NEDs


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英語で、のおんびり考えているときのわしの頭にはNEDsという語彙が出来てしまったよーだ。
「日本のひと」という意味です。
Not Even Deadという。
ネッドという言葉には英語では「ちょっと頭のたりないにーちゃん」の意味もあります。
失礼ではないか、ときみは怒るであろう。

でも必ずしも、そうではないのです。
わしは、自分達を「NEDs」と呼ぶ日本人たちの政府への反乱を母語の英語で小説にしようかと思ったことがある。
今年の5月くらいだと思う。
マンハッタンの雨のなかを歩いては、日本で雨に濡れる自由さえなくした友人たちのことを考えていた頃。

あの福島第一という悲惨を極める、としかいいようのない事故のあと、「まだ死んでもいないのに大騒ぎしすぎる」
「頭がわるいから放射能を正しく恐がれない」
「科学的な見方というものがまるで出来ないから、あの程度の放射能の漏出で危険だという」
うすら笑いを浮かべて述べる日本人秀才たちの何だか現実感がないほどの残虐性を眺めながら、周囲の「理性的な」思惑を無視して子供達の手をひいて必死に神戸に逃げた友達のナスや、ローンを組んで買ったばかりの横浜のマンションで新しい生活を始めたばかりだった中東人のSというような友達のことを考えていた。

その頃のわしをもっともくさらせたのが「誰も死んでない」「まだ死者がでていない」という「オピニオンリーダー」たちの言いぐさであって、おおげさにゆーとショックを受けてしまった。

日本の第二次世界大戦中の戦記を読んでいて不思議なのは、生きている兵士には勲章が与えられずに、勲章も賞与も死者に与えられるものであったことで、坂井三郎というひとなどは言葉にして、はっきりそれに対して不平を述べている。
こんなひどい仕打ちがあるか、とまるで涙を浮かべているのがわかるような言葉で書いている。

連合軍はもちろんナチスですら、勇敢な兵士にはどんどん勲章を与えたのであって、
死者にしか勲章を与えない日本軍という軍隊は、わしにはどう考えても理解不能でした。

日本人には「死んだ者しかほんとうの敬意に値しない」という考えがあるよーだ。
死ねば神になる文化だから、というひとがいるが、どちらかというと死んで初めて人間として扱われるように見えます。
死者に対してのみ作動するヒューマニズムという不思議な習慣は、多分、日本人だけがもっている。

わしの小説のなかでは、NEDsたちは政府に対して反乱を起こし、バララットの反乱と同じような軌跡を描くことになっていたが、マンハッタンからコモ湖に移動した途端に書く気が失せてしまった。

結局、おもいつきだけで書かれなかった小説がわしの脳髄においていったものは「NEDs」という架空な言葉だけで、しかし、その物語のなかに描かれるはずだった、
日本の文化的風土から出て、それを変えてゆくだけの深い絶望の力をもったひとびと。
あの若いひとたちが現実の世界で抗議の声をあげだすのは時間の問題だと思う。
自分達を「まだ死んですらいない未熟者」と自虐して呼ぶだけの皮肉と諧謔を思考のなかにもって、英語世界にただちに理解される「苦さ」を了解した若い日本人たち、というものが厚い層をなして存在していることを、わしは5年間に亘った断続的な滞在とインターネットを通して知っているからです。

今年の後半には優秀な人間というものは年齢と関係なく優秀なものだ、ということを思わせるような出来事がたまたま立て続けにあったが、村上憲郎、というひとがツイッタにやってきたのも、そのひとつでした。
ツイッタをやっていて突然話しかけてきたこの60歳を過ぎているんだかなんだかのひとは、日本では有名なひとだそーだったが、わしは名前も知らなかった。
たとえばニセガイジン騒ぎがあってやる気をなくして日本語をやめたりすると、突然やってきては、「わたしはちゃんと見ていますよ。あなたが英語人であるのは30年オーストラリアに住んでいるおばちゃんには判る。あなたが誰かは知らないががんばりなさい」という意味のことを書いてきてくれた「おばちゃん」が、なんらかの理由で「ムラカミ」ではなかったか、と思っていたわしは、おばちゃんの旦那さんかと思いました。

吉本ばななとーちゃんの話をするので、わしは「ゴールデン街」というところで見た「革命談義」に耽る「団塊じーちゃん」たちのことを思い出してびびったが、これも5分のうちに「ぼくはもとは田舎の職人のせがれで」「工学部」というので、ばななとーちゃんと共通する感情回路があるのだからとーぜんなのだ、と判った。

「政治家としてのトロツキーの大罪は、スターリンに負けたこと。「文学論」なんか書いてる暇があったら、先にスターリンのど頭にピッケルぶち込まんかい! 」
https://twitter.com/#!/noriomurakami/status/145140871740923904

というツイートを見て、すっかり好きになってしまった。
その通りだからです。
しかも、みなが「有名人村上憲郎」の模範演技を期待しているツイッタで、あっさりほんとうのことをぶちまけてしまう、ということには、このひとに本当の知性が備わっていることを示している。
そのリスクが判らないひとで、あるわけがない。

有名なひとであるのは困るが、年齢のほうは、関係がないよーだ。
わしはハウツー本というものが嫌いだが、このひとが書いた安手の装幀(ごめん)の本も面白かった。わしは「仕事」とかいう概念も必要もないので「仕事術」のほうはまだ読んでないが、「英語術」のほうは、面白い本だと思いました。
少なくとも、ふつーに考えたことを書いてある、という点でハウツー本とは言えないかもしれません。

村上憲郎さんが書いていることのなかに村上さん自身が気が付いていないことがあって、「英語能力」というものが「英語の音」という定型によって出来ている、ということの重大さがそれであると思う。
この「村上式シンプル英語勉強法」というタイトルのダササで売り上げが3割くらい減りそうな本(すまん)を読んで、最も印象に残るのは村上憲郎というひとの「耳のよさ」であると思います。

The marketing analysis on how the market is effected by several media indicates that personal computer magazines are as highly effective as we expected.

という発声された英語に対して、村上憲郎さんは、(ちゃんと聞こえないという意味で)

T..mark.ti.ganalysiso.howth.mark…s.fect.dbysevera.medi.i.dicat.tha.pers.n.lco.putermagazi.sar.ashighlya.w.expec..d.

と書く。
おそるべき耳のよさです。

村上憲郎の信念は、どうも「本質に届かないものはゼロと同じ」であるよーで、「ハウツー本」ぽいケーハクな顔した本なのに、すげー、と感心してしまいました。
この英語習得本はいかにも
「政治家としてのトロツキーの大罪は、スターリンに負けたこと。「文学論」なんか書いてる暇があったら、先にスターリンのど頭にピッケルぶち込まんかい! 」
と前後と損得を失念して思わず書いてしまう人の書いた本なのね。
「跳躍」も「投企」も出来る人、というのはたいへんなものだと思います。

村上さんには(日本常識に従えば)失礼だけど、わっしの友達であると考えました。
じーちゃんだけどな。
村上憲郎、かっこいい。

もうフクシマについて、日本語で何か言うのが嫌な気がしてきてしまったので、わしは、その分の時間はギターの練習を再開しているようなことになった。
この頃は Jesse Cook
http://www.youtube.com/watch?v=-0OAaD9LQEw

のコピーに忙しいよーだ。
新しいギターを1本つくりもした。
パチモンのフライングVで、目下、調整中です。

ときどきNEDsのことを考えながら、ギターを弾く。

わしにはモニと別々に毎日をすごすということは考えられない。
たとえば三十年後にモニがガンに罹ったとする。
そのときに「ひょっとして、あのとき日本に一緒に行ったからじゃないだろーな」と考えることには到底耐えられないので、わしが日本を訪ねるということはあり得ないことになってしまった。

でも、日本のこと、目下は途方にくれているNEDsのことを考えながら、ギターを弾いていると、力をこめすぎて弦が切れてしまうことがあるのです。

This entry was posted in 異文化異人種, 福島第一原子力発電所事故, 日本の社会. Bookmark the permalink.

12 Responses to NEDs

  1. Rudinka says:

    >でも、日本のこと、目下は途方にくれているNEDsのことを考えながら、ギターを弾いていると、力をこめすぎて弦が切れてしまうことがあるのです。

    もう年内はコメントしないつもりだったのに、泣けちゃった(><)

    ガメさんがいつかNEDs小説を書いてくれることを初夢にします(できれば日本語でお願い 英語だと面倒くさい)そしてそれは大スペクタクル長編にしてつかあさい。カラマーゾフくらい長いと楽しいな♪

    ま、ワタシの拙い読解力だとガメさんもうすぐ父ちゃんになるみたいだから、執筆は子育ての合間に!是非!そして本が売れたら公明党みたいな(ガメ教)政党を日本に作って、NZからリモコン操作してほしい。初詣で神様に頼んできます。

    • Rudinka 殿、
      >ワタシの拙い読解力だとガメさんもうすぐ父ちゃんになるみたいだから

      しいいいー。うっかりばらしちっただけなんだから、そーゆーときは知らん顔をしているのよ。

      >ガメさんがいつかNEDs小説を書いてくれることを初夢にします(できれば日本語でお願い 英語だと面倒くさい)

      わしは無敵の傲慢さの持ち主なのでロシア語で書くべ、と思うことがある。
      いずれにしても、いまは他にやることがたくさんある。

  2. じゅら says:

    えー、この記事で調子悪いのか。いつものように良かったですよ? もう、この「頭の中にだけあることが本当」「現実世界にはほんとに重要なことなんて何もない」みたいな、諦観ですらないようなものが深く根を下ろしてる自分にいらいらしっぱなしです。
    というより、「悲惨だったり深刻ぽかったりするものだけが本当」なのかなぁ。馬鹿馬鹿しかったり間抜けだったりはかなかったりかっこわるかったり無駄そうだったりするものごとが入る隙間もないと、遠からず気が狂うと思います。

    >死んで初めて人間として扱われる
    かなり共感しました。死ぬまではまがい物扱いなのかな。別方面でもそんなふうに思ったことがあります。

    写真、夏らしい空ですね。いいなぁ。私も広々として澄んだ空を見たい…。

    • じゅらどん、

      >えー、この記事で調子悪いのか。

      外国語を書くときの最大最後の問題は「自分が何を書いているか本当には判っていないこと」なんだよね(マジ)。
      だから逆に、書いたときの「体調」とかで出来を推測しているのだと思います。

      >諦観ですらないようなものが深く根を下ろしてる自分にいらいらしっぱなしです。

      ジュラやとら、優さんのような人達は「自分に与えられた高知能」と警戒しつつある付き合う、ということが最も重大になるであろう。世の中て、みなさんが漠然と想像しているよりもたいていバカなのよね。それが判らないと、実際、

      >遠からず気が狂う

      になる。

      >死んで初めて人間として扱われる

      日本を理解するための「鍵」であるような気がすることがあります。

  3. じゅら says:

    ぎゃーごめんなさい、一番重要なことを書こうと思って忘れてた。
    優さんにあいさつを伝えたらとても喜んでました!

    >世の中て、みなさんが漠然と想像しているよりもたいていバカなのよね

    私には妹と弟がそれぞれ一人ずついるんですが、二人とも私とは全然違う世界を持っていて、たまに会って話すととても面白いのです。私が忘れがちな「たいていバカ」の部分をよく教えてくれます。ありがたい。
    頭だけを動かして生きてるのが続いたらろくなことはないなー。今年はそれを理解したような気がします。

    • ジュラ殿、

      >優さんにあいさつを伝えたらとても喜んでました!

      えがっった。

      >私が忘れがちな「たいていバカ」の部分をよく教えてくれます。ありがたい。

      妹はわしと話すとバカなひとがどういう考え方をするかよく判って参考になる、という。

  4. naito says:

    「T..mark.ti.ganalysiso.howth.mark…s.fect.dbysevera.medi.i.dicat.tha.pers.n.lco.putermagazi.sar.ashighlya.w.expec..d.」を私の脳は、まったくわけのわからない、虫の音のようにしか情報処理してくれない。20回聞いても同じ。何回も何回も毎日聞いているオバマの演説が、そんな風な音から言語に変わってくれない。死んだ卵を何回も何回も温めている鶏みたいに、オバマの演説を聴いている。卵から雛がかえらない。私の脳は英語を、伊藤和夫の受験参考書のカタカナ記号論理学としか認識してくれない。大学のゼミでは英語のテキストを使って、わからないという学生に伊藤和夫のまねごとをしている。で、結局、英語はまったくできない。情けない。子どもの頃から、ダンス、体育、歌、楽器、図画工作はすさまじくダメだった。いくらやってもダメだった。このダメさが、語学のダメさと通底しているような気がしてならない。
    ダンスができないおかげで国境を越えられない。まいったね・・・

    • ナイト殿、

      >そんな風な音から言語に変わってくれない。

      ナイトさんが言うとおり「音」が原因だとするとスペイン語なら楽勝ですのい。
      英語じゃなくてもええんちゃいますか?
      スペイン語いいですよお。
      マンハッタンで食べる「うまい午飯」の質がどおおーんとあがって量がばばばばあーんと増えて、
      値段は半分ですけん。言う事ない。

      >子どもの頃から、ダンス、体育、歌、楽器、図画工作はすさまじくダメだった

      わしが得意なもの全部ダメだったんですのい。

      >ダンスができないおかげで国境を越えられない。まいったね・・・

      思い詰めすぎて疲れてるのだな。
      ダイジョーブですよ、センパイ。
      すぐ、なんとかなるべ。
      おとーさんがくよくよしていて、どーしますか。

  5. Kuichi says:

    お久しぶりです。

    >日本人には「死んだ者しかほんとうの敬意に値しない」という考えがあるよーだ。
    取り返しのつかないことになってやっとその価値に思いをめぐらせる、という感じがあります。

    終身雇用も年金制度もその延長で、『今』よりは先が楽になれば、というか。

    どちらにしても『今』も取り返しがつかないことには変わりないのですけれど……。

    それはさておき、子どもが生まれるとのこと、おめでとうございます(本当はこれが一番言いたかったのです)。

    おやすみ前、絵本代わりに即興のNEDs小説が語られたりして。

    • たそがれ殿、

      お元気でしたか?

      >おめでとうございます

      しいいいいいー。

      >おやすみ前、絵本代わりに即興のNEDs小説が語られたりして。

      そんなもん聞かせられたら、ぐれますがな。

  6. 菜苦し says:

    ガメさんにお願いがあります。
    気に入った名前を思いつくまでころころ変えていた「秘密よ」「〇〇」でのコメントも今回のも含めて、私のものは全て削除してください。

    ガメさんを励ましてくれた在オーストリア30年のおばちゃんとは、ガメさんのお母様のと正反対の人生の心構えで息子さんを育ててしまったと言っておられたobachanのことだと思う。
    人生なめんじゃないよ。恐ろしいよ。 野垂れ死したくなかったら、計画立てて根性もって人生を切り開らかないといけな いよ。少しくらいつらいことは我慢しなさ い。物事は先に先にと準備して行き当たり ばったりのちゃらんぽらんはいけないよ。 甘ったれんじゃないの
    これを読んだ時、驚きの余りスマホを取り落としそうになりました。まさに私の言い聞かされ続けたとおりのことだったからです。自分の母の投稿かと思いました。
    でも少し冷静になってみれば、母にも息子はいるけど一流大学~大企業な人生からけっして抜け出したことも無く今後も抜け出したりはしなさそうな息子しかいない。(私の弟です)それに彼女はネット使わないし。
    あろうことか、両親も子どものうちの一人もあの人生訓を生きることができる人たちで、私のような社会不適応症状は叩きつぶして性根を入れかえるのが可能かつ本人の幸せと、今も信じて疑わない。そして私はそれに対抗出来ない。
    自分の人生を生きられるあの息子さんにくらべて、同じようなことを言われて育ったはずの私には何が足りないんだろう。

    「思ったことを何でも言うようにしないと駄目になると思う」
    そう言われた時には、自分には口に出さずに押し隠しているものがあることを自覚していなくて、なんとも答えられなかった。今から思えば、あの時より前に、とっくに駄目になっていたと思います。そして自分で自分のことを騙して生きていた。
    なんとか自分を掘り出す作業をやってみようとしたようだけれど、ここでやるのは間違っている。自分で読み返す気にもならないようなものを、公共の場所やガメさんのブログのような善良な人たちの目につくところに投げ出すなんて不法投棄です。

    このブログやツイッターを聞いているとどうしても話しかけたい誘惑に駆られます。でも自分を幸せに出来ない今の私は、人を不快にさせるだけだ。だから、そのような邪な波長の言葉は削除して下さるのがみんなの健康のためだと考えました。

  7. 菜苦しどん、

    理由を読むと特に削除する必要なさそうなので置いておきます。(特に、どーしても削除しろというご要望があればお答えしますが)
    考えすぎだとおもうぞ

    >そのような邪な波長の言葉は削除して下さるのがみんなの健康のためだと考えました。

コメントをここに書いてね書いてね

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