病としての人種、という思想

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夕方、カウチに寝転んでいるうちに、いつのまにか眠ってしまったらしい。
窓をたたく激しい雨の音で目をさますと、時計の針が9時を指している。

映画 5 Flights Upはブルックリンに住む、アフリカンアメリカンの夫とコーカシアンの妻の物語で、ピザを食べながら、自堕落に、モニさんの膝に頭をのせて観ていたのだった。
コーカシアンの夫とアジア系の妻という組み合わせ以外は、まだ少なかった異人種間の結婚が少なかった70年代に、モーガンフリーマンが演じる画家の夫とダイアンキートンが演じている教師の妻は結婚する。
結婚数年で買ったブルックリンの五階にあるアパートにはリフトがなくて、歳をとって体力が落ちる老後を考えてアパートを売ってリフトがあるアパートに移ろうと考える。

物語の筋書きとしては、ただそれだけの映画だが、ドナルドトランプのせいでタイムリーというか、モニさんが見つけてきた映画を、ふたりでいろいろと考えさせられながら最後まで観ることになった。

途中、自分にも共通した英語文化を自嘲したくなる箇所がいくつもある。
妻が母親に、なぜ自分が結婚の相手を見つけたことをもっと喜んでくれないのだ、と怒ると、母親は「喜ぶように努力する」と述べる。
横から姉だか妹だかが「だって社会にはまだまだたくさん偏見が残っているのよ」という。

ニューヨークでも90年代初頭まではアフリカンアメリカンの夫とコーカシアンの妻では、街角でも、やや緊張して立っていたものなあ、70年代では映画のなかでは詳しく述べられなくてもたいへんだったろう、と考える。
考えてから、ああ、世界は、またこの頃の社会に戻ってしまうのかもしれないのだったな、と苦い気持ちで思い出す。
まるで自分が過去に向かって暮らしているような妙な気持ちと言えばいいのか。

ティーパーティ派のミナレットの上の人であるGlenn Beckが、トランプがSteve Bannonを首席補佐官に任命してしまったことは、たいへんなことだ、これではアメリカは巨大KKKになってしまう、とパニック気味に述べている。

CNNを観ていると、さすがのAnderson Cooperも、この新右翼運動の大立て者、THE BLAZEのオーナーである人物が、自分に向かって「あなたがたが私を信用しないのは判っているが、どうか判ってくれ。オルタナ右翼の道を開いた私は、Steve Bannonのような人間に道を開くことになるとは思っていなかった」とまくしたてるのに、呆れて、というよりも軽いショックを受けて、どう問いかけていけばよいか判らない体裁のインタビューだった。

「ドナルドトランプ自体はレイシストじゃないんだが、Steve Bannonを引き入れては話全体が、まったく趣を変えてしまう。これは大変に危険なことだ」と繰り返し言う。

観ていて、当たり前ではないか、おまえはいまさら何を言ってるんだ、と顔を歪めて笑いながら考えたアメリカ人も多かったのに違いないが、アメリカにはたくさんの「アメリカ」があって、言葉にすると冗談じみているが例えば人種差別にも、たくさんの種類の人種差別がある。

人種差別みたいに話題として不快なものを、いちいちタイプ別に挙げるようなことは、つまらないのでやらないが、簡単に言えば、無自覚な人種差別主義者であるGlenn Beckは、自覚的で、極めて攻撃的で、英語の正しい意味におけるリンチくらいは何ともおもわない、前回に「ミシシッピ型」と言って述べた最も暴力的な白人至上主義にトランプがたいした考えもなくドアを開けてしまったことに衝撃を受けている。

アメリカの人種差別のおおきな特徴は優生学的で「血」の問題をおおきく焦点に持つことです。
え?だって、欧州のナチもおなじじゃない、と思う人がいるだろうが、それはそうではなくて、ナチの反ユダヤ、アーリア人至上主義自体がアメリカの優性思想を拝借して出来たもので、いわばメイドインUSAなのだという歴史的な背景を持っている。

たとえば1920年代から30年代にかけて、週末の楽しみとして高校生たちは「The Black Stork」
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Black_Stork
の上映会に集団で出かける、というようなことがあった。

優生学外科医のHarry J.Haiseldenその人が自分で出演している、このベラボーに人気があった映画は、1917年に作られてから、都市部ではさすがに内容がなまなましすぎると問題になりはじめたので上映が男女別になったり、Are You Fit to Marry? と題名を変えたりしながら、サイレント映画そのものが人気を失う1942年まで、アメリカの田舎では人気を保ち続けた。
さまざまな遺伝病を持った人間は結婚を諦めなければならない、というような良く知られた内容の啓蒙映画だったが、ここで日本の人として注意して欲しいのは、このさまざまな遺伝的な病気のなかに、黒人であること、アジア人であること、も含まれていることで、人類にとって有色人の遺伝子を持っていることは世代交代の過程で排除されていくべき形質であると普通に信じられていた。

実際、この有色人であることを一種の遺伝病障害であるとみなす思想が、初めに法制化されるのは、実は日本移民に対しての法律である1924年の、Immigration Act of 1924が嚆矢で、アメリカで初めての人種隔離法の対象はアフリカンアメリカンではなくて、日本人だった。

もしかすると、これも一種の遺伝病なんじゃないの?と思う事があるが、生まれついて皮肉な考えかたが頭にこびりついている連合王国人たちは、アメリカ合衆国に堂々たる差別を復活させつつあるドナルド・トランプの妻が東欧人であるのを観て、なんとなくニヤニヤしていたりする。
トランプが初めの盟友と考えているらしいNigel FarageのUKIPは東欧人への差別愛好者の集いでもあるからで、Farage自身、オーストラリアやインドからの移民のほうが東欧移民なんかより遙かにマシであると述べていたりして、普段の言動から到底メラニア・トランプに人間的な敬意を持つタイプの人間とはおもわれなくて、イギリスでは根強いメラニアはコールガールだったという英国人らしく意地の悪い噂にひっかけて、ファラージュのやつ早速お祝いにかこつけてニューヨークに行って内緒でイッパツやりたいだけなんじゃないか、と当のUKIP党員が述べていたりして、なんというか、おぞましい。

ゼノフォビア的な要素が強い連合王国の人種差別に比して、遺伝学的な要素が強いアメリカの優生学的な「科学」によって形成された人種差別は、トランプ自身にも潜在意識形成的に影響していて、無意識のうちにこの人の頭のなかで形成された「人種差別思想」が「血」で定義されているために、かつてヒットラーを大喜びさせて「是非、その思想をドイツに輸入しよう」と叫ばせた優生学的人種差差別思想をアメリカに甦らせてしまった。
「白人同士、しっかりヨソ者に軒を貸して母屋をとられないようにやっていこうぜ」とパーティのドアを開けたら、どやどやと入ってきたのは、過去の大西洋を越えてナチのユダヤ人虐殺を生みだした亡霊どもだった。
自分自身が人種差別体質のGlenn Beckは、だからこそ、Steve Bannonたちの自分たちとの本質的な体質の差異を敏感に嗅ぎ分けていたのに違いない。

Brexitへの運動が、もともとは大陸的な官僚主義への反発と憂慮から起こったのに、途中でパーなひちびとのせいで異民族排斥運動に姿も性質も変えていったのと似ていると言えなくもない、トランプ現象も、当初言われたプアホワイトの怒りの表明というようなものではなくなって、本質は、白人至上主義運動に姿を変えている。

日本から観ていて、なにも嫌いだというだけで、暴力をふるったり、殺そうとしたり、国外に追放しなくたっていいだろうに、と考えるのは、もっともではあるが、白人至上主義者のGlenn Beckを心底から怯えさせているものを見落としている。
アメリカの、この種類の人種差別運動は歴史的にも強制収容所やリンチ、国外追放へ直結しやすい危険なものである。

5 Flights Upの老夫婦は、結局、アパートを売るのをやめてしまう。
自分達が、異人種の壁も越えて、世間の無理解との軋轢も克服して、お互いを庇い合うようにして生きてきた価値の大切さを噛みしめる。

2013年には、まだ、アメリカ人はあんなふうに考えることが出来たんだ、と思わずにはいられなくて、思いもかけず、そう考えた瞬間、なんとも言えない疲労感と寂寥、いったい自分たちは何をやっているんだ、という気持ちに囚われた。

こんな筈では、なかったのに

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3 Responses to 病としての人種、という思想

  1. chiko onimaru says:

    最後の「こんな筈ではなかった」というところ、深く共感します。ただ私がこれを思ったのは今回のことではなく、日本でのヘイトスピーチ現象についてでした。私は子供の頃、将来日本がこうなるとは思っても見ませんでした。

  2. snowpomander says:

    「こんな筈では、なかったのに」、U.S.A.の虹が消えて逝く。世界の多くの人たちも消え逝く虹の彼方を見て「こんな筈ではなかった」と思っているはずだ。

    日本からの遠い眼差しを我が身や同胞に引き寄せる日本人がどれだけいるだろうか。

    トランプ・シンドロームを感じて以来、映画「時計仕掛けのオレンジ」が私の記憶から転がり出て来ていた。金の毒リンゴを「ビッグ・アップル」の中に植えている元NYC市長ジュリアーニ氏にはどんな余録が有るのだろう。

    今日の今、トランプタワーのペントハウスには日本から飛んで行った男が居る。

  3. meg says:

    Glenn Beckの考察が面白かったです。 人種差別主義者を「単に白人が社会的に優位に立つことを望む層」と、「有色人種が自分たちの社会から消えてなくなることを望む層」に分けて考えている点が判り易かったです。 実は、私は日本にいる間は、よく差別されていたけど、米国に来てから10年以上たつのに、人種差別というものを一度も経験したことがなくて、これまで米国で受けた差別というと、駐在員を中心として日本人社会から蔑まれて排斥されたことだけでした。 トランプが大統領になるまで、「自分を社会から抹殺することを望む」ような人種差別のことは考えたことも無かったです。 そして、これまで米国社会で人種差別と生存の危機を結び付けて考えていたのは、アフリカ系米国人だけだったことに気がつきました。
    昨日は、中国系米国人たちと話をしたんですが、いつもは頼りになる彼らが、トランプ大統領に関しては、考えが二つに別れていました。 具体的には、情報を中国語のニュースから得ている人と、英語のニュースから得ている人で反応が違っていて、中国語のニュースだとトランプが大統領になり、中国が覇権国になることを歓迎する向きがありました。 そして、中国語の情報をもとに、トランプに投票した中国系米国人も少なくなくて、彼らはトランプの政策で影響がでるのは、イスラム教徒とヒスパニックだけで、自分たちは安全だと思っていました。 もちろん、大勢の中国系米国人がトランプを警戒しているんだけど、私には、彼らの話が、普段からの中国系コミュニティのBlackLivesMatter運動支援への冷淡さと重なって見えて、「私たち、あの悪意を乗り越えられるのだろうか?」と、ますます心配になりました。

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