148

1 (77)

Robin Dunbarは「人間が安定した関係を維持できる他人の数の上限は高々148人である」と述べている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dunbar%27s_number
英語世界では広く受けいれられている理論で、いまよりさらに洗練された近い将来のSNSが拡張しうる「安定維持できる」知人の数の上限が500人程度になるはずだ、という理屈は、この(なかなか面白いおっちゃんでもある)Robin Dunbarの算定を元にしています。

言語がお互いの固有な自己の伝達に向いていない、というよく考えてみれば現代人にとって深刻な事実は、特に歴史的な知識やさまざまな仮説について知らなくても、自分が考えていることがどの程度相手にそのまま伝達することが出来るか、を観察していれば極く自然に納得される。
たとえば、そうではない、自分はあなたがただ好きなだけで、見返りなどは求めていない。
あなたは現実の世界にそんなことがありうるとは信じてもいないようだが、わたしはあなたと幸福に暮らしたいどころか、今日いまこのひとときにあなたがおだやかに笑っている顔を見ていられればいいだけで、ただこの瞬間が欲しいだけで、明日からもう会えなくなってもいい、というきみの気持を、相手に伝えようと決心したときの、現実上の困難、身もだえするようなもどかしさを想像してみればよい。

普段、人間がお互いの意思の伝達にたいした苦労を感じないのは、実は真剣に相手に自分の考えを相手に伝えようとおもっていないからで、人間の会話は通常、ばーちゃんがやっている煙草屋にじーちゃんがやってきて、「いつものセブンライトください」と言うと、
ばーちゃんは「はいはい、セブンスターですね」と述べてマイルドセブンを差し出す。
じーちゃんが「ありがとう」とていねいに述べてオカネを払って立ち去る、という光景に似ている。
相手がAAと述べると、聴き手は自分の言語領域を覗き込んでA’A”を発見して、照応させて、ああこれのことだな、と考える。

言語のこの性能の悪さは、だから言語をお互いの社会的関係に使用すると人間が決めた理由が「お互いに理解しあうため」ではなくて、単純に言語に伝達機能らしいものを持たせないと、人間関係に時間をとられすぎて生活そのものが成り立たなかったからであると思われる。
ダメでもないよりマシ、というか、もともと伝達機能など言語には期待されていなかったと信じられる理由がある。

第二次世界大戦の頃、antisemitismや個人としての人間の自由と全体社会の発展の対立というような、おおげさでもなんでもなくて、直截に自分達の世代を含めた人間の未来を決定する議論が深刻を極めたとき、人間は初めて、自分達の言語的なエキスパートたちをもってしても、そもそも議論というものが成立しない、というそれまで予想されたことがない困難に直面した。
W.H.Audenが、有名な詩句、「We must love one another or die」を「We must love one another and die」と変えてしまったことは前にもブログ記事に書いた。
https://gamayauber1001.wordpress.com/2012/07/09/love-each-other-or-perish/
あるいは全体社会の発展と民族の「高貴さ」の発揚が、個人の「わがまま」に遙かに勝る人間の義務であることについてラジオを通じて語りかけた「巧みな詩人」エズラ・パウンドは、戦後長いあいだ文字通り沈黙して、ようやく1970年代になって口を開いてこたえたインタビューで、その理由を
「なぜなら人間の言葉は通じないから」と簡明に述べた。

人間の絶望は、人間が(半ばは生物的条件から)社会のなかでしか生きられないのに、個人として独立した小宇宙を形成してしまった人間は、自分というものを社会の他のメンバーに伝達する方法がなくて愕然とする、という悲惨な事実に由来している。
寄り添って、旅行先で撮った、ふたりが並んで微笑んでいる写真を眺めたり、朝、めがさめて、そっとのばした指の先に相手のあたたかな身体が触れたり、というような通常意識されているよりも遙かに本質的な「覆い」を取り去って、むきだしの人間の生活だけを突きつけられれば、(日本では自殺者の数がよく問題になるが)人間は自分で自分を殺しさって、この凄惨な世界から立ち去ったほうがよい、と考えない方が不自然なのであると思う。

言葉の厳格な意味においての個人主義は人間の社会では実現することができない。
それであるのに、たとえばフランス人が「個人主義」のみをよすがに一生を送っていける秘密は、「148人」に上限が限られた個々人が安定して居住できる「社会」の意外なほどの小ささにある。
次にこの148という数字のタイトルで戻ってくるときには、まず、その話から始めようと思います。

This entry was posted in Uncategorized. Bookmark the permalink.

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s