グリーン車で

現実に会う日本人はみんな良いひとであるのに、どーしてインターネットであうのは無茶苦茶なバカタレが多いんだ?とむかし義理叔父に訊いてみたことがある。
どれだか忘れたが、捕鯨かごぼうか小説家かガイジン死ネかのどれかの集団攻撃のときのことです。
義理叔父の答えは意表を衝くもので、「現実に会っているひとと、インターネットでつきまとわれているひとの種類が違うからだよ」という。
一瞬、意味がわからなかったので、へっ?と思って考えてしまった。
グリーン車、というものがあるでしょう?と叔父は言う。はい、はい。
きみが普段会っているのは日本という列車のグリーン車に乗っているひとたちで、嫌な人間は見ないですむし、押し合いへし合いしたり、痴漢に間違われたりしなくていいひとたちだろう。
そもそも鬱屈が少ないんでしょう、という。
グリーン車でも、アホなひと、いっぱいおるやん、とわしがとーぜんの疑問を口にすると、もののたとえだから、とゆってすましておる。

現実のグリーン車は、東京駅を出てから、ずっと性器を露出した女たちの写真をトランプのように掌のなかでひろげて眺めて、一枚づつ順番をいれかえているマスクをかけて髪をてからせたおっさんや、車掌に「グリーン車が別料金なのだったら、そう放送でくりかえすべきだろうが」とねちねちと絡んで、ほかのおっさんたちから「きみ、いいかげんにしなさい。車掌さんは、自分の仕事をしているだけだろう。いやなら、きみがここからでていけ」と怒鳴られていたり、なかなか庶民的、というか、社会を反映しているというかだが、義理叔父は「象徴」として話したのだと思われる。

むかしは、ときどきグリーン車に乗った。とゆっても飛行機の座席で言えばエコノミー席くらいしかないおおきさのシートで、わしには小さすぎておっ死にそうなので、そう頻繁には乗りません。
だいたいクルマだったが、鎌倉の家に泊まると、横須賀線のグリーン車で東京に戻ることがときどきあった。
わしはもともと魚があまり好きとはいえなくて妹とかーちゃんに「味覚が時代遅れだ」と笑われるが、どーゆーわけか前の日に酒を飲み過ぎると「鰺の押し鮨」はうまいのであって、こーゆーことを書くから、亀夫の正体はずっと日本に住んでいるチューネンおっさんだ、とか書かれるが、ほんとうにおいしいものをおいしいと書いて悪いわけはない。
鰺の押し鮨が好きだと大庭亀夫は実は起きて動き回っている死体だということでも、別に、いっこう困りません。

安いほうがおいしいと言いたいところだが、「特上鰺の押し鮨」のほうがおいしかった。
あっ、言い忘れたが「大船軒」という大船の会社がつくっているのです。
この「大船軒」はサンドイッチがおいしいので有名で、いろいろな小説家がこのサンドイッチについて書いているので、食べてみたことがあるが、一口たべて残りは食べられないほど不味かった。

なんで、あんな紙でつくったようなパサパサのパンに味を完全消去したハムをはさんだサンドイッチがおいしいといわれるのか、いまだによくわからない。
しみじみ彼我の味覚は違うのだな、と考えました。

モニと結婚するまえ、晴れた日の午後、今日は長者ヶ崎にでもでかけて遊ぶべ、クルマでは酒が飲めないから横須賀線でいくべし、と考えてガラガラのグリーン車に乗り込むと車掌さんが「この時間はだいじょーぶだから椅子をまわしたほうがいいですよ」と親切に椅子を回転させて4つのシートを独占させてくれる。
上機嫌でウイスキーのフラスコをとりだして、推理小説をとりだして、ちびちびやりながら1時間の小旅行を楽しみます。清潔な車両がおおい日本ならではの楽しみである。

結婚してからは、山の家と東京の家の往復はほぼクルマに限定されてしまったが、ひとりのときは、長野新幹線で行くこともおおかった。
新幹線のグリーン席は、ちょうど、ガキわしの頃の横須賀線くらいのゆとりがあるので、わしでもふつーに座れる。
外国人からみて、日本の
長距離列車でいっちゃんかっこいいのは「駅弁」だが、わしは「峠の釜飯」が好きであった。高崎までがだるま弁当でその先が「峠の釜飯」だから上りしか食べられないわけだが、下りのときも軽井沢の駅で買ったりしていた。

むかしは外国人がおおかったというが軽井沢という町は、少なくともわしの「山の家」があった旧軽井沢というところは、外国人が極端に少ない町で、わしもこっそり滞在したが、ほかの外国人も、なああーんとなく、こっそり暮らしていたと思う。
それでも、お互いにめだつ(^^)ので、顔でおぼえているひともいて、無茶苦茶美人のロシアのねーちゃん(なんで軽井沢に通っていたのか不明)(そんなこと、こわくてきけねーよ)や、二三、そーゆー外国人とあうと会釈くらいはした。

同じ外国人でも旅行者のほうはもっと気楽に話しかけるのであって、旦那さんがコーカシアンで奥さんがアフリカ人のスイス人の夫婦を案内したり、ドイツ人のじーちゃんとばーちゃんを山につれていって「くたびれる」といって怒られたりしていた。

むかしの映画を観ていると、「一等車」には専任の給仕が付き、一車両まるごとひとりの乗客にあてたりしていたようである。
60年代までは鎌倉駅長の仕事の手始めは、先ずグリーン車の乗客の顔と名前をすべておぼえて毎朝駅の改札わきに立って、そのひとりひとりに挨拶することだった。
「むかしの古きよき日本」をなつかしむひとは、よく、そういうことを挙げてなつかしむが、実際には普通車の6倍(?)だかの料金を支払ったはずの一等車の乗客などは、人口の1%にも遙かにみたない数のひとたちだった。
鎌倉の家を出て、東京の家に戻る途中北鎌倉で、何人かで、ぞろぞろと鎌倉からのってきたひとたちが移動するのを観察して、「なんだろう?」と考えることがあったが、ある日、4,5人連れの団塊おじさんたちの会話から謎が解けた。
東京まで行くのに鎌倉(東京から51キロ)で「50キロ以下」のグリーン切符を買って、隣駅北鎌倉までは普通車に立って我慢して、北鎌倉からグリーンに座ると、160円得をする(^^)のであるよーだ。

日本人は階級をもたず、階層をも否定してここまでやってきた。
ぞろぞろぞろと賑やかに普通車両から旧二等車に移動する背中をまるめて早足歩きの日本人は、ほほえましい、というか、戦後日本社会がめざしたものを象徴しているかのようでした。

前にも書いたが義理叔父は、何年かぶりに戻ってきた日本で、鎌倉ばーちゃん(叔父の母親でごんす)に会いに行く途中、横須賀線のグリーン車、横浜で若い夫婦に別れを述べているお年寄りの女びとをみた。
老婦人は、いったん通路にたってからあらためて若夫婦に向き直って、「お名残おしゅうございますが、わたくしはここで失礼いたします」という。
その日本語のアクセントが、言葉を話すゆっくりささえ、子供の頃にはまだ聞き慣れていて、長いあいだ忘れていた山の手言葉そのものだったので、義理叔父は突然なみだが文字通り滝のように流れだしてきて、まわりの乗客の手前、かっこわるさのあまりボーゼンとしたそうである。
びっくりした、という。
突然、「故郷」が目の前に現れてしまったからでしょう。
故郷どころか、「日本」そのものだったかもしれません。

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2 Responses to グリーン車で

  1. 兄を尊敬したことがある。まあ今でもではあるが。
    日本の高校の修学旅行に参加した兄は、途中の駅でウィスキーを買ったはいいが乗り遅れてしまった。すると、目的地に早く着く列車を探してグリーン車に座り、堂々と飲酒しながら先回りした。
    嘘でしょ、ではないのだ。車掌に見つかり(当たり前だ、大柄ではあるが顔が高校生だもの)途中駅で先生に引き渡された。なぜか退学にはならなかった。
    品行方正な余は、そのことでは未だに不良の兄に負けたと思っておる。
    あっ、顔が高校生ということであって、酒で赤くなった顔のことではない。彼は余とはその点もまったく別でガメさん並に酒に強いから顔に出ない。今ではしないが、不良だったからビール半ダース飲んで運転していても検問所の警官に気づかれなかった。

    • マルクス博士殿、

      >嘘でしょ、

      そーゆーときに「うそ」と思う人は性格わるすぎる。

      >品行方正な余

      気の毒に

      >不良だったからビール半ダース飲んで運転していても

      それは犯罪やん(^^)

      >検問所の警官に気づかれなかった。

      わしのお友達Pは、高校生の時に泥酔していて、尋問したお巡りの顔におもいっきりゲロを嘔いたことがある。
      お巡りがゲロに眼つぶしされている隙にダッシュで逃げた。
      機敏なやつ、とおもいました。
      デースイすれば判るが走るのむずかしーぜ。

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