日本語のたのしみ

IMG_8761

なんだか、ものすごくくだらないパーティだったので、20分もいないで、主宰のひとに挨拶を述べて帰ってきた。
ロータリークラブみたい、というか、「オカネモチの上品な社交を目指している人々」が集まるパーティ特有の、上滑りな、表層だけの文化性のデモストレーションをしあっているような見苦しさで、話しかけてくる人々も退屈で、招待状をゴミ箱に放り込まなかったことを後悔した。

結局、パーティにいるはずだった時間がまるまるモニさんとのデートになって、よかったと言えなくもない。
パーティには夕食もでることになっていたので、食事の予定もなくて、どうしようか、とふたりで話しあって、むかし出かけたことがあるオーストリア風のインテリアのレストランに出かけることにした。

ガメ、日本にいた頃のことをおもいだすな、とモニさんが笑っている。
英語国の欧州風に装飾したインテリアのレストランで、なぜ日本のことを思い出すのか怪訝におもっていると、
東京にいたときは、ふたりで、こんなふうに、あてもなく町を歩いて、予約もなしにレストランに入ったものだった、と言うので、ああ、と得心する。
モニも、あの気軽さが好きだったのか。

「スーパーお手伝いさん」のYさんには来てもらっていたが、なにしろ200㎡だかなんだかしかない小さなアパートで、住んでもらうわけにはいかないので通いで、むかしから風来坊で、訳の判らないビンボアパートに住んで、ひとりでフライパンをふるって暮らしていたりしたわしとは異なって、小さいときから家のために働く人とともに暮らしたことしかないモニにとっては、広尾山と軽井沢を往復する、ふたりだけの生活が、新鮮で、知らない人が聞いたら笑うだろうが、「人間って、こんなふうにも暮らせるのか」というほどの経験であったらしい。

マンハッタンの、汚いヴィレッジのアパートメントの地下で、クオーターを4枚突っ込んで、洗濯機を蹴っ飛ばしていたりしたわしとは、どだい、生活への概念そのものが異なるもののよーである。

モニさんにとって東京が「懐かしい町」なのは、そういうことで、ブログ記事にも書いたが、深夜の国会議事堂前で、まるでスカートにじゃれつくような銀杏の葉と一緒にスピンするモニや、人形町の路地で、ピンセットで江戸時代を探すような目でカメラを構えるモニをおもいだす。
https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/11/20/hurdy-gurdy-man/

鮨がおいしかった!
というようなことのほかは、たとえば軽井沢の「山の家」を出て、佐久の奥へ出かけて、舗装道路のまんなかに敷物をひろげて、シャンパンを抜いて、サンドイッチを広げてピクニックをした。
日本は面白い国で、観ればすぐにわかる、というか、一面、紅葉に覆われていて、何週間もクルマが通ったことがない立派な舗装道路が建設されている。
じめじめした森のなかの地面よりも、アスファルトで整地された、そういう道路のほうがずっとピクニックに向いていて、モニとぼくは、よくそこでピクニックをして遊んだ。

もうひとつ良かったのは、日本が統計上の、あるいは統計にあらわれない真の犯罪発生率がどうであれ、気分として安全な社会で、たまには具体的に述べればモニさんは、cmでいえば182cmかそこいらの身長のはずだが、靴をはくと187cmくらいで、そうすると、雲海に頭が出た人のようなもので、たいていの日本人は頭髪しか見えない。
わしとは異なってモニさんは失礼なことはわしにしか言わないので、まさか口にだしては言わないが、付き合いが長いことの良い点で、言わなくてもモニさんが時々笑いをこらえて「日本の人は小さいなあー」とおもっているのが判る。

モニは細こい人なので、ほんとうはどうなのか判らないが、物理的に日本の男びとを「怖い」と思うことはなかったようで、ばらしてしまうと、日本のお巡りさんが自転車をこいで移動するところまで「かわいい」と言って写真に撮ったりしていた。

日本が安全な社会であることは、やはり日本の宝であるとおもう。
深夜に近い日比谷線で急に「ガイジン、帰れ!」と言われて、殴りかかられたことがある。
蹴ったりもしていたが、なんというか、子供が殴りかかっているようなもので、腕をつかんで、日本語で「やめなさい」と述べていると温和しくなった。

あるいは、これもブログ記事に書いたことがあるが、泥酔して、新橋の裏通りの道路の真ん中に正座して、全裸で、下着から背広まできちんと角まで畳んで積み重ねて「申し訳ございません。わたしは酔ってしまいました」と深々と頭を垂れて道行く人びとに詫びている若い会社員がいる。

そういうことを思い出しても、日本はワンダーランドで、楽しかったなあーと思う。
上海に来いよ! 日本よりも、ずっと面白いぞ!
と上海で英語教師をしているエマ(←仮称)が述べている。
上海はサイコーだぜ、ガメ。
おれはインターナショナルスクールからあてがわれた「高級」マンションに住んでいるが、昨日は轟音で目がさめた。
なんだったか想像がつくかね。
階段が3階から11階まで、なんの理由もなく崩壊した音だったんだよ!
3階から11階まで!

おまけに、このコンドミニアムには共有プールがあるんだけど、作った奴が排水溝をつけるのを忘れたので、いつも空っぽのままなのさ。
ガメ、遊びに来いよ、こんなに面白い町はない。
小籠包、うまいぞ、と書いてある。

こういうことは、いつも、うまく言えないが、世界はどんどん変わっていく。
東アジアで言えば、いまはもう日本の時代ではなくて、香港や上海の友達と話していると、フォーカスが、すこおおおしだけ移動して、中国の都市やシンガポール、ペナン、というようなところに移動しているのがわかる。

日本は、だから、すっかり田舎になってしまったのかも知れないが、それでも、東京は、ぼくにとっては特別な町なのだから仕方がない、と考える。
20世紀が21世紀に変わる前のロンドンと同じで、ぼくが知っている東京はもう存在しないのかも知れないが、それはそれでいいか、という気がする。

2000年に東京へ5年ぶりに出かけたとき、「丸ビル」がなくなっていたのでチョーぶっくらこいてしまった。
あのビルの裏側には「サラリーマン竹葉亭」があって、本店ならば3000円ださなければ食べられない鰻重を、ときどき縁が欠けている丼にいれて、1200円で出していて、コミューナルテーブルに並んで鰻丼をかきこんでいるサラリーマンたちの姿が好きで、よく、せがんで、連れていってもらったものだった。

サンフランシスコの、Market St.の、猫がいつも本の上に寝そべっている詩集専門の店も、いつのまにかなくなって、マンハッタンの、ヴィレッジのスペイン語しか通じないがチョーおいしい南米料理定食屋も閉店してしまった。

世界はますます退屈な場所になって、わしはどこに行けばいいのだろう、と思い迷っている。

でも、町には「記憶」があって、わしの頭のなかの東京は、いつも懐かしい場所として、そこにある。
外国人特派員協会は、組織が崩壊したようで、「あんなところには、もういけない」とUS人ジャーナリストの友達が述べている。
でも、サトウ製薬の気温計が見えるテーブルがある、あのバーを忘れられはしない。

夢のなかで、モニとぼくは帝国ホテルから築地まで歩いて、汗がかけないぼくは、茹で蛸みたいにすっかり赤くなって、こんなに暑い道を歩いてきたのに、いつもと変わらない涼しい顔で、「ガメは、子供みたいだ」と笑うモニを羨ましくおもっている。
あの先には「元祖」吉野屋があって、定食屋の「加藤」や「岡田」があるが、いまになってみると、なぜ自分がそんなことを知っているのか不思議な気がする。

ぼくの日本語友達は、半分以上が、インターネットを通じてできた友達で、じゅらや、すべりひゆ、ネナガラや、なす、加藤勲や、なによりjosicoはんや、二次元趣味は嫌だが、自分が正しいと思った事は後先も考えず述べる豪勇のodakinや、病院の椅子に座って、静かに亡霊たちの声に耳をすます妖怪目玉や、新しくできた友達の「いまなかだいすけ」や、考えてみると、「日本」は自分のなかでは日本に住んでいたときよりもおおきくなっていて、それが、どういうことなのかは理解できなくても、なんだか、日本語をやっていてよかったなあー、と考える。

いまなら、あのパーティの会場で、ポリネシアの女びとたちのように、巻髪をして、スーツを着て、なんだか仏頂面で立っていたのが、わしです。
あの会場には、たしかに日本人の女の人だと思われる人がいて、じっとわしを見ていたので、あるいは、このブログを読んでいる人なのかも知れなかった。
少なくとも、モニはそう考えたようでした。

はてなを根拠地にしているらしい、日本人集団おやじトロルたちの中傷は、6年(!)経ってもまだ続いていて鬱陶しいことこの上ないが、日本語や日本人との付き合いは、まだまだ続くとおもう。

「そうではなくて、ぼくには日本人の友達たちがいるんだよ」と折りにふれて述べて、人々をぶっくらこかせる一瞬を、まだまだ楽しみにしているのです。

This entry was posted in Uncategorized. Bookmark the permalink.

One Response to 日本語のたのしみ

  1. morimorinaha says:

    ある種のSF小説を読んでいるみたい。自分の住んでいる東京とは別の町だな。生まれてから日本にウン十年住んでいるわけだけど、まだ全裸で謝罪している人は見たことがない。

コメントをここに書いてね書いてね

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s