きみとぼくがいる場所

BCN87

難民のひとびとについて自分がどんなことをしている、というようなことをわざわざ公表する趣味はないので、そういうことに触れるつもりはないが、仕事を通じて関係があることについて述べるのは自分の頭にあることをまとめるためにも有益とおもえなくはない。
数人の知り合いを除いては自分にしか読めない日本語だしね。

難民用のアパートはすでに満員で、たとえばニュージーランドならステートハウスと呼ぶ国の住居とは別に、借り上げて、アフリカ(例:イエメン)からの難民の人々とその家族に住んでもらうために用意するが、まだ目途は立っていない。
ただでさえ住居不足で、不動産の値段も家賃もものすごい勢いであがっているところへ、これまで限界いっぱいまで受け入れてきた世界各地からの難民に上積みされる形で、シリアからの難民のひとびとを毎年受け入れることになったので、どうやって解決するんですか?ということになっている。

ニュージーランドは人口が400万人しかない国なので田舎に行ってもらえばよいのではないか、という人がいるが、それはダメ案で、ではシリアの人がニュージーランド人でも職がみつからないような、たとえばレヴィンに越して、どうやって定着するのか。

やはり都会のまんなかに近い、出来れば難民に対する偏見が概して少ない富裕な人間が多く住む住宅地の外縁にアパートを見つけて、家主と交渉して、政府が借り上げるべきで、都会に近い所でも貧困地区の近くに借り上げると、必ずヘイトクライムが起きてしまう。

英語を話さない家族の場合、経験的に言って、初代はたいへんでも、二代目は返ってもともと住んでいる人間よりも優秀で、要するに、最悪の最悪、初めの20年を社会が支出して支えれば、難民でやってきたひとびとの立場から考えて、なじみがない上に、なんだか取り付く島がないような社会でうんざりでも、一応、このままこの国に住んでいてもいいか、という程度には考えてもらえるようになる。

初代はどうかというと、おおきなコミュニティがあるエスニックグループ(例:四川人、タミル人)ならばそのなかの互助システムですんでしまうことがあるが、ビジネスを始めるのに銀行によらないマイクロ金融が必要で、なにしろマイクロ金融に手をだした投資家は倒産してしまう人が多いので、需給が逼迫している。

…なんで、こんなことを考えているのかというと、さっきからドイツが発表した「80万人」という数字を観てうなっているからです。
うー。

移民を受け入れるためには社会全体に啓蒙や経験が必要で、欧州系ニュージーランド社会で言えば自分たち自身が比較的新しい移民であるのにイギリス人とアジア人南アフリカ人を中心とする新移民を、うまく受け入れられるようになるまで、まるまる10年かかっている。

主な問題はミスマッチで、たとえば中国では医長で、かつては大学一の手術の名人と言われていた外科医のおっちゃんが新卒医と一緒に資格試験を受けろと言われて、プライドを傷つけられて、怒って、引きこもり中年になってしまう。
やはりベテラン医師だった台湾人が窓ふきになる。
両方とも故国では試験を課する立場だったのだから、ニュージーランド社会の敬意を欠いた態度にぶちむくれてしまうのは、当然といえば当然です。

イラクでは歴史学の教授だった人がタクシーの運転手になる。
おおきな会計事務所の所有者だったシークのおっちゃんもタクシーを運転する。
才能の無駄遣いもいいところでも、では、こういう故国で出来上がってしまって成熟した才能をどう評価する試験方法があるのかと問われても、わからないので、ほったらかしのままになっている。

もともと国のほうで、いわば戦力増強のために他国から才能を、「うちの水のほうが甘いかんね」と甘言を弄してトレードしてくる移民にして、この才能の浪費ぶりなので、難民受け入れの難しさは言うまでもない。

Screeningという嫌な英語がある。
顔からしていかにもええかげんなジョン・キーという首相のおっちゃんが「シリアからの難民はちゃんとスクリーニングをするから心配せんでよろしい」と述べている。
なにを「スクリーニング」するかというとISの活動員が混ざってないか調べる、というのでしょう。

隣国のオーストラリアほどではないが、ムスリム友達と話していると、
モスクのなかではさまざまな問題が起きていて、オークランドでも、いつのまにか原理主義者が入り込んで、知らないうちに集会を組織している。
一般のムスリム人を追い出して指導権を握ろうとする。
それが繰り返しおきるからたまらないのさ、ガメ、やってられないよ、と溜息をついている。

ドイツ人はナイーヴ(←元の英語の意味)なわけではなくて、どんなに「スクリーニング」をおこなっても、ドイツ社会への破壊への意志と悪意を込めて送った「ファイター」たちが潜り込んでくるのを知っていて、それでも決断した数字が「80万人」であることを、世界中の人達が知っている。

実際の受け入れにあたる経験から言うと、情けないが、月100人でもたいへんな数です。80万人なんて、どういう自信のもちかただろう、と考える。
ドイツの、国家を挙げての人道への真剣さ、ナチ時代の自分たちの思想の全否定というメッセージを見ているほうは間違いなく受け取ります。
頭がさがる、というような生やさしいものではないよーだ。

久しぶりに会った友達の家で、お茶を飲んでいると、二階からえらい勢いで駆け下りてきた子供が部屋に飛び込んできた。
びっくりして階段のほうを観たら、「子鹿のような」と形容したくなる、おおきな目の、ドレッドロックスヘアの女の子が、客がふたりやってきていたのを知らなかったのでしょう、ぶっくらこいた様子でこっちをみつめている。
モニさんとわしが「こんにちは、how are you?」と日本の「英語通」のひとびとの権威に従うと、英語人は絶対に述べないはずの挨拶を述べると、はにかんだ、花が開くような笑顔で、なんだかうらやましくなってしまうような皓い歯をみせて、挨拶を返している。
この家の主人、つまりわし友は、金髪で明灰色の眼の独身の女びとだが、この人のふたりの娘は、アフリカ人です。
と言っても、もういまはもちろんニュージーランド人だが。

シリアの難民の話をしていたら、自分にももうふたり、今度はシリア人の娘が出来るといいが、独身の女では4人の養子は認めるのが難しいらしい、と怒っている。
なんだ、また娘なのか、息子ちゅうのもカッコイイんじゃないの?と言うと、
「男は嫌いだから」とあっさり言われてしまった。
臭いし、でかくて邪魔である。

人間は生き延びようとしている。
この毎年苛酷になってゆく地上で、なんとかして、どうにかして、みなで生き残っていこうとしている。
空を仰いで泣き叫ぶ父親や母親の涙でぐしゃぐしゃになった顔を、ひとつでも減らして、二カッと笑う、幸福な子供達の、美しい歯並の笑顔をひとつでも増やそうとしている。
自分にも、まだやれることがあるはずだ、と引き出しをあけて、あるいは貯金箱をひっくり返して、なんだかドイツのチャンセラー・メルケルのような厳粛な顔で世界地図を見つめている10歳の男の子供は、結局は、難民をうけいれたときの問題点や、コスト、国家のセキュリティの問題を挙げて、うけいれないためのありとあらゆる努力をする人間よりも、正しく世界を理解しているのだとおもう。
豚さんの貯金箱を抱えて、バンクオブニュージーランドへの道を駆けてゆく単純なバカガキは、きっといつの日か世界を救うだろう。

そう思わないとさ、たった一杯の紅茶をのむ手がふるえて、カップをうまくソーサーにおけないことがあるんだよ。

神さまは、いったいいつまで眠りこけているつもりなのだろう。

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2 Responses to きみとぼくがいる場所

  1. 故国では優秀だった人が…というのは日本でも散見される。
    たとえば私の専門分野の中国武術なんて、故国では政府から公式に表彰されたような人で、その界隈では優秀なことが国際的に知られてる人々がほとんど例外なく飲食店の皿洗いだったりに従事しなきゃいけないとか、ね。
    日本の場合はなぜか暴動に到らないのが不思議なんだけんども。

  2. nightonfool says:

    日本は何をやっているのか。
    他人事で全てを済ませようとするのは日本の悪い癖です。
    黒船以降も鎖国が続いているようです。
    中国政府が資本主義を限定的に(?)受け入れているのと何が違うのか、
    そのくせつまらないことでヘイトだなんだと愚かしい言葉が跋扈する。
    全体主義、事なかれ主義、国家社会主義(ナチズム)がここまで大きくなってしまった今、
    僕たちには声を上げ続けることしかできない。

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