夏に向かって準備する

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夏が近付いてきたのでパーティの招待状があちこちから来るようになった。
フォーマルな服装を指定した、政治家や総督もやってくる厳(おごそ)かげなパーティもあれば、 今度新しく75フィート(23m)のカッチョイイ船を買ったからみんなで沖合まで出てパーティやろうぜ、いえーい、という人もいます。
アメリカズカップがもっか4-1で勝利ちゅうなので大画面でアメリカズカップを観よう、というのもある。
陽気がよくなると、人間も自然と浮かれてくるのが英語人の単純さの良いところであると思う。

夏のシーズンにあわせて、おっきい船と小さい船の中間の「気軽にほいとでかけられて、1週間くらいはハウラキガルフのどこかでのたのたしていられる船」が欲しいと考えて、ボートビルダーの友達と一緒に船をつくっている。
つくっている、と言っても、わしが船大工をするとあえなく沈没するかもしれないので、スタジオのみなと、あーでもないこーでもないと意見を述べあって仕様を決めてゆく。

ハルデザインは大雑把に言うと「Displacement」と「Planing」がある。
チョー簡単に述べれば「Displacement」は船体が前弦まで水に浸かって進むハル・デザインで、たとえば極端に言えば、戦艦はこれです。
「Planing」は、速度を出すにつれて船体が浮き上がるように水の上に出てくるタイプで、上が軍艦の例なので、こっちも軍用の例にすると魚雷艇が「Planing」タイプの船、ということになる。

12m以下(乾重量で言うと4t以下、くらい)のボートで言うと、「Planing」ハルは性質上高速で、たとえば9mくらいの艇だと350馬力くらいのエンジンをつけて、燃料タンクが350リットルくらい。これで100キロくらいの行動半径は確保できる。

「Displacement」は、ひたひたと進んでゆくタイプなので、40フィート(12.3m)以上ないと、あんまり意味が無い。
エンジンは小さくてよくて、12mの艇で80馬力くらいの小さなエンジン、というのもざらにある。
エンジンが小さいということの意味は、たとえばさっきの350馬力のペトロルエンジンなら7万ドル(500万)くらいするが、80馬力ならエンジンそのものが100万円くらいですむ上に、メンテナンス費用も格段に安くなる。

8ノットくらいでのろのろ進むかわりに、船体はおおきいので、広い寝室やラウンジ、キッチンが手にはいって、ヨットやボートに何十年も乗って、最後に買う船がDisplacement、という人は多いと思う。

ハウラキガルフでのたりのたりするだけなのでスピードは出なくてもよいが、8ノットではあまりに遅くてコロマンデルの東側に出るのにまる1日かかってしまうので、350馬力のエンジンにすることにした。
ハルデザインもSemi-dispalacementも考えたが、用途を考えると、Planingのほうが返っていいのか、とデザイナーやエンジニアと人達と話しているうちに考えるようになった。
船外機でもいまはヤマハのカッチョイイV8のような350馬力のエンジンがあるが、ディンギィ
http://www.sbcontrol.com/beneteau/dinghy.jpg
の上げ下ろしや船尾で釣りをするとき、あるいは海にとびこんで泳ぐときに船尾の巨大なでっぱりになって不便なので船内機にする。
船内機ならVOLVO PENTAやYAMMARが有名だが、整備の問題とエンジンルームの都合でMERCRUISEにする。

ベンチをつくって、冷蔵庫の置き場所を考えて、ガスレンジをここにおいて、ありゃあー、シャワーおくとこがなくなってもうたやん、と皆で話していると、あっというまに時間が経ちます。

持っている船のなかでいちばん小さかった7m艇は、トイレ(このクラスのボートはベッドの下に格納されるようになっている)を使うにも不便で、海の上でいく晩も過ごすのには向いておらず、初めは出航準備に気軽に船を出して、モニとふたりで無人島の浜辺でワインを飲んで遊んだりするのに使っていたが、デイ・ボーティングは飽きてしまって、海の上に出ると、どうしても数夜を過ごして、海の上からオークランドの宝石をぶちまけたような、燦めく夜景をみながらシャンパンとステーキの夕食を摂ったり、月のない夜なら、モニとふたりで競争で星座を探したりして、海の上のノーマッドのように過ごしたい。

結局つかわなくなってしまって、毎度毎度おおきなボートかヨットを出すことになってしまうので、めんどくさくてたまらなかった。
ヨットはハウラキガルフに出るくらいならモニとふたりでなんとかなっても、おおきな船のほうは、人手を頼まなければとても出港準備ができない上に、フリーザーが不調になってみたり、エアコンが壊れたりで、新しい船で、どんなに良く出来ていても、いろいろなものがついている分だけ海という塩水にどっぷりつかっている環境では故障が多い。
去年は、きゃあきゃあ言って遊んだスピードボートはモニの定義によれば「ガメがムダ使いをしたくて買った全然役に立たないオモチャ」で、言われてもいいかえす言葉はなくて、結構おおきい図体の割に居住性はゼロである(^^)

モニとふたりで思い立ったときにクルマでマリーナへ出て、スーパーの買い物袋をもって桟橋を歩いて、舫いを解いて、そのまま海へ出られるボートがなかったので、友達のボートデザイナーに相談して、新しいボートをつくることにしたが、やってみると、作るところがもう楽しい遊びで、モニとふたりで夢中になってしまった。

このブログ記事にも何度かでてくるが、オークランドの生活で最も素晴らしいのは海であると思う。
地図を見れば判るとおりオークランドはハウラキガルフという湾に面しているが、ここには、たくさんの入り江、無人の島、変化に富んだ半島があって、一通り見て歩くだけで7年間はかかるという。
27センチ以下は海にもどさねばいけないことになっている鯛は30メートルくらいも水深があるところに行けば「目の下三尺」(最もおいしい鯛のおおきさについての日本語の表現)、1メートルくらいの鯛がルアーでわりあい簡単に釣れる。
コロマンデルやノイジーの島々の近くでは1mを軽く越えるヒラマサがやはりルアーで釣れる。
鰺などは、夜をすごすことに決めた入り江で日暮れ近くにサビキの糸をたれると餌などつけなくても、いちどに4匹づつくらい釣れます。
船上で、銀座の鮨屋のひとびとに教えてもらったやりかたで、捌いて、アジフライをつくったり、たたきや、鰺寿司にする。
夜はマイカやアオリイカが釣れる。
まだやってみたことはないが、ダイビングで潜ってゆくと、「カーペット敷いたように」タコがいるという。
それを教えてくれた近所のダイビング爺は、「あれはうまいぞ」と述べたら、「げげげげ。あんなものをきみは食べるのか。スペインかぶれがひどすぎるのではないか」と驚いてインプラントが逆回転して飛び出しそうな顔をしていたが、要するにニュージーランド人は鯛、ヒラメ、サーモン、マッスル、オイスター以外は海のものを食べないので、鰺などは甲板から見ているとバケツで掬えそうなほど、うじゃうじゃうじゃと屯しているのだと思われる。

危険な友達だとわかっていても、やはり、ゆっくりと、しかし雄大な筋肉で空中に身体をもちあげながら湾口をわたってゆくシャチの群れに見ほれないわけにはいかない。
イルカたちもボートについてきて、一緒に遊びたがる群れイルカももちろん楽しいが、ときどき一頭だけで、「いそがなきゃいそがなきゃ。まいったなあ、会議におくれてしまいそうだ。いそがなきゃいそがなきゃ」という声が聞こえてきそうな様子で、全速力でどこかへ急いでいく(なぜかたいていおおきな)イルカがいる。

夕方、あの、神秘的なような、ゆっくりと規則的な、神様がおおきな寝息をたてているような声が聞こえてくると、ボート乗りはやや緊張して周りの海を見渡す。
「フライブリッジ」があるボートなら階段をかけのぼって、周囲をくまなくチェックすることになる。
すぐ近くに鯨がいるからで、機嫌がわるい鯨にあたろうものなら、船を下から押し上げて、ひっくり返してしまうかもしれないので、ボート人にとっては、鮫よりもずっとこわい海の住人です。

星のない、まっくらな夜が終わって、東の水平線がぼんやりと赤くなってくる。
淹れたばかりのコーヒーを手に、甲板に出した椅子に腰掛けて、モニとふたりで、ゆっくりと姿をあらわす太陽を見ている。
光にも影というものがあるなら、あれこそがそうであるに違いない光の帯が水の上を広がりだして、やがて赫奕とした太陽が勝ち誇ったように闇をふきとばして現れると、それまでの静まりかえった世界が一気に生命に満ちあふれた動的な世界に姿をかえてゆく。

海で時を過ごすひとびとは、世界がどのようにして一日を始めて、どんなふうにまた夜に閉ざされてゆくかを、天使たちが手ずから教えてくれた秘密であるかのように知悉している。
風がどんなふうに予兆をもってくるか、雲がなにを企んでいるか、水が表面はいちようであるのに、高速で動く遊歩道や、そこだけ海が悪んでいるような「たまり」、あるいは、手をのばして舳先をつかんで岩にたたきつけるような、ぞっとするような奔流が流れているのを知っている。

そうして、船乗りたちだけが知っている、この世界の最もおおきい秘密は、世界というものの、ぞっとするほどの美しさであると思う。
その、人間などは微塵も眼中にない絶対的な美しさこそが、世界の本質なのではなかろうか、と思うことがあるのです。

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