶらさがっているノッポのアパートがクルマがやっと一台通れるような路地の両側に隙間もなくたっているグラシアの町の落ち着きは、人間の文明が本来もっている落ち着きには違いがなくて、その証拠には、この町に較べれば5倍は空間に余裕がある東京人やニューヨーク人は年中物理的な閉塞に悩まされているのに、グラシアという町には少しも「息が詰まる」ようなところがない。
そこにあるのは、千年というような時間の流れのなかで余計なことがみなはがれおちて本来人間を構成している感覚が素顔に復ったとでもいうような、人間が文明の力で人間本来の姿にもどった姿であって、いまでは否定された「悪い文明」や「良い文明」というような考え方が、文明の恵みのひかりが個人の幸福を光合成するか、それとも国家のような曖昧な化け物を育ててその国家の構成員である個人を国家の部分化して何から何まで吸い取ってしまうかという違いに基づいていたものであることをいまさらのように思い出します。

19歳くらいの背の高い若い男が、もうひとりの同じくらいの年の仲間と狭い舗道のまんなかで10歳くらいの子供同士のように抱き合ってじゃれついていると思っていたら、わしの前を歩いていたモニに「タバコをくれよ」とゆっておる。
モニにきびしい調子で「ない」といわれている。
オートバイの影で腰が抜けてしまったような様子で尻餅をついて蹲って頭を抱え込んでいる全身刺青だらけの若い女がいる。
6階の窓から太い首を出して、ランニング姿の中年の男がぼんやりタバコをふかしながら道行くひとを眺めている。

その同じ一角に、モモ社のヘルメットに腕を通した、ファッション雑誌の表紙を撮影している最中だとでもいうような姿の、多分学生、背の高い若い女びとがふたりで何事か話し合って笑いころげている。

懐かしい石畳の狭い道を通って、今日の最後の目的地についた。

その北欧人の主人がいるワインバーで、立ち飲みのまるいテーブルを囲んで主人とモニとわしと3人で話した。
北欧人の故郷までクルマででかけるので、ちょっと話をしてみようと思ったからです。
デンマークからスウェーデンはやはり橋を通っていったほうがいいよーだ。

北欧人は相変わらず世界の森羅万象をことごとく諳んじていて、何を訊いてもちゃんとした解答をもっていて知らないことがないので、便利である。
しかも便利使いしても壊れないし怒らなくてたいへん良いひとです(^^)

どうせモニとわしのことだから訊いたこととは全然違うルートをとってしまうかも知れないが、北欧人はここに行け、あそこもいいぞ、と熱心に教えてくれます。
お客さんを店員に任せてほうっぽり放しで、3人で話し終わる頃にはワインが2本空になっておった。

お礼を述べて帰ろうとしたが、ふと思いついて、「きみは、なんでここに住んでいるんだい?」と訊くと、「天候のせいかな?」といってから、自分で可笑しそうに笑って、
「ガメに、そんな嘘をついてもしようがないな。きみがまったくよく知っている理由でだよ」という。
進歩は、いやなものだ。
知性は寒い国では病を治すことしか考えない。

また、来るよ、とゆってわしはこのわしと丁度同じ年齢の友達と別れました。
この北欧人は、そういうときに「いつ?」と訊いたことがないところまでわしと似ている。

グラシアの町は複雑に入り組んだ迷宮だが、この迷宮は、われわれに最も親しい迷宮である大脳に似ている。
起承転結というものがまるでなくて、シナプスの広場にときおり集まったり散ったりするひとびとがそれぞれ世界を感覚することによっておもいおもいに動いている。
だから社会というものの意味がたとえば日本というような社会とはまるで異なるが、
それでもカタロニア人たちは、どういう最小ルールのセットをつくれば、それほどわがままな社会が必要な程度に機能するかよくコツを心得ている。

自分の幸福が自分の人生では最も重要なのだという、当たり前のことにしか過ぎないのに、いい加減に暮らしいるひとびとにとってはすぐに見えなくなってしまう人間にとって最も基本的な事実を深刻に思い詰めて千年という長い時間を暮らしてきたひとたちだけに与えられた栄光であると思います。

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2 Responses to 迷宮のなかで

  1. Chiro(yo) says:

    最悪なココロもちで目覚ましが鳴る前にベッドから離れたけど、またベッドで惰眠を…というアタシなのですわぁ。
    だからガメさんのコレ、ちゃんというより殆ど読んでいない。
    でもねぇ、Gipsy Kings という「単語」に救われたような…。
    ンん!そうだ!!
    Gipsy Kings を大音量で流しながら滂沱の涙とともに踊ってたあの日々の様に、24時間やってるアソコで安物Vinoを買って来て飲み干そぅ。
    うん、その酔いから醒めてから、うんうん、それから、モノ、ちっちゃいモンだけどさぁ、マジ真剣に考えよう。考えて答を絞り出すンじゃなく、「選び」とれるようだったら、そぉーっと選らンじゃうかな?

    • チロさま、

      >Gipsy Kings を大音量で流しながら滂沱の涙とともに踊ってたあの日々

      ぴ、ぴんから兄弟で踊ってたのか…そうだとすると、今度は北島三郎でもいけるな。
      すごい。

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