rule maker

lunch21

TPPで最も奇妙なのはアメリカが熱心なことであると思う。
TPP自体については前にも書いた
https://gamayauber1001.wordpress.com/2013/03/17/tpp/
のでここでは繰り返さない。
奇妙だ、というのはアメリカはいちども「インターナショナルルール」に参加したいと考えたことはないからです。

アメリカの外交は「インターナショナルルールをつくるが自分は参加しない」のが特徴で、それはちょうど自分が描いた街路がちゃんと動いているかどうかを見つめる「シムシティ」のプレーヤーに似ている。

ヘンリー・キッシンジャーは20世紀最大の政治的知性であると言ってよいと思うが、このひとの判断で殺された人の数は何百万人という単位ではきかないだろう。
キッシンジャーはしかもその結果を予見して知っていたが躊躇せずに実行した。
リンドン・ジョンソンのチームがベトナム戦争の終結にほぼ成功したとき、リンドン・ジョンソンの側に立っていたはずのヘンリー・キッシンジャーはリチャード・ニクソンのチームにリンドン・ジョンソンがベトナム戦争を終わりにしようとしていることを教える。時期が迫っていた大統領選挙にリンドン・ジョンソンが勝利するためにはどうしても戦争を終結することが必要だったからです。

当時アメリカから南ベトナムへのメッセージを一手にひきうけていたAnna Chennaultは、キッシンジャーがチュー大統領にジョンソン達がベトナム戦争を終わりにしつつあることを告げ、どうやってすでに出来上がっていた和平をぶち壊しにしたか述べている。いまでは公開になっているFBIの文書にも「勝つのは我々だから和平はやめたほうがよい」とニクソンがチュー大統領に述べたことが載っている。

なぜキッシンジャーがこの時点でアメリカが戦争を終結するのを嫌がったかといえば、そこで戦争をやめてしまえば誰の目にも「アメリカが戦争に負けた」のが明かであり、アメリカが戦争に負けたということになれば「アメリカも他の国家と同格の一国家にすぎない」ということになり、国際ルールに参加する一国家としてふるまわねばならなくなるが、それでは世界の平和は保てない、という理屈によっていた。

副大統領候補にハンフリーを抱えたことが功を奏してニクソンに対して終始優勢に戦ってきた大統領戦の最後のダメ押しとしてリンドン・ジョンソンは北ベトナムへの爆撃停止を発表し、支持率は更に急激に上昇する。
誰の目にもリンドン・ジョンソンが大統領に再選されると見えたが、選挙戦の僅か3日前に南ベトナムのチュー大統領がパリの和平会談に出席することを拒否することによってほぼ完成していたベトナム和平工作は一挙に瓦解してリチャード・ニクソンが奇蹟の大逆転をはたして大統領の椅子に座る。

余計な事をふたつ書くとヘンリー・キッシンジャーという人は驚くべき人であって、大統領選の直前、リンドン・ジョンソンの和平工作の中心的人物であったDaniel Davidsonに「次の大統領がどっちになるにしろ、ぼくはその大統領の政策を決めることになるから一緒に働かないか」と補佐役への就任を要請している。

もうひとつは、余計なことと言っても書いておかねばならないことで、ベトナム戦争で死んだ兵士の半分は、このキッシンジャーの和平工作破壊のあとで死んでいる。
死ななくてもよい死を死んだのだった。

ヘンリー・キッシンジャーはリンドン・ジョンソンが大統領選に勝っても別に立場が変わりえたわけではない。
マキャベリよりも遙かに徹底的で数層倍の政治的知性をもっていたので、ヘンリー・キッシンジャーを「マキャベリスト」と呼ぶのはやや滑稽な感じがするが、そう呼びたければマキャベリストであったキッシンジャーは大統領などは誰でもよかったに違いない。
ジミ−・カーターでは困っただろうが、ニクソンかジョンソンかならば、朝食にパンケーキを選ぶかフレンチトーストにするかというほどの違いもなかったはずである。
だがアメリカが他の国家と同じ「国際的ルール」に参加する事態だけは避けねばならないものだった。

ヘンリー・キッシンジャーが思い描いた世界の未来へのロードマップは、まずアメリカがソビエトロシアと対決してこれを崩壊に追い込み、そのあとに必然的にスーパーパワー目指して成長してくる中国共産党とアメリカの全力を挙げて対峙するという図式で、キッシンジャーが考えた世界は50年後の今日、ほぼそのとおりの道筋を歩いてきている。

アメリカの外交政策は一貫して「アメリカがインターナショナルルールをつくるがアメリカは参加しない」というもので、よくこれをアメリカの横暴だと非難する人がいるが、横暴は横暴でも、アメリカにとっては力にまかせた横暴というよりもよりも遙かに本質的な問題で、こっちの図式のほうこそがアメリカ外交政策のアイデンティティになっている。
もっと言ってしまえば「アメリカ」という国家の本質なのだと思います。

アメリカは世界のなかの並外れた強国なのではなくてアメリカの庭のなかに世界がある。
アメリカを「世界のなかの相対的最強国」と認識する国は徹底的に潰してゆく。
おもしろいことに金正日のような政治外交とボードゲームの区別がつかないような独裁者はこのことをとてもよく理解していて、金正日がやっていたことは、このアメリカという存在への本質への理解なしにはうまく見てとることができない。

日本では不自然なくらいおおきな話題になっているTPPや、もうひとつの日本人の心にのしかかっている問題である原発問題ですらも、この認識なしには考える糸口すら見つけるのが難しそうに思えます。

(たまには往々にしてダジャレをなしている題名について説明すると英語の「rule maker」には色々な意味があります。調べてみると題名の意味が判ると思われる)

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One Response to rule maker

  1. AK says:

    実は亜米利加合衆国の立ち位置って、rulemaker、じゃなくて、bookmaker、じゃないの?
    ほら、In God We Trust、って印刷されたチップを刷りまくっているし。
    亜米利加は本当に、TPPを利用して旧宗主国UKのようなコモンウェルスの盟主になれるのでしょうか?

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