水上生活者の手記

washi-ashi

この頃は海の上にいることが多い。
直截の理由はいままでの結婚前から持っているチョーぼろ船に代わるカッチョイイ船、という新しいオモチャを手に入れたからだが、家は家の用事を手伝ってくれるひとたちがうろうろしているので、以前のように裸でちんちんをブンブンさせて家中走り回りながらモニさんと鬼ごっこをしたり「悪いお医者さんと絶体絶命の哀れな患者」ごっこ
https://gamayauber1001.wordpress.com/2009/05/21/
が出来ない、というような理由もある。

わしは何でも自分でやるのが好きであって、暇さえあれば、と言ってプーなので起きてから寝るまで暇だが、庭の日の当たる隅っこに着々と形成されつつあるベジ・ガーデンに水を撒いたり、ポサムっぽい動物にかじられたビートルートを見て逆上したり、お洗濯をしたり、鯛のまるごと酒蒸しをつくって家中の人間に奨めてまわったり、壁を塗り替えたり、部屋の壁紙を剥がして新しいのに変えてほくそえんだり、親の家にいるときでも「将来、絶対に出世しない人って手先が器用で若いときから違うわよねー」と妹に感心されたりしていた。
であるので、厨房で料理のひとが料理しているといきなり玉葱を切ってお手伝いをしたりするが、どうも素人がうろうろするので鬱陶しがられているよーな気がする。

そこへ行くと船は良い。
船でもチョーでかい船になると、たくさんクルーがいるが、50フィートくらいまでならヨットでもパワーボートでもモニとわしとふたりで足りる。
外洋に出て遠くへ行くときには制御の動力系が壊れると50フィートもあるヨットでは、たとえば帆がでかすぎてたいへんだが、40フィートまでならマニュアルでも操船できる。
なんだか「小さい人」が生まれてくる前の、モニとのふたりだけの生活が戻ってきて、いつもほっぺたをくっつけてクスクスして暮らせて、いえーい、な感じがするのでたいへん良いのだとゆわれている。

船のなかというのは、前にパワーボートをツイッタで紹介したことがあるが、ヨットだと、こーゆー感じ
http://www.jeanneau.com/mur/interieur/Sun_Odyssey_469.html
で、このジュノーというヨットは船体の能力としては世界中どこへでも行けるが、乗ってみるとわかるというか、ストアレジのスペースが少なくて、数ヶ月、というような無寄港航海に耐えられるような食料やなんかを積み込むのがたいへんで、インテリアも荒天向きに出来ていないが、だいたいヨットのインテリアはどの会社も似たりよったりで、こーゆー感じのものです。
見れば判るとおり、「動く家」という感じのもので、傾いたり、ぐらぐら揺れたりして変な家だが、普通に住めます。

ニュージーランドは国が最も近い隣国であるオーストラリアでも2000キロ以上あって、日本を出発して同じ距離を行くと鹿児島から戦艦武蔵が沈没したフィリピンのシブヤン海まで行けてしまう。
そのせいでむかしから自分で飛行機を飛ばしたりボートで遠くへ出かけたりする人間の巣窟になっている。
そういう人々のなかには家を売り飛ばしてしまってボートに住んでいる人もたくさんいて、オークランドのマリーナで言うと、ベイズウォーター
http://www.bayswater.co.nz/
のようなマリーナは、そういうボート乗りがいっぱいいるので有名である。

ヨッティング自体が好きなひとは、2万キロというような遠くにでかけるのでも20フィートから25フィートというようなちっこいヨットが好きで、最年少世界周航にでて、映画になったりして有名なRobin Grham
http://en.wikipedia.org/wiki/Robin_Lee_Graham
の「The Dove」( 図は姉妹艇)
http://www.boatus.com/cruising/baggywrinkle/specs.asp
は、24フィート(7.3m)しかない。

日本では石原慎太郎という人が、後進国ぽいというか、「ヨットは俺たち特権階級の遊び。ビンボ人がやれるもんちゃうぞ。やれるもんなら、やってみい」という、嫌味を言うと、叩き上げの成功者である父親をもった息子らしい、ぐりぐりおらおらビンボニンおらぐりぐり、なイメージをヨットの上につくってしまったので、結果としてヨットで遊ぶ人は大学の体育会系という集団強姦事件でよく話題になる人達の「特権」になってしまったような趣だが、ニュージーランドではビンボニンでもふつーに遊ぶ、ただの遊びです。
あんまりオカネがかかる遊びでもない。

ちっこいのなら世界を一周できるようなヨットでも150万円も出せば買えるので、20歳くらいでトンネル工事で働いたオカネを貯めてヨットで北米へ出かけたりする。
初めはガルフ、次には沿岸をまわって練習して、それから、だいたいトンガを目指す。
トンガ行きに慣れたところで、ガラパゴスに寄港してアメリカ大陸へ行く。
このルートならば他にたくさんヨットが通るので遭難した場合危険が少ないということもある。

日本には、何事によらず腹を立てる人が多いので、上に出てくるジュノーを調べたら高いじゃないか、という人がいそうだが、ジュノーのようなヨットは「家」なのでああいう価格になる。
The Doveのようなヨットはキャンピングに出てテントを張っているようなもので、テントと別荘のどちらが楽しいかと言えばどちらとも言えないと思う。

実際、わしは高校生や大学生の頃は、チョーボロイヨットで、ひとりでよく近くの無人島まで出かけた。ときどき船尾から水が洩れてきて床が水浸しになる古うううういヨットだったが1回マヌケにも強風に煽られたブームが頭にぶつかって脳震盪を起こして死にかけたことがあったが、事故というのはそのくらいで、らくちんで楽しかった。
トイレなどあるわけはないので緑色のバケツを愛好した。
赤いバケツが食事用で緑がトイレだったが一度酔っ払って間違えて、ぐわああああ、と思いながらカレーを食べたことがある。

飛行機も楽しいがボートは自由で良い。
「空を飛ぶ鳥のように」という言葉があるが鳥は飛行計画など出さなくてよいから自由なので現実の飛行機は、だいいち、ちょっと雲の上に下りてトイレ、ということすら出来なくて、ふんわりのんびりというわけにはいかない。
ボートなら航海の途中でくたびれたので錨を下ろして海にとびこんで泳いだり、サメさんと追いかけっこをして遊ぶとか、いろいろ、楽しいことを好きにやれる。
(閑話休題)

島影もなく、誰もいない沖合にでるとモニとふたりで「素っ裸」になって甲板でころころして遊ぶ。
釣りをしたりすると忙しいので、そういうときは釣りもなにもしません。
本も読まないしコンピュータも閉じたままである。
音楽も聴かない。

ふたりで手をつないで真っ青な空を見上げていると、地球が「宇宙の中の惑星」なのだと判ってくる。
有機系が偶然できてはいるが本質的には火星や木星のような過酷な宇宙のなかの死の世界と同じ宇宙の部分なのだと理屈でなくて、身にしみるようにして納得される。

雄大な姿を無限に形を変えてうねらせながら大空を通過してゆく雲も、膨大なエネルギーを地上に送り込む太陽の強烈な光も、すべては、「宇宙」が自分を表現しているのだという当然のことが鮮明な姿で胸に迫ってくる。
うまく言葉にならないが海のまんなかで、そうやっていて、地球も人間も、人間のもの思いさえ結局は宇宙の一部で、自分の肉体も魂も何万光年も離れた銀河の向こうへと直截つながっているのだと感じないひとはいないと思う。

どこまでも続く莫大な水の表面と広大な空の下に、ちいさなちいさな「存在」と呼んでいいのかどうかもはっきりしないモニとわしが手をつなぎあってふたりで一緒にいる。

どうしてモニとわしはここにいるのかなあー、と思う。
もちろん、そんなことに理由があるわけはないのだけれど、自動的にそう思う。
突然「存在していることの強烈な悦び」が身体を貫きとおすように湧き上がり、こみあげてきて、
身体の全体魂の全体が銀河の彼方に向かって解放されてゆくように感じる。
そうしてモニとわしが一緒にいることの意味が一瞬、雲の影が通り過ぎるように言葉のなかを通過していった感覚があらわれる。

神が、水の上に自分の名前を署名していった、とでもいうような、不思議なさざ波が
魂の上を通り過ぎて、思わずモニとふたりで顔をみあわせる。
一瞬も永遠も、結局はおなじことなのだとわかって、ふたりで小さな死をめざして時間のなかをむさぼるように泳いでゆく意味も理由も剥落した透明な午後があるのです。

This entry was posted in NZと豪州. Bookmark the permalink.

2 Responses to 水上生活者の手記

  1. 田鶴 says:

    なぜ「あなた」は其処にいて、私は此処にいるのだろうーーーいつか、さよならって言ってオベールさんは去っていくのかもしれない。

  2. ひろたん says:

    初めまして 波乗り中年です。
    昔 西豪州に行ったとき 英国から来てプロサーフアー修行中の貴族さんが居ました。
    王位継承権150番目くらいだとかで生まれた時から年金生活でオックスブリッジで何で波乗りが好きなのか聞きましたら「無駄だから(役に立たないから)」と言っていました。
    海は良いですよね。
    もう少しして親が居なくなって細やかな相続とかしたらヨットで廻りたいです。
    野球が好きなのでフロリダのタンパベイあたりで船浮かべて引退生活良いなあ とか思っていましたが時差がないからNEW ZEALANDも良さそうですね。米州南部とか撃たれそうで怖いです。

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s