BENTO

sushi4

マンハッタンのチョーボロー・アパートメントにいるときにはチェルシーの南の端っこにあるアパートを出て、ユニオンスクエアのぐじゃぐじゃな雑踏を抜けてイーストビレッジに向かう、という散歩コースが好きだった。
途中に「一風堂」というラーメン屋があっていつもながああああーい行列がある。
「今日はあんまり長い行列ないね」という日でも、よく見ると入り口のバーのところで無数の人間がとぐろを巻いている。

アメリカでは、ふとりまくって階段を上がるのにもぜーぜーゆって、心臓がぐわあああな状態になって足がへろへろ、というような状態になると、「死にたくなければ日本人が食べるものを食え」と医者に言われる。
だから寿司の流行は予見できるものだった。
わしガキの頃は、「どのくらいレンジにかければいいのか書いてないのは不親切だ」と文句をゆいながら電子レンジににぎり鮨をいれて、なんだかよくわけのわからないものになった鮨を食べて、「あんまりおいしい食べ物ではないようだ」と感想を述べる人や、怪力がすごいと思うが、ジャスミンライス(タイ料理屋さんとかで出てくるパラパラの奴)を超パワーで無理矢理固めて握ってある鮨とか、いろいろな初期プロトタイプの「西洋型鮨」があったが、最近は、日本の鮨から派生した、でも、わしなどはおいしいと思う「西洋鮨」として定着した。

ラーメンの流行は予想外だった。
義理叔父は酔っ払うとラーメンが食べたくなるヘンなやつなので、たとえば一緒に日比谷でどばどばと酒を飲んで酔っ払うと「ラーメンが食べたい」と言い始める。
わしは「ガリガリくん」のほうがいいので、アイスブロックにしようと主張するが、人間の世の中では人生の先が短いやつに親切にしてやるのがルールになっているので、タクシーに乗って「香妃園のとりそば」とかを食べにいったものだった。
噂によると本来はおっちゃんはもっと下品なラーメンが好きで、うんと酔っ払うと神保町の「揚子江」などにいそいそとでかけるもののようだったが、そこまではつきあえん。

わしはデリカシーに対するデリカシー(<−ダジャレの定義からはみだした天才的なダジャレ)を欠いた人間なので「日本料理について140文字以内で述べよ」とゆわれると、「全部、同じショーユ味じゃんね」と、ひどいことを言う。いつも日本の人に悲しそうな乃至は嫌な顔をされます。
正直な意見を聞くのが嫌なら質問すんなよ、と思うが、日本の社会ではこういうときはウソをつきまくるのが社会の礼儀だということになっている。
日本の人にあったときに、「外国の方は放射能が心配だと思われるでしょうね」と言われても、油断して、「死んじゃいますから」とか答えると、ニンピニンの人種差別主義者の反日ガイジンだということになってしまうので、「いやああー、ダイジョブなんじゃないですか? 第一、ほら、ホーシャノーたって、見た限りではどこにもないし、誰も死んでないんだから、大騒ぎしちゃダメですよねー」と答えるのが社会の礼儀にかなっている。
日本語というのはウソをつくという非人間的な行為によらなければ社会性と人間性が保てない不思議な言語なのです。

ラーメンも醤油っぽい味で、おまけにバラバラに轢断されて骨の随までぐつぐつ煮られた豚の臭いだと思うが鼻がくさって落ちそうな嫌な臭いがする。
典雅な食べ物がたくさんある国なのに、なんでこんなもんが「国民食」やねん、と思う。

もっと細かいところまでイチャモンをつけると、中国やベトナム、カンボジアというような中華圏(というとベトナム人やカンボジア人はすごく怒るが)では、ビンボ食は全部丼のなかにぶちこんで焼き豚も野菜も麺もいっしょくたに出すが、もっと気合いをいれておいしい麺を食べるときは、「具」にあたる部分と透明なスープに浸かった麺を別々にだす。

安いラーメンなら特に文句はないが、白胡椒をかけると風味がわるくなるからかけるな、レンゲで飲むとスープの旨さが判らないから丼から直截のめ、果てはおそれおおくも金華ハムでとったダシだから残すような客は死ね、みたいな感じのもったいがいっぱいもったいもったいしている店で「一緒くた丼」を出されると、げんなりする。
店のいうとおり「味わって」食べていれば、麺とスープにのっかって危うい均衡にある具は、どんどん味を失っていくに決まっているからです。
鶏の竜田揚げみたいな揚げ物が別皿に切り分けて並んでいて、その上にレモングラスのソースがかけてあるベトナム料理のほうが、ゆっくり、落ち着いて食べられる心地がする。

そーゆーわけで、どーしてマンハッタンのまんなかで、赤毛のにーちゃんが、あごひごの先をラーメンスープで濡らして光らせ、前歯に鮮やかな緑色のほうれん草のかけらをくっつけて、大声で、「ここのスープの味噌はゼンコージ味噌だな。マルコメとは風格が違う」とゆーよーな蘊蓄を傾けることになったのか、いまの英語圏におけるラーメンブームは、わしの理解の能力を遙かに越えておる。

しかしラーメンと時を同じくして流行している「弁当」は別です。

かーちゃんとかーちゃんシスターは歌舞伎が好きでわしもときどきとばっちりで歌舞伎座に連行されることがあった。
「そんなことはありえない」という日本の人に会ったことがあるが、ガキわしは不明な理由で能楽は大好きで、観世も喜多も大喜びででかけたが、歌舞伎は退屈で嫌だった。
Kissのおっちゃんたちが縮小サイズになったみたいな俳優たちがドタバタ走り回って、なんだかよくわからねー上に、劇そのものがチョー長いので閉口した(歌舞伎ファンのひと、ごみん)

ただゆいいつの救いは幕間の「幕の内弁当」であって、時間がなくて忙しい上に食べられないものもたいてい混ざっていたが、いま思い返してみると、あの年季と気合いがはいったプレゼンテーションが好きだったのだと思われる。

「いろいろなものをちょっとずつたくさん出す」というのは東アジア文化で、日本の焼き肉屋ではなぜかそういうことをやっていないが、普通は、コリアンBBQの店にいくと、小鉢にはいった食べ物がキムチ、カクテキ、切ったチジミ、山菜のおひたし、蒟蒻の切ったの、トリッパを醤油で煮たようなもの、ぞろぞろぞろといっぱい出てくる。
お代わりは無論タダです。
小鉢の数は通常少ないが、台湾料理屋でも、注文した「排骨飯」の脇に炒り卵や青梗菜の炒め、麻婆豆腐というような小鉢がくっついてくる。

子供のときにかーちゃんやとーちゃんと一緒に何度か出かけた台北のたとえば「青葉」では、そういう小鉢などなかったような気がするのでツイッタで知り合った(台北のマルタ人)勲さんにでも訊いてみないと判らないが、少なくとも英語国のエスニック料理街では、小鉢文化が息づいている。

(閑話休題)

食べ物が世界でいちばんおいしいのはサンチャゴ・デ・コンポステラがあるガリシアかコスタブラバに無茶苦茶うまいレストランが点在するカタロニアであると思うが、日本の料理はプレゼンテーションが圧倒的にすぐれている。
目の前のカウンターやテーブルに、ふわり、と置かれただけで目が輝いてしまうほど「見た目」にぱっとした冴えがあって、日本人のこういう美的センスはどこから来たのだろう?と真剣に考える。

記事の冒頭にあげた「ちらし寿司」もそうだが、飛竜頭(ひろうす)のような、おいしくはあってもプレゼンテーションのつくりようがないものでも、日本の人の手にかかると、「見た目のよい」食べ物になってしまう。

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プレゼンテーションの伝統に支えられて、日本の人は「弁当」という見ただけで楽しくなるような食べ物をうみだした。

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上の写真のは多分「吉兆」という料亭がつくってくれた弁当だと思うが、ミーティングの席に出てきた二段のこの弁当を開けて、なんだか食べるのがもったいないような、せっかくつくったものを壊すのが悪いことのような不思議な気がした。

ブログに書いたことはないが、わしは日本人の「永遠を求めない心」が好きである。
一時間も経たないうちに客の箸によって破壊されるに決まっている食べ物に趣向を凝らして美しい形を与えようと気持ちを集中させて箸を握る職人さんたちの背後にある須臾のなかに永遠を見ようとする偉大な美意識というものを感じないでいるのは難しいことであると思う。

ツイッタもみている人は気が付いているかもしれないが、この記事は「バジル」(@basilsauce)さんというひとがツイッターの上にあげた娘さんと息子さんのためにつくった下の「おべんとう」の写真
basil_san
(©basilsauce)

を見た感想として書いている。

なんだかちっこい箱に、おかーさんが一生懸命考えたちっこい食べ物がいっぱいちりばめられていて、母親というものの、とりとめがないような、それでいて冬の寒い日に太陽の光がふり注いでくるような、どんな種類の子供でも、どう言葉にすればいいかわかるわけがない愛情がそのまま食べ物の形を借りて表現されていて、なんだか見ているだけで暖かな気持ちになる。
「お弁当」にいっぱいに詰まった日本人のもの思いを考えて、胸がつまるような気がするのです。

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