イタリア旅行マニュアル(その2)

ウンブリアの田舎の人口が500くらいしかない小さな村だが、場所が良い、というかちょうどクルマを運転していてくたびれるくらいのところにあるので、宿屋がふたつ立っている。

片方は純然たるロカンダ(宿屋付きの料理屋)だが、もう一方は部屋数が20くらいもある、建物と庭が中世のままのモテルというか、イタリアにはよくある古い廃屋を改造してつくった自動車旅行用の宿屋です。
リセプションの隣にレストランがあって、ミシュランに載ったり載らなかったりする程度の料理を出す。

サンジョベーゼは安ワインとして便利で、水代わり、食事と一緒に飲むワインとしてなにも考えずに頼んでも「おとなしい」ワインなのであたりさわりがない。
デカンタの「メッツオリトロ」(500ml)で頼んで、モニとふたりでちょうどいい。
モニもわしも少し酔った気持ちになるにはワイン1本(750ml)づつが必要だが、ワインはなにも酔っ払うために飲むわけではないので、たいていは、メッツオリトロだけ地ワインを頼んで、食事が終わればまたクルマで旅の続きに出る。

イタリア料理はアンティパスティ、プリミ、セコンディと頼めるようになっているが、リストランテと名前が掲げてあるような立派な料理屋では、アンティパスティとセコンディに力がはいっていて、プリミのパスタは5種類程度、通り一遍のものが多い。
さらに高級になると、プリミにも力がはいるが、だいたいふつうのリストランテではアンティパスティで、アイデアが利いた、おおっ、という料理が出て、プリミでお腹を落ち着けて、セコンディで堪能する、というふうになっている。

イタリア料理は豚肉料理において日本と共通した味覚に訴える。
イタリアは豚肉がおいしい国で、しかも安いので、わしなどはメニューを見て何も食べる気がしないと「ビステカ・デ・マヤーレ」、豚肉のソテーばかり食べている。
bisteka
オリーブオイルで焼いて、レモンを手でぎゅっとしぼって上にかけて食べる簡単な料理で、値段も6ユーロ、高くても10ユーロなので、簡便で注文しやすい食べ物です。
ピッツエリアやオステリアというような看板がかかっている簡易食堂から、リストランテまで、幅広いタイプの料理屋のメニューに載っている。

モニとふたりで、わしが一生で身につけた技芸のうち最も得意な技芸である「チョーくだらない冗談」を連発して、「ガメ、苦しいからやめろ」と怒られながらイタリア人たちの3倍は優にかかる時間をかけて夕飯を食べていると、入り口から小柄な夫婦がはいってくる。
ちょうど逆光なので、影になって、輪郭しかみえないが、身のこなしで日本のひとだと判ります。
….と思いながら見ていたらイタリアのひとだった。

イタリアのひとは、面と向かって「イタリア人は、物腰、身のこなし、身体の置き方、いろいろな点で日本人に似ていると思う」と告げると、
ええええー、そおおおかなあああー、と、すごく嫌そうな顔をする。
傷つくなあ、そんなに嫌がらなくても、と日本のひとは考えるかもしれないが、「イギリス人にファッションが似ている」とでも言われた日にはイタリアの人は世をはかなんで自殺してしまうかもしれないので、相身互い、そう悄気てはいけません。

まず外形的に背丈が同じくらいである。
いまwikipediaで見ると、イタリア人の背丈は男177cm女168cm、日本人が
男170cm女158cmで、ずいぶん異なるが、イタリア人は身長をはかるときに全員背伸びをしているのだと思われる。
アウトレットやモールの人並みを見ても、イタリアの人はちっこい人ばかりで、おまけにやたら細っこい。
モニもわしも「日本にいるみたい」と考えました。

イタリアの人は日本人と同じくらい、あるいはもっと食べるスピードが早い。
フルコースでワインをボトルで頼んで、デザートにコーヒーで30分でたいらげてしまう。
ニュージーランド人なら、同じ内容の食事を頼めば、優に2時間はかかる食事を、あっというまに食べてしまう。
もしかするとイタリア人の胃袋は「お持ち帰り用」に出来ていて、家に帰り着いてからじわじわと消化される仕組みになっているのか、と疑うくらい食べ物を次から次に胃へ放り込んでゆく。
イタリアの人は何を食べてもお茶漬けをすすりこむスピードで、日本人とイタリア人は世界における二大早食い族だと思われる。

類似の最大のものは、椅子をひきだして腰掛けるときや、支払いのカウンタに向かう時、あるいはドアを締めてでてゆくときの「ちょっとした仕草」で、(特に背が小さな)イタリア人と日本の人は、はっとするくらい似ている。
日本語には「粋」あるいは「いなせ」という言葉があるが、イタリアの人にも同じ美意識があるよーです。
見ていて、ひどく面白いと思う。

イタリアに住むときの最大のannoyanceはマフィアであるという。
もちろん見ず知らずのヨソ者にそんな話はしない。
外国人相手には、「国の恥だ」という意識が働いて、聞かれても言葉を濁してまともに答えないのが普通であると思う。
それでもだんだん仲良くなってくると、イタリア社会においてマフィアがいかに深刻な問題であるか教えてもらえるようになります。
モニとわしにマフィアの詳細な有りようを教えてくれたのはイタリアに長く住んでいるスペイン人夫婦が初めだったが、いま考えると「外国人同士」という気安さがあったからでしょう。

タブーというものはそういうものでイタリア人同士でもカフェのようなところでマフィアの話をするというのは考えられない(わしが会ったカフェでマフィアの話を公然とするゆいいつのおっちゃんは本人がマフィアだった)が、たとえ日本語でも、こんな場所でマフィアの実態を書く気はしない。
コモ湖のように、いかにもマフィアとは無縁であるように見える土地柄でも、夏には料理屋にローマのマフィアたちが集金に来て、売り上げの半分をもっていってしまう、というくらいの事実から、残りを推測してもらうのが良いと思う。

イタリアの社会では「誰かの知り合いである」というのは絶対的な効力をもっている。
モニさんがヘアドレッサーに行くときにチョルノビオのわしが子供のときから知っているおばちゃんに教えてもらった店にでかけた。
そのもともとミラノ人のおばちゃんは、めんどくさいので露骨な言い方をしてしまうと上流階級の人であって、おばちゃんの別荘があるコモ湖のあたりでも有名な人です。
「必ず、わたしの名前を言いなさいよ。ああ、いや、わたしがいま直接予約しておいてあげるわ」と言って、おばちゃんのいつもの気さくさでヘアドレッサーに電話をかけて予約しておいてくれたが、クルマでヘアドレッサーに出かけてみると、ちょうど店の狭い入り口のところで身なりの良いイギリス人の女びとが、予約したい、と下手ではないイタリア語で店員に話しかけているところだった。
店員の若い女の子は、「夏は忙しいので予約は受け付けないし、店は昼休みなので3時まで開かない。いま私があなたのために出来ることは何もない」と述べている。
ところが、後ろにモニとわしが立っているのに気が付くと、おばちゃんの名前をあげて、「モニさんですか?xxさんから聞いてます。そんなところに立ってないで、おはいりください」という。
見ていて、まるでパリのクソ美容院みてえ、と思いました。

「家族であるかいなか」がイタリアでは絶対である。
次が「友達であるかいなか」
それと隣り合わせに「知り合いにつらなっているかいなか」
イタリア人にとっては、そこまでが世界で、そのほかは空虚の土地であるらしい。

個人個人を判別して「良い」「悪い」「好き」「嫌い」と判断しているのではなくて世間の指標が先にくるところは日本ととてもよく似ている。
もっとも人間同士の関係が冷たいので有名な連合王国も暖かいので有名なイタリアも、差はわずかなのだと思うが、そのわずかな差は人間にとっては巨大な差異をもたらす。

マフィアは人間の温かさという陽光を欲望や憎悪が遮ることによってできた翳である。
日本とイタリアのもうひとつの重大な類似は「社会の影の部分」の性質で、影そのものが人間のあたたかみで出来ているのは、この世界でイタリアと日本だけであると思う。

影が冷たいものですらないことが、普通の社会に生きる人間の側にとっていかに悲惨なことであるかはマフィアややくざの現実の想像をこえた巨大な悪の姿を知れば知るほどわかるようになる。
残念なことに日本とイタリアは人間性がうみだした最悪のものについても本質的なところで似ているもののよーである。

前回の約束にとらわれて、イタリアと日本の比較のような話になってしまったが、
この次は、また具体的な旅行マニュアルに戻って、具体的な田舎宿の予約の仕方や、ドライブの途中のたのしみ、というようなことに戻ろうとおもいまする。
イタリアは神様が地球の上に落っことした宝石箱のような国である。
地上に落ちた宝石箱は割れて、開いた蓋から飛び出した陽光は、あの美しいイタリアの田舎になって長靴の形をした半島中に広がっていった。
わしがこのマニュアルを書こうと思ったのは、きみが、田舎道を折れて駐めたクルマを降りて、オリブの木の下を口笛を吹きながら、世界はなんて美しいのだろう、と考える午後をみたいとおもったからです。

そのたおやかな午後のなかへ、一緒にでかけよう。

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