昆布石鹸の味

向田邦子の「昆布石鹸」という文章は
「ビスケットとクッキーはどう違うのだろうか」
という一行で始まる。
ぼく知ってるもん、という意味ではなくて、読んでいて、へえ、と思う。
へえ、ではなくて、そうか、なのかも知れないが、
へえ、なのか、そうか、なのか、
要するに「そんな感じなのか」と発見して軽い驚きを感じる。

ビスケットとクッキーがどう違うかというとビスケットがある世界にはクッキーがない。
ニュージーランドでもCookieTime
http://www.cookietime.co.nz/
という有名な会社があるが、「クッキー」なのは、この会社だけで、残りは「ビスケット」です。
クッキーはアメリカ語で英語では普及していない言葉であると思う。

ニュージーランドは狡い国で、英語圏で「うけた」番組を、あちこちから集めて来てテレビ番組の一日を形成する。
わしが子供の頃は、まだイギリスの番組が圧倒的で、再放送もラブジョイやインスペクター・モースで、だいたいAbsolutely Fabulous
http://en.wikipedia.org/wiki/Absolutely_Fabulous
の全盛期、ダジャレをいうと、すなわち前世紀までは、テレビから聞こえてくる英語はイングランドの英語やスコットランド訛りが多かった。
それが「Friends」
http://www.imdb.com/title/tt0108778/
を境に、アメリカ人の「R」がやたらと響くヘンテコな英語に耳が馴れて、まあ、いいか、というふうになってきたのだと思われる。

いまはアメリカの番組がぐっと増えて、次がイギリス、次がオーストラリアで、
残りは「ショートランドストリート」
http://tvnz.co.nz/shortland-street
のように、イギリスのコロネーションストリートほどではなくても、まだわしガキの頃から、毎日延々延々と続くニュージーランドドラマがある。
(Rachel
http://tvnz.co.nz/shortland-street-characters/rachel-mckenna-3106235
などは16年も毎日テレビに出ているわけで、いま番組のページで顔をみても、むかしのお子供さんぽい顔とは全然別の顔で、どひゃあー、と思う。わしジジイやん、と考える)

アメリカの番組を観ていて「パンティ」とかゆわれると、耳にするのは、もう何千回目であるのに、いまでもやはり頭のなかで「なんじゃ、そりゃ」という反応が起こっている。
いったい、なにをどうやったら、このひとびとはニッカーズをパンティとかいう、けったいなパーぽい言葉で呼ぶのであるか、と自動的に思う。
折角、女優がナイトショーのホストに機知を機動させてコート狭しと応えているのを観て、頭のいい女のひとだなあ、と感心していたのに「パンティ」というひとことで、実はこのひとは頭が弱いのではなかろーか、と心のどこかで邪推を始めている。

イギリス人とアメリカ人は、ケミストリの良い相手と巡り会うと、なにしろ外国人同士でもあり、お互いが新鮮で、意気投合して、結婚にまで至るカップルが多い。
一方で離婚も多いので、観察していると、毎日に使う単語の意味範囲やニュアンスがビミョーに違うのでだんだん疲れ果ててくるもののよーである。
もうひとつ、同じ「英語」を使って欧州系同士アフリカ系同士なら見た目も同族なので、すっかり同じ部族だと妄信してしまうが、実はまったくとゆってよいほど考えの習慣が異なる外国人同士なので、なぜそこに絶望的な理解の壁が生じてしまうのかが判らなくて、
離婚に至ってしまう。

ニッカーズをパンティと呼ぶ相手が疎ましくやりきれなくなってしまうのだと思う。
パンティと言う側は、ニッカーズという呼び名しか自然に受け取れない辛辣な皮肉屋たちのとげとげしさが、どうにもいたたまれなくなってしまうのだと思量される。

日本のひとはやむをえない便宜と思うが「欧米」という言葉を使う。
あたりまえだが、「欧」と「米」はまるで異なる世界で、明瞭に対立的な世界です。
なぜわざわざ日本語でこんな小学生でも明らかでありそーなことをわざわざ書いているかというと、日本は便宜によって「欧米」「欧米」と述べているうちに欧も米も一緒というか、まるで欧州とアメリカが同じ枝に止まっているかのように思ってしまうひとがいるようで、その誤解は歴史的にいって何度も日本を破滅的な危機に追いやってきた。
そろそろ「欧米」という言葉を辞書から削除しないと、巡り巡れば日本は東アジアブロックに閉じ込められて中国が閂をかけたドアから出られなくなってゆきそーだと思う。
語彙を再検討して不適当なものを注意深く取り除くという作業をあまくみることは、ひとつの社会にとって時に致命的であると思う。

ついでに述べると、都合がわるくなると、なあああーんとなく自分の国が欧州でないようなことを言いたがる連合王国人の狡猾にころっと欺されて、イギリスは欧州とは別だ、と思ってしまうひとまでいるよーだが、それは大陸欧州の甘い汁はもらうが責任を求められるのは嫌だぜ、というイギリス伝統のチョー無責任主義に目を眩まされているだけで、仕事をもって住めばわかる、イギリスはいまでも壁紙ひとつとっても他人への強烈な意地悪の仕方をとっても欧州である。
まして、その人間性のせこさにおいておや。

イギリスは時に欧州人としての相貌をむきだしにしてアメリカと対立し、別のときにはむかしから対立的な文化をもったアメリカと相容れない価値観をもった英語国としてアメリカを冷笑する。
普段は笑い話ですむ一見めだたないおおきな差異が、これから先、たとえば中東やアフリカ諸国をめぐって表面化してくることも多いと予想できる。

「昆布石鹸」を読んでいくと、向田邦子と(写真家の)立木義浩が「あのヘンテコな味はいったいなんだったのだろう」と考えあぐねた食べ物が、リコリシュ(Licorice)
http://www.licoriceinternational.com/licorice/pc/home.asp
であることがわかる。
表題の「昆布石鹸」というのは、向田邦子がリコリシュを食べた、その味の感想です(^^;)
このリンクを見ればわかるが、しかし、リコリシュは「西洋人」というチョー大雑把なくくりでくくっても全部そのままあてはまりそーなくらい広汎な、菓子版「ソウルフード」で、たとえばわしはむかし、他人の子供っぽさを見破るのに神速な嫌味な性格のイタリア主婦すべりひゆに(教えてあげない理由で)大笑いされてしまったが、あの写真でも判るとおり
RJ’s Natural Licorice
http://www.licoriceinternational.com/licorice/pc/RJ-s-Natural-Licorice-10-6-oz-300g-bag-16p187.htm
が好物である。
というより、家のなかにひと袋はないと、なんとなくイライラする。

ところがよくしたもので、「RJ’s Natural Licorice」はイギリスでもアメリカでも、たいていのスーパーマーケットに、どこにでもあります。
ラスベガスのCVS
http://www.cvs.com/shop/
にもちゃんとあって、摂氏46℃でクソ暑いのに、にちゃにちゃ食べていて、モニに大笑いされた。

まじめくさって述べると、そうやって「西洋」はたくさんの共通した部分や激しく異なる部分を内包して、交渉したり、言い争いをしたり、同衾しちゃったりして、目を近づけてよく見ないと判らない入り組んだ関係をつくってきた。
相変わらずなんだかうまく言えないが、ひさしぶりに日本語の新聞サイトをみると、
「欧米の立場から」というようなことが相変わらず述べられていて、欧と米が一緒にいるように見えてしまうような、そんな遠くから眺めててダイジョーブなんだろーか、と考えたので「昆布石鹸」をかじりながら、少し、些事におよぶ差異について書いてみるべ、と思ったのでした。

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One Response to 昆布石鹸の味

  1. kochasaeng says:

    ちょうど似たような、でも似てないかもしれないようなことを考えていて。
    ツイッターでも書いたんだけど、仆街(ぽっがーい)という言葉について。「街」の発音が無気音だから、「がーい」と「かーい」の中間みたいな発音だといいんだけど、憶えなくていいです。香港で上手にこれが発音できると、危険だもん。香港仔のネットスラングでは「pk」と書くと、この罵倒語になるんで気をつけられたし。だって意味が「死ね」に近い「この馬鹿め」だから。
    元々は廣東の黒社会のスラングだったらしく、ずっと廣東語でしか使われない言葉だと思ってた。そしたら、さいきんじゃ北京語や閩南語なんかの他の中国語でも使われてるようで、字もそのまま「仆」なんていう本来の漢字にない字を使ってる。ただ発音は、もちろん違ってて「ぷーぢぇ」みたいに言うみたいだ。面白いのは、おれが見た限りでは台湾で使われるときに、香港ではあれだけキツい罵倒語なのに、「おバカ」みたいな好意的な意味で使われてることだった。
    仆街ってのは、直訳すると「街で倒れる」。そのくらいボコボコにしちゃうぞ、って意味とか、「街で倒れてんのは間抜けだよね」みたいな誂いの意味もあって、台湾なんかじゃ後者の意味が強いみたいだ。日本語よりもはるかに豊富な罵倒語を持つ中国語で、廣東語圏外では「ちょっと可愛い罵倒語」としての新語なのかね。「仆街」で画像検索をかけると、楽しそうな写真ばっかりです。動画だとhttp://www.youtube.com/watch?v=9lK3XauEz-Iが楽しい。
    去年から若い中国人の間で「街で硬直してうつ伏せになってる写真」を撮ったり公開するのが流行ったけど、あれは、この仆街を知らないと、ただのヘンな写真でしかない。

    漢字は、甲骨文字がルーツで、殷の国の王が亀の甲や動物の骨に占いたいことを書いて火にかけ、その焦げやヒビの模様で国の将来を占う、「神と人との対話の道具」だった。それを殷の属国だった周の王に「あんたも占ってみな」って教えたのね。殷と周では使ってる言葉が違ったんだけど、「この鳥って字は、アレだ。ほら、そこピューって飛んでっただろ。黒いの。あれが鳥」「これが、木ね」「殴ったら、こいつ、目から水出したろ。これが涙」「なっ。これで神と話ができるぞ」なんていう具合に教えたんだと思う。
    周の王は「おー、いえー。これは便利。この字を使ったら、殷が面白くない他の国の連中と意志が通じて、みんなで協力して、この殷の王の野郎を滅ぼせちゃうじゃん」って殷を倒しちゃった。それで漢字は神と人を繋ぐものから、人と人との対話の道具になった。って話は中学生でも知ってる。

    古代から殷にかけての古い中国語は、タイ語的な文法といわれるんだけど、そんなのあたりまえだ。当時のタイ族は長江の民で、老子なんか楚人だからタイ族の祖先筋にあたる。三千年くらいまえに漢人が南下して攻めてきたんで、散り散りに逃げたうちの一部がタイ族だ。あとはヴェトナムとか、日本にも逃げた。日本に逃げた人々は命からがら(見たわけじゃないけどさ)船で種籾と共にたどり着き、農耕をはじめて、弥生人と呼ばれた人々です。日本人の四割はこの長江の民の遺伝子を持ってる。だから日本とタイにはどっちも納豆を作って食う習慣があったり、寿司の原型である発酵食品の「馴れ寿司」が残ってたりする。漢字は日本には定着したけど、タイ族では今となっては遣う者がいなくなってしまった。漢字世界と付き合いたくなかったのかもしれない。
    そんなわけで、中国五千年の歴史って、何をやってたんだよって揶揄する向きもあるんだけど、これはしょうがないです。出入りの激しい貸家みたいなもんで、漢人に占拠されたかと思ったら、あとからモンゴル族に代わられたり満人が来たり、文革でチャラになったり大変だった。文明の蓄積は難しいんだよ、きっと。

    なので中国語も一枚岩じゃないのね。大きく分けて七つとか十に分かれて、細かく分けたら数百とキリがない。同じ言葉なんかじゃないです。文字が同じだったら考えも近いだろって話もなくて、そんなこと言ったらアラビア数字なんて、5って書いてあったら日本人が見てもタイ人が見てもコスタリカ人が見ても「5」のことだけど、料簡はバラバラです。字が同じなだけ。漢字を遣う国々は文法が似てるんで便利なんだ。
    そこで仆街だけど、香港仔にとっては仆街は「ぽっがーい」であって、ぜったいに「ぷーぢぇ」なんかじゃない。凶暴な山猫がキティちゃんになっちゃったような話で、ふざけちゃいけない。そりゃ違う。

    あと、個人的な話だけど、おれが中国語を読むときには音がセットにはならないのね。おれは北京語よりも廣東語のほうがわかるけど、何て発音するのか知らない字が多すぎる。字面だけで意味が浮かんでくるけど、その意味も日本語じゃなくて、なんていうか漢字だ。たとえば「大城巴士車著火 幸無傷亡」と書いてあれば、「アユッタヤーでバスが燃えて、さいわい(人は)無事」というような意味が直接、漢字という文字で訴えてくる。だから何て読むのか知らなくても問題ない。でもこれじゃ、いつまでも廣東語が上手くならないわけだね。

    ところで、中国に住む人々にも、種族と言葉は違えど共通する感覚みたいなのがあるようで、たとえば映画「タイタニック」で、船が氷山に衝突して、もうだめだ、沈んじゃう! ってときに、船が垂直に縦になって、乗客たちが「きゃー!」って滑落するシーン。あれでだいたいの中国人はゲラゲラ笑う。北京語遣いも廣東語遣いも閩南語遣いも弾かれたみたいに一斉に笑う。
    仆街もそうで、それまで普通に歩いていた人が、こけ、と倒れると、まず笑う。どうもそれまで安定していたものの均衡が崩れる瞬間てのに弱いみたいだ。しょっちゅう国というものに裏切られるんで国を信用しないのと関係あるのかどうかはわからないけど、街で倒れることが罵倒語になっちゃう言葉なんて中国語以外にあるんだろうか。こういうのは面白い。

    日本人も漢字を遣うけど、この仆街は理解できない。
    そんなもんでアメリカ弁と英語ってのは、つうじるけど違うんだよねって話と、ちょっと似てると思ったんだ。
    中国は、ひとつの国なんかじゃ、ぜんぜんない。今は一党独裁で無理やりまとめてるけど、むかしのタイ族や弥生人みたいな目に遭ってる民もいるよね。未だに三国志の世界だ。
    まあなんて言うか、仆街です。

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