「革命広場」の朝の歌


今日は月曜日だが何の日だったか完全にぶち忘れたバルセロナの祝日なので外にでない。
なあんにも開いてないに決まっているからのい。
モニさんがお腹がすいたというので食堂の椅子に座って、手をパンパンと叩いてみたが夕飯さんは自発的に現れてくれないので、やむをえず、わしのほうからキッチンに出向いて夕飯をつくることにしました。
昨日八百屋で買ったトマトとアーティチョークとチョリソでソースをつくってスパゲティをゆでた。前菜にはアスパラガス。またその前には、アホのスープもついてます。
アホのスープ、とゆってもわしの特製スープではない。
ソパ・デ・アホ、すなわち、にんにくのスープです。
カタロニア人は、こんな野蛮で原始的な感じがするスープを食べないが、わしはなかなか好きスープなので、ついでだから自分でつくることにした。
カウンターでカバをのみながら、「お腹がすいたなあー」と呟きつつ料理を爛々と光る眼でみつめているモニにときどきハモンをあげたりしながら、黙々黙と料理をつくるわし..ちゅうのは嘘で、フラメンコの音楽をかけて踊りながらつくってるねんけどな。
モニが、こんな退屈しないひと珍しいな、といいながら、くすくす笑いながら見てます。
妻に台所で見つめられると、コーフンしちゃうのい。

わしは名人級の料理人であるから、当然ながら完璧にアルデンテのスパゲッティはうまかった。
カバとワインで、モニとわしは幸せになりました。

今日は祝日でバールもジェラート屋も中近東人たちのお茶とバクラバの店も何も開いてないから出かけないが、いつもなら、この時間は散歩の時間です。
グラシアの狭い迷路のような道をあちこちに歩いて、迷宮の結節点のようにそこここにあるプラサ(広場)で、椅子に腰掛けてタパス(小皿料理)を一個だけ頼んで、あるいは不味いと判っていれば食べ物は全然頼まないでワインやカバを飲む。
絶叫しながら走り回るガキどもや、キスしたまま化石化した大学生のカップルや、そのへんの国の「プロ」よりも遙かに上手なギター片手に大声で歌を歌っているにーちゃんや、を眺めながら、木の枝を揺らす初夏の風の音を聞いて、のんびりする。

両側に壁のようにアパートが建ち並ぶ人気のない道を歩いて行くと、向こうから胡乱な4人づれの高校生ガキが道いっぱいに広がって歩いてくる。
Tシャツの着方とひとりはモヒカンのヘスタイルがいかにも「わし、バカだし」と詳述しておる。バカ、とゆってもスペイン語の牛肉という意味ではないのよ。
日本語の無明が極まった人の意味であります。

わしは不沈戦艦プリンスオブウエールズの生まれ変わりだとゆわれておるので、そんなできそこないの掃海艇が横列をつくったようなもののために緊張したりしません。
相手がくだらない歩き方をしていると避けてもやらないので、おかげで日本にいた頃はわしの分厚い胸に油ぎったデコをぶつけるサラリーマンがようけおったものである。
ちゃんと前を見て歩かんかい。

初代不沈戦艦は酸素魚雷とかいう日本軍のクソ魚雷にあたって、あっというまに轟沈してしまったが、贋物はつおいねん。
と、くだらないことを考えていたら、ガキ共何を思ったかフラメンコの拍を手で打ちながら歌い始めた、ほら、こうやってやんだぜ、っちゅう感じで、あのわしのだいだいだい好きなスペイン人の特技のリズムを手で刻んでおる。
近づいてきたところで「うまいな」というと、「おーっ、まかせなさい!」とゆって親指を立てて去ってゆく。
グラシアの裏通りを歩いていると、そういうことがいくらもあります。

広場で座っていると、いろいろなひとが話しかけてくる。
グラシアというのは、一応、バルセロナの青山・原宿だということになっているが、そういう浅草の血がどこかで混じっっちゃったんちゃう?というようなところがある町でもあるのです。
ぶっきらぼう・ぶあいそ、で、ひとなつこくて極端なくらい親切です。
それがこの町の居心地の良さをつくっている。

当然広場によって性格が異なっていて、好きな広場嫌いな広場はもちろん、その日の気分によって行きたい広場も行きたくない広場もある。

ふだんは、わしは「緑の道」という道が好きであって、そこを通って、「革命広場」という名前の広場へ行く。
「革命広場」、Plaza de la revolución、とゆえばハバナのでかいのが有名だが、グラシアのはもちろん、ああいう派手派手しいのとはちゃいます。
小さな、緑の道がまんなかに通っている、小さなスクエアである。

周りには有名な「オ・グラシア」を含む何軒かの店があって、そういう店が広場にテーブルを出している。
モニとわしは緑の道を歩いて、ときどきは、途中のパレスチナ人がやっているお茶屋で、仰山種類があるバクラバからひとつを選んで、ミントやピスタチオのお茶を飲んで、ああーうめええーと思いながら広場の椅子に腰掛けて、カバや赤ワインを飲むのが習慣である。

楽しいのよ。
ニューヨークももちろん良い街だが、アメリカ人はどうがんばってもカタロニア人よりも頭が悪いので、こういう「場」がつくれない。
自分達の住んでいる生活の場に「成功」や「オカネ」が露骨に浮遊してしまって、住んでいる人間はすっかりくたびれはててしまう。
カタロニア人のように「成功」ちゅうような前のめりのものを、肩をすくめてやりすごす方法をしらないのです。
「いい気もちで、のんびりする」というようなことのほうが人間の生活あるいは一生においては遙かに深刻で重要なことだと、カタロニア人たちはよく知っている。

妙ないいかたをすると、たとえば飲み物ひとつでもロンドン人たちともまた違って、1000ポンドのピノノアール至宝ワインが手にはいることよりも、4€のワインがとてもおいしいことのほうが大事な社会をこのひとたちは真剣になってつくってきた。
GDPなんて、けっけっけ、勝手に勘定してろよ、と思っているに違いない。

こうやって書いていたらフラッシュニュースでイタリアの反原発投票の投票率が55%くらいになって、投票したひとの94%が原発に反対したという。
イタリア人は、スペイン人に較べれば遙かにマジメ病で、せかせかしたひとが多い国だが、それでも、自分達が幸福でいるのに欠かせないデュラムセモリアが汚染されて食べられなくなる、というような考えに耐えられなかったに違いない。
ヒトラーがアフリカ戦線について会議をもったときにイタリア人の将軍たちが「しかし、総統、あなたはそう仰るがイタリア人は、この」とゆって
菜食主義者のヒトラーにあわせて供された目の前のスパゲッティ・ペペロンチーノを指さして、「このおいしいスパゲッティが食べられておいしいワインを飲めることが人生で最も大切な国民なんです」とゆってヒトラーを怒らせたという話を聞くとドイツ人や日本人のような文化から縁遠い人間の多い国ではおかしがって笑うが、
そういうことを「浅薄」という。

イタリア人というようなひとびとは、これから徐々にドイツ人や日本人あるいは英語人たちが学んでいくであろう、「ひとりひとりの人間が幸福にならなければ社会も国家もなにも意味はないのだ」ということをドイツ人や日本人などは到底比肩できない強兵と勤勉の歴史上最大の強国であったローマの気が遠くなるほど長い繁栄のなかで学んだのであって、だからその根底をなす自分達が自慢のイタリア国産のデュラム小麦が汚染されるなどとんでもないのである。

日本のひとが軟弱だとゆって笑うことこそが、人間の価値への入り口だとこのひとたちは、いつも知っているのだと言い直した方がわかりやすいかもしれない。

大陸欧州のなかでも、突出的に個々の人間を幸福にする社会の現出に長けたカタロニア人たちの町の最もパラダイスな部分にいるので、モニとわしは、どうしても帰りが遅くなる。
ふたりで、いい気持ちで、手をつないで、もう人気がなくなった午前四時の「緑の道」を歩いてくる。
「革命広場」でひと休み、ベンチに座って、気温でいえば16度くらいの、素晴らしい「夜気」を堪能します。
楽しいなあ、と思う。

ただそれだけの記事で、ここで急に終わりにしてもよいが、そのあとに起こったことをつけくわえておきます。

広場の反対側をなんだかボロをまとった、「尾羽打ち枯らした」という日本語の表現がぴったりの浮浪者ふうのおっちゃんが、ふらふらと歩いている。
歩いている、とおもったら、箱の上にたって、わしらからあさっての方角を向いて、モニとわしがよく知っている歌を歌いだした。

それは、こんな歌です。(右側に張り付いているのが英訳だし)

Allons enfants de la Patrie, Arise, children of the Fatherland,
Le jour de gloire est arrivé ! The day of glory has arrived!
Contre nous de la tyrannie, Against us of the tyranny
L’étendard sanglant est levé, (bis) The bloody banner is raised, (repeat)
Entendez-vous dans les campagnes Do you hear, in the countryside,
Mugir ces féroces soldats ? The roar of those ferocious soldiers?
Ils viennent jusque dans vos bras They’re coming right into your arms
Égorger vos fils et vos compagnes ! To slit off the throats your sons and your companions!
 
Aux armes, citoyens, To arms, citizens,
Formez vos bataillons, Form your battalions,
Marchons, marchons ! Let’s march, let’s march!
Qu’un sang impur That a tainted blood
Abreuve nos sillons ! Water our furrows!

わしは、日本にいたことがあるので、このフランス人たちの国歌を日本のひとたちが嫌っているのを知っている。
「好戦的」「血なまぐさい」「神聖な国歌としてふさわしくない」

しかし、友よ、わしはばらしてしまうが、このフランス人たちの国歌が大好きなのです。
われわれの社会の同胞のすべてが人間として認められていたわけではなかった頃、大地を血で染めて、人間の戦場に歴史上初めて現れた「散開戦術」を用いて、必死に自分達ひとりひとりの幸福のために戦ったフランス人たちを、わしは、わしらが築いてきた、この人間にとっては救世主的であった(ということすら認めない日本のひとがあなた方の社会では喝采されているのをわしは知らないわけではないが)近代および現代という時代の発明者としてわしは尊敬しています。
「文明」というものを発明した中東の地中海人たちと同じくらい尊敬しているのです。

モニとわしは、箱に立ち損なってこけたりしながら、延々と歌っているオンボロなおっちゃんに低く唱和した。

それで、どうしたかって?
どうも、しねっす。

どうもしやしない。
おんぼろのおっちゃんは、夜明けの街によろよろと消えてゆき、モニとわしも立ち上がってアパートの正面玄関の鍵をあけてリフトに乗って部屋へ帰った。
モニとわしはリフトを降りる頃には、目がうるんでいて「自由」ということや「人間の尊厳」ということの意味を考えていた。

ただ、それだけの朝のこと、なんだけど。

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3 Responses to 「革命広場」の朝の歌

  1. じゅら says:

    ガメさん、こんばんは。
    こんな遅いのか早いのかも分からないような時間に目が覚めちゃっていて、明日はどうしようと思っていましたが、ブログが公開すぐに読めたからいいことにします。
    >妻に台所で見つめられると、コーフンしちゃうのい
    ヘンタイだー!

    この間、IMDbを散策していて、「subtle」という言葉にゆき当たり、ガメさんのいる英語の世界ではこれって一体どういう意味なんだろうと思ったところです。
    今でも何を指しているのか全然分かりませんし、ブログに関係あるかも分かりませんけど、モヒカンの高校生やおっちゃんの歌の話はなんとなく胸に落ちました。本当に大事なことって、特に派手でも劇的でもない、日常のすき間や言葉の間のようなところに、ふっと落ちているような気がします。余裕がないと見えなくなってしまうし、気付けない。人込みの中にこっそり交じっていて、視界の端を通り過ぎる、人間ではない者たちのように。…会ったことはないんですけど。

    地震後ときどき東北の日本酒を買うようになりました。お米と水が原料であることを考え、これがもう最後かもしれない、次のシーズンは水すら無事ではないかもしれないと思います。文化の破壊に他なりません。お酒のように名前がついていない、肉や魚や野菜だって同じでしょう。
    言葉がまるで、ざるで水をすくおうとするような物に感じられます。
    あるいは私たちにはまっている枠なのか。

    あれー、楽しい話がしたかったんだけどなぁ。

  2. Chiro(yo) says:

    La Marseillaise とっても好きですけど。
    で 同じように好きで時々口ずさんでしまうのが 国歌ではないけれど The Internationale ですわ(ベタで申し訳ないねぇ)。

    誰が最初に云ってた?書いてたの?だっけかなぁ…。
    「現実の中では暴力であるものが理念の中では非暴力になる。逆に現実には非暴力であるものが理念の中では暴力になる」。
    哀しくも笑えるパラドックス。

    などということをコレ読んで想いだしたよ。

  3. snowpomander says:

    「自由」が頭の中だけにある人は「血」を見ない。全身に必須要素として「自由」を巡らせる人は「血」を忌み嫌わない。思考の自由と机上の自由は違うレアのステーキとサングリア程の違いがある。ちょーっとガメさんの真似してひねってみましただ。マイナンバーとかで海外に家出するのも不便になってきました。

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