Summer Wine

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夏になれば飲み物も変わる。
ニュージーランド特有の質量をもっていそうなほど強烈で透明な午後の太陽の光が反射する芝を眺めながら飲むSauvignon Blancはニュージーランドで生活する楽しみである。
日本にも岩牡蠣があって、たとえば有楽町のFCCJ(外国人特派員協会)のバーから通り越しに見えるサトー製薬の「サトちゃん」の気温計が37℃をさすのを眺めながら白ワインと一緒に食べるのは東京らしいスリルも味わいもあったが、ニュージーランドにはClevedonの牡蠣があって、生で、あるいは天ぷらにして食べる。
タルタルソースでもおいしいが、ホワイトビネガーで食べると、ぶっくらこいてしまうほどおいしい。

10月になって、もう昼間(ちゅうかん)は夏で、緑の洪水のような自分の家の庭のなだらかな広がりと、白アンチョビと牡蠣の天ぷらを肴に、よく冷えたSauvignon Blancやロゼを飲みながら午餐ができあがるのを待っていると、夏だー、と思う。

日本では、ババリア人の影響なのだろうか、ビールは夏ぽい飲み物で、ビルの屋上ででっかいマグになみなみと注いで、一気に飲み干して、口の周りに泡をくっつけて「ぷはああー」というイメージがあるが、イギリスやニュージーランドでは、(最近はアメリカ人の影響で変わってきたけれども)どちらかという寒い天候のイメージがある飲み物で、飲み方も、半パイントのビールをふたつの手のひらで抱え込んで、ちびちびと飲む。

どこかで聞いたことがある人もいるだろうが、若い欧州人がワインを飲まなくなってひさしい。
週末になればダンスクラブに繰り出して、ときには裸になって踊り狂うクラブカルチュアのせいで、ワインは見捨てられたように飲まれなくなって、ジンとウォッカが取ってかわった。

20歳くらいの頃は、クラブのフロアで、グラスから飲むのがめんどくさくなって、ウォッカを瓶からラッパ飲みしたりしていたが、酔いの刺激は強烈で、まるまるひと晩の記憶がないのは普通のことだった。

ワインのほうはといえばお行儀のよい社交の道具で、初めて行く超高級レストランで、Tシャツとスニーカーのチョードレスダウンででかけて、なんとなくバカにした態度のウエイターおっちゃんも、テイスティングの仕草を確認すれば、いっぺんして悔い改めた態度になって、うやうやしくなる、というような下品な世界に属している。

母親がロシア人の女の友達の家のパーティに出かけて、スウィミングプールに古典的な飛び板がついているのをおもしろがって、バク宙で飛び込んだり、二回ひねりで飛び込んだり、しまいには60年代のサイコーにクールな映画「Harper」に出てくるローレン・バコールの娘のマネをして、ツイストで踊り狂ってみせて、くたびれはてて、カウチに深々と座り込んで、半分ねむっていたら、パーティのホステスが、やってきて、これを飲んでみろ、と冷凍庫からとりだしたばかりの、ロシアの、見たことのないラベルのウォッカの瓶をもって立っている。
「飲み過ぎたから、いらない」というと、両手を腰に当てて、
「ガメ、きみは、わたしのウォッカが飲めないというのかね」と、ふざけて述べる。
ふざけてるけど、どうやらこれには、このチョー美しい高校生の女びとの栄誉と誇りがかかっているようだ、と理解して、その氷よりも冷たい液体を一気に飲むほすと、凍った炎がのどを通過するようで、ウォッカという飲物の素晴らしさを理解したのは、そのときが初めてだった。

酒も飲み過ぎると興味がなくなるもので、この頃はもとにもどって、おとなしくワインばかり飲んでいるが、ときどきジンやウォッカを飲むと、モニさんと結婚するまえの、ろくでもない、でもおもいだすと、心臓を小さな棘でちくりとさされたような、感情でないもので涙腺を刺激されたような、不思議な気持ちになる。

分厚いコートを丹前のように着込んだばーちゃんふたりが、冬の朝のバルセロナの舗道にだしたベーカリーのテーブルに向かい合って座ってスペインのあのはちみつを塗ったクロワッサンとカバ(スペインの発泡酒)でおしゃべりに熱中している。
グラシアのカーサブランカがあるのとは反対側の端っこにある坂道の途中で、
「ガメの道順はわかりにくいなあー」とつぶやきながら、あの坂道をハモンショップに向かって歩いたjosico はんは、もう少し坂を先までのぼっていれば、このベーカリーの前を通ったはずである。
ベーカリーのテーブルでカバを飲むのはヘンだが、あの近所の人はいまでもそうしているに違いない。

カタロニア人のマネをしてporron
http://www.worldwinder.com/2013/01/17/drinking-wine-from-a-porron-in-spain/
からワインを飲むのが、グラシアにいるときの、ぼくの、モニが笑いながら顔をしかめる習慣だが、モニさんは笑っても、不思議や、バルセロナにいるときには、porronのみでないと赤ワインはおいしくない。

英語人のぼくには俄には信じがたいほどカッコイイ名前のカタランのガールフレンドと一緒に日本の四国島に住んでいるルークは、porron飲みが出来るかしら、と考えて、あのなんだか途方もなく無垢な魂のオーストラリア人ルークも、日本語世界の薄汚さに嫌気がさして日本語を使うのをやめてしまっているのを思い出して、ちょっと酔いがさめる。

カバでつくったサングリア

や、イチゴやオレンジやグレープを、これでもかこれでもかこれでもかといれた裏通りの料理屋のおばちゃんがつくってくれるサングリア、
バルセロナには夏の飲物がたくさんあって、やわらかい、それでいて爽快な飲み味を思い出すと、バルセロナがなつかしくなる。
グラフィティだらけのシャッターが降りた、夜更けのバルセロナの裏通りを歩いて、そこにだけ人恋しさの光が射しているような小さな広場に面した一角に出ると、
「Bona nit」
「Adéu」
カタロニア語の、少し誇りがこもって浩然とした響きが、あちこちで壁に反射している。

落ち着いて考えてみると、もうあんまり日本語の側に立って日本語と関わっていてはいけないのだな、と考えたのは、日本語に名物の、訳がわからないくらい理由もなく失礼なひとたちや、これと目を付けると、ほとんど永遠につきまとって、あれこれと秘術をつくして中傷を述べ続ける不思議なひとびとに嫌気がさしたというよりも、日本語人と世界への関心のもちかたが根本から違うからなのではないかと思いあたった。

あれ以来、ここまででたくさんの友達の日本の人が指摘してきたが、集団サディストたちも、突然やってきてひとつかみの悪罵を投げつけて自惚するらしいひとたちも、どうやらほんとうに「他人の視線」が自分をまで決定するらしい。
「自分が楽しければいいんじゃないの?」
ということはなくて、日本語人にとっては
「他人から見て自分が楽しんでいるようにみえる」ことのほうが大事なよーにみえる。

聡明であることよりも他人から見て聡明に見えることのほうが、あるいは、正しいことよりも他人から見て正しく見えることのほうが大事で、日本の人が話しかけられると、話題によらずに、なにがなし慌てたように大急ぎで返答するのも、そういうことに関係があるようにおもえる。

日本滞在中に、正午ちかく、山の家の裏の森に出したテーブルですっかり酔っ払って、
「あああああー、気持ちええだ、いえーい」とツイッタで述べたら、
間髪をいれずに
「昼間っから酒が飲めていい身分ですね。ほんとはリストラされたオヤジなんですか?」
と述べてきたひとがいて、チョー日本人ぽいと思ったが、
ときどき日本の社会が30年ほど前の過去に猛烈に繁栄して、この先の未来にも、また繁栄が待っているかもしれないのは、つまりは日本社会の非人間性のおかげで、いざとなれば一致団結して人間であることを捨てられる崇高な国民性のせいで、いまさら特に文句を述べなくても、こちら側の文明に手出しをするのでなければ、別にいいのではないか、という気がする。
個人にとっての自由主義といえど、欧州人とその系属以外にとっては、たくさんある社会のありようの選択肢のひとつにすぎなくて、「いまは便利だから便宜として『自由』を信奉しているだけ」だからです。
狂信的に自由を信仰する西洋人とは異なって、あくまでも相対的な価値である。

日本の社会を模倣することによって出発した、紛れもない全体主義国家のシンガポールが次第に西洋諸国家に受け入れられつつあるように、日本も人間性などは看板建築の看板として掲げるだけの全体社会主義国家として生き延びていくことは十分考えられて、その姿勢が「伝統文化」として当の日本人に圧倒的に支持されている現況では、外からとやかくいうことではない気がする。

カリフォルニアの先人が南アメリカ人とは異なってサマーワインに蜂蜜をいれるのを好んだのは、それが本質的にはどれほど苦い飲物だったかを知っていたからではないかとおもいついて、
笑いたくなるような、泣きたくなるような、人間のどの感情からも少しずれた感情がわいてきて、もう少しウォッカを足さなければ、
これからの夏は過ごせない。

あーあ。

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