奇妙な友人

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前に「世界は一家、人類は皆兄弟」は「八紘一宇」の口語訳だが、と書いたら、
知らなかった、気が付かなかった、ガメ、なんでおまえはそんなことを知っている、といくつか旧知のおじさん友達たちからemailが来て、驚いてしまったことがある。
日本では誰でも知っていることだとばかり思っていた。

笹川良一という人は面白い人で、初めは山本五十六に「面白い奴だ」というので(日本語特有の薄気味悪い表現だが)「可愛がら」れた。
たしか山本五十六の手紙を携えて中国大陸に飛行機で私的伝令に行ったりもしていたはずだが、1939年には、いよいよ公然と山本五十六に後援されて単身飛行してベニト・ムッソリーニに会いに行きます。
70年代80年代のバブル経済期を通じて、テレビのゴールデンタイム枠を買い取って、自ら画面にあらわれ、「世界は一家、人類は皆兄弟」と述べた。
ジェシー高見山が一緒だったり、作曲家の山本直純が共演したりした、という。
何度か現実の老ファシストを目撃したことがある義理叔父によると、小さな小さな人で、黒いおおきなクルマの後部座席で、萎びたような、信じられないほど小さな身体で、死人のような顔色の顔を緊迫させている姿をみるたびに、ケイト・ブッシュの有名な歌を思い出したそーである。

日本に関心がある外国人には「Sasagawa」の名は、馴染みがある。
日本の言語や文化の敷衍に熱心とは到底いいかねる日本政府にかわって実質的に日本文化普及活動を行っていたのが、いまは「Nippon Foundation」という名前の「Sasagawa Foundation」だったからで,総務省、外務省、文部科学省、地方自治体がやっていることになっているJETプログラムにしても、笹川良一のポケットマネーなしでは、どうにもならなかったことは外国人で日本語や日本文化に関わる人には常識であると思う。

1974年のタイムのインタビューで自分は「世界で一番カネモチのファシストである」とオオマジメに述べた、この笹川良一という人は、安倍晋三のじーちゃん、すなわち、当時の首相岸信介に、「このままではアイゼンハワー大統領の訪日が取り止めになってしまう。なんとか治安を維持する方法を考えてくれ」と泣きつかれて「一千人の抜刀隊」を組織して、そのなかには吉本ばななとーちゃんの吉本隆明もいたはずの、労働者や学生たちのデモ隊を血祭りにあげてやると胸を叩いた人と同じ人です。

中国の「国父」孫文が中国にいられなくなったときに、この漢族の再興を願った民族主義者は、当然のように逃れる先として日本をめざした。
英語世界では話しても孫文が日本に渡ったこと自体を信じない人が多いが、ひとつには
漢民族と日本人の精神的距離はいまよりずっと近いものだった。
のみならず2番目の奥さんは大月薫という日本の人で、感心できたことではないが、愛人のなかで最も愛したのも浅田春という名の日本の女びとだった。

この性的に放縦で金遣いの荒い革命家を心身両面で助けたのは、宮崎滔天、頭山満、内田良平という3人の右翼たちでした。
内田良平はインド独立運動のラス・ビハリ・ボースも右翼国家主義理論家の大川周明とともに助けている。
ラス・ビハリ・ボースは連合王国の圧力に負けた日本政府によって国外退去を命令されるが、やはり右翼活動家の相馬愛藏によって匿われる。
チョーくだらないことを書くと、いまでも売っている日本初のインドカレー「中村屋インドカレー」は、ボースが相馬愛藏の店である中村屋に隠れているときにつくってみせたカレーのレシピが元で、もっとくだらないことを言えば、銀座のインド料理屋の老舗「ナイル」は、このときに日本の右翼たちとインド独立を画策したA.M.ナイルが1949年に開店したインド料理屋です。
http://www.ginza-nair.co.jp/history.html

いまの日本人の目でみると一見して奇妙に見えるのに違いないのは、孫文やラス・ビハリ・ボースを右翼の大立て者たちである、宮崎滔天、頭山満、内田良平というようなひとびとにひきあわせたのは「憲政の神様」リベラル人犬養毅であることで、「大アジア」というキーワードなしで歴史を辿る人たちにとっては、混乱するというか、滅茶苦茶というか、単なる思想的惑乱にすぎないように見える可能性もある。

日本語学習者にとって日本の政治史をベンキョーするときの困難は、まず日本において最も社会主義的主張をもっていたのが帝国陸軍将校たちであったことで、左翼のなかでも(思想的に)最も正統的な左翼が最も右翼的な国家主義組織のなかに内在していた、ということの奇妙さにうたれてしまう。
社会主義であるはずの陸軍の外の活動家はコミンテルン的、というべきか、ソ連の出先機関のようなもので、到底(日本人から見て)革命的と呼ぶわけにはいかなかった。

このブログでもSNSでも何度も「日本には西洋的な意味における左翼も右翼も存在しない」と述べたのは、要するにそういうことで、日本においては右翼も左翼も、もともと「アングロサクソン支配」に対抗しうる政治思想と、その実質としての暴力装置(たとえば国家)を希求する運動だったので、ともすると左翼であるか右翼であるかは、「アングロサクソン支配からの独立」をめざすための「効率」の問題にしか見えないことすらあった。
政治勢力として目指す目的が左翼と右翼と同じものだった。

右翼と左翼は、したがって、アングロサクソンの圧力がインドから日本に至るアジアに対して強まるたびに、たびたび手を結んで助け合うことになった。
日本の政治思想史で最も深刻な問題である「転向」の背景には、そういう事情もあるのだと思います。

たまにはマジメに政治のことを書いてみるべかなあー、と思って書き始めて、いつものことでも、もう飽きてしまったが、
新大久保の「韓国人殺せ」「日本から出て行け」という「右翼」のデモを観ていると、「日本の右翼も到頭ここまで落ちぶれたか」と考えて、やるせない、というか、日本語をベンキョーしてきた人間として、ひどい失望の気持ちにとらえられてしまう。
理論的には石原莞爾と大川周明のふたりがいるくらいのもので、しかも不備極まりない、例えば石原莞爾を例にとれば、どちらかといえば日蓮宗を下敷きにしたSFのような趣のものになってしまっているが、それでも日本の政治思想史で独創的なものは丸山眞男や吉本隆明よりも正統右翼の思想の系譜以外には存在しなかった。
八紘一宇が暴力装置を獲得して起こした「大東亜戦争」の結果をみれば、それが通常日本語世界で認識されているよりは遙かに危険で反人間的な思想であったのは明かだったが、しかしニーチェ的な理性の立場に立てば、思想としてはたいへんに魅力があるものになる余地があったのだ、と言えなくもない。

それが大アジア主義どころか、自分達のゆいいつの近縁者である韓国人を相手に憎悪をぶつけているのでは幼児以下、目もあてられない愚かさで、西洋人にあれほど憎まれた日本人の世界にただひとつしかない歴史認識はどこへ行ってしまったのかと、うんざりしてしまう。

若い中国人たちと話していると、かつて日本人たちが抱いていた「反アングロサクソン支配の志」は、いまは中国人たちに受け継がれている。
北京大学卒業生を中心とした新毛沢東派のひとびとと話していると、自由主義を内的動力として民主主義を外的政治体制とした西洋諸国家とはまったく異なる文明認識を中国人たちが意識して作り始めているのが判る。
不幸なことに新毛沢東派の有名な「第一に政治外交でなすべきこと」は「日本と日本民族の殲滅」なので日本の人にとっては、なんだか落ち着かない感じがするだろうが、あのひとびとは、実は明治維新以来の日本の大アジア思想の正統な後継者なのである。

笹川良一が死んだ直後、ほんとうに老右翼が死んだのを確認するようにして、それまで恭謙に笹川につかえているようにすら見えた日本政府は、主がいなくなった笹川家を急襲して強制捜査する。
ちょうど、その頃、世界じゅうの日本語学校や、日本文化所以のひとびとが、あの「奇妙な友人」笹川良一の思い出を語り合っていた。
日本というこの世界に特殊な思想の最後のきらめきが、不正と暴力と人間性の否定という服をまとって、世界中のひとびとに惜しまれながら消えていったことを、わしは、なんだか象徴的なことであるように考えることがあるのです。

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One Response to 奇妙な友人

  1. カイセー says:

    >いまは「Japan Foundation」という名前の「Sasagawa Foundation」
    下記を見ると
    http://www.nippon-foundation.or.jp/who/history/01.html
    笹川(ささかわ)が作った財団は今の Japan Foundation (国際交流基金)ではなく Nippon Foundation (日本財団)であるようです。

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