日本再訪ノート_1

むかし、たしか2009年のことだとおもうが、ミキモトで店の人がモニのネックレスに見とれて、
「お嬢さんが身につけておられるような真珠は、もう美術館にしかありません。恥ずかしいことに私どもの店には、お嬢さんにお売りできるような真珠はないのです。
お母様からの贈り物なのですか?
どうぞ、大切になさってください。
世界にも、もういくつと数えるほどしか『ほんもの』の真珠は残っていないのですから」
と述べたことがあった。
六十代くらいのひとだろうか、その店員が、品のよい、職業的なプライドが感じられる人だったので、感心して、多分、ブログの過去の記事のどこかにに書いたのだとおもう。
海水の温度が上がってしまったので、真珠の質が落ちてしまったのだ、という説明だった。

モニが日本に寄ってミキモトに行きたい、と言い出したので、もうよい真珠はない、という話だったではないの、と言ってみたが、普段に使う真珠がもっと要るのだ、という。
結婚してからモニさんが願うことは100%現実にすることに決めてあるので、理由がどうであれ日本に寄らないわけにはいかなくて、日本に行くのならば、自分のほうは京都の寺町(本能寺があるところです)の美術店に用事がある。

ガメ・ドケッチと改名しようかと思っているくらいケチで、普段は、大好きな板チョコが¢50高くても、ぐっと我慢して次のスーパーマーケットに出かけるくらい吝いのに、やむをえないので、日本ではたくさんオカネを使って高速で移動できるようにした。
チョーおもろい自動ドアのタクシーが懐かしいが、おまえはマドンナか馬鹿野郎と罵る頭のなかの日本語の座敷牢に閉じ込められた大庭亀夫

https://gamayauber1001.wordpress.com/2009/03/29/cameo/

の遠い雄叫びを聞きながら、陸上の移動も、どうしても乗りたかった新幹線のほかは、すべてストレッチリムジンで行うことになった。

リムジンを二台連ねて、やたら目立つことになってしまったので、あるいは、目撃して、ぶっくらこいた人もいるかもしれません。

モニとふたりで、人形町の路地をうろうろして、店頭の、でっかいマグロの頭にひきつけを起こしそうになったり、やはり店頭で、おばちゃんが卵焼きをつくる鮮やかな手際に見とれたりする、むかしの、親密で楽しかった東京滞在

https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/11/20/hurdy-gurdy-man/

には及ばないが、たった三日でも、懐かしくて、特に東京は他の大都市に較べて変化が少ない町なので、まるであれからどこにも行かなかった人のようで、クルマの窓から眺める街並みに、ふと気がつくと涙がにじんでいたりした。

短い、社会の表面だけしか見えない日本再訪で、観察すべきこともしないで、「日本」という現実の上面だけをなぞる滞在だったが、忘れないうちに、考えたことを書いておきます。

2010年と較べて、最も目についたのは中国の人への悪口の凄まじさで、温和に見える人も、他のことについては公正なものの見方が出来るひとでも、中国と中国人への、敵視というしかない視線が強くて、そのことに驚いてしまった。

朝、日本のテレビは、どんなことをやっているかなーと思って、つけてみると、南シナ海の人工島の図を見せながら、いかに中国が世界に対して挑戦的な行動をとっているか、5人くらいのおじさんが、深刻な顔でうなずきながら危惧を述べあっている。

悪い人もいますから、というときに、「中国人のように」という表現を頭につける人が何人もいる。
人形町や日本橋のほうが昔の銀座のようですね、と言うと容儀のよい紳士然とした男の人が、
銀座は、もうダメですよ、行き交う人が変わってしまって、聞こえてくる声も日本語ではないのでね、驚かれたでしょう、と暗に中国からの観光客が街をダメにしてしまったと述懐している。

遠回しに、あるいは、面倒くさくなると直截に、中国の人はそんなにマナーは悪くないですよ、国家的な行動としても、中国のやりかたは、もうひとつの大国であるアメリカと較べて、そんなに酷いとは言えないと感じると述べてみても、頷いて聞いてはもらえても、顔に「そんなはずはない」と書いてある。

こちらから見ていると、これで中国と戦争にならなかったら不思議だと思えるくらい「中国人は悪い」という考えが浸透していて、なんだか台風が来ても中国共産党のせいになりそうでした。

例えば東北震災と福島の原発事故の話になっても、おおきな会社の役員であるひとたちが、口々に、
「でも日本の原発よりも中国の原発が危ないんですよ。
あんなものをたくさんつくって、事故になったら放射性物質は、みんなわたしたちの国のほうに飛んで来てしまう」と、まるで日本の原発は絶対に事故を起こさないが、中国の原発は確実に爆発するようなことを言う。
福島第一発電所の事故は、もう、なかったことのように考えられているようでした。

無理に頼んで、築地市場や、ダイエーや東急スーパーマーケットに寄って、売り場を巡ってみると、話に聞いていたのとは異なって県産表示が復活している。

青森県産、宮城県産、のホタテや牡蛎を、日本的な綺麗なプレゼンテーションで整然と並べて売っている。
野菜売り場には「福島県産」の野菜も並んでいます。
誰も福島県産の野菜を避けたりはしていないようで、返って価格が高いものでも福島県産のほうが多いようでした。

焼き鳥屋さんを始め外食チェーンでは「安くておいしい伊達鶏」が広く流通しているということも耳に残って、「伊達鶏」と云うのは福島県の太平洋側一帯で飼われている赤毛鷄のことです。

日本側で、日本にいるあいだの食べ物の手配をしてくれた人たちに聞くと、普通のことで、ガメさんはガイジンだから気にするのですよ、と笑っている。
家の側で食べ物のチェックをした人のほうに聞いてみると、なぜ、そんなに食べ物の産地に厳しいのかと訝られることが多かったという。
「ガメさんて、無頓着にみえるけど、やっぱりグルメなんですね」と理由を取り違える人もいたよーでした。

全国の駅弁を売っている店に行ってみると、どういう理由からか、たまたまなのか、以前に訪問したときとは配置が変わっていて、店の表には福島県産や宮城県産、青森、岩手と東北のものが置いてあって、そこから人であふれかえる店内の奥へ向かって関東、信越、北海道、九州と並んでいる。
北陸の鱒寿司のようなものは、いちばん奥にある。

もうひとつ観察していて目立った特徴は、電鉄やバス会社などの行政の力が強い会社が並営するスーパーマーケットは東北のものが多くて、ダイエーのような独立系の小売店には九州や中国産カナダ産アメリカ産の外国からの輸入のものが多い。

食べ物の手配をした人に聞くと、築地では細かに産地や流通を教えてくれたそうで、日本の海産物の産地に詳しくなってしまったと笑っている。

美術品や骨董は相変わらず、びっくりするくらい安くて、欧州のものでもだいたいオーストラリアで買う場合の半分以下で買えるところをみると、まだ景気が悪いのは明らかでした。
京都には「ハコイチ」という世界中で名の知られた美術運送会社があるので、安心して美術品を購入できるという理由もあるが、なんだか大量に買ってしまって、居合わせた人に「フランス人の美術商」というチョー頓珍漢な紹介をされたりして、おっちょこちょいな人が多い京都の人らしくて、可笑しかった。

「社会の表面をなぞっただけ」の旅行でも、モニとわしにとっては、ものすごく楽しい旅で、むかしよくふたりで散歩した国会議事堂前にも、湯島や根津にも行けなかったが、なんだか子供のようにはしゃいでいて、日本を発つ飛行機のなかでは、ぐっすり眠り込んでしまった。

ミキモトは改築中で別館だけの営業だって、とモニさんに述べると、まるで初めから知っていたかのように、あっさり「そうか、残念だな」と答えている。
ガメは、日本にいると子供みたいに嬉しそうだな、と失礼なことを言う。
日本はチリやアルゼンチンのワインがおおい。
料理のプレゼンテーションが世界一だよね。
店のひとたちのサービスは、相変わらず徹底していて、仲居さん、ウエイターやウエイトレスのひとたちが自分の職業に強いプライドを持っている。
もう世界では日本くらいなのかも知れないよね。
いちばん安いものと二番目に安いものの価格差がものすごく大きくて、日本での生活には不思議なくらいオカネがかかったのは、そういう所に理由があったのではなかろうか。
自動ドアで、物識りの運転手さんが多いタクシー、かっこいいのに乗れなかったね。
東京駅が帽子をかぶっているのが可愛い。
新幹線、静かで速いよねー。
あんなに静かな列車なのに、プラットホームだけ騒音地獄なのはなぜだろう?

モニさんと、ふたりで、たくさん、たくさん、日本の話をした。

ミキモト、残念だったね、と言うと、
モニさんは、いつものやさしい顔で、いつまでも恋人である人特有の、美しい微笑い顔をみせて、
また、この次があるよ、ガメ、と述べただけでした。

なんだか、またモニさんに、だまされてしまった。
だまされても、楽しいのだけど。

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2 Responses to 日本再訪ノート_1

  1. 柚実 says:

    もう更新されないのだろうかと半分諦めながらも一日一回朝に開くとやっぱり更新されていなくて、そうか、と思いながら過していたら、今朝は新しい見出しがあって吸いつくように読みました。
    日本に来ていたんですね。
    日本に、と書くと、沖縄とは違う国のように感じます。元々、沖縄に住んでいる人はもっとそう感じるのでしょうね。

    すごく親切な日本人や職業意識の高い日本人もいると書いてあるので、大多数の、良い意味でも悪い意味でも日本という国を動かしている日本人について書いているのはわかっているのですが、あまりに小さくて大勢に全く影響を与えなくてもそれぞれの方法で楽しみながらデモを続けている友人達がいます、と書きたくなりました。

    その友人達に勧められ、このブログが更新されない間に『帰ってきたヒトラー』『昔話とこころの自立』『チェルノブイリの祈り』という本を読みました。
    まず自覚しなければ、と思いました。自分達は自立から程遠いところにいる傾向がある民族なのだと、他のアジアの人達を下に見る傾向がある民族だし、大事なことをすぐに忘れて楽な方へと流れてしまう、と。
    ガメさんの文章を読むと、いつもそのことに気づかされます。

  2. マルス says:

    冒頭の真珠のエピソード、僕がこのブログで大好きな話のひとつです。
    まるで映画や小説の見事なシーンのようでいつまでも頭に残ってます。
    未読の方は是非。
    https://gamayauber1001.wordpress.com/2009/10/04/

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