空飛ぶ会社たち

DSCF0307

「180度にはなりませんが178度くらいまでにはなります」というので笑ってしまった。

ニュージーランドから欧州まではどういうルートを通ってもだいたい24時間かかる。
現行の旅客機でもっとも長距離を一気に飛行するのはシンガポールからニューヨークまで20時間弱をとぶ燃料タンクを特別に増設したA380であるはずで、これから考えてわかるとおり、どうやって飛んでも1回どこかで乗り換えなければならない。

むかしはどうしていたかというと成田かシンガポールで乗り換えていた。
成田で乗り換えれば鎌倉ばーちゃんの家に寄っていく楽しみがあったし、シンガポール政府は「ストップオーバー観光事業」にむかしから熱心で、たしか11泊までだと思ったが欧州からシンガポールに寄って周辺国に乗り継いでいくひとに、街の主だったホテルと空港をむすぶただのシャトルを運行して、その上ホテルの料金を半額以下にしている。
この政府が補助金を出して行っている観光事業は大成功で、シンガポールのようにもともと日本のような国に較べれば観光資源に極端に乏しい国が観光大国になっていったのは、このシンガポール政府が推し進めた「ストップオーバー・プラン」のせいだと思う。
いつごろからやっているのか知らないが、わしが物心ついたころはもうやっていたから、90年代の初頭からは確実にやっていたことになる。

他にはエミレットでドバイ経由で往復する、というのも人気があって、エミレットはシンガポール航空と並んで飛行機が新しいので有名な上に自社のラウンジが豪華なので名前が売れている。
ビジネスクラス以上だとエミレットのクルマが家まで迎えに来てくれるので、時間を心配していらいらしながら空港タクシーを待たなくてもよい、という点でも人気がある。
欧州へは距離が遠いニュージーランドからドバイまでがビジネスクラスでドバイから欧州各国まではエコノミークラスという「混合クラス」のパッケージがあったりしてマーケティングが柔軟なのも、この会社の特徴であると思う。

他に香港経由のキャセイ航空や、台北経由の中華航空、韓国を経由する大韓航空というのもあるが、羽田から台北までの短い距離を乗った中華航空の他は自分でも乗ったことがないし友達にも乗ったことがある人がないのでわからない。
欧州系のエアバスの操縦系統が動きの軽いジョイスティックだった頃には「アジア系のパイロットは失敗したときにパニックに陥ってスティックをおおきく引いてしまうので危ない」とまことしやかに言われていた。
名古屋で着陸直前に墜落した旅客機の原因はそれだ、副操縦士がパニクってジョイスティックをおおきく引いたので失速したのだと言われていたが、失速墜落は事実でも、話の真贋は判らない。

台湾の中華航空も羽田から出て便利だと言うので子供の頃の日本滞在中に台北のコンピュータショーを観に行ったことがあったが、復路にやたらと英語が上手な日本人の商社社員のおじちゃんが隣に座っていて、「そろそろなんだよねえ」という。
「なにが『そろそろ』なんですか?」と聞くと
「この会社の飛行機は定期的に墜落するんだけど、だいたいまた落ちるころなんだよね」というので閉口したことがある。
なんだか、楽しそうな口調だったのは、いっちょう外国人のガキを脅かしてやれ、というつもりだったのだろう。
しかし、このおっちゃんは羽田でパスポートコントロールの列にならぶときに、
「おい、外国人はそっちの列じゃない」と言いながら、空港セキュリティのじいちゃんが、なにをおもったかわしの肩を突き飛ばしたのを見とがめて、子供に向かってなんてことをするんだ、おまえはそれでも人間か、第一、日本人として恥ずかしいとおもわないのか、と猛烈に抗議してくれた。
いまでも激昂して、制服の、多分元警官かなにかではなかろーか、妙に威張りくさった警備じーさんを大声で叱責していたおっちゃんのカッコイイ姿を思い出す。

航空会社はおもしろいもので、会社の性格もあるが「お国柄」というべきものがあらわれる。
わしはむかしから、どうやら欧州人や日本人に限らず当のアメリカ人自身にもたいそう評判が悪いらしいユナイテッドやデルタというようなアメリカの航空会社の、投げやりというか、「安い給料で、この仕事やってんだから、くだらないことをガタガタ言うんじゃねーよ」スタイルの、どういえばいいか、サンダル履きでやっている感じのアメリカの航空会社の乗務員が好きで、スーパーマーケットの店員というか、やってられんわこんなの、という内心の声がひしひしと聞こえる割には、親切で、海外線で酒ばかり飲んでいたらめんどくさがって、これ残ってるの全部だからみんなまとめて置いていくわ、と述べてウイスキーのミニチュアボトルを大量にくれたり、サンドイッチがファーストクラスの3分の1しかないなあー、エコノミーはわびしいのお、と思っていると、食べたあとでもお腹が空いているのが明然と顔に出ていたのか、ファーストクラスの余ったサンドイッチをもってきてくれたりして、いやしいわしとしては、主に大学生時代に集中したこの種の厚意を忘れるわけにはいかない。

ニュージーランド航空は飛行機に乗り込むといきなりそこはニュージーランドで、北島や南島の訛のニュージーランド英語が飛び交って、ニュージーランド人特有の「無茶苦茶元気」な感じが飛行機のなかに充満している。
ニュージーランド航空の座席は、フルフラットになるシートにはオットマンが付いているが、ひとりで乗っていると、忙しい仕事のあいまに、わし席にやってきてオットマンに腰掛けて、ジムはどこに行ってるんだとか、タマキドライブはジョギングするのに気持ちいいよね、とか、「友達ぽい」という表現がぴったりのリラックスしたサービスの態度で、大好きである。
福島事故があったりして、放射能が怖いのと、乗客がどんどん少なくなるにつれてボーイング777のようなフルフラットシートがある機種は他の中国線やなんかに配置替えになって、どこで飛ばしてたんだこんなの、と言いたくなるような古い767になって、シートもビジネスクラス(ニュージーランド航空はファーストクラスはない便がほとんど)でも、フルフラットシートはおろか、半分くらいしかリクライニングしない「ただのでかいエコノミーシート」で、食事も何もすべて格下げになった上に、聞くところによると、最近では到頭名古屋線と成田線、関西線と成田線が統合されて、名古屋からニュージーランドに向かおうと思っても直行便はなくなって成田までいったんいかなければならないし、成田から乗るといちど関西空港に連れて行かれると言う人もいた。
日本とニュージーランドのあいだは廃線寸前にも思えて、残念な感じがする。

わしは身体がでかいので、というか、縦に長いので、ビンボ学生の頃からいざ飛行機に乗り込むと、エコノミーの航空券でも空いていればビジネスクラスに替わらせてもらって、「ニセビジネス客」に化けおおせることが多かった。
そうでなければ非常口の横にある席で、この席は前がどおおおーんと空いているので、楽である。
いま書いていて思いだしたが、旧型のジャンボジェットは、この席の横にキッチンがあるつくりで、ワゴンをスチュワーデスばーちゃんが押し出した途端に飛行機が300メートル落下したとかで、どおおおーんと落ちて、食べ物のはいったワゴンがジャンプしてとびかかってきたことがあった。
わしは身体がでかい割にリスのように敏捷であるから両足をあげてワゴンを空中で撃退してことなきをえたが、ばーちゃんは、何を思っていたのかいまでも不明で、なんとなく不服そうな顔だった。
あるいはワカモノが自分の生命を犠牲にして食べ物のはいったワゴンを守るどころか、あろうことか、自分が怪我をしないために食べ物を足蹴にしたのが不満だったのかもしれません(^^;

冒頭の「180度にはなりませんが178度くらいまでにはなります」は、タイ航空のひとの自社のシートに対する説明で、欧州にもどるついでにバンコクに用事があるので、寄っていきたいが、そういう要件があるときにたいてい使うシンガポール航空の適当な便がシドニー経由しかなくて、すると、オークランド→シドニー→シンガポール→バンコク→シンガポール→ローマというチョーややこしい乗り換えになる上に、航空料金が高くてケチをもって南海になりひびくわしの神経に障る、シンガポール航空はファーストクラスとビジネスクラスを厳重に区別する航空会社のひとつで、いつも黙ってにこにこしてビジネスクラスに文句をいわずに乗ってくれているとは言っても、子供の時からチャーターで借り上げたジェット機かファーストクラスしか乗ったことがないモニさんに気の毒な感じがする上に、このあいだあったときのようにモニかーちゃんに「モニもあなたと結婚してからは世間のことに詳しくなったようだ」とこわいことを言われた直後でもあって、そうするとファーストクラスが存在しないオークランド・シドニー間以外はファーストクラスになるが、今回の旅行ではコモ湖で他のひとびとと合流するまでモニとわしと小さい人と小さい人の面倒を見てくれる人の最小編成の旅行だとは言っても、ぐわあああああああな出費で、調べてみるとタイ航空ならローマに着いてミラノから帰ってこられるうえにシンガポール航空に較べて全然安いので、タイ航空でくることにした。

タイ航空は前に2回乗ったことがあって、一度はたしか東京遠征中に成田からチェンマイに行き、もう一度はたしかシンガポールからのサイドトリップでプーケに行ったのだと思う。
予約するときにカレーが選べるのでマサマンカレーにしたら美味かった、というのがいつもいやしいわしの第一印象で、あと、タイの人の国民性で、「ものが頼みやすい」というか、こっちで「頼みたいなあ」と思った瞬間にはもう気配を察して横に立っているというお庭番のごとき鋭い察知能力で、こんなに女のひとびとが他人の気配を察するのに長けているとタイ人の男はみな、すべからくダメダメダメなのではあるまいか、そうゆえば年長の友人である古茶(@kochasaeng)の奥さんはタイの上流社会出身だったなああ、そーか、ふふふ、と余計なことを考えてしまう。

欠点は出発が遅れることだが、わしはなにしろおぼえているだけで4回飛行機がわしを置いていってしまうという航空会社の暴戻に遭遇しているので、30分や40分の遅れなどかえって好都合である。
第一、パキスタン人のHの帰省の話を聴いていたら、パキスタン航空などは「四日遅れる」と言って、たいした遅れじゃないけど、ちょっと遅れすぎるよなあ、と嘆いていたが30分程度遅れるくらいは誤差の範囲というべきか、どうでもいいことである。
他に欠点と言えばラウンジがボロイ(タイ航空の人ごめんなさい)ことと機内のワインの種類がとっても少ない、備え付けのヘッドフォンがノイズキャンセリングでない、というようなマイナーなことばかりで、再び言うとタイの人の国民性で、快適だったのを思い出してタイ航空でくることにした。

航空会社は競争が厳しいのでさまざまな工夫を凝らして、わしガキの頃に較べると飛躍的にサービスが向上した業界と思う。
ヴァージンなどは航空業界に、おおげさに言えば革命をもたらしたので、本人がブリストル405を好んで運転するブランソンのセンスを発揮して、というのは冗談だが、機体などは思い切り古い中古機体にして、その代わり、食事やサービスにたくさんカネをかけることにした。
わしが大好きな、LEDリーディングライトがあり座席がフルフラットになって眠るときには半個室のようになるチョー賢いデザインのニュージーランド航空のシートは、もともとはヴァージンがデザインしたものである。

ヴァージン航空のラウンジは本格的なレストランがついた常識を打ち破る体(てい)のラウンジで、カッチョイイ制服で決めたにーちゃんやねーちゃんがテーブルのあいだを敏捷に歩き回っておる。
メニューの載っているコースやアラカルトはどれも街のレストランの水準を上回っている。

なんだかずらずらと長くなってしまったのでこの辺で止すが、日本語で書いているのだから日本の航空会社について慌てて述べると、JALは不思議な会社で、わしガキの頃は日本以外の国で買うと、当時、大幅に領空を侵犯してロシアの戦闘機に撃墜された事件をまだみながおぼえていた頃の大韓航空と並んで最も料金が安いのに、日本で航空券を買うと最も料金が高かった。
悪い言い方をすると、いかにも自社のある国の国民から「ぼって」いる感じで嫌な感じがしたが、たとえばサービスが好きな会社を乗客に挙げてもらうと、日本人客は「最もサービスが良い会社」がJALで最悪がニュージーランド航空、逆にニュージーランド人はニュージーランド航空が最良でJALが最悪、好対照をなしていたのをおぼえてもいて、JALが好むと好まざるとに関わらず日本人乗客の特殊な嗜好にあわせたサービスを提供して日本人はそれに見合った代価を払っていた、ということに過ぎないのかも知れません。

JALは、ニュージーランド航空との共同運航便が多いので、それでも十回くらいは乗ったことがある。
ニュージーランドで航空券を買うと、同じ便でもJALティケットはたしか400ドル以上も安くて、同じ便なのだからとJALティケットを買うと同じ便でも、あんまり具体的に書くと悪いから書かないが、いかにも何もかにも杓子定規で融通が利かないので閉口した。

ANAは行きたい町が多いので世界一周航空券で買ったほうが安い年が何回かあって、航空会社のグループの関係で成田とロンドンのあいだを行き来するのに何回か乗ったことがあったと思う。
JALほどではないが、なんだかしゃっちょこばったロボットぽいサービスで、もうひとつJALと共通しているのはファーストクラスの乗客が「狂ったように」と言いたくなるほど威張り狂っているひとが多くて、なんだか近くで目にするのも感じが悪くて嫌になってしまった。

航空会社は国民性が出る、と言ったが、日本の航空会社の客と乗務員の関係は悪く言うと主人と下僕で、サービスする側も客も「同じ人間ですから」の社会と厳然として明瞭な階級のある社会にふたまたをかけて育ったわしとしては、日本の航空会社の飛行機の客室内は両方のタイプの社会の悪い所だけをとった小社会にも見えて居心地が悪かった。

真冬のオヘア空港で、泊まっていた空港ビルの上に乗っかっている形のヒルトンから夜中の空港をかーちゃんと妹と連れだって夜更けに散歩したことがある。
オヘアは言わずとしれたユナイテッド航空のハブだが、濃い青い月の光の下、雪のなかに蹲った見渡す限りの視界をびっしり埋める数のジェット機たちは生き物のようで、なんだか恐竜の島かなにかで眠りについた空飛ぶ怪物たちの秘密のねぐらに迷い込んだようだった。

ファーストクラスはチャーター小型ジェットの航続距離が伸び、料金が安くなったことによって市場が縮小したし、エコノミークラスは更に安い「格安ジェット航空」に市場を奪われて、こちらも縮小している。
記事の初めのほうに挙げたシンガポール航空のA380のニューヨーク・シンガポール間のノンストップ便は実はエコノミークラスが一席もない。
だんだん中途半端な一般航空会社のエコノミークラスは割があわなくなってきているからで、将来の見通しでは有名会社のエコノミークラスは消滅するのではないか、ということになっている。

もっともロンドンからパリまで、「話によく聞くライアン航空」で行ってみた上流階級・大金持ち英国人を絵に描いたような、モニとわしの友達カップルの抱腹絶倒の報告によると、「そもそも出発空港に行くタクシーで航空料金の半分くらいかかるんだよ」で始まって、後の壁のベニヤ板の継ぎ目から「よく見ると我が国の誇るmeadowの緑色の輝きが見えている」チェックインカウンタ、不便なのといろいろな有料サービスを足していくと結局は「大手のセール価格より高い」のとで「あんなの長くつづくわけがない」という実態で、エコノミークラスは(ビジネスクラスの乗客数が減る)不景気と共に生き延びるのだ、という意見もある。

飛行機を滑走路に着陸させるときに逆立ちさせかけたことのあるヘタッピパイロットのわしとしてはB747-400のようなチョーでかい飛行機を飛行機を「トン」と落とすことさえせずに、すうううっと着陸させるパイロットの腕前をみると、いつもすごいなああと単純に感動してしまう。

わしガキの頃、ちょうど1990年代の初頭くらいまでは滑走路にうまくランディングが決まると客室からいっせいに拍手が起きたものだったが、いまはもうそういうこともなくなった。
飛行機がどんなひとの日常においても生活の一部になった証拠で、世界がだんだん狭こしく均一で退屈になるわけだ、と飛行機に乗るたびに思いもする。
でも子供の頃から終始一貫変わらない、それがエコノミークラスのクソ小さいシートであるにしろ、チャータージェットの対面に向き合った座席であるにしろ、座席につく瞬間の、あのなんだか浮き浮きとして楽しい、ジェットエンジンなんかなくてもどかに飛んでいってしまえそうな愉快な気持ちは、やっぱし人間が発明した最もヘンな機械、「空飛ぶバス」だけが感じさせるものであるのかも知れません。

(画像はタイ航空の朝ご飯。プチトマトをそのまま炒めるのは意表を衝いていて、しかも美味かった。
タイのホテルもそーだが、タイのひとはなぜか洋式朝食を作るのがうまい。なぜだろう?)

This entry was posted in 近況報告. Bookmark the permalink.

5 Responses to 空飛ぶ会社たち

  1. kochasaeng says:

    血中ジジイ濃度というものがあるなら、おれは、その数値が上昇してきてるんで、飛行機の話というと古い話が多いのね。地震の度に「こんな大きいのは初めてだよ」って言う、土地の古老みたいなもんです。
    昔はアエロフロートなんてのに乗ると小さなビニール袋をくれたよね、って言って、「あー、あったあった」て笑う人は、ジジイか、じっくり熟成させたご婦人です。袋には万年筆を入れるのね。圧力隔壁がテキトーだったのか、そもそもそんなものがなかったのか、昔のイリューシンていうソ連(!)製の飛行機は、上空に上がると気圧が下がって、万年筆のインクがジャブジャブ漏れたんだ。J.シュトラウスⅡ世が、これを見て「美しく青きドナウ」を作曲したというのは有名なデマで、この袋がないと、上着の内ポケットから放射状にインクのシミが壮大に見る見る広がっちゃったからです。
    当時のイリューシンは機内上映の映画はおろか、音楽サービスのイヤホン・ジャックもなくて、読む本を忘れると、ビニールの中でペンがインクを吐き出す様子を見てるしかなかった。

    もうなくなっちゃったパンナムとかノースウエストの客室乗務員が着てるツイードのジャケットは、ヤスリみたいな生地で、機内食のバターロールを擦ると、あっという間にパン粉になっちゃうようなので、1980年代の後半くらいまでは、そんなふうじゃなかったっけ。昔のエコノミークラスは座席も狭くて、みんなぴったり脇を締めて、オイルサーディンの缶詰みたいになって座って、機内食が配られると、脇を締めてても窮屈で、デュークエイセスとかダークダックスみたいなコーラスグループみたいに身体を斜めにしてナイフとフォークを使ってたよね。「♪デューワー」って心の中でハモりながら。

    そんな時代だから航空会社もテキトーなところは、とことんテキトーで、二十数年まえのエジプト航空なんて、チェックインのときにくれる搭乗券の座席番号欄に「89」とか印字してあって、ずいぶん席の列が多いんじゃないの、って。それにAとかCみたいなアルファベットもなくて、これじゃ窓側なのか通路側なのかもわかんない。カウンターで、それ確認したら、「あ。89ですか。それ、自由席です。好きな所に座ってください」とか。もう何でもアリみたいな、いい感じでした。
    機内で、さっさと良い場所に座ってると、他の乗客が搭乗券片手に、どんどん最後部まで行って後ろで詰まってんの。客室乗務員が「今日はフリーです。どこでも好きな席に座って」って叫ぶと、「からかってんじゃねえ」とか言って、みんなゲラゲラ笑ってたな。
    で、エジプト航空はマニラ経由で、むりやりマニラの空港で降ろされて、でも空港から出られるわけもなく、全員することなくてアリ地獄みたいな免税店見るしかなくて、じゃあ友達に腕時計でも買ってあげようかな、なんて思いながら、ケチだからスウォッチなんか見てると、免税店なのに、ぜんぜん安くない。
    人の気配に横向くと、びったり免税店の売り子さんが身体押しつけながら、「そっちの赤い方がビュルテホールな」とか癖のある英語で言ってて、いや。男友達なんだって答えると、「おー。ロレックスあるな」。そんな高いの、要らないんだよ。 「じゃあスウォッチな。あなた、ディスカウント必要か?」 割引? あるの? 「あるな。19ドル。オーケー?」 安っすいなあ。もっと安くなんない? 「ノー。それはできないな。贈り物な? デコレーションな?」 そうだね、ありがとう。 「19ドル」 あ。はい。って20ドル渡すと、すっごく嬉しそうに「お釣りないな。ノーチェンジな。1ドルの、このチョコレートでいいな?」 え? ああ。いいか。いいよ。 「…オーケー。このチョコレート、わたし貰っても、いいな?」 …えー? 「いいな?」 …ま、いいか。って。すっごい所だよ。マニラすごかった。もうぜんぜんかなわない。
    で、バンコクに着いて、友達に会って「はい」ってプレゼントわたすと、「おお、ありがとう。開けていい?」って箱を開けるよね。そうすると、空港で見たのと、ぜーんぜん違う腕時計が出てくるのね。ほんと当時のマニラはすごかった。

    あのときは、メーホンソンて街に行ったんだな。予備知識なく行って(ビルマとの国境の商人町で、面白いとは聞いてた)、予想もしない首長族がいて、心底たまげたりしてたんだけど、帰ろうと空港に行ったら、タイ航空のお姉さんがいて、「マイミー・チャー(ありません)」て北の訛全開でニコニコしてる。ない、って何が? 「飛行機」 いや。そこに停まってるよね。「そうじゃなくて、フライトキャンセル。飛行機ない。今日」 えー。故障か何か? 「お客さんが。あなただけな。だから、今日は飛ばないな」 いや。明日のフライトで東京なんだよ。 「無理な。それともタイ航空のバスでチェンマイ行くか? 5時間くらいな」 お? チェンマイからなら、今日バンコクに帰れるの? 「無理な。遅いからフライトないよ」 意味ないなあ。この航空券、どうなっちゃうの。 「マイペンライ。予約してあげる。ほら。エンドースはできないけど、日付は変更できるし」 うっそ。その航空券、日程の変更できない航空券だよ。 「マイペンライ。航空会社どうしで約束あるな。マイペンラーイ」 えー。でもホテル、どうすんの。チェックアウトしちゃったよ。 「おー。心配ないな。タイ航空が出すよ。どこ泊まってたの? あー…。契約ないな。…そこの高級ホテルでもいいか?」 いいの? 「タイ航空が出すんだから、あなた、ラッキーな。食事クーポンも付けとくな。バンコクの今日泊まる筈だったホテルは?」 予約してない。 「ふふふ。じゃあ、明日のバンコクのホテルはエアポートホテルでいい? それとも市内?」 エアポートでいいや。ありがとう。 「マイペンライ。…あなた、コンプレイン言うと、タイ航空から小切手貰えるけど、どうする?」 きみにあげるよ。 「小切手だから、それはダメな。タイに口座ないでしょ?」 ないな。 「いいから、貰っておきなさいよ。とても怒ってる?」 いや。怒ってないよ。 「とても怒ると金額高くなるな」 じゃあ、とてもとても怒ってる。 「オーケー。200ドルな」 ありがとう。

    やっぱり、タイはいいな。そう思った。

    あ。あとうちの奥さんはタイ人で、ものが頼み易いってのもあるけど、ものを頼むのもうまい。新婚の頃、クロックマダム作ってあげたら、「これ、おいしいなあ」って気に入ったらしくて、それ以来、食べたくなったら、「クロックマダム作ってあげるから、わたしにも作ってください」て言う。なんか、ちょっと違うんだ。
    で、そういうの作らせると、確かに旨い。おれより遙かに巧い。でも自分のは、おれが作るのが、いいみたいです。
    トーストのことをタイ語でขนมปังปิ้ง(カノムパン・ピン)っていうんだけど、パンの表面を炙るって訳せばいいのか、タイ語は調理の「焼く」って単語がいっぱいあって、中国語の「炒める」に何種類も変種があるのと似てる。タイ人は、料理によって、火の使い方を細かく変えるのね。あれはたいしたもんです。
    それから、ステーキが食べたいときなんかも、普通にそう言えばいいのに、「あなたが、どうしてもステーキ食べたいんだったら、わたしも一緒につきあってもいいな」みたいな言い方する。こういうのも、ちょっと面白いです。タイ人全員が、こういう言い方かどうかは、知りませんが。

  2. AgathaChrio says:

    自分がアメリカに行ってたころは、デルタはサービスが良いとの評判で、ふむ確かにいつも利用することの多いユナイテッドよりは良いなあと感じたりしていました。今は亡きノースウェストもユナイテッドを上回る客室の気楽さとともに、軍人さん上がりのパイロットが多いとの情報通りダイナミックな離着陸を楽しむことができました。一度だけオーストラリアに行ったとき、安い切符を頼んだらたまたまJALの関連会社の飛行機でした。客室乗務員のほとんどがタイ人だったのに、重苦しい雰囲気は日本の航空会社そのものでした。
    ところで、エアバスの大きな飛行機はA380しか知りません。燃料タンクを増設したのが400シリーズなのでしょうか?

  3. isaokato says:

    モニさんが庶民的な生活習慣を覚えていそうなところは微笑ましいな、と読んでました。しかし、エコノミーが消えて格安航空会社とビジネスクラスとプライベートジェットのみの世界が象徴するのは、昔の「分断」された世界への逆戻りのような気がします。

    僕らが不満を爆発させるのは、自分よりもいい生活を送っている人間が視界に入るからで、それならいっそのこと全部分けてしまえ、は悲しいけどすごく合理的に聞こえるのです。世界は地域毎の違いがなくなりつつあって、グローバル化だ、とさわいでいますが、実際に起こっているのは「各層毎の均一化」の気がしています。

    例えば僕は違う国の人々と会って、考えの違いに驚いたり習慣の違いを紹介しあったり、と刺激的な毎日を英語を使うことで得てきた気がします。しかし、最近になってその機会が妙に減ってきたような気がするのです。それは僕の英語能力が向上し、一目見た瞬間から「こいつは国際人だな」と判断されて遠慮のない会話が始まる、ということもあるでしょう。しかし一方で、違う国籍であろうと「同じ階層」に属する人間が持つ情報・嗜好・習慣、それに考え方ですら、似通ってきている、ある意味不気味な雰囲気も感じているのです。

    僕は南アフリカやスイス出身の友人達と朝方まで飲み明かしながら、なんで俺はこんなに自然にくつろいでいるのだ、とふと我に返る瞬間に、実は彼らと自分との間に、本質的どころか表面的な差異ですら消えつつあるのでは、と思う時があります。彼らも僕も、同じような階層ですから。

    この先僕らはどこへ行くのだろう?

  4. mint says:

    私もよくプチトマトをそのまま炒めます。スライスしたニンニクと一緒にオリーブオイルでさっと炒めて塩コショウ。自分で適当に考えたレシピです。

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s