東京の匂い

どんな土地にも、その土地固有の娯しみというものがある。
マンハッタンなら、リンカーンセンターのオペラやバレエ、あるいはジャズクラブやクラビングがそーだし、ロンドンなら誰かに招待されてでかけるパーティがそうだろう。
オークランドなら、クルマにボードをつみこんで5分もドライブすれば
Stand Up Paddle Surfing
http://en.wikipedia.org/wiki/Stand_up_paddle_surfing
がやれる浜辺がある。
わしの家があるラミュエラというところは、歩いて行けるところにニューマーケットというショッピング街もあればパーネルのカッチョイイレストランやバーが集まっている通りもある。CBDもクルマで10分です。
一方で、セントヘリオスからオカフまで、これがほんまに街の浜辺かいな、という美しい砂浜がいくつもある。
この「なんでも家に近いところにあって気楽に素足でスタスタ歩いていける」ところがニュージーランドの街のよいところで、マヌケな言い方をすれば「自然と街のバランスがよい」のね。
わしは仕事に行くのに10分以上運転しなければならない街は嫌いです。
仕事、しないけどね。
ほっといてくれたまえ。
プーが好きなんだから。
ヒマも好き。
ヒマのプーさん(ごめん)

バルセロナなら、午後6時を過ぎた頃、グラシアの狭い通りを歩いてたどりついた街のあちこちにある広場のひとつの外のテーブルで、カヴァやヴィノティントを手にモニや友達と道行くひとを眺めながら、これから食べに行く夕食のことや、さっき通りかかったアフリカ人のスカートの美しい布地と柄の話をする。
バルセロナという街には、夕方になると、人間から「退屈」というものを剥ぎ取ってしまう不思議な力がある。

東京の魅力は「東京的な店」そのものだった。
どーゆーことを言っているつもりなのかというと、モニとわしはたとえばかまぼこ屋を眺めるのが好きだった。
かまぼこ、買わないけど。
昆布屋や鰹節屋。

豆屋に海苔屋。
モニとわしが、とりわけ好きだった日本茶の店。

あるいは、人形町に軒を並べる「鶏屋」や「和菓子屋」に行った。
https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/11/20/hurdy-gurdy-man/

モニさんは、いまでもときどき有楽町のガード下の焼き鳥屋がどんなに楽しかったかを思い出して話す。
「もう、いけなくなって残念だな、ガメ」と話して目を潤ませたりします。
昨日、会社のひとびとにも、わしとあうために欧州とニュージーランドを往復するときに成田で乗り換える線をあらためて厳禁したばかりなのを思い出してしまう。

カンタスも禁止だけどね。
脚が落ちたり、ドアが落ちたりしていれば、そのうち翼がおちるに決まっておる。
あんなあぶねー航空会社を野放しにしていていーのかオーストラリア。

東京の店には「東京」の匂いがある。
神保町の古本屋には、これほど長いあいだ感情も思考も縦書きされてきた世界がつくりあげてきた言葉にならない知的矜恃が満ちているし、浅草の裏通りには、どれほど観光客があふれても見間違いようのない、軽はずみだがひとなつこい日本の下町の匂いがする。

電気ビルの20階で友達とふたりで酔っ払って、数寄屋橋の裏通りをふらふらする。
「おにーさんみたいに大きいひとが店にはいってくると、うち、ボロ屋だから壊れちゃうわよ」と冗談をゆって笑うおばちゃんがもってくる、この世のものとはおもわれないくらい繊細な味のヒラメや鰺の刺身を肴に辛口の冷たい酒をいっぱいやりながら、いったいどうやるのか、どの皿もまったく同じに手の込んだ美しい盛りつけをあっというまにやり遂げてみせる主人おっちゃんと軽口を利きます。

わしは欧州人のシェフやレストランの持ち主で、あの親密なのに狎れ狎れしくはならない雰囲気の秘密が知りたくて銀座の割烹や鮨屋、名のある飲み屋に通い詰めたひとたちを何人も知っている。
世界でただあそこだけにある、あの雰囲気は、日本がどれほど誇りに思ってもたりないものと思う。
マンハッタンでもロンドンでも、そっくりに作ってやってるけどね。
全然、ダメです。
なんだか割烹着を着たファミレスみたいである。

ミシュランの東京レストランガイドブックは、まるで福島第一原子力発電事故などなかったかのように、去年と同じ条件でレストランに星をつけて歩いて、わしを、その不誠実さでうんざりさせたが、あれはいったいどういうつもりなのだろう。

死ぬ前に、なんだか奇跡のようなことが起こって、迷信家のごとく放射能をこわがるわしが、もういちど東京に行ってみてもいいなあと思う日がくるだろうか、もうだいぶんいろいろなことをおもいだせなくなった、 と考えるが、 あの東京の、言葉で表現することが適わない「匂い」だけは、忘れることがないよーだ。

そうやって、(特にこうして日本語でものを考えているときには)ときどき東京のことを思い出していても、その記憶のなかでも比較的生き生きとした東京の通りや、顔を知っているひとびとの記憶のなかの笑顔の上に、たちまち「フクシマ」の影がさしてきて、絶対に起きてはならなかったことが起きてしまうということをどう理解すればいいのか、あるいは、日本のひとが何をしようと決心しても、いつまでも絡みついてくる蜘蛛の糸のように「日本」をからめとっている拡散した放射性物質のような効果の予測がつかないものを、どう評価すればいいのか、いつもと同じ、終わりのない疑問、解決のない議論が頭のなかに起こって、途方にくれてしまうのです。

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6 Responses to 東京の匂い

  1. Akira says:

    メアドおおきに。。m(__)m
    ガメさん「成田で乗り換える線をあらためて厳禁」てのは空港での大気暴露を危惧して?? または機内食のセシウム入り日本ソバ?(^^; 正月早々に空間線量が上がっている。
    笑いながら何万人もが暴露しているという、、、
    東大の先生方も、ね。

    • Akira殿、

      >「成田で乗り換える線をあらためて厳禁」てのは空港での大気暴露を危惧して?? 

      ほんとうは理屈はあんまり関係なくて、わしは「わからないものは怖い」んです。
      愚かな恐がり方の典型ですのい(^^)
      成田のゲウチャイでタイ料理を食べてやってこようとした無謀なバカモノがいたので、再通達のやむなきに至った(^^;)

      >東大の先生方も、ね。

      本郷と柏の線量が高いのは、なあーんとなく神様の皮肉なよーで、迷信家になってしまいますのい。

      • Akira says:

        じゃあその社員さん(?)はタイ経由ならいいわけですナ(^^)
        怖がることは大事ですヨ、ホントに。
        今晩NHK特集で海洋と湖の放射能汚染についてリポートしていた。福島原発から銚子までは値が徐々に下がっていたのに、銚子での値が原発から20キロの地点と同じ値のホットスポットが存在していたとのこと。加えて東京湾のヘドロも同様であった。「当たり前やん」と思って横目で観ていたのだが、オイラが気持ち悪かったのはその特集の女性ナレーターが昔NHKの教育番組みたいに、冷静で、淡々としていてまるで数十年前から知られている知識を子供達に語りかけているように聞こえてね、、まるで十数年前の煤けた番組の再放送を観ているみたいだった。。。最後に「でも魚には未だ影響はありません」と言っていた(苦笑)
        Ghost City Tokyo…
        怒りを通り越して飽きれるしかないんですよ、ガメさん。

      • Akiraどん、

        >社員さん(?)

        自分で考えても、「社員さん(?)」という感じのひとびとで、わしよりもえばっている人ばかりなので、ひとり爆笑してしまいました。

        >タイ経由ならいいわけですナ(^^)

        タイを通ると航空券の点でもつながりが悪いので、成田がダメになってしまうとドバイかシンガポール経由なんですのい。

        >NHK特集で海洋と湖の放射能汚染についてリポートしていた

        そーゆーのも、一応やってるんですのい。へー。

        >福島原発から銚子までは値が徐々に下がっていたのに、銚子での値が原発から20キロの地点と同じ値のホットスポットが存在していた

        海洋の水の動きは、すげー複雑で、詳しいひとの話を聞いているとフクシマのことを思い出してぞっとする。
        日本の沿岸を一周してしまう危険もあるとのこと。
        どーすんだよー、ばかあー、と日本のひとが聞いたら泣きたくなるよーな話でした。

        >その特集の女性ナレーターが昔NHKの教育番組みたいに、冷静で、淡々としていて

        怖いですね、それ。
        すごく、怖い。
        ぬわるほど。

        >怒りを通り越して飽きれるしかないんですよ、ガメさん。

        タメイキがでる。
        日本とは叔父と従兄弟を通してしかカンケーがねーのにタメイキがでる。
        日本のひとは、どんな気持ちだろう。
        どうして通りに出てあばれないのだろう。
        どうして窓を開けて、「ゆるさないぞ」「おれの国を返せ」
        と叫ばないのだろう。
        どうしてテラスに垂れ幕をかけて「フクシマの子供を殺したら承知しないぞ」とでっかい赤い字で書かないのだろう。

        (タメイキ)

  2. Akira says:

    >そーゆーのも、一応やってるんですのい、、
    そうなんですよ、チェルノブイリの後の研究についてもね。
    とにかく全般的に「真面目に深々と研究した報告をお伝えしています」という構図ですが最後まで確信に触れずに終わるものばかりです。ところでガメさんのお家(城かな??)では想像で壁一面に世界中の放送が閲覧できるルームがありそう(キム何タラさんみたく)ですがNHKは流れとるんですか?(^^;
    >海洋の水の動きは、すげー複雑で
    そうそう、何でも地球の自転の影響で沿岸に渦を巻きながら南下してるそうです。
    >「ゆるさないぞ」「おれの国を返せ」
    オイラの同僚に福島出身の男が居て、日頃はメチャ温厚な医師であったのですが、福島を愛して止まなかっただけに今となっては発狂せんばかりに怒りくるっております。正月にも嫁子供を置いて単身、飯館村に乗り込んで行ってしまいました。玉砕しそうで心配なくらいです。
    オイラはこういう現実が日本で起る事を予感していたので、日常の自分は「飽きれるしかない」状態ではあるけれど、「このままでは済まさんゾ」とは思っとります。しかし何ぶん「通りに出て暴れ」ている時にまた爆発があって「逃げろ〜」ってなりそうなんでね。。。(^^;  孫子曰く今は分が悪いから一歩退いて(この国を出て?)期を待つしかないと。。
    ところでオイラは産業医(って知っとります?)でもあるんですが、ニュージーランドには会社専属の医者っているのですか?? 欧州の会社では大抵いるらしいです。
    ガメさん雇ってくれんかな?苦笑

    • >壁一面に世界中の放送が閲覧できるルームがありそう

      ねっす。テレビは「Criminal Minds」とかしか見ねーもん。
      複数の30インチディスプレイとプロジェクタが複数のコンピュータにつながっている部屋はあります(^^) 

      >NHKは流れとるんですか?(^^;

      みねっす。いま観たら、一応、シンガポール資本の「Sky」の有料チャンネルではあるみたい。

      >オイラの同僚に福島出身の男が居て、日頃はメチャ温厚な医師であったのですが、福島を愛して止まなかっただけに今となっては発狂せんばかりに怒りくるっております。

      悔しいでしょうね。ニュージーランド人なら「レインボー戦線」とかつくっちゃって、武力闘争を実行しておりますな。

      >飯館村に乗り込んで行ってしまいました。玉砕しそうで心配なくらいです。

      それではカミカゼではないか。

      >オイラはこういう現実が日本で起る事を予感していた

      そう!
      たくさんのひとがフクシマ以前に予測していた。
      それを思い出す度に日本の「ものゆわぬひとびと」の無意識な分析力のすごさに驚いてしまう。
      「原発がぶっとぶに違いない」と具体的に言い切るひともおお勢いたのです。

      >「通りに出て暴れ」ている時にまた爆発があって「逃げろ〜」ってなりそうなんでね。

      地震が専門の友達に訊くと、やなことがたくさんありますね。

      >今は分が悪いから一歩退いて(この国を出て?)期を待つしかないと。。

      ぬわるほど。

      >ニュージーランドには会社専属の医者っているのですか?

      ニュージーランドの産業医は獣医ですけん。
      (冗談です)
      (ほんとうだったりして)

      ハミルトンみたいデカイ会社が集団であるところには「産業医」いるでしょうね。
      ポスト少ないです。

      >雇ってくれんかな?苦笑

      わしが持ち主の会社て実物はヨーロッパとアメリカにありますねん。
      わしはニュージーランドから通勤しておる(1年に1回だけど)
      ニュージーランドには事務所がありますが、知らないひとがみたら「バーなのか?」
      と思うような事務所なのでお医者さんのように健康を職業とするひとははいれません(^^)

      マジメな話をすると、わしの知っている異文化夫婦は何組か離婚になってしまった。
      フクシマの破壊力は、人間の生活のすみずみにわたって容赦なくおそっていくようで、
      やですのい。

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