中廊下

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いまでもあるのかどうか判らないが、初めて日本に来た頃、箱根小涌園のスパに連れて行ってもらった。
温泉を利用した暖かい水のプールがたくさんあるところで、ちょうど秋で、
妹とかーちゃんと3人で温かい水のプールに寝そべって、頭上の紅葉とその向こうの雲が低く降りて天井をつくっている空を眺めるのは、びっくりするような楽しい体験で、日本のひとは頭がいいなあーと考えたりした。

岩やブッシュをうまく使った屋外のプールとは別に屋内には25mのプールがあって、前世はアンドンクラゲなのではないかと言われるくらい泳ぐのが好きなわしは、かーちゃんと妹をおいて、ひとりで泳いでいた。

プール脇で大学生らしいワカモノがガールフレンド相手にふざけている。
ちょうど日本のテレビに出てくるコメディアンたちのようなタイプの演技でプールサイドで足を滑らせたまねをしてプールの水に落ちるまねをしている。
近くによると危ないので、周りで泳いでいたひとは泳ぐのをやめて見てます。
水から勢いよくプールサイドにもどると、また、同じことをしてふざけている。
ガールフレンドは、なんだかわざとらしい笑い方で笑っている。
監視員が、笛を吹いても聞こえないのか、という調子で、「あぶないからやめてください」と注意している。
ワカモノは、「あ、ごめんごめん」という。
見ていて、ちょっと驚いたのは「ごめん」と言い終わるか終わらないかのうちに、また、同じことをして、ふざけて、水のなかに飛び込んだ。
あがってくると、監視員が、先刻より強い調子で注意すると、「ごめんごめん」と機械のように述べて、またすぐに水へ、と繰り返して、冗談のほうは、どこが面白い、どういう冗談なのか見ていてよく判らなかったが、都合5回ほど繰り返して、飽きたらしく、すたすたと戸外へふたりで肩を並べて消えてしまった。
この小さな出来事は、なにがなし、異様な印象のある出来事として、ずっと後までときどき思い出して嫌な気持ちになった。

有名な人で、会社の役員というようなこともしている公人なので、名前をだしたほうが理解の便宜がいいと思うが、2ちゃんねるの「元管理人」である「ひろゆき」という人はとても面白い人だと思う。
世の中の権威をハナからバカにしている。
自分が主宰するサイトの違法性が問題になって民事訴訟が起きたときに、「ひろゆき」さんが取った方法は社会の側の権威を「無視」することだった。
憶えている限りでは出廷もせず、その結果賠償を命ぜられても払わなかった。
税金も同じで、日本の税務署の無能をついて、書類の上でだけシンガポールに会社をつくって、そこが運営していることにしてしまった。
驚くべきことに、税務署も警察も、小手先というほどのこともしない、ただそれだけの工夫で手も足もでなかった。
その事件いらい、税務署や警察というような権威のマヌケぶりを納得して、国=バカ、という図式を頭のなかにつくったワカモノを、たくさん見て知っている。
「ひろゆき」さんの日本社会への功績は「日本という国家など肩をいからせて怖そうにしているが無視しつづければただのマヌケなのだから、バカにしてかかればいいだけである」ということをワカモノたちに身をもって教えたことだろう。
ひろゆきさんが身をもって示したパフォーマンスで日本のワカモノは、ああだこうだとうるさい日本社会の「権威」からかなり心理的に自由になった。
年寄りたちは、「あんなことをやっていて、いまに国の復讐にあって青くなるに決まっている」と愉しみにしていたが、いまに至るまで、ひろゆきさんは、格段の税金も払わず、お咎めもうけず、自由の身で、マヌケぶりを天下にさらしてボーゼンとしている日本国家を尻目に悠々と暮らしている。

ニュージーランドでは5万ドル(420万円)の滞納税金が払えずに自殺した人がいてニューズになった。
責任感が強い人で、オーストラリアで起こした事業に失敗した上に離婚して養育料も払わねばならず、一日に2つの仕事をこなして懸命に働いたものの、到頭、力がつきてしまったかっこうだった。
ニュージーランド人たちが、この出来事を知ると、(あたりまえだが)IRD(税務署のことです)に対して怒り出して、激しい弾劾の声が起こったが、IRDの「われわれは自分たちの仕事を手続きにしたがってすすめただけです」という冷淡を極める声明で騒動は終了してしまった。
彼が「ひろゆき」さんの行き方を聴いたら、どう思っただろうか、と考えた。

アメリカのIRS(アメリカの税務署)がひろゆきさんのような事例を許す、ということは絶対に考えられない。
だからアメリカのほうが良い、と言っているのではなくて、日本には日本社会特有の「ゆるさ」があって、ひろゆきさんという人は、その日本独特のゆるみの間隙をうまく利用しているだけで、文化の相違であるにしかすぎないだろう。

あるいは日本にあるフランスの会社のデザイン・マーケティング部門で働いているTというひとは、奥さんの妹(イギリス人です)がわしの友達なので、二度ほど六本木や青山で夕食を一緒に食べたことがあった。
楽しい夕食が終わって、クルマで送ってもらえることになって後部座席に乗り込むと、なんだか紙の束がある。
これ、なんですか?
と訊くと交通違反の罰金通告書の束だそうで、あらためて訊いてみると、Tさんは何百という交通違反の通告書をいっさい無視して、なにもしないのだそーだった。
「逮捕されたりしないんですか?」
「日本なんか、規則規則ばっかりなので、まともに相手にする人はいませんよ」
というので、へええええー、と思って感心した。

枝の向こうに隠れていたUターン禁止の標識に気が付かずに、モーターバイクでUターンして横須賀の警察に罰金を払わされたことをおもいだして、「払わなくてよかったのか。損した」と吝嗇な気持ちになったりした。

守れない規則をたくさんつくってゆくと、人は萎縮するのが初めの反応だと思うが、その次にくる反応は「無視する」ことだと思う。
考えてみると必然だが、しかも、選択的な無視ではなくて、頭からの、と言えばいいのか、法体系や社会秩序のまるごとの無視になるはずである。
それを体制の側で急速に克服しようと思えば通常国家主義になることも歴史が教えている。

わしは自分を「テキトーな国に住んでいる、テキトーなひと」と定義しうる。
妹はよく、「おにーちゃんの隣に座っていると、耳をのぞきこんで向こう側が見えるから便利だ」と観察の結果を述べるが、ふだん、なにも考えてないし、ボートに乗って海をうろうろしていたり、裸足でぺたぺたと昼ご飯を食べにでかけたりして、そもそも文明のなかに住んでいるのかどうかも判然としない。

ニュージーランドは法律が極端に少ないので有名な国で、たとえば「正当防衛」というような先進国ならばどの国にもある法律がない。
自分の家に強盗がはいって、襲いかかられたのでびっくりして力加減を忘れてぶちなぐると、傷害罪で法定に立たなければならない。
その他にもいろいろと必要な法律が足りない国で、義理叔父友達の日本の人が「こんなんでは先進国と言えないではないか」と怒っていたことがあったが、聴いていて、「ははは、ほんまじゃんね」と考えた。
もっとも、オーストラリア、ニュージーランド、というような国を「先進国」であると考えた事はいちどもないので、特に新しい指摘だと思わなかったが。

先進国どころか、日本の人から見ると「国」に見えないのではないか。
(いま変換したら「ないか」が「内科」になって、面白いのでそのままにしようかと思ったがマジメな話をしている最中なので自重する)
日本ではあまりにたくさんの人が外国人の誰彼を並べて「親日外国人」「反日外国人」と議論が喧しいので、これは面白いかな、と考えて、親NZ外国人や反NZ外国人のリストをつくって遊ぼうかと考えたが、遊びの下品さとは別に、どうも反NZって、どういうことだ?という疑問が生じて、挫折してしまった。
羊が嫌いだ、とか、そのくらいしか思いつかなかったからです。
いつか「牧場の家」に遊びに来たアメリカ人のおっちゃんが、顔のまんまえで牛にでっかいおならをされて、顔を真っ赤にして激怒していたが、反ニュージーランド、というのは、ああいうことかな、と考えているうちにバカバカしくなってやめてしまった。

ずうううっとむかし、子供のときに調べてみて「サウジアラビア」が「国家」ではないことを知ってぶっくらこいてしまったことがあったが、
ニュージーランドなども、よく考えてみると、なあんとなく南のはしっこにぶらさがっている島であるにしかすぎなくて、ほんとうは国なのかどうか、イギリスでは不公平でいやだった労働者階級のひとびとが、2万キロを帆船で航海して、途中で遭難しておっちんでしまったり、餓死しそうになりながら、へろへろになってたどりついて、ドビンボな生活をいまに至るまで営々と続けて来た絶海の孤島(誇張ではなくて、最も近いオーストラリアまで2200キロあります)にしかすぎないので、「法律」とか「規則」と言われても繁栄したヒマ人が趣味で作るものくらいにしか感じなかった。

日本という規則や法律が猖獗して、やたらいっぱいあって、ほとんど社会の瘴気のようになっている国と、法律が足りなくて裁判をやるのにも困ったりしているマヌケなニュージーランドのような国があって、これが両方とも人間の社会なので、おもしろいなあ、と思うのです。

(画像は某学院の中廊下ではなかろうかと思われる)

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