酔っ払い

ガリシアの町の路地で、飲んだくれて、モニと友達に「ガメ、ダイジョーブか?」とゆわれている深夜を思い出す。
われながら、とても滅茶苦茶だとは思うが、そーゆーダンちゃんであって、そーゆー友達なのだと思ってくれなくては、どうにもならぬ。
自分で考えても、16歳からあとは、素面でいる時間のほうが短かったような気がする。

図書館のカウチに横になって、フラスコからウイスキをちびちび飲みながら、シェークスピアやモンテーニュを読んだ。
高校生だったからな。
まだ古典が好きだったのです。
酒を飲みながら本を読むのに飽きると、ボートをこぎにいった。
学校がひけると、厩舎へでかけて馬に乗った。

学校がひけて馬に乗ったのは連合王国での話だが、ニュージーランドでは、尾根の向こうまで馬に乗ってでかけた。
「J」という名前のその牝馬はとても賢い馬で、クルマで出かければ山をぐるっと回っていかなければならない隣の牧場の友達の家に、人間でも踏み外すような細い尾根をたどって連れて行ってくれる。
わしはすぐに足を妙なところにおいてしまうので腎臓を圧迫しないように注意しながら、
出かけるときには、もう酔っ払って、左右にふりわけた袋にワインを3本づついれて、わしはジョニーにいる牧場まで出かけたものだった。

ジョニー(仮称)というのはね。
とてもオモロイ年長の牧場主の友達で、納屋には戦争が終わったとき、アメリカ軍が置いていったジープがあるんです。

なにしろカンタベリの牧場主は牧場の広さに応じて、退治しなければいけない野ウサギやポサムの数が決まっている。
尾根をおりてくるわしの姿が見えると、わしよりももっと酔っ払ったジョニーが家から現れて、
「おい、ガメ、野ウサギを撃ちに行こうぜ」というのが常だった。

血をみるのがふたりとも嫌いなので、酒でも飲まないとやってられない。
ふたりで、アイリッシュウイスキーを一本づつ飲んで、ジープに乗って野ウサギ狩りに出かけたものだった。
ジョニーは、ときどき、サイドミラーに映っているうさぎをショットガンでぶっ放したりした。「映っているうさぎ」ならばいいが、サイドミラーそのものをショットガンでふっとばしてしまうので、わしはそのたびに笑い転げたものでした。
ふたりとも、酔っ払って、なああああーんにも判らない。
丘からとびだして、平衡を失って ひっくりかえったジープの横でしばらく気絶していて、
意識がもどって馬の「J」のところにもどると、なんだか怒ったような顔をしているのです。
馬のほうが人間よりも遙かにまともな知性の持ち主なのは農場主たちにとっては常識というものである。

えっこらせ、とまた背にまたがって、ジョニーどんに別れを告げると、わしはまた細い尾根をこえて家に帰ったものだった。
帰りは、なにしろ盛大に酔っ払っているので、イギリス式でもアメリカ式でも手綱ももてやしない。
でも「J」は、大バカ騎手をうんざりした様子で背に乗せて、暗闇のなかを、足を滑らせないように注意しながら、帰って行った。

あるいは、大酔して、ガムトゥリーの樹上のポサムの目が四つに見える。
構わずぶっ放すと、さっきまで四つだったポサムの目が八つになっておる(^^)
奥方も出てきてしまったようだ。
ライフルでは当たらないので、ショットガンに変えると、もっと当たらない。
酔っ払って下から上に向かって射撃をしても全然あたるわけがない、という事を学習する前の話です。

いまも酔っ払っているので、ここから次への節へのつなぎの話は全部はぶいてしまおう。

大好きなハドソン河沿いにある、あのバーや、ヴィレッジのディアブロ、バルセロナの「K」、東京の山の手の「N」、クエルナバカのハイビスカスが中庭を埋め尽くしたバー。

モニと結婚しようと決めるまでは、ひとりで、わしはふらふらとあちこちに飲みにいったものだった。

それはなぜだったかと思い出そうとすると、やはり、あの「聞き取りにくい声」を聞きたかったからだと思い当たる。
神様はほんとうのことは、ささやくような、聞こえるか聞こえないかのような声でしか言ってくれない。
それも、ガードの下の浮浪者や、午前4時の公園のベンチで酔いつぶれている若い男や、
バーテンダーが聞き返すような、カウンタの客の不意のつぶやきや、
そんなふうにしか言葉に翻訳されない。
ちゃんとは、人間の悲惨を発音してくれないのです。

黄金の水を、天使が汲みにやってくる一瞬、
われわれの耳にも「沈黙」が聞こえることがあって、
アルコールで崩壊した知覚にしか精確には聞こえてこない音程、
くぐもった声、
微かに聞こえる「あのひと」の声、
そういうものにたどり着くためには、
正気を保ちながら酩酊する、
あの困難な技術がいるもののようでした。

パブの外で、体格の小さな友達を肩の上に載せて、「スロー・アップ!」とかけ声をかけて吐き狂う友達をくるくるまわすカンタベリ名物「へど風車」をしているときですら、
わしは神様が酩酊しているわしらのすぐそばにいるのを知っていた。

言い方を変えると、神が決して整頓された知性の彼岸にはあらわれなくて、混沌と惑乱の向こうにしかあらわれないことを知った初めと思います。

ほら。
神様。

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2 Responses to 酔っ払い

  1. kochasaeng says:

    北半球の四季のある国では、そろそろ夏も終わりで、北の街ではもう悲しみを暖炉で燃やし始め(© 岡本おさみ)ちゃったりする頃ですね。でも、おれのいる街は、ふたつの回帰線の間にあるから、次の氷河期が来るまでは常夏なんだ。

    6月ころからの雨期も、いよいよ大詰めで、このところスコールがデタラメに降るのね。さいしょのうちは夜だけ、こっそり降ってたのに、こうして遠慮がなくなってくると、そろそろ雨期も終盤戦で、10月になると乾期が始まる。
    乾期はいいよ。最高気温も30℃少し超える程度で、2月頃までは涼しいんだ。タイのお金持ちは、この時期にセーターなんか着てお洒落をします。汗だくになってまで、そんな恰好しなくてもいいと思うんだけどね。お洒落の道は険しいんだ。
    そういえば、知り合いの大学教授は「ベンツなんかに乗るのは成金趣味です。でも私のクルマはちょっと凄いですよ。日本からの輸入トヨタで、暖房装置が付いてるんです」って自慢してた。いやいや、暖房要らないだろ。使ったことあるのか、って訊いたら、「いち度だけね。暑いよ。あっついんだ。すっごくよく効くね。日本製品は優秀だよ」って誉めてました。なんかよくわかんないなりに、ありがとうって礼を言っておいたけど、タイの大学が心配になっちゃう話だ。

    涼しくなると、酒も旨い。暑期みたいに40℃超えると、飲んでるときはいいけど、そのあとがつらくて、飲みっぱなしになるでしょ。そうすると翌日のふつか酔いが酷いんだ。
    いつもジンのソーダ割りばっかり飲んでるみたいだけど、ふつか酔いが嫌いだから飲まない日のほうが多くなっちゃったよ。

    日本にいるときだと、夏はズブロッカのソーダ割だった。
    ズブロッカ。ポーランドのウオッカです。細長い草が一本、しゅっ、とボトルに沈めてあって、それが良いことがあった日に、ゆらゆら揺れる。まあ、ほんとは揺れないんだけどね。あの草はバイソングラスって言って、野牛の好物で、牛が食むのを横取りしてウオッカに漬け込んだわけです。それで、あんな色と香りの酒になるんだね。ラベルにも野牛の絵が描いてある。やっすい酒なんだ。一本千円するかどうか。あれ、ポーランドからの運賃とガラスの瓶代差し引いたら百円くらいじゃないのかな。昔は唐辛子を漬け込んだペルツォフカってのもあったんだけど、今はもう作ってないのか、見ないですね。

    野牛って言えば、タイ人の罵倒語では「犬」が最上級かと思ってたら、「野牛」は、その上なんだね。
    「犬みたいに最低なやつ」って罵ると、もう救いようのないロクデナシって意味で、こんな事を言うんだったら、右フックの反撃を覚悟しなくちゃいけないんだが、「あんたって野牛だな」ってのは、粗野で粗暴で馬鹿で下品でどうにもなんない奴って意味で、これはムエタイ仕込みの後ろ回し蹴りを食らう程の罵倒語です。気をつけましょう。
    逆に言ってもいいのが「豚」。「豚みたいに可愛いね」ってのは、アリだって言うんだけど、これは抵抗あるんで、使ったことない言い回しですね。

    ズブロッカのソーダ割り。
    あれね、ちょうど今頃かな。8月の終わりから9月にかけて、急に味が「よそよそしくなる」時が来るのね。毎年です。
    それは、夏が終わったってことなんだ。
    口に含んだ酒の味に距離ができると、どんなに厳しい残暑の日でも、その夏は試合終了。その年最後になるズブロッカを飲み干して、夏とお別れだ。さみしいような、さっぱりしたような、「じゃあ、また」って感じ。
    夏の直射日光をたっぷり吸ったバイソングラスが、忍び寄る秋を嫌ってるんだよ、って話ではないです。あんなもの、ただの草だからね。感情なんか、あるわけない。
    でもこの話をして同意してもらえたのは、今までひとりだけで、他のひとは「ま~た、そういうテキトーなことを」って思ってるんだろう。

    おれの夏のカクテルだけど、タイじゃ飲もうとも思わないね。ビーフイーターかゴードンのジンがあれば、いい。
    常夏の国では、かなしみも思い出も暖炉で燃やす必要がないんです。灼熱とスコールで、何でも朽ち果てていくからね。ズブロッカなんかも必要ないんだ。

  2. 菜苦し says:

    孤茶さんのコメントがいつも素敵で、次はいつどんなお話が伺えるのかととても楽しみです。
    (私、何か大事なことを言い忘れているような気がするのですが……)

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