オダキンへの手紙1

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魚臭いにおいがする地下鉄の駅の階段をあがって交叉点にでると、そこは日本で、なぜぼくは日本にいるのだろう、と訝っている。
たしかに東京の街角に立っているのに、空気は、ディーゼル排気で汚染された、大陸欧州の街の空気で、いがらっぽくて、すれ違う東アジアの顔つきのひとびとを、でも、カタロニア人であると知っている。

日本語で日本のことを考えるのは、なんてへんてこなことだろう。
ぼくが日本語の世界に浸りこむように耽溺してきたのは、思い返してみると、やはり子供のときの「日本というパラダイスの記憶」だった。
ぼくはとても世界の東のはしっこで、地図から落っこちそうになりながら存在している、胸をそらせて、なんだか威張った形をしている島で出来た国が好きで、シンガポールを経由して南半球に行きたいと述べる両親にせがんで、成田の、不便な空港に降りて、数日を東京や鎌倉で過ごしたいと主張したものだった。

そうこうしているうちに、ぼくはバスク語よりも難しいという、その国の言語に通暁するようになった。
通暁、なんて言葉を使うと、笑われてしまいそうだけど、この6年間「こんなに巧い日本語を書ける外国人がいるはずがない」という、いかにもゼノフォビア文化のひとびとらしい理由でニセガイジンと集団でとりまかれて悪罵を浴びせられてきたのだから、居直って、自分で「日本語に通暁しているのだ」と述べても、神様も許してくれるのではなかろーか。

かーちゃんシスターの夫は日本のひとで、ぼくは、このおっさんが昔から好きだった。
https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/05/02/girioji/
ニホンジンと聞くと、まず、この容貌の冴えないおっさんの顔がおもい浮かぶ。
年が二十余も離れているのに、東京で一緒にほっつき歩いた。
おっさんは、見栄なのか、それとも少しはマシな理由によるのか、日本語よりも英語で話すことを好んだが、ときどき、例えば物理的な動きというようなことになると英語の表現がおもいつかなくて、日本語で話すことがある。

ジャックスやテンプターズ、浅川マキ、三島由紀夫、てなもんや三度笠に、ヘイヘイポーラ、夢で会いましょう、シャボン玉ホリデーで、このおっさんが熱に浮かされたようにまくしたてる「日本」は、ぼくのパラダイスの記憶と合致していて、いいとしこいて、高校生の情熱で饒舌に日本を賛美するおっさんとぼくは、数寄屋橋の交叉点やすき焼きの「岡半」の座敷で、文字通り「話し狂った」ものだった。

あるいはこの「ヘンなおじさん」とスポーツウーマンで流線形なかーちゃんシスターとのあいだに生まれた子供は、マブダチで、子供のときから、葉山の氷屋で卒倒したり、鎧擦の山を見上げながら溺れかけたり、木崎湖の波が死んだひとびとの手招きに見えて、ふたりで宿に駆け戻ったり、そんなことばかりやっていた。

でもほんとうは、この父子とも、ほとんど英語での会話で、こうやって考えていても、自分の日本語がどこから来たのかは判らない。
「てにをは」を間違えない外国人がいるわけがないとか、あんなに関西弁が出来る外国人が存在するはずがないとよく言われるが、あの日本語教科書でばかり勉強すれば、日本人向けの英語教科書の裏返しで、中国の人でもなければ、自然な日本語が身につくわけはなくても、たとえば「てにをは」で言えば、あれは実は英語では冠詞の役割を念頭におけばいいのだ、とひとこと日本語の先生が言ってくれれば、間違わないですむようになっていく。
あるいは日本語を学ぶにつれて「標準語」は生活から剥離した奇妙な言語だと感じるようになって、日本語は方言じゃないとダメだと考えて京都弁を学習して、「けえへん」ではなくて「きいひん」のほうがいいな、とニコニコしながら考えたりして、隙さえあれば使うが、関西人の人から見ると、ほんとうは、とても奇妙な「つくりもの」の関西弁で、ちょっと聞いただけで、「嘘京都弁やん」と思う体のものだそーです。

そうこうしているうちに、フクシマのあとだったか、きみに会ったのだった。
日本風に描写すると、戸山高校をでて東京大学の「理一」に入ったのでしょう?
物理に狂って、はてには、物理研究者になった。
未成年性愛を連想させる二次元絵が好きで、そのことで、nastyな大喧嘩をしたことがあった。
オダキンの全人格を否定する勢いで、馬鹿野郎をしたが、でも、絶交したあとでも、きみのtumblrやtweetを、こっそり眺めるのが楽しみだった。

それはなぜだろう?と考えていて、この記事を書く気になったのだと思います。

ぼくは「アスペルガー人とゲーマーズ」
https://gamayauber1001.wordpress.com/2014/10/09/asperger_gamers/
に書いたように、分類すればゲーマー族で、ルールが与えられれば、そのルール世界の定石を見いだして、ありとあらゆるゲームにあっさり勝ってしまえる。
英語世界の学校教育で言えば「飛び級制度はないが飛び級はできる」チョーへんな連合王国の制度や大陸欧州、アメリカ、ニュージーランドの制度を総攬して、ああ、こうすれば16歳で大学を卒業できるでねーの、と考えて実行するし、経済世界においても、オカネの交叉点の、この辺に立っていればウシシに儲かるのだな、と「手のひらにさすように」簡単にわかる。

でもゲーマー族は、ゲームに勝つ方法に長けているので、現代世界の一生に経済的に勝つということがたいしたことではないと知っているんだよ。
選択の問題で、ふだんあんまり言わないでいる(言うと、ぼくまでヘンな人だと思われてしまうからね)が内藤朝雄や自称においても「コミュ障」で天文研究者のもじん@mojinどんやオダキン@odakinのような「堀下がってゆく」知性と較べて、というか較べようはなくて、全然異なる一生を歩いているのだという自覚はあります。

「物理学者への手紙」というタイトルは、カッコワルイと感じるようになったので、今度は「オダキンへの手紙」と改題しただけで、ただの続きなんだけど、日本語世界で会った人のなかでは、josicoはんと並んで、オダキンのことをよく考える。

ぼくには、折に触れて、自分のいままでの一生の経過を点検する癖があって、あのときはこうすべきだったのではないか、とか、ああいう考えは失敗につながるものだった、と思って、ダメじゃないか!と考えたりして、モニに、「ガメはなんで過去のことを考える癖があるんだ?」と不思議がられるが、癖は癖なので仕方がない。
お好み焼きを食べながら突然暗い表情になったり、カヤック行の途中で、突然放心してこけたりしているのは、そういうときで、自分でもヘンな癖だと思わなくもない。

大叔父はオダキンと同類で、同じ物理学者で、学問に打ち込むだけの人生で、旅から旅、大学から大学へ渡り歩いて、このあいだ死の床にある大叔父の妻である人と話していたら、「ガメちゃんには話しておいていいと思うが、わたしたちは離婚したことがある」と述べていた。
英語世界では人間のつながりが大事で、一箇所に定住すればするほど生活の質が豊かになっていくが、研究者の妻ではそれが達成できなくて、酒に溺れたりで、アメリカ時代には、到頭耐えきれなくて離婚したもののよーでした。

大叔父は鈍感なひとで、いまでも自分が研究者として懸命に生きてきた結果、娘は自分を憎悪の対象としてしか見なくなって、妻は、苦しみに苦しみを重ねて生きてきたのを、ちゃんとは判っていなくて、「ガメ、真理に生きるということは、なんて素晴らしいことだろう」とノーテンキなことを述べている。

研究者として精進するオダキンの生活は、もしかしたら、自己の生活を破壊してしまうかもしれない。
でも、その右と左の中間ではない、右なのか左なのか、そのはしっこの延長の、遙か彼方に「安定」を見いだすオダキンの魂が、ぼくを日本語を媒介して呼び寄せたのだとおもう。

そういう機微を不思議に感じて、この記事を書いている。

(閑話休題)

オダキンと内藤朝雄は、深刻な知性を持っている。
もちろん哲人どんも高らかな知性の人だが、哲人どん@chikurin_8thの知性のありかたは、ぼくと似ていて(哲人どん、ごみんね)、批評的であるのに較べて、オダキンや内藤朝雄の知性は、揶揄されやすくても本質的であると感じる。
だから、これから書こうとしている、内藤朝雄やオダキンへの手紙は、ゲーマー族からの、異なるタイプの(より深刻な)知性への手紙なんです。

「広尾」の駅から、地表へでて、ナショナルスーパーへ寄って、ブルーベリージャムを買う夢を見ていた。
目がさめてみると、ぼくはNZという英語世界のド田舎にいて、傍らではモニが静かな寝息を立てていて、ホールを歩いていくと、小さなひとたちが、いいかげんな恰好で、てんでに眠っている。
この世界と日本語世界には、なんの関連もないが、オダキンやjosicoはんや最近生じたたくさんの友達がいて、日本語との縁は切れないなあーと思うが、告白すると、それは意外に幸福な感情でもあるのです。

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