「中立」という病

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真人は仕事をすると行為から来た迷妄が生じて真理を見誤るという。
大庭亀夫が荘子を読んで思いついた仕事をさぼるための冗談だが、多少の真実が含まれていなくもない。

日本の人はなぜか「中立」が好きである。
右でも左でもない。
上でも下でもない。
不偏不党。
わたしは誰の味方もしません。

新聞は、「われわれは中立的立場で報道している」という。
政府の味方でもないし、右翼でも左翼でもない。
天秤のまんなか、目盛りをずうううっとたどっていくと、(プロでないと見つけるのが難しいが) ほら、小さな金文字で「中立」って書いてある目盛りがあるでしょう?
その目盛りの刻みの上に片足で、バランスをとって立って、記事を書いて、木鐸を鳴らしている。
葬式の木魚ではありません。
縁起でもない。
一緒にするなよ。
おれらは社会のエリートなんだから。

驚くべき事に日本では不動産屋まで売り手と買い手のまんなかで「中立」です。
お売りになるかたも、お買いになるかたも、どうか安心して私どもにおまかせください。
弁護士なんて、下品なものはいりません。
公正中立。
正直商売四十年。
信用第一。利益は二の次。
誰の味方かって?
そりゃあ、あなた、わたしら不動産屋は正義の味方に決まってらあ。
さっさと手数料払って帰れよ。

社会が上から下まで中立に凝りまくった結果、真人だらけ、
なにもしない人がいちばん偉い社会が出来てしまった。
誰かが反原発というと、反原発の気持ちも判るけど、原発なしではエネルギー足りるかなあー、足りない場合はどうするの?
他の国ではスマートグリッドやってますけど、と若いもんが述べると、
おまえは現実を知らんやつだなあー、いまの松永体制、発電送電一本で停電ないんだよ?
ボロい送電網しかないアメちゃんのマネしてオタオタしてどうするの?
いまのままでいいじゃない。
新しいことやって失敗したら、おまえのクビはもちろん、おれの椅子も危ない。
来年はおれ次長なんだから、余計なことはやらんでくれよ。

「これまでダイジョブだったことは、これからもダイジョブ」は日本のお役人のモットーで、たとえば石油は昔から鉱業課で「このまま行くと石油がなくなる」と憂慮する若い課員がいて、レポートを書いて出しても上長は、「おまえは心配しすぎる。石油はいまはなくても掘れば出てくるとむかしから決まっておる」という。
わかりました、と恭しく了解して、引き下がったが、なんとなく面白くないので、酒席で、でも課長、ほんとに石油でてくるんだったら原子力のほうと整合性ないじゃないすか、と疑問を述べてみると、課長さんはニッと笑って、「あっちはまた別のストーリーなんだよ」と不思議に答えて、
「ここはな、薩摩揚げがうまいんだよ」と、すましている。
酒杯のなかで課長と課員の赤い顔が揺れている。

社会のありとあらゆる隅っこで、中央で、下のほうや上のほうで、なにもしないための不断のたゆまぬ努力が続けられ、なにもしないためのありとあらゆる理屈が形成され、喧嘩をされるとなにかの弾みで勝敗がついてしまう、勝敗がついてしまうと何事か新しいことを始めなければならなくなるので、あらゆる喧嘩は下品だという社会常識が醸成され、ひいては議論も喧嘩みたいなものだからやめたほうが上品だということになり、なにもしないで、まるでボルドーのワインを品評するように政治を品評するひとたちが賢いということになり、理屈にはあっていないが反体制は左翼で体制支持は右翼で、どっちもどっちで、両方うさんくさいと思うのが知的態度で、すべては「絆」で雁字搦めに縛られて、動的な現代という海で身動きもならなくなって、コンクリを足で固められた、もう二度と悪態をつけなくなったやくざたちのように海底深く沈んでゆく。

誰か、勇気がある人、あるいは根本的にKYな人がやってきて、
「この世界に中立なんてありゃしませんよ。なに夢みてるんですか?」
と日本社会のまんなかで言ったと仮定すると、

1 無視する
2 西洋かぶれとみなす
3 ニセガイジンなのではないかと糾弾する

のどれかの反応になると思われるが、現実は、中立などは、言葉遊び、幻の最たるもので、神様ですらなにが中立かよくわからん、とスコラの昔から述べられているのに、現代国語が3だった実力で、中立などを気取るのは、はなから間違っているのではなかろーか。

中立をめざすという考えは実は「自分の考えを他人の考えとの連関において決定する」という日本語人の無意識の癖に拠っている。
たとえば富の配分なら富の配分ということについて、右から左まで、完全な自由市場競争から統制経済まで、自分はあの辺の椅子に座って考えるのがいいな、というような「状況が決定する自分の位置」から始めて考えるから「不偏のまんなか」という不思議な考えが生まれてくる。
何かを非難する声が起こると、反対の方向にバランスをとる「いや曾野綾子さんにも良いところがたくさんある」式のことを矢も盾もたまらず言いたくてたまらなくなるのは、「中立が賢い」という思いと「見渡して意見のバランスが悪い」という思いで頭がいっぱいだからである。

前に述べたように「他人の目のなかに自分を置いて」考えてはダメなので、
他人がいないところで、落ち着いて、自分がなにを考えているかを知らなければ、およそ「意見」などは持つだけ心配なことであるし、「考える」と言っても、それでは読んだ本のアンソロジーが頭のなかに生じているだけのことで、いかにも勉強しない人が学究を気取るような、あるいは出来の悪い子供が クラスの自分が憧れる秀才をまねるような滑稽を演じることになる。

考えるときに、自分のまわりにスペースをつくって考えるのはとてもとてもとても大事なことで
「明窓浄机」は書斎に限ったことではない。
なにもない、さっぱりした心の部屋に座って、頭のなかを鎮めて、そこから現れてくる考えのなかから「ありゃあー、これはなんだ?」と思うものを掬ってくるのが良い。

他人はどうでもいい。
自分は自分さ、というチョーふつうな考えが日本語ではたいへん持ちにくいことは英語と日本語を往復できる人ならすぐに判る。
銀座のとんかつ屋ではない梅林とは言っても、我が友るーくのように、日本語でアイーダさんのことを考えたり英語でアイーダさんのことを考えたりしている幸せなタワケの場合は、どっちで考えても同じようなものだと思うが、それは特殊な場合で、ふつうの人は英語で考えているときは、他人がどう思っているかは考えてないと思う。

自分以外のものの視線を感じないわけではないが、あの視線は「他人」とは異なるひとのものだろう。

自分の二本の足で立っていって、さまざまな答えのない疑問を訪問するためには、「中立でありたい」というような迷妄は邪魔でしかない。
右でも左でも、同じことを考えている人がたくさんいても、自分ひとりしかいなくても、どうでもいいじゃない。
自分の頭で考えて、こういうことだろう、と認識した宇宙以外には、あるいはもう少し精確に言うと、その認識以外には、この世界には現実は存在しない。
たとえそれが金魚鉢の内側から見た歪んだ世界に過ぎなくても。

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3 Responses to 「中立」という病

  1. Aya says:

    ガメさん!どうもありがとう。

  2. freebody says:

    >「いや曾野綾子さんにも良いところがたくさんある」

    どうしてここで曾野綾子さんを思いつくんだろうとニヤニヤが止まらない私(笑。

  3. Luke says:

    ブログでカッチョよく登場したるーくでやんす。

    「中立」という病を呼んでまず一番に思ったことは、わしはなんてアイダのことを愛しているのだろう。。。。

    ではなくて、(おほんっ)、
    ガメさん、アイダですぞアイダ、アイーダではありませんw

    日本の「国語」の時間に書いた文章とオーストラリアのEnglishのクラスで書いたWritingの先生がつける評価の違いについてです。大学入試の時の小論文とやらを除いては日本では中立の立場がもっとも高評価であったと記憶しています。個人の意見が尊重される国、立場を明確にするのが好きな国、いや、個人が意見をもつことに責任がある、明確に意見がない人間に価値なんてないのさと思っている国で育った身としては不思議だった記憶がある。

    日常的にも「違うかもだけど」「他の意見の人もいるだろうけど」「批判を恐れずにいうと」「間違っていたら申し訳ないのだけど」などなど中立に述べるのが正しいと思ってる人が日本には多いんだなと思わせる表現がありふれている事もこのブログを読んで気づきました。これらの表現は全部中立の病からきてるんだろーなー

    大変っす

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