Monthly Archives: January 2017

サバイバル講座2

ふもとまで、足下に見渡す限りタシックが広がっていたのでヴィクトリアパークだったのではないだろうか。 冬で、12歳だったぼくは、遠くに暗い灰色に鈍く光っている海を見ながら、 ぼくはひとりで歩いていかなくてはいけないのだ、と頭がおかしくなってしまったひとのように思い詰めていた。 いつでも暖かい家庭と、振り返っていま考えると現実であるにしてはラッキーすぎるような代々積み重なったおおきな冨と、だいなかよしの動物たちに囲まれて、そんなことを考えるのは風変わりで愚かな子供だった証拠だが、その頃は、もしかすると「幸福」というイメージがまだ好きになれなかったのかもしれません。 子供の頃、スコット探検隊やシャックルトンの南極での冒険の物語を大好きだったぼくは、「厳しさ」や、取り分け極北という言葉があらわしているような魂の酷寒のなかに自分をおくことに、子供らしい気持ちで憧れをもっていたのでもあるのでしょう。 きみがワーキングホリデービザを頼りにしてクライストチャーチの空港に友達と3人で降り立ったとすると、きみはもう半分ゲームに負けている。 語学校で気の合う日本人仲間達と毎週のランチを韓国レストランで楽しみだしたとすれば、今回の自分を救う試みは8割方ダメだったということだとおもいます。 ガメは、へんなことを言うなあ、と思うかも知れないが、特に留学や移住に限ったことではなくて、気持ちの上で、ひとりでいない人間は、安全から遠く離れたところに立っている。 日本語世界では特に、例えば大きな地震があって、ひとびとが避難するときに、たくさんの人がめざす人の流れに身を任せて、逃げていく人もいるかもしれないけど、それはとても危険なことで、せめて、周りの人間に「なぜこの人達はこの方向に向かっているのか」を聞かなければいけない。 少なくとも、自分の頭のなかで懸命に考えて、津波ならば少しでも高いところを目指して必死に走り、空襲ならば地下の深い所にあるチューブ構造の地下鉄をめざして逃げるというふうに、自分の理性が単独で納得できるところに逃げるのでなければ安全とは到底いえないとおもう。 人間の一生のサバイバルも、とても似ている。 人間はひとりでいて自分の頭で考えるのでなければ安全ではない。 他人の判断に従うのは楽ちんだけど、それはとても自分の一生にとっては危険なことだ、というのは、あんまり観察にすぐれていなくても、親のいうことをたいした考えもなしに聞いてしまって、医師になって、大学教師になって、50歳に近付いたインチキな自分を発見して茫然としている人の数の多さを考えてみれば、すぐに判る。 医師なり公務員なりの「安定した職業」につくよりも、自分の内側に住んでいる、例のきみの最大の親友である自分自身の、よくは聴き取れない声に耳をすまして、自分自身という最大の友達が喜んでくれそうな方角に歩いて行くのが最も「安全」なのは、図書館に足を向けて自伝というような本を開いてみれば、そこここに記されている。 なんども挙げた例をここでもあげれば、コリンウイルソンという作家が作家になったのは、それが「自分にとっては最も確実に生き延びる道だったからに過ぎない」と、この人は折りに触れて述べている。 前にコリンウイルソンについて書いたときに、好奇心を起こして日本語ウィキペディアを読んだら、「経済的事情から16歳でやむなく学校を去り」と書いてあって、びっくりしてしまったが、この「アウトサイダー」と「殺人百科」の著者が、自分にとっては学校は危険な場所で、なるべく早く、皿洗いでもなんでもしながら著作家になるのでなければ、社会という石臼に挽き殺されてしまうだろうと考えたのは11歳のときで、例えば同じウィキペディアでも英語のほうには By the age of 14 he had compiled a multi-volume work of essays covering many aspects of science entitled A Manual of General Science. と書かれている。 … Continue reading

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日本のこと_1

なぜ、あなたがそこに立っているのだろう、とおもうことがある。 人間が出会うことほど不思議なことはなくて、あなたと会って、結婚という社会制度に名を借りて、ふたりだけで暮らそうと決めたことの不思議をどんなふうに説明すればいいのか判らない。 いい考えだとおもう、という、あなたの答えを信じたふりをしたが、ほんとうはあなたが別段日本に限らず、アジア全体に(偏見というのではなくて)まったく興味を持っていないのを知っていた。 わがままなぼくは、信じたふりをして、まだもうちょっと付き合ってみたいと思っていた日本語が成り立たせる社会を、あなたと一緒に訪問したのでした。 東京も鎌倉も気に入らなかったけれど、あなたは軽井沢は気に入ったようだった。 「長野県の人は冗談が判らなくて、真に受けて、ニュージーランドの人たちみたいだ」と述べたら、あなたは、なんだかムキになって、軽井沢の人は善い人ばかりではないか、と怒っていたが、ほんとうは、それを聞いて、とても安堵していた。 自分の都合で、あなたの一生のうちの何分の一かを浪費したくはなかったから。 1回目の滞在の終わりだったか、あのミキモト真珠店の、白髪の老店員が、あなたが身に付けていたネックレスを指して「お嬢さんのような立派な家のかたにお売りできるような真珠を、お恥ずかしいことですが、もう私どもは持っていないのです。 海水の温度があがって、いまの真珠は、あなたがたのようなひとびとが身に付ける真珠に較べれば、二流以下のものしかないのですよ。 どうか、お嬢さんがお持ちの真珠を大切になさってください」と述べて、びっくりして、あなたは日本文化を少しずつ好きになっていった。 一瞥するだけで、社会でも個人でも、すっと本質を見抜いてしまうあなたは日本の社会が天然全体主義とでも呼ぶべきもので、そのせいで個人は深く深く病んでいて、個人から全体を見ずに全体から個人を見る、奇妙な視点を持っていることに辟易して、まったく興味をもたなくて、日本の社会で暮らしているはずなのに、すべて欧州かアメリカに住んでいるかのようにふるまって、友達も皆欧州人で、もちろん日本の人と接触すれば、途方もなく親切だったけれども、社会は嫌いで、それなのに日本という不思議な(日本の人が聞けば地団駄を踏んで怒るだろうが)途方もなく遅れた社会に興味を持つようになっていった。 軽井沢の家が、森の奥にある趣であるのも良かった。 あなたは、都会っ子で、フランス系のアメリカ人として、あのマンハッタンの、なんだかバカバカしいほどおおきなアパートメントで過ごしてきて、実家は、あの通りの日本語で言えば荘園だが、田舎で過ごしたことはなくて、そのせいで、軽井沢の家がとても気に入ったようでした。 オカネをかけて念入りに舗装された県道?の脇にクルマを駐めて、ガメ、ここでピクニックにしよう、景色が素敵、と言い出したときには、ぶっくらこいてしまった。 あなたは舗装道のまんなかに敷物を敷いて、のんびり、ランチボクスを拡げて、コーヒーを飲み出して、恬淡としている。 「クルマが来たら、どうするの?」と聞くと、 ガメは、観察力がないなあ、この道路に最後にクルマが通ったのは、さあ、一年以上前だと思う、と述べて、澄ましている。 ずっと後になって、道路が続いていく先の、何のために架けたのかよくは判らない橋が閉鎖になっていて、クルマが来る心配をしなくてもいいのが納得されたけど、 そのときは、大胆さで、モニだなあ、とマヌケな感想を持っただけだった。 きみは笑うだろうけど、ぼくは、自分がきみだったらなあ、とよく思うんだよ。 こういう感情も嫉妬と呼んでもいいかも知れません。 いつか夜のミッションベイに行ったら、バーでふたりでワインを1本飲み終わったところで、ガメ、波打ち際に行こうぜ、と述べて、途中で靴を脱ぎすてて、波打ち際に素足をひたして立った。 聴こえる? といって、微笑う。 ほら、音楽みたいでしょう? ニュージーランドのハウラキガルフは、潜ってみると、70年代の日本漁船の乱獲に怒ったマオリ人たちが日本漁船に立ち入らせないようにしてから、帆立貝たちにとっては天国で、カーペットのように帆立貝が生息していて、死ぬと、 亡骸の貝殻は割れて、波に運ばれて、浜辺に運ばれてくる。 その小さな小さな帆立貝の破片が、波でお互いにぶつかりあって、 なんだか超自然的な旋律を奏でる。 そのことを、なぜか、先験的と言いたくなるようなやりかたで知っていて、 現実にはどんなチューンなのかを知りたくてやってみたのだと、後で、きみはこともなげに言うのだけど。 その精細な目で、興味を持ち始めた日本を見て、カメラを持って、日本を撮りはじめた。 その最後の日を書いたブログを、いまでも懐かしく読む。 Hurdy Gurdy man https://gamayauber1001.wordpress.com/2010/11/20/hurdy-gurdy-man/ きみやぼくにとって、日本て、いったい何だったんだろう。 西洋の「日本」は明らかに基礎を小泉八雲に拠っていて、人柄もよくて、親切で、日本に対して巨大な理解をもった、この弱視のアイルランド人に出会ったことは、日本の人にとっては、文字通り世界史的にラッキーなことだった。 そのことは大学で後任の夏目漱石に対しておおげさに言えば叛乱を起こした学生たちの失望の言葉を読めば判ります。 … Continue reading

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