銃架にかかる空

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なんだか本気で徴兵制をやりたいひとが日本にはたくさんいるのだそーだ。
ぶっくらこいちまったぜ、と思うのは、徴兵制などは装備が近代化された軍隊においてはほぼ戦力増加策としては否定された考え方で、膨大な事務費とマンパワーが兵制の維持に必要な割にその結果出来上がる「戦力」はほぼゼロに等しい「お荷物」だというのが常識だからです。

インターネットを見ても、あまりにあっさり終熄したので記事もないように見えるが1980年代の初頭には内々で言い交わして、経団連、政治家、大手メディアが交互に連続して「徴兵制待望論」を小出しに打ち上げて社会の反応を見たことがあった。
ずっと前に調べたときの記憶では登場人物は日向方斉(住友金属会長)、稲山嘉寛(新日鉄会長)、中曽根康弘というようなひとびとであったと思う。
ついでに書いておくと、いまちょっと日本語ウエブを見ると、後藤田正晴を戦争待望の「タカ派」改憲論者のように書いてある記事が多くあるよーに見えるが、後藤田正晴というひとは内務官僚の出身であり、学生運動への強面の対峙、連合赤軍に対する断固たる制圧といういかにもな印象のひとだが実際には徹底的な非戦論者で憲法9条の信奉者でもあったはずである。
立場が矛盾しているではないか、というひともいるだろーが、テクノクラートというものはそういうもので渾身が論理で出来ていないと務まらない。
憲法9条守護=平和主義=反体制というような単純安易な情緒的バカ理屈で自分の信念を装備したりしないのは万国共通であると思われる。

1980年代初頭の世の中は、ちょうど「平成日本への道」というマヌケな名前で細々と書き綴っている日本の昭和最後半の歴史についての記事の次の回のテーマなので、やる気がするときに、いまにも消えそうな弱火のエネルギーで本を前に集めた本を読んだりしているところだが、当時の日本は、いまのような(外国人たちの眼には)チョー右翼というか冥土の(と思ったらまだ死んでなかったが)ジャン=マリー・ル・ペンもびっくり、というか右翼のごろつきみたいなひとびとが新しい政党を打ち上げて、マスメディアが大々的に報道するいまの日本とは世情が異なるので、徴兵、などと述べてみても、この忙しいのに何をヒマなことをこいておる、で反撥はおろか注目すらされないで終わっただけだった。
石原慎太郎のような、ヒマ人を煽って(彼らの主観によれば愛国的な)余計なことをするために働くときのみ元気になる扇動政治家にとっては生きにくい世の中だった。

この1980年のうけねらいの徴兵制度復活提案の偵察発言を一瞬でといいたくなる素早さで葬ったのは実は防衛庁の事務方で、「日本の防衛予算では、そんなことやれません」「いったいどこにそれだけの事務処理をする人員の頭数があるんですか」
「徴兵した兵隊なんてお荷物なだけなので要りません。そんなカネがあるなら兵器システムの近代化に使って欲しい」というので、散々で、絶対嫌だ、素人はだから困る、つづめて言えば「徴兵制大反対」で、世の中に徴兵制提案の石を投げてみて、どんな水紋が出来るか観察しようと思っていたら、KY(<−空気が読めない、というラテン語の略である)の極み、支配層の釣りだったのに防衛庁自身がマジレスをして折角の秘策を潰してしまった。

防衛庁が防衛省に昇格することには、省の外局が省に名目上格上げになる以外、本質に変わりがない。
特に防衛庁は「省型庁」というか、巡洋艦を名乗る戦艦というか、第9条があるのにどこまでもインチキというか、悍馬をペンキで塗って縞々に誤魔化したシマウマみたいというか、もともと国務大臣しか長になれず、外局なのに、そのまた外局の防衛施設庁という、まるで談合接待の場のためのみに設けたような訳がわからない孫外局がある庁だったので、省でもおんなじだべということになっているが、現実には予算の拡大が格段にやりやすくなる、という隠れたメリットがある。
内閣府を通じないで予算を要求できるので「オオモノ」政治家を大臣につれてくればいいだけです。

そーすると、前にはデメリットに過ぎなかった「徴兵に伴う必要予算の飛躍的拡大」が逆に「省の論理」に順うメリットに変わる。
役人は縄張りが広がり、省の規模がおおきくなるのをことのほか愛好するが、徴兵制は残業爆弾どころか「省勢拡大」の大チャンスなので、今度は文句を言わないだろう、と予測されている。

もうひとつの大きな変化は言うまでもなく、社会の抵抗感がなくなっていることで、シンガポール型なら17、8歳で検査がある、従来案なら20歳、というような、あるいは最近はトレンドである18歳頃に始まって29歳くらいまでに2年間兵隊さんをやってね、という当該対象の若い衆は無論、ぎゃあああ、だが、残りの世代は、「気持ちがしゃんとしていいだろう」
「いまの日本の衰退の原因になっている若者の覇気のなさへの即効薬である」というふうに、なぜだか頗る評判がよいものであるらしい。
ひどい人になると、「軍隊で鍛えてもらえば、家の息子も引き籠もりをやめて社会で活躍するようになるのではないかと期待している」という戸塚ヨットスクールと自衛隊を区別していないらしい発言まである(^^)

これが普通の国なら、いきなりSNSで集合した若い衆の一団が議事堂前にあらわれて石をぶん投げるは、お巡りの目と鼻の先で女も男も裸の尻を剥きだして、ぺんぺんしてみせてあざけるわ、ウクライナ風ならば、女びとたちが全裸で、「おれに触るな、このドスケベの権力の犬め!」と叫びながら地面をひきずられて連れ去られるわ、の大騒ぎになるところだが、なにしろ日本では、優等生で賢げであることがゆいいつの社会的価値なので、何も起こりません。
静かに怒っている。
静かに、知的に、冷静に怒りながら兵営に放り込まれる。
多分、兵営で志願の古参兵に無暗矢鱈ボロカスに殴られて腫れあがった全身の痛みに耐えて眠りにつくときには、「しかし、日本は階級差別がないから徴兵が必要だったわけで、ビンボ人が生活のために兵隊になるしかないイギリスのような国よりはずっと先進的だ」と自分を批評家であると妄想する習慣を頭のなかで蘇らせて体の痛みを「他人事化」することによって耐えるのでしょう。

どうも、今回は、遅かれはやかれ、徴兵制は実現されてしまいそーである。

シンガポール人の友達たちと話していると、シンガポール人は徴兵制がそれほど嫌ではないらしく、二年間の兵役期間(シンガポールでは軍隊以外のNational Serviceに就くことで代替できる)が終わったあとの一年に一回のブラッシュ・アップのIn-Camp Trainingも、「税金で旧知の仲間とピクニックに行くみたいなもんだから、楽しいんだよ」と、あまり意に介しているふうではない。
徴兵と「人生の休暇」が意識のなかで混濁しているよーで、暢気です。

韓国人たちになると、事情はだいぶん違って、旧日本帝国陸軍ゆずりのくらああああーい体質を引き継いでいる韓国軍は、イジメ、リンチ(<−日本語の意味)、同性強姦など碌な事がないので、外国永住権者は兵役を逃れられるのを利用して、かなり必死に兵役を逃れようとする。
そこも日本社会と同じというか、露骨に兵役を逃れたりすると非国民化して自分の国に戻れなくなってしまうので、「やむをえず大嫌いなイギリスに住まねばならない理由」や「たいしたことなくて食べ物も不味い国だがニュージーランドに住まねばならない理由」を苦労して捏造して、たとえばニュージーランドなら5万人の半島人が固まって住んでいるオークランドのノースショア地区などに集住して韓国風の生活を維持するもののよーである。

ロシアは更にひどくて、友達に訊いたら「刑務所より酷い」「このガキ、がたがた言わずにケツ貸せ、ケツ。おれたちはたまってんだ、バータレが」の世界であるそーだ。
そこまで酷いと、兵役を逃れるほうもあらゆる秘術をつくして徴兵を避けるもののよーで、結果としては「兵隊になるのはマヌケだけ」という、ご返事でした。
同じロシア語圏でもウクライナは、数段マシな軍紀であるよーだ。

日本は、徴兵制度が施行されるとどうなるだろう?
と、ぼくはときどき考えてみる。
首尾よく韓国人たちのように国外に脱出して生活できるだろうか?
愛国心がかけらでもあれば徴兵に応じるべきだという空気を、もともと国営通信社に近い体質の、記者クラブで中央制御されたマスメディアと、むかしから一貫して無責任で、普段は反体制のポーズをとってみたりするくせに、いざとなると居眠りを決め込むか、大慌てでゲージツ談義に逃げ込む日本のくされきった知識人たちを動員して政府は徴兵賛成の空気を醸成することに成功するだろうが、今度はほぼ徴兵にシンガポール型のNational Serviceを織り込むことが確実で、その「National Service」には福島第一発電所事故処理の作業が否応なく含まれているだろう。
このまま徴兵もなにもなしでゆくと、処理のための人員が決定的に不足するのは明らかだからです。

兵隊になるか、福島第一事故処理にまわされる可能性のあるNational Serviceの二択を与えられれば兵隊を選ぶとして、今度は災害処理部隊員として結局は福島県に出向く可能性はある。
そうやって考えてゆくと、いかに「気難しい、不機嫌な羊」として有名な日本の若い衆でも、今度こそは現実を現実と正面から受け取って国外に逃げようとするのではないか?

ツイッタでも述べたが、若い衆が国外へ逃れる動きをみせれば、政府側としては日本のクレジット会社が発行したクレジットカードは海外で使えない、というようなルールの実施は即座にやるだろう。
いまでも同じと思うが、たとえばVISAのような会社でも「日本のVISAは『住友VISA』で名前は同じだがまったく違うクレジットカード運営なんです」というようなことをへーぜんとやっていた。
あるいはATMのカードも日本のカードでも海外のCirrus 
http://en.wikipedia.org/wiki/Cirrus_(interbank_network) マークがあるATMならどこでも下ろせたが、その逆はダメである。
(公平のために誌すとフランスもダメなATM多いけど)
たとえば、このふたつのカードを規制するだけで、大半の日本人にとっては海外に住むことを実質禁止されることになる。
あとは旅券法の運用をちょっと変えてやれば完璧だと思われる。

日本は60年代まで外貨のもちだしを冗談じみた低額に設定していたが、こっちのほうは、いくらなんでも後戻りは無理だろうけど。

一方で、世界のいまもう始まっている潮流は「国家のゲートを閉じる」ことである。
グローバリズムの時代は終わって、明瞭にブロック化を志しはじめている。
冷菜凍死という立場からみると、非常にはっきりした傾向で、グローバリズム推進言い出しっぺの国々が揃っているので、ブロック化を公表して経済上の踏鞴を踏むのがこわいので言い出せないだけであると思われる。
一例を挙げると、「隠された人種差別の典型的な例」として考えられるのがふつーであった労働ビザのための英語能力試験は、いまでは英語圏では当たり前のことになった。
やってみると、たいていの人間が「永住者になる資格なし」になるので有名なオーストラリアの「オーストラリア人としての常識テスト」も、調べるのがめんどくさいのでまだやっているかどうか判らないが、不評を通り越して爆笑されているにも関わらず、まだやっているのではなかろーか。

個人の側から言うと、徴兵制は、それまでの生活がそこで不連続になる点で厳しい。25歳で兵役に就く科学系研究者を考えれば判るが、致命的な打撃になるほうが通常であると思う。

そうまで典型的な例をもちださなくても、毎晩、夜の8時になればギターの練習をしていたひとは、兵営の夜の8時には、うすぺたい胸をはって、顎を不自然なほどひいて、バカみたいにダサイ軍隊用語で明然とクソ下士官の言う事を復唱しているだろう。
みんなと動作のタイミングが、一秒の半分遅いので、「おまえといると調子くるうんだよなあー」と級友に笑われていたKくんは、Kくん独自のタイミングが原因で何度も懲罰マラソンを走らされるフラストレーションがたまった小隊仲間に、明け方、猿ぐつわをかまされ、濡れタオルで袋だたきにされるだろう。

国の支配層が「覇気のない若者にやる気を与える」というのは、要するにそういうことで、人間から人間らしい部分をガシガシガシと削りとって、個人がもってうまれた固有の人間性という「バリ」を取って、スムースに国家なり社会なり企業なりの歯車として回転する人物をつくる、ということにしかすぎない。

こんなことは傍観者の非現実の夢にしか過ぎないが、徴兵制の提案が引き金になって、日本の若い衆がいままでベンチに腰掛けてじっと静かに公園の地面を眺めていたり、アニメにわずかに自分をうけとめてくれる世界の明るい暖かさを見いだして、ぞっとするほど冷たい現実社会の遮断につとめていたりしていたのが、誰いうともなく立ち上がって、突然、「そんなにぼくを殺したければ、おまえが死ねばいい」と叫びだす「栄光の日」が来ないものか。
賢げに「道理」を説く論者たちに糞便入りのビニール袋を投げつけて、「おれたちは、愚かでもいいから人間でいたいんだ」と述べる日が来ないものか。

わかってる。
夢にしかすぎない。

でも、社会のため、日本が立ち直るため、という胸くその悪くなる(言葉が悪くて、ごみん)言葉の洪水をインターネットで眺めながら、遠いところにいるきみの友人たちは、無抵抗に殴られ続ける無経験のボクサーの腕が、いまや、さがりかけているのをみてとって、唇をかみしめている。
自分に近い世代の人間たちが曝されている社会全体による徹底的な侮辱に拳を握りしめて、呼吸の奥の奥までしみとおってゆくほどの怒りを、共に怒っているのだと思います。

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One Response to 銃架にかかる空

  1. sleepyhead says:

    お元気そうで、何よりです。

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