愚かなひとびと

citymoonlighting

Eastridge Shopping Centreは、まわりにおおきなモールもスーパーマーケットもない住宅地のまんなかにあるので、いつも人がおおぜいいて混み合っている。
週末は広い駐車場の、ビルから遠いところまでいかないと駐車スペースがないことまである。
この頃は朝方の気温は5℃くらいでかなり低いが、太陽がでると、初夏の陽光の実力をうかがわせる強さで、気持ちがいいので、たくさんクルマが並んでいる。
「トラック」と呼んでいるでかいクルマを駐めて、降りると、ニュージーランド名物のバカガキのでかい声、どこまで「名物」がかかっているのか判らなくて曖昧な気持ちになった人のために詳述すると、バカガキとバカガキのでかい声の両方にかかっている名物の甲高いアホ声で叫びあっているうるさい集団の方角をみて、かすかに眉を顰める、温和で成熟したおとなの自由市民である憂愁を含んだカッコイイわしの横顔。

あ、あそこにいる。
バカまるだしで飛び跳ねている。
アホは歩くことすらふつうにやれんのか。
なんつー知性を欠いた声じゃ。
ぶわっかたれめらが。
第一、魚籠のなかの魚のようにぴちぴち跳ねてピンピンしてるのに
そこは身体に障害を持つ人々のための駐車スペースだろーが。
混んでるからって、横着しおって、
ぶわっかぶわっかぶわっかのぶわっかたれめらが。

心のなかでつぶやいた声が、はっきり聞き取れるとでもいうように、モニがわしを見て、くすくす、と笑っておる。
アフリカ人の食べ物ではなくて、日本語の擬態語のほうね。
今週はネガティブ発言禁止令を自分に対してくだしてしまったので、f***とかb***** m*****とか言えないので、チョーくるしい。
息がとまりそう。

若アホだけの集団かとおもったら、ひとり、いかにもマヌケな顔をした中年男が混ざってさえいる。
よくある手だのい、と定評のある観察眼を光らせる、わし。
ミセーネンにとってはチューネンはIDカードを持っているのでboozingするための酒を買うのに便利である。
中年のほうは未成年の女の子が十分酔っ払って、ピルもまわって、ストーンドになったところでエッチが出来るから便利である。
英語社会では、よくある共生で、ほとんどヒメレンゴケな生物学的カテゴリをなしている。

キャッハッハッハと飛び跳ねていたかとおもったら、クルマのなかに向かって、おい、はやく出てこいよ、おせえーなあー、おまえは。
みんなでさきに行っちまうぞ、と述べている。

なんだか無理をしているような、奇妙に明るい調子の、どこまでもケーハクな口調で、…

クルマから、髪の毛がごっそりぬけて片方の鼻孔にチューブを挿した14歳くらいの男の子がでてきた。
猛烈なやせかたで、まるで風でふらりととんだハンカチのような歩き方です。

仲間達が、おーい、ダイジョブか?
と、相変わらず、無理をしているような明るい声で、…無理をして…
そーか、だから、あんなふうに奇妙で人工的な明るさだったのか。

トロいわしは、やっとそこで目の前でなにが起きているか悟りました。
近づいてくるにつれて、病院の施設や看護のひとびとの名前が混じった会話の内容も聞こえてくる。

この若いひとびとは、みなガンやなんかの病の末期の患者で、「助からない」と知っているひとびとであるよーでした。
マヌケな顔の中年のおっちゃんは、週末の休みをつぶして、若い患者たちを病院からひっぱりだしてモールにつれていこうと考えた、医師なのだった。

ヴァンから、最後に出てきて、下を向いて地面を見つめて、ひとりだけ思い詰めた、真剣な顔をした若い女の人は、看護の人であるらしい。

奇妙な明るさも、やたらと飛び跳ねる奇矯なふるまいも、少しでも残された「健康な時間」を楽しみたかったからだった。

真剣に生きていれば、だいたい20歳くらいになるまでに、神がいかに残酷かを人間は理解する。
善行をつめば幸運で頭をなでてもらえたり、残虐で冷酷な人間が必ず報いをうけるのは、人間の切ない知能がでっちあげたインチキで、しかもかなり出来のわるい神様にしかすぎなくて、現実の神は、善行をつもうが、悪行にはしろうが、そういう人間の願いのこもった都合とは関係なく、どんどん人間の魂をぶちのめして、棺のなかの弾痕のある息子の胸をさすりながら悲嘆にくれる母親や、恋人をうしなって崖のうえにたたずんで足下の海を見ている女のひとびとをうみだしてゆく。
ときに天災を起こして、何千人という人間を老若、善悪、男女の委細をかまわずにあっというまに殺してしまう。
確率という概念のなかに沈潜した神をみいだした神秘主義者のフランス人は、「人間は考える葦」だと述べたが、 神のほうからは、人間が考える葦であろうが、石ころであろうが、ほとんど等価にしかおもえないものであるらしい。

それは神が定義から言って、人間の数百倍の語彙をもつ、しかも知覚できる現実事象の見え方にひきずられないで出来たシンタクスをもった、険しい岩山のような巨大な知性であるはずだからで、神にとっては人間の旧式な電気信号と化学物質の分泌に頼っただけのささやかな大脳など、反射しか起きない中枢神経系とたいして変わらない存在にすぎないからでしょう。

人間はただ愚かさによって神の酷薄さにたえうる。
愚かさだけが、神を驚かせる。
このひとを愛すれば自分は必ず破滅すると知っていながら恋に落ちる。
砂浜で乱射された機関銃弾から妻をまもるために大柄なからだで妻のからだを覆って蜂の巣にされる。
自分たちのなかまを殺しにやってきた戦車の車列の前に、素手で、興奮すらせずに、ただ、そうしたいからしているだけさ、とでもいうように、ぼんやりと立って、たったひとりで手を広げて戦車隊全部を止めている。

人間の救いがたい愚かさをみるたびに、神は、おそれ、あおざめて、
なぜ愚かさが自分にこれほどの衝撃を与えるのかについて考え込んでいる。

転びかけたやせた男の子にモニが手をのばして身体を支えている。
中年の医師おっちゃんが、ていねいな英語で、お礼を述べています。
若いひとびとも口々にモニさんにお礼を言う。

わしは立ちすくんで、微笑むことすらできずに、一部始終をみていた。
人間の愚かさについて、なぜ人間が神の酷薄な知性よりも高みに達する可能性をもっているかについて考えている。

光よりも透明な、愚かであることの勇気によって。

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2 Responses to 愚かなひとびと

  1. academylane says:

    It’s always dreadful to take my daughter to the Royal Children’s Hospital to see a pediatrician, pediatric psychiatrist, geneticist, pediatric endocrinologist, blood test, etc etc. Managing to find a disabled parking spot, walking through the revolving door, and there she goes – running off the big hallway, screaming to hear the echo of her own voice, rushing towards an ice cream shop or a hospital kiosk. After draining energy, physically and emotionally, at a boot camp called medical consultation, back to the hallway chasing my daughter, we run past kids – kids on wheelchairs with ventilators, IVs, or tubes of all sorts. Suddenly, the echo of my daughter’s scream turns into rejoicing of life. So I always end up buying her a scoop of ice cream at a shop next to the entrance.

  2. snowpomander says:

    いまちょっとここにて:人の言う「神」の概念と「神」のごとき自由意志とを包括している「全存在の容認」の慈悲があるが故にと、私は思う。
    ある人々には特定の信仰があり、その中で是非を問いだすと「神」に因果を押し付けたくなる。あるいは自己を卑下し高次の存在への至らなさに卑屈な恨みを抱く。自分のお気に入りの神様で都合が悪ければ他所の神様のせいにする。責任や原因の追求先と八つ当たりの相手にする、そのために実体のないプランG「神」を創造する。
    「神」の概念を哲学的思索の叩き台として扱うのも一興ではあるが、「何故」を解明する役には立たない。「何故」と問うとき自分の思い道理にならない苛立があるから、私は自分はいったい何をどうしたいのだろうと省みることにしている。たとえそれが残念な事態であっても何故の世界を脱出するほうがよいから。

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