misery

remuera29

イランではSigheと呼ぶが、他のムスリム世界ではMutahと呼ぶのだと思う。
「期間を限定した結婚」のことで、6ヶ月は長期とみなされるだろうし、短ければ1時間ということもありうる。
信仰のない人間には複数の妻をもてることを利用した体裁の良い売春としか思えないが、ムスリムの世界では律法で定まった厳とした制度であって、Ulamaたちが厳かに成立を述べる。
期間は限定されていても婚姻は婚姻なので、sigheの期間中は女びとは近所に出かけるのであっても夫の許可を求めなければならない。
ムスリム人は、「夫婦間の話し合い」と呼ぶが、夫のほうは妻の許可を求めたりはしない。
日本でも「進歩的なひとびと」はムスリムを好む傾向にあるが、話し合いといっても文化が異なれば内容は異なるのだと思われる。
実際、男たちは、さんざんsigheで支払う金額を値切っておいて、「念のために述べておくが、これは私の性欲のためなどでは到底なくて、アラーの御心に適おうとするためにするのである。
あなたが不特定の男と寝床をともにするような不道徳からあなたを守ろうという善行であることを忘れては困る」という。
するとUlamaがおごそかに頷きながら、「この人は良い人間で立派な行いをしているのだと、私はあなたに言わなければならない。アラーも祝福するであろう」と森厳な面持ちで言う。
夫の年齢は65歳であって、「2ヶ月間」の約束で「妻」になる女びとは17歳である。

地震が来る前のクライストチャーチで、午前1時、ひとりでぼんやりカセドラルスクエアの広場の階段に腰掛けてフラスクからウイスキーを飲んでいたことがある。
50人くらいはいるのではなかろうかと思われる中国系の若い衆から少し離れて、遠巻きにするようにして、何組も、2,3人づつ佇んでいる欧州系の、いかにも顔つきが悪い若い衆がいる。
ふらふらと踊るような足取りで3人組が近寄ってくると、
「ヘンなやつが座ってる」と奇妙な節をつけて言い出す。
「ヘンなやつが座ってる」
「いけすかないフラスクから、すました顔で気取ってウイスキーを飲んでやがる」
「話さないところをみると唖かまぬけかどっちだろう」
ひとりが腕に手を掛けたので、相手の薄汚い刺青のある腕をつかみ返す。
黙ったまま相手をすると、3人とも靴もひろわずに逃げてゆく。
目の前にある警察官たちの詰め所の前には、中年の警官と若い警官が立っていて、にやにやしながら、こっちをみている。

どこかから悲鳴がきこえてくる。
「このクソアマ!」という声がきこえる。
3、4人の若い男たちがげらげら笑う声がする。
警官達は、相変わらず、立っている。
中年の警察官のほうが大欠伸をすると、若い警官をうながして建物のなかへはいっていった。

クライストチャーチの、いつもの、週末の夜の光景である。

ビクトリア通りに出る代わりにマンチェスター通りのほうへ歩いて行くと、
売春婦達がたむろしていたものだった。
目の前を通り過ぎると、なんともいえない目で、じっと顔を見上げられているのを感じる。
手をのばして体に触れる女びとはいるが、声をかけてきはしない。

男が運転するプジョーから降りてきて、煙草をくわえたまま、服のしわをのばして、下着をなおす女のひとがいるが、それとそっくりの情景を、アビニョンから20キロくらい離れたオープンロードの交差点(大陸欧州では、そういう場所に売春婦たちがよく立っている)で見たことがあったが、クルマも同じプジョーの207で、男もでっぷり肥った50がらみの大男、降りてきた女びとは、そっくりの、小柄で華奢な10代にしかみえない女びとなので、同じ売春婦と客が、フランスとニュージーランドに同時に存在するような不思議な気持ちになる。
呆気にとられて、じっとみつめていると、女びとは気が付いて、小首を傾げて、なによ?という様子をする。
わしは首をふって、女びとに向かって手を挙げると、もうすぐ夜が明けそうなハグレーパークのほうへ歩いていった。

いつかラジオのZM
http://www.zmonline.com/player/listenlive/
を聴いていたらEd Sheeranの「The A Team」

が流れてきて、不意をつかれてしまって困ったことがあった。
心の準備がないときに流れてきては困る曲というものが世の中にはあって、「The A Team」も、そのひとつだからです。
バランスシートを眺めていた目に涙が浮かんで、そのうちにボロボロキーボードの上に落ちてきて、難儀、どころではなかった。

世の中には「売春は悪だからなくさなければいけない」という人がいて、「身を持ち崩すのは必ず理由があるのだから本人に責任がある」というひとがいる。
韓国人の慰安婦といったってカネをもらってたんだろう、と嘲るように意見を述べるうらやましくなるほど卑しい心根をもった人間もいれば、売春を根絶するために一生を投げ出す修道女もいる。
一方で現実の問題として自分の身体を売らなければ生活できない人間はいるのだから、せめて強姦の泣き寝入りやギャングの支配を避けるために「非犯罪化」をすすめるべきだと主張して修道女と激論を戦わせて売春の「非犯罪化」を達成したフェミニストたちがいる。
あるいは売春婦の境遇に唇をかみしめる人間を偽善者と呼んで自らの「偽善のない知性」を誇る愚か者もいるだろう。

きみはなんだか部屋の天井の明かりをつけるのが鬱陶しい気持ちがする夜に、テーブルの上にいくつかろうそくを灯して、そのろうそくの揺れる炎のなかをみつめながら、人間の脳のはたらきにもスイッチがついていればいいのに、と考える。
耳のうしろに、ONとOFFのスイッチがちゃんとあって、もうこれ以上なにも考えたくない夜には「パチッ」と音をさせて切って、安らかに眠れるようになっていればいいと思う。

考えてばかりいるのが嫌になって、きみはコンピュータをつける。
「ほんものを探し求めて歩くような田舎くささには耐えられない。この世界のものが全部贋物ならいいのに」と書いてから、きみは、ほんものも贋物もほんとうはどうでもよくなってしまっている自分に気が付いて唖然としてしまう。
遠くから叫び声がきこえてきて、絶望にみちた声の調子は聞き取れるのに、なにを言っているかがうまく聞き取れない。
悲惨が夜を取り巻いて、あちこちでひそひそと囁きあっている気配はわかっているのに、悲惨の姿をみようとして目をこらすと、それは闇に溶けて、また視界の端で微かな形象をつくっている。

政治であり、社会であるというが、ほんとうはそれが「人間そのもの」であることを知っている。
なぜ、そうなのか、尋ねる気もおきないほど、きみはそれを熟知しているのだと思う。

きみはろうそくを吹き消して、考えていたよりもずっと深い暗闇に安堵しながら、光なんてなくたっていいな、と呟いてみるだろうけれど。

(画像はモニとわしが花棚の下のテーブルで夕飯を食べていたら顔をのぞかせたポサム。まだ赤ちゃんだのい)

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One Response to misery

  1. eatyveggy says:

    映像を見て思い出したことと連動して涙が止まらなくなりました。
    2005年だったと思うのですが、イギリスの駅では大抵売っているバケットのサンドウィッチを買った人が、そのまま近くにいたホームレスの人に渡して去っていくのを見て雷に打たれたようなショックを受けました。その後、渡英するたびに気をつけて見ていると、自分用に買ったと思われる食べ物を、お店の外にいるホームレスへそのまま渡して去っていく人を何度も見て考え込みました。日本では近くにホームレスの人を見かけても店内で食べ物を購入し渡す人を見たことがなかったからです。

    自分でもしてみようかどうしようかと思っていた頃、日本でも外国人がホームレスのためにコンビにへ入りおにぎりを買って渡す姿を見て衝撃を受けました。私も何かしなくては、私にもできる、と一歩踏み出して後日、ホームレスの人へおにぎりと温かいお茶の入った袋を差し出したところ、コンビニから店員が出てきて「迷惑だから他所でしてもらえませんか?居座られると困るんで」と言われました。おにぎりを渡したホームレスの人は黙って一礼をしてどこかへ消えましたが、私に向けられた通行人からの視線と浴びせられた言葉にすっかりショックを受けてしまいました。

    「好きでホームレスやってんだから、放っとけよ」「働かず食べるなんて、いいご身分だ」、自分が聞いている日本語が本当に人間から発せられているのか?、怒るより涙の方が先に出てしまい何も言えませんでした。長くなりましたが、慰安婦問題でもきっとこの人たちは同じように言っているのだと思います。弱い人や窮地に追い込まれた人を更に鞭打つ人達が大きな態度で歩き回る日本では、人に親切にするにも周りを気にしないといけないのかと唖然となり、それ以降なぜかその人たちに罵倒されることが怖くなり、見て見ぬふりをしてきましたが、あのロンドンで見た光景を思い出し感動した頃の自分に戻らなくてはもう一歩も前に進めないような気がしました。

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