Daily Archives: November 2, 2013

南の果ての

短い、というよりは初めからずっと開店休業中のようなチョーええかげんなわしの仕事歴のなかで、最も眺めのよいミーティングルームはマクグロウヒル本社の役員用会議室であったと思う。 誰かが「きみは、この会議室に足を踏み入れた最も若い人間であると思う」と述べたのをおぼえている。 マンハッタンの夜景が360度見渡せるガラス張りの部屋で、会議はどうでもいいから、一杯カクテルをつくってもらって、ここでのんびり考え事をしたい、と考えたりした。 この頃マンハッタンに戻っていないのは一に「小さい人」のためだが、正直に言って、なんだか都会がめんどくさいという気持ちがどこかに芽生えて、年齢が30代に至っただけではなくて、心がおじちゃん化しているのだと思われる。 オークランドのCBD(都心)にさえ行かなくて、新しく出来た(国営の)アートギャラリーにでかけたり、デパートメントストアのSmith and Caughey’s http://www.smithandcaugheys.co.nz/ に出かけたくらいで、到頭インド人たちの一大祭典であるDiwali Festival http://www.aucklandnz.com/diwali にも行かないで終わってしまった。 「都会に行かなくなったのは私と結婚して綺麗な人あさりをしなくなったからでしょう」とモニさんは怖いことを言うが、それは、わしの過去の素行を悪い方に誇張しているのだと思われる。 マンハッタンでは、ふたりで交差点に立っていて、向こう側にチョー美人の若いおかあさんがチビちゃんの手をひいているのを指さして、「あの子、面差しがガメに似てるな」と無表情につぶやいて、びびらせるのを得意技としたモニさんだが、最近は言わなくなった。 言わなくなったが、そのやさしい眼差しには、なんとなく、網走で努めあげて更生した前科者を見守る目の光のようなものを感じる。 ニュージーランドに欧州やアメリカから移民してきたひとたちのExpatサイトや個人のページ、ブログを見ると、全篇呪詛の言葉に満ちているのが普通である。 仕事がない。 ニュージーランド人は思っていることを正直に言わない。 知性への敬意も興味もない。特に理論的なことにおいて想像を絶するくらい無関心である。 どこの他国へ旅行に行くにも遠い。 それらのお決まりの不満に加えて、アメリカ人たちは、 「家がセントラルヒーティングでないなんて信じられない。 窓もダブルグレージングではなくて、ただの一枚のガラスである」 読んでいて、ぬはははは、と思う。 知らなかったのか。 愚か者めらが。 連合王国人ならば「ニュージーランドに移民するということは収入が5分の1になることを意味している」くらいは、よく知っている。 80年代の「失業率より就業率で就職状況を示した方が数字が小さくて見栄えがいいのではないか」と言われたほどの、ものすごい「仕事のなさぶり」からは脱したが、いまでもニュージーランドは「世界一仕事が見つからない国」である。 先進国のなかでは珍しいくらい、とよく書いてあるが、わしはむかしからオーストラリアやニュージーランドを先進国だと思ったことがないので、いつも読んでいて「前提が間違っておる」と考える。 わしガキの頃は、遊びに行った果樹園に物理学博士号をもった季節労働者(りんご拾いのパートタイムです)が3人もいたりして、アイザック・ニュートンとリンゴの玄妙な縁に感じ入ったりしたが、いまも同じようなものでコロンビア大学の学生ならばパートタイムのアルバイトにファッションモデルをやっていると思われる容姿のオークランド大学の学生が、このあいだ家に遊びに来て話していたら、バイトが「チェリー摘み」だった。 どうも、あんまり状況は変わっていないよーな気がする。 おまけに天気が悪いことスコットランド並みである。 わしは南島のクライストチャーチ郊外にある「牧場の家」で雨が地面から降ってくるのを発見して「きゃあ、スコットランドみたい。なつかしい」と言って、かーちゃんに同意してもらったことがある。 雨が空から降ってくるような柔弱な土地に住んでいる日本の人には判らないと思うが、スコットランドでは通常、冬の冷たい雨は地面から降ってくる。 強風でふきあげられた泥水が顔と言わず身体と言わずバシャバシャあたって、ずぶ濡れになる。 南島も同じで冬は雨がスコットランドの古式に則って、ちゃんと地面からふりつける。 「ガイジンは少しくらいの雨なら傘をささないって、ほんとなんですね」と、雨のなかを傘なしで歩くわしを見て述べた東京人の若い女びとがいたが、それは当たっておらぬ。 クライストチャーチにいるあいだに雨の日に傘をさすという行為の無益さを身体が学習して、習慣がなくなっただけのことである。 のみならず道のまんなかに出来た巨大なみずたまりを渡るかどうか逡巡しているとポプラの木が折れて倒れかかってくる。 風でふきとばされたシェッドのトタン屋根が、人類を救いにあらわれたガメラのごとくクルクルと回転しながら空を舞ってやってきて、首の高さを高速低空飛行をする。 … Continue reading

Posted in Uncategorized | Leave a comment