勇魚が沈んだ海で

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国際司法裁判所が日本の「科学的調査捕鯨」を不当としたことで最も打撃をうけたのはシー・シェパードのポール・ワトソンだろう。
この、英語世界では「ならず者」イメージでとらえられているシー・シェパードのボスが、鼻つまみ者に近い印象にも関わらず、殆ど興業じみた日本の捕鯨への妨害や、あまつさえ、テレビの人気シリーズにまでなって、元はファッションモデルの美しい妻と結婚し、いわゆる「セレブリティ」のひとりになって巨額のオカネを稼ぎ得たのは、「あの男はどうしようもないが、日本の破廉恥なウソツキぶりを考えれば、やむをえない」という太平洋諸国の、英語人的な現実主義によっている。
簡単に言えばポール・ワトソンは日本政府が行っていた調査捕鯨自体の「ウソ」に寄生していたようなものだが、宿主(しゅくしゅ)がいなくなってしまっては、これから先やっていける見通しがない。

もともと提訴した当時のオーストラリア首相ケビン・ラッド自身が勝訴するとは考えていなかった。
政治的には在任末期は「行きすぎだ」という世論に押されて対中国投資規制策に動かざるをえなかったが、「ケビン・マオ」と言われて茶化されたくらいで、明然と中国贔屓だったケビン・ラッドは、見え隠れする「日本こそが有害な国なのだ」という秘匿された(それでも口にして言われないだけで誰でもが知っている)政治家的な信念にしたがって、日本の、根拠が子供だましと呼びたいくらいにインチキな調査捕鯨を絶対に許さないというオーストラリア人の総意を明瞭に示すために、元外交官らしい「外交ジェスチャ」として訴えたのにすぎなかった。

アメリカは以前に書いた「ヒラリー・クリントンの奇妙な提案」
https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/01/24/ヒラリー・クリントンの奇妙な提案/
に従って、対中国への結束や南太平洋におけるアメリカ=ANZAC同盟の強化のために巧妙に日本の太平洋人全体をうんざりさせている虚偽にみちた日本の科学調査捕鯨を存分に利用した。
「反調査捕鯨をアメリカ=ANZACのシンボルにする」というヒラリー・クリントンの巧妙で天才的と呼びたくなるほどの外交的ひらめきは、見事に奏功して、本来はニュージーランド人がおもいついた「小国間貿易協定案」に過ぎなかったTPPに、ほぼ無理矢理加盟してTPP自体の意味をおおきく変えてしまうことによって、新しいスタイルの「アメリカの太平洋支配」を確立してしまった。
https://gamayauber1001.wordpress.com/2013/03/17/tpp/
これによって仮に日本が将来もういちど繁栄することがあっても、太平洋では孤立した孤独な国家として、小さな列島に政治的には押し込められることが保証されてしまったので、日本は捕鯨によって太平洋における政治的未来を失ってしまう結果になった。

公開文書で日本政府を弾劾してしぶしぶ現実を認めさせたのはイタリア人たちだけだが、日本はもともとIWC加盟国にたいへんな金額をばらまいて調査捕鯨への賛同をとりつけてきた。
それ自体は、日本の人の口吻をまねれば「誰だってやってることじゃないか」で、特にどうということはないのかも知れないが、少し目を離して距離をとって、国際政治的観点からこれを眺めると、自己の省庁の権益という当事者の役人にとってのみ重大なことで、日本全体にとっては国益どころか日本という国と民族自体への信頼をまるごと破壊するために「裏金」を動かした国というのは歴史上も珍しい。
(日本語の意味ではなくて英語の意味の)正真正銘のサボタージュで、しかもそれを政府自体がやってのける、という例は、もしかしたら歴史のどこかにはあるのかもしれないが、聞いたおぼえはない。

近代遠洋捕鯨の直截の淵源は戦後の食糧危機に際してGHQが本国に緊急食糧支援を依頼して断られたことにある。
窮地に陥ったGHQのなかの知恵のあるものが、
1 日本には復員した旧帝国海軍軍人が大勢失業して腕を撫している。
2 戦前戦中に培った造船技術と熟練職工が健在である
ことに目をつけて、赤城や加賀の機動艦隊の代わりに捕鯨船団をつくってクジラを大量に捕獲すればどうか、と提案して採用された。
GHQの号令一下、日本人はあっというまに船団を組み上げて、むかしは主砲塔で測距儀をにらんでいた海軍砲手が、今度は銛打ちの砲の後ろに立つことになった。
遠洋航海は船にのらない人には想像もつかないほど難しい技術だが、まして艦隊行動となると、たとえば一流のスキッパーでも伝統に裏打ちされた知識がなければ、たとえば現今の中国海軍のような、いまできの海軍では10000キロ航海など望むべくもないが、八紘一宇の狂気に駆られて、オーストラリアの庭先、珊瑚海でまで大海戦を行った日本人にとっては、朝飯前の仕事、お茶の子さいさい、玄関先で靴紐しめるほどのやさしい仕事で、南太平洋をクジラの血で染めて、意気揚々と日本へ大量の「タンパク源」を持ち帰ったものだった。

捕鯨問題の全体はこのブログの初め頃になんどか書いた。
そのたびにわけのわからない人が集団でやってきてうんざりしたが、もう時効だから述べると、特にオーストラリア=ニュージーランドで、ただ同胞の船団がこの両国の裏庭の海にきてクジラを殺しにやってくるというだけのことで、夏のシーズンになれば面罵され、難詰されて、子供達にいたっては殴られて大怪我をするのが捕鯨期の毎年の行事となっていたオーストラリア=ニュージーランド在住の日本のひとびとが気の毒だと考えたから書いた。
あるいは都会ならば当の日本の人に面と向かって言わなくても、陰ではずいぶん酷いことを言うおとなたちがいたのをおぼえている。
毎年、毎年、日本人に対する、ウソツキ、恥知らず、野蛮人、という評判はつみあがっていって、到頭、(証明はされず犯人と疑われる4人組は無罪放免になったが、町の噂では)殺されてエーボン川に浮かんでいた日本人留学生も、捕鯨が理由だったというにいたって、日本語で捕鯨が日本の外交的評判を落とすことにしかならないこと、このまま行くと少なくとも南太平洋から日本は完全に影響力を失うことを書いてみようと考えた。
それがもともとはゲームブログだったこのブログ記事が政治的なことにまで言及するようになった初めで、結果はさんざんで、他国の伝統文化に口をだすな、から始まって、おまえらはキリスト教かぶれなだけだからそんなことをいうのさ、果てはニセガイジンに違いないがあらわれて、零細ブログであるのに、いまに至るまで6年間しつこくあちこちであの手この手で中傷誹謗を書きまくるストーカーまで、あらわれて、日本人友達に「有名人みたいで、すごいじゃんw」と笑われる原因をなした。

当時、心配した問題は、悪い事に現実になって、ヒラリー・クリントンの提案は発展して、日本は遠からず太平洋の同盟自体から外されることになるだろう。
同盟内にとどまる唯一の方策は憲法第九条を捨てて片務軍事同盟を正常な双務同盟に組み直して、かつてベトナムで韓国人が日本人の身代わりのように戦って多くの発狂者をだしながら辛酸をなめたように、アフガニスタンや日本近海、あるいはマラッカあたりまで進出して、アメリカ人と肩をならべて戦闘を戦うことだろうが、いずれにしても、クジラを捕る我を押し通すために払う代償としては、桁違いどころか、次元違いに高いものについてしまった。
日本はおおげさに言えば調査捕鯨を強行して、太平洋でも持っていたものを、なにもかも失ってしまったに等しい。

日本は国際司法裁判所で敗訴が確定するとたちまち、「それでもわれわれは調査捕鯨を強行する」と発表して、さっそく太平洋沿岸諸国の憤激を買ったが、しかし、政治的には、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドといった諸国は、日本の調査捕鯨を利用しつくしたので、もうあとはどうでもいいのだとも言える。
気が付いている人もいるだろうが、慰安婦問題、南京虐殺、重慶無差別爆撃、というような「日本が絶対に認めない戦争犯罪」に目を付けて、「ヒラリー・クリントンの奇妙な提案」が捕鯨に担わせたのと同じ象徴的役割を、東アジア人たちは「日本が絶対に認めない戦争犯罪」に負わせようとしているが、日本は今度は調査捕鯨のときと違ってうまく対応するだろうか、とときどき考える。

日本人には自分で自分を徹底的に煽って、アドレナリンがふきだした状態で、相手への憎悪を、しかもなぜか相手には伝わるわけがない日本語でわめきちらして、すっかりその気になって自滅する面白い国民性があるが、また、そうならないといいけど、と思います。

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