愛国心

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現代の最も重要なドキュメンタリ映画作家のひとりであるNahid Persson Sarvestaniの亡命王妃Farah Pahlaviを描いた素晴らしい映画「The Queen and I」のなかで王室支持のイラン人がもってきたイランの土をFarah王妃が、手のひらにとって、「これはNiavaranの土だわね」と呟きながら、じっと見入る場面がある。

映画自体、王と王妃を追い出す政治運動に「17歳の共産主義者」として参加したNahid Persson Sarvestaniと追い出された王妃Farah Pahlaviの奇妙な、しかし哀切な感じがする友情を描いた傑作だが、映画をみているうちにふつうの人間ならば普段は考えない「愛国心」というようなことについて考えてしまう映画でもある。

イギリス人は愛国心というようなことはまともな人間が口に出すのは恥ずかしいことだと考える。
深い意味はなくて、食べ物を食べるときに音を立てるのは下品であるとか、まして舌鼓を打つなんてとんでもない、というようなことのほうに近い。
ユニオンジャックを打ち振りながら外国人排斥なり、同じくらいケーハクななんらかの政治的メッセージを叫びながら練り歩いても、沿道のひとの反応は「そんなにユニオンジャックが好きならパンツにして穿け」「ピーピーの染みをつくるなよ」と言われてげらげら笑われて終わりだろう。
もしかすると中には「愛国ファン」みたいなヘンタイみたいなのがいるのかも知れないが、愛国心のほうでは明かに迷惑をするだろうと思われる。

共産主義の理想を信じて王政打倒の運動に参加したPersson Sarvestaniは、そのあとにくるはずだった(アヤトラ・ホメイニが約束した)民主主義の社会はあらわれず、その代わりにムスリム独裁の恐怖政治があらわれたことに失望する。
当時17歳だった弟が警察に連行されて処刑されると、すべてを捨ててドゥバイに密航する。
いまはたしかスウェーデンに住んでいるはずである。

一方の王妃ファラもサダト大統領のエジプトに逃れ、やがてサダトが暗殺されるとパリに逃れてゆく。

イラン革命が達成され王室が国外に逃れた次の週に、高校生の女の子達が「今度の政府は女はみなスカーフをかぶるようにと言い出すに決まっている、って噂があるのよ」と言って笑い転げている。
少なくとも表面はフランス的な社会だった革命前のイランではスカーフの着用などはイラン人に共通な偏見である「野蛮で粗野なアラビア人」たちの風習にすぎなかったからです。
ところが、その週の週末には政府は実際にスカーフで髪を隠すことを法律化する。
シャリーア
http://en.wikipedia.org/wiki/Sharia
が国法になってしまった。

「石打ちの刑も復活した」と欧州で会ったイランの女びとが言うので、相変わらず世界のことに関心をもたないでノーテンキな暮らしを続けていたわしは驚いてしまったことがある。「あれは石が大きすぎても小さすぎてもいけないの。小さくては苦痛が与えられないし、大きすぎると、苦しまないですぐ死んでしまうでしょう? 結婚もしないで性交渉をもつような女は、苦しみ抜いて死ななければいけないのよ」
「イスラム社会は女にとっては地獄そのものでしかない」
Persson Sarvestaniの映画にも処刑場で拾われた、血がべっとりとついた石が出てくる。

ウクライナ人たちは、「世界でいちばん素晴らしい国はウクライナさ」という。
ひとりの例外もないよーだ。
食べ物がうまい。
お菓子も世界一。
人間が素晴らしい。
底抜けに親切なんだぜ、みんな。
冬にはみなで集まって酒を飲む。
しまいには、酔っ払って「女の子たちも、すげー綺麗だからな! ガメ、キエフに来たらとびきりの美人に紹介するよ!」と言って、モニさんにものすごく怖い顔でにらまれたりしている(^^)

いつかウクライナに帰るの?と訊くと、どのウクライナ人も爆笑して、「絶対、帰らない」という。ろくな仕事がないしね。
社会のインフラもぼろぼろで、生活の不便がおおすぎる。

ニュージーランド人の愛国心は、どういう形をしているかというと、通常は「当たり前のこと」なので誰も言わない。
「当たり前」の理由は簡単で、ニュージーランドはアメリカなどよりも遙かに若い移民の国なので、どのひとも「来たいから来た」のであって、ニュージーランドが好きでなければいる必要がないし、実際、外国に移り住んでしまう「ニュージーランド人」もたくさんいる。
ニュージーランドのパスポートを持って一生をスタートした人のおおよそ2割弱は海外に住んでいる。
50万人近くのニュージーランド人が住んでいるオーストラリア、とりわけニュージーランド人が多いブリズベンにいると、ニュージーランド訛りばかりが聞こえてきて、なんだかにやにやしてしまう。

歴史を通じて、国家は「国」という支配機構とひとびとの魂に染みとおるようにして根をおろす「自分がなじんだ文化へのぬぐいされない愛情」とを故意に混同することによって、自国の「国民」をあるいは死に駆り立て、あるいは自分達支配層のおかした政策上の過ちの「つけ」を個々の国民に支払わせてきた。
「愛国心」が声高に語られるようになる社会は必ず危機に瀕してストレスが高まった社会だが、そこで国旗をふってたまりにたまったストレスを自国内の異民族や異文化集団にぶつけるか、それを自分達の社会と文明の誇りにかけて自制できるかは、その国が破滅に向かうか再生に向かうかの重要な分かれ目であると思う。

声高に愛国心を語って旗をふって沿道を練り歩くような野蛮と未開から「愛国」というような言葉に酔ってしまいやすいナイーブなひとびとを思いとどまらせ、ひきとどめる力をもっているのは、自分の魂が慈しまれて育ち、そのなかで呼吸し、かけがえがないと感じる文明の力、「もうひとつの愛国心」だけであるのはなんという皮肉なことだろう。

「国」というものがもつ支配機構としての実体と時間のなかで発酵して上質な酒になったような魂の馥郁との関係が言葉のもつ論理ベクトルと情緒の二面性にそっくりなのは不思議な暗合にみえて実際には必然的で理由があることだと思う。

説明すると、またヘンなひとがたくさん寄ってきてめんどくさいので説明しないが、わしは自民党の日本が再生するとは思っていない。
無能なワイマール共和国にかわったナチによって「再生」したドイツが結局巨大な破滅に終わったのは、いままであんまり検討されてきたとはいえない純粋に経済のみに限っても説明出来る理由があるだろう。

日本はよりおおきな危機に向かって歩いている。
その過程では、もっとおおくの日の丸がふられ、もっとおおきな音量で「愛国心」が叫ばれてゆくのだと思う。

そのときには、友よ、「日本」のなかで自分をなぐさめ、微笑ませてくれたものを思い出してみるとよいと思う。
桜よりもこぶしの花を、富士山よりも自分の町からみえるやさしい姿の山を思い出すほうが良い。
ときどきは海に行って、ほんとうは日本の近海の海藻の匂いだという、あの「日本の匂い」がする海の匂いで胸をいっぱいにして、魂までいっぱいにして、低い空の下で、深呼吸をしてみるのがよいと思う。

嵐がきたからといって、人間であることをやめるわけにはいかないのだから。

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2 Responses to 愛国心

  1. 田鶴 says:

    ブログだけはどうか続けてくださいますよう。そして移民講座も。難民の心構えがまだできていません。

  2. DoorsSaidHello says:

    ほんとに「誰も気づいていない」のだろうか。うすうす知っているんじゃないのかな?

    311が起きる前、私はうすうす知っていた、日本がこのままずっと続く訳がないことを。
    でも道を下りる方法を知らなかった。いつ下りたらいいのかも分からなかった。
    それで足下がふわふわしてるのを感じながら、もう少し先まで行ったらこの子を下ろそう、
    この子が自分で歩けるようになったら下ろそう、そう思いながらみんなが行く道を歩いてた。

    311が起きて、この道は行き止まりだと思った。それなのに誰も下りないんだ。このまま
    行ったらあぶないよって言っても、みんな悲しそうに微笑んでそのまま歩いて行ってしまう。
    私は子どもを道から下ろして、自分も下りた。方法も準備もあったもんじゃない。
    行くあてもなく砂漠に下りるようなもので、そのまま道が見えなくなるまで遠ざかって
    今も歩き続けているけど、自分でも自分はバッカじゃないの、って疑っている。
    (そして実際バカなんだと思う。「頭いい」って損得勘定が早くて上手って意味だから)。

    だけど最近思うんだ、私が道を下りちゃったのは311のせいじゃない、ずっと前から
    下りなきゃだめだと思ってたからなんじゃないかなって。だから後悔する事があるとしたら
    道を下りた事じゃなくて、311の前に下りてなかったことなんじゃないかなって、思うんだよ。

    もしかすると行きたいところが見つかるより先に私の命の方が終わるかもしれないんだけど、
    自分のバカに付き合って一生を無駄に終わる方が、自分らしくてすがすがしいような気が、
    最近はしてる。

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