Daily Archives: July 9, 2015

今夜、酔っ払って

ぼくは自由がある町に育った。 その町では、ぼくが子供の頃は、同じ肌の色の人間ばかりが住んでいて、強い仲間意識があって、知らない人同士でも目が合えば話をするし、ベーカリーで財布を忘れていることに気がついても、「次のときでいいよ」と言われたものだった。 空気がやわらかくて、都会だというのに人間は皆親切で、一度トンブリッジウエルからの帰り道、とても気持ちが悪くなって道ばたで休んでいたら、ホテルのなかから女の人がやってきて、紅茶をいれたから休んでいきなさい、という。 コージーもちゃんとかかっているポットからなみなみと注がれた紅茶は魔法の薬のようで、利いて、子供だったぼくはあっというまに気分がよくなってしまった。 でも、それは「白人」のあいだだけのことだったんだよ! 人種差別の意識は、たいていの場合、悪意の人がもっているわけじゃない。 いつもは親切なベーカリーのおばちゃんが、 一緒にサンドイッチを買いにいった店先で、従兄弟に「あなたはアジア人の子なのに、ずいぶん行儀がいいのね」という。 心からの親切。 「ああ、おとうさんが日本人! だからなのね、日本人はアジア人のなかではいちばんマシだもの」 「わたしにはアジア人の友達もいるの、マレーシア人の、それはそれは働きもののワカモノで、フィッシュアンドチップスの店で働いている。 あなたたちは大歓迎ですよ。 あんまり、たくさん来なければね」 ほがらかに笑いながら述べるおばちゃんは、ぼくがそのあいだじゅう、思い切り怖い顔をつくって、ずっと睨み付けていたことにすら気がつかなかった. ぼくは自由が有る町に育った。 その町では、いまは、日曜日のカフェに腰掛けてモニとぼくが最高な味のエッグベネディクトとベーコンとフライドバナナとブルーベリーが載ったパンケーキにメープルシロップをどっちゃりかけて、いい匂いがするメープルシロップと農場の草の匂いがするベーコンがデュエットして、なんだか小さな椅子にのせたお尻がひとりでに踊り出してしまうようなブレックファストを食べてから店をみまわすと、カリブ海からやってきた肌が褐色の男の人と金髪で明るい灰色の目の女のひとが、緑色の目で、ちぢれた髪の、天使のように美しい赤ちゃんをあやしている。 ブロークンイングリッシュで日本人の若い男と、中国訛りの女の子が結婚式の段取りを話している。 (13日の金曜日がいちばん安いから、その日にしようとふたりで意見が簡単に一致しているのでモニとぼくは目を見合わせて、ニッと笑っている) ベーカリーで財布を忘れると、見るからに無愛想なベトナム人のおばちゃんが、やってらんないという顔で、出直しておいで、という。 見知らぬアフリカ人と目があうと、お互いに目をそらす。 そう。 この町にも、ほんとうの自由がやってきたのさ。 きみは自由がある町に育った。 日本の東京という町だよね。 ぼくは、きみが育った町にいたことがあるんだぜ。 その頃には麹町というところに住んでいて、いちばん近い駅は四谷という駅だったけど、親の家のクルマに乗っけてもらって、ぼくは原宿という町にでかけるのが好きだった。 そこにはキディランドというサイコーな店があって、一日いても飽きないんだよ。 恵比寿には「トイクラフト」という店もあって、ぼくはそこでいかれたゴジラのラジオコントロールの模型を買ったことがある。 表参道はスケボーで下りて行くには最高の道なんだ。 手に、「ママチャリ」のベルを持って、いとことふたりで、リンリン鳴らしながら、歩道をジャンプしたり、車道にでて、クルマにつかまって楽ちんをしたりするのが大好きだった。 (よく運転してるおとなに怒鳴られたけどw) だから、ぼくはきみが自由がある町に育ったのを知っているのさ。 きみの町には「カイシャ」というナチの本部みたいな場所や「ガッコウ」という兵営があるのも知っているけど、それでも、きみは塾へ行くという口実や、最後の手段は、窓からぬけだして、または、そっとマンションのドアを開けて、スペシャライズドや「宮田」の自転車に乗ってもう暗くなった夜の町にやってくる。 ロシア人の売春婦のおばちゃんたちが現れだした鳥居坂の上で待ち合わせて、青山の「ボチシタ」を歩きながら、モンキーズやフルーツガムカンパニー、チャンバワンバに、クラウディッドハウス(!)まで知っているきみとよく話したよね。 外苑まで行くと、まっくらな銀杏並木の道に英語しか話せない韓国人のユンヘンが待っていて、いとこと、ぼくたち4人でよく笑いころげたものだった。 あれから、なにがあったか知っているかい? ユンヘンのボーイフレンドは徴兵を拒んだまま自殺してしまった。 きみはトーダイにすすんで、いとこは合格したトーダイには行かないで、パスポートをひとつに選べといわれて、日本のパスポートを捨ててしまった。 ぼくは「黙ってれば、わかりゃしないんじゃない?」と言ったんだけど、いとこはマヌケなくらいマジメなので、おもいつめて、明け方泣きながら電話をかけてきて、ガメ、おれは日本人をやめるんだ。 … Continue reading

Posted in Uncategorized | 6 Comments