小さい、アホな太陽

途中の店でサモサを買って、海辺のベンチで(ララトンガの線のやさしい島影を眺めながら)家からもってきたコーヒーと一緒に食べる。
ときどき冷たい風が吹いてきて、もう秋だなー、と考える。
秋になってもニュージーランドにいるのは珍しいことなので、このあいだ夏が終わったあとでニュージーランドにいたのはいつだっただろう、と考えると、それは途方もない昔のことで、7年も前のことである。
クライストチャーチの石造りの旧カンタベリー大学の建物を使ったアートセンターで冬の寒さで曇った窓ごしに中庭を眺めながら、カボチャのスープを飲んでいた。
あのときは2万キロも移動して、ただクライストチャーチの冬をみたい一心で戻ってきた。
誰もいない家の暖炉に薪を放り込んで、二階の窓から庭をみていた。

どういうわけか、わしは、子供の頃から曇り空の低い雲の広がりや、冷たい大気、いかにも寒々しい姿で整列しているブラックパインの並木、というようなものが好きで、夏の太陽のほうがいいに決まっているのを常識とする両親からヘンな子供だとからかわれた。
体質でもあって、わしはガキわしの頃でも摂氏12度くらいでTシャツでいるのがもっとも心地がよい。体を少しでも動かす、たとえば散歩、ということになると、5度でも4度でもTシャツ一枚でよかった。
わしの体質をつくった直截の先祖は、よほど天気の悪い寒い国の人間であったようです。

生まれてきてしまったのだから死ぬまでは生きているより仕方がないが、人間の一生は面倒くさいのがわかりきっているので、いろいろに準備しなければならなかった。
初めの大事業は、「オカネのために働く」という時間を自分の一生からどけてしまうことで、そういうだいそれた事業計画を自分の一生のかなり初めの部分にもってきたのは、「朝はやく起きるのが嫌だ」というナマケモノの切実な気持ちがあったからだろうと思われる。
この先にはおもいもかけず失敗して文無しになって、モニの作男になって暮らす、という可能性もなくはなくて、それはそれでいいであろう、と思ったりもするが、景気の天がかきくもるといきなりコンサーバティブな姿に一変してアルマジロに変化(へんげ)する、自分の、現今のいかにも零細ぽい地味な投資スタイルを考えると、あんまりそーゆーこともないような気がする。

わしの生活のおおきな特徴は「滅多に労働しない」ことで、それを自分では自分の一生で初めての小さなゴールであると考える。

朝おきてから夜、きゃあモニさんの良い匂いがするー、とケーハクな呟きとともに一緒にベッドで睡るまで仕事というものに費やす時間がないので、膨大な時間があります。
つい最近までは日本語やロシア語というような「知らない言語」に興味があったので、本を濫読したりして時間がつぶれて都合がよかったが、最近は飽きてしまったので、惰性でブログを書いたり、ロシア人たちと、ロシア的に脈絡のない話をしたりするだけである。

かなり夢中になって楽器を弾く。
ときどき数学をやる。
まれには絵を描いている。

オカネのほうもリターンを25から10にさげてしまったのでプロパティ中心で自動運転中みたいなものになった。欧州がぶちこわれるのを待っているからです。

20年分のLaw&OrderやときどきダウンロードされてくるCriminal Mindsの最新エピソードをモニとふたりでカウチでころころしながら観たり、Diablo IIIが出ればふたつ買ってきて、モニとふたりで遊んで、まずは個々に研究して、ときどきホールウエイをモニの部屋まで歩いていって、「いま、レベルいくつうー?」と訊いたり、モニの凶暴猛烈、バーバリアンな戦いぶりを横から観戦して、やっぱり未来永劫夫婦喧嘩はしないほうがいいよーだ、と秘かに考えたりする。
モニはMMOでも、だいたいライカーの大名主みたいな大男の、頬に傷がある、筋肉むきむきの凶悪なパーソナリティになりきって遊ぶのが好きである。
ときどき、知らないひとびとと野原で出会って、「よおおーし、おれについてこい!」なんちて周りのモンスターをあたるをさいわい薙ぎ倒して雄叫びをあげたりするのを眺めていると、しみじみとMMOで出会う人間なんて実体はなんであるかわからん、と考える。
現に目の前で神様でも気絶しそうなくらい綺麗なねーちゃんが、「ぐわっはっはっは、おれに勝てるモンスターなどいるものか!」とゆっておる。
世界は偽装にみちているのである。

あちこち移動して暮らすのは楽しかったが、欧州とオーストラリア・ニュージーランドと往復するだけでもいいかもな、とモニが言うことがある。
マンハッタンは?と訊くと、うーん、と考え込んでから、なんだかいまはピンと来ない、という。
マンハッタンはモニにとっては第二の故郷なので、随分おもいきった変化だが、なんだかわしにも判るよーな気がする。
小さな人が登場してから、なんだか「マンハッタン」はちょっとお休みのほうがいいな、という暗黙の了解、というか交感というか、のようなものが出来てしまった。
もしかすると、そんなに難しいことではなくて、あのクソ狭い人間がぐじゃぐじゃいるところで小さい人を世話する人とモニとわしとでもすでに3人いるのに移動して回る、というイメージが嫌なのかもしれません。
いや、そういうことよりもペースがずれてマンハッタンとあわなくなっているのだろうか。

コモは行くだろう、ガメ? という。
わしは、そー、行きたい、と答えます。
夏のコモはいいものね。
のんびりして、湖にはりだした、あのレストランで、沖をボートが通るたびに寄せてくる波が桟橋にぶつかる音を聴きながら、新鮮なちびトマトがちりばめられたスパゲティや、オリーブオイルの香りがするイノシシの肉を食べる。
丘の斜面をぬってのびている中世の狭い道をとおって、「ジョン王」の家に行く。
あの見事な金髪の美しいアメリカ人の未亡人や、まるで忠実な下僕のような態度で未亡人に傅いているロイド眼鏡の似合う老富豪のFにもまた会えるに違いない。
あの一世紀くらいは優に時計が遅れている湖の周りに流れている「時間」は自分が呼吸の仕方を学び直すために必要な類の時間であると思う。

小さい人の誕生は、予期していたのとまるで異なる種類の変化をモニとわしの生活にもたらしたのであって、夫婦の関係性が変わる、というような友達たちに絶対と太鼓判を押されたほうの変化はまるで起こらなくて、外のバーで酒を飲んで遊ぶ気がしなくなって、酒が飲みたければ庭のテーブルにペールをおいてシャンパンを飲むほうがずっといいと思うようになった、とか、そもそも家から出るのに努力を要するようになって、運動も家のなかのジムですませてしまうし、散歩も庭でしかしなくなる。
あとは家の中をうろうろして終わって、ふたりして引き籠もりになってしまう。

先週からモニとふたりで、こんなことをしていると刺激がなさすぎてよくないであろうから、なるべく外にでかけよう、と言い合ってクルマで家を出るが、昼ご飯を食べるくらいで、つい家に帰って来てしまう。
どうも、ほんとうの意味で怠け癖がついてしまった。

絵を描くのは飽きたのか、この頃はモニは株式の勉強をしている。
わしにいろいろ質問するが、わしはなああああーんにも知らないので、びっくりして、「ガメって、それでほんとうに凍死家なのか?」と訊かれる。
ほんとうかどうか、というのは興味がある質問である。
こーすればいーはずだ、とか、こーゆー範囲に損得の勘定が立つはずだ、という理論をたてて、そんでずっとオカネが増え続けているのだから「ほんとう」らしく見えるが、実はただの僥倖の連続で、数式も一見巧みげなアルゴリズムも鰯の頭を信心しているのと本質において変わらない、という可能性はあるであろう。
現に「インデクス投資家」なるひとびとは、みな、そうである。

もしかすると、その日その日で初めに見るモニの表情が笑っているかいないかで決めても生じるオカネの総額は同じであるかも知れぬ。

しかし一応賢げな理論があったほうがプロっぽいから、このままでいーじゃん、ということにしてある。
そうでなければ、ただのプーであることがばれてしまう。
なんだかもっともらしげな理屈がついているから、みなわしを冷菜凍死家として敬意をもっているのであって、ほんとうはサイコロを転がしているのと変わらないとばれると甚だしく不都合です。

ここに時々くる「ぽんぴい」が、おまえは、ぶったるんだ生活ばかりしてやがって、いいと思ってるのか、精神性というものはないのか、というようなことばかりこの頃言ってきて、うるせーので、まっすぐゴミ箱にいれて、「ガメは天才であるな」というコメントがくるまで放っぽらかしにしておくことにしてあるが、精神性、などというものにはわしは興味がないのよ、ぽんぴい。

かーちゃんの息子として生まれてきて以来、わしは、なにしろ、ほとんど悩みというものをもったことすらない。
妹は、「やっぱり」などとゆって、わしが悩みをもったことがないことをバカの証拠のように言うが、それは妹が賢いということと人生を複雑にするということを混同しているからだと思われる。
悲しかったり怒ったりはするが、わしは、悩んだり憎んだり、ということはないもののよーである。

モニは「ガメは自分の一生で何がしたいの?」と訊くことがあるが、ほんとうは声に出して他人に言ってはいけないことなのかも知れないが、わしには一生で達成したいことややりたいことはもともとなかった。
いまはひとつだけあって、ずっとモニと一緒にいたいが、言うとモニに、「それとは別に何かないの?」とゆわれるので、それだけではいけないことになっているものであるらしい。

しかし臆面もなく言うと脳が壊れていて脳内物質の平衡が崩壊しているんだかなんだか、わしは毎日すごおおおおく幸福なので、それがあんまり正常なことではなくて、「近代小説」というようなものを読めば、第一、そんなことがあるはずがないことになっているが、現実に圧倒的な幸福感のなかで毎日がすぎてゆくという、全然知的でない毎日なので、どうして「何かを達成」しなければいけないのか、根本から理解できていないのだと思われる。

本人が「幸福」だという場合、じっさいには不幸な生活をしているものなんだよね、ぐっしっし、という立場が日本では主潮であるのは承知しているが、ま、勝手にしてね。

ひとつだけ足りないと思うのは、モニと一緒に暮らす前、あるいはオカネという問題が自分の未来にたちはだかる得体の知れないおおきな問題であったころ、たった一枚だけ残った100ドル札をポケットにいれて、ラスベガスの赤い砂漠の道を、これからどうすればいいだろう、打つ手がねえー、と考えながら歩いていた、あの心細い気持ちで、あの気持ちは、どこがどう連絡しているのか確かに「自由」というものと強く連絡していた。
理屈の上では飢え死にも可なり、だったが、そういうときに人間は途方もなく楽観的になるものであって、困れば困るほど、なんとかなるだろう、という気持ちになるものだった。

失敗を怖れて、言い換えれば保障を求めて計画された人生というものには論理上意味も実効性もないが、もっと簡単に言えば、人間の一生には保障というものが存在できないが、そーゆーことが実感できるのはビンボな人間だけである。オカネが生じると、説明するのが面倒くさいが計画につぐ計画、論理につぐ論理、判断機会の洪水であって、ずっとやっていると、どうもこういう頭の働きはくだらなさすぎるのではないだろーか、という疑問が生じる。

油断すると、その疑問がおおきくなってくるので、こういう、知り合いに殆ど誰も読める者がいない言葉で訳の判らないブログを書いているのだと思います。

This entry was posted in 近況報告. Bookmark the permalink.

2 Responses to 小さい、アホな太陽

  1. Akira says:

    ガメさんはイタ車好きなんですか?(^^)
    ディアブロ・コレクターズエディションなんて書いてあるからスーパーカー世代だったオイラには「すげーーー! ランボルギーニ買えるんだーー! しかもまるでゲタ履いて買いに行くよな雰囲気じゃん??? やっぱ違うわーー」と思ってました(笑)
    オイラはゲーム疎いから同僚に聞いたら「シューティングゲームだけど?」って、、(閉口) 「あ、以前医局の医者が当直でやってたやつか〜、、」と。イタリア語で悪魔って意味なんですな。もっともガメさんはフェラーリなんて何台も持ってんじゃないかと想像しちゃうけど庶民なオイラにはアルファのエンジン音、エンブレムに惹かれますね。。。本国ではアルファは国民(中間層か?)の精神の財産なんだとか、、小生、以前アルファ156V6のマニュアルに乗ってました。当時、世田谷区の駐車場は3万以上するし、子供が生まれてカミサンに買い替えさせられちゃった(涙)同僚に譲ったらそいつが最近ブレラに買い替えたもんだからオイラは今、血中のマーカー『GTA−156』が上昇している(@@)  ホントはコレが欲しいんだけどな〜。。。

    [Top Gear]では「遅い」と酷評だったけど、、体感スピードが速ければ日本では充分です。
    ガメさんだとニュージーランドの空の下ではスパイダーかな?

    話は変わりますがこんな画像を見つけました。こんな子供は日本にはおらん、、、

  2. 田鶴 says:

    呼吸の仕方を学び直すために必要な時間の、その向こう岸に
    「オベールさんのジョン王」は静かに立ち、待っていてくれるんですね。

    一枚のタブローがありありと浮かぶようです。
    例えばジョルジョーネの『テンペスト』、あるいは
    白いシャツを着た赤い髪の少年の、うつむいた横顔をとらえた一枚。

    けれど「縦に長~~い」人の眼に見えるだろうものを想像するのは、
    いまの私には、とてもとても難しい。

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s