昭和様

軽井沢会テニスコートは、イギリスならば、コミュニティのテニスコートとしてもオンボロで、日本の人の質素を尊ぶ美学のあらわれというか、貧相なクラブハウスのある、金網に囲まれたテニスコートで、わし夏の家からだと、ゴルフ橋をわたって、フランスベーカリーや浅野屋がある軽井沢銀座を横切って、オノヨーコが毎夏ジョンレノンと滞在していた父親の家のほうへ少し歩いたところにある。
すぐ近くに室生犀星の別荘があって、よい状態のまま保存されていて、このわし趣味の家をみるためにときどき散歩にでかけたのをおぼえている。

今上天皇明仁と美智子皇后が出会ったのは、このテニスコートで、日本の天皇家の質素の伝統には頭がさがるというか、万事贅沢好みの英王室とはエライ違いで、少しは学習しろよな、ばーちゃん、とおもわなくもないが、あの頑固で闊達なばーちゃんに何を言っても聴いてもらえないのはわかりきったことなので、国民としては、あるものはあるままに受けいれるしかないだろう。

なにしろ、軽井沢が出会いの町で、そのあとも、毎夏軽井沢にやってきていたので、なあああんとなく天皇家の別荘が軽井沢にあるような気がするが、伝統はスコットランド人がつくった町である軽井沢を避けて、千ヶ滝のプリンスホテルに逗留することになっていた。

東京ではニコラスのような当時としてはウルトラモダンな場所をデートの場所として好んだが、軽井沢では、軽井沢会のじーちゃんやばーちゃんたちと、これもボロボロな建物の二階にある三笠会館で愉快に話ながら昼食を摂ったりしていた。

軽井沢の地元の人間には、横柄な人柄と決まりというものをまるで守れないだらしのない性格とで蛇蝎のように嫌われている秋篠宮とは180度異なって、たいへん評判のよい人のようです。

マストドンで「昭和様」という呼び方が話題になっていて、読んでいると、「違和感があるが、その違和感の正体がうまくつかめない」ということのようでした。
へえ、と思って読み進んでいるうちに、昭和天皇についてのあれこれを思い出したので、忘れないうちに書いておくのもいいかもしれない、と考えて書いているが、良い考えなのかダメ考えなのかは、記事を書き終わらないと判らない。

昭和様、という呼び方自体は、明治天皇が崩御して、大正になり昭和になって、明治生まれで、明治の時代に育ったひとびとが、あとにも先にもただひとりの天皇らしい天皇であった明治天皇をなつかしんで「明治様」と呼び、今上である昭和天皇は、自分達の天皇であるという実感が湧かないので「今上陛下」と呼んでいたことの平成版だろう。
江藤淳の母親が、日本の敗戦が決まったとき、ふだんは政治のことを述べないのに、吐き捨てるように、
「こんなことになって、日本をすっかりダメにして、今上は明治様に恥ずかしいとおもわないのか」と言った、というようなことは日本中で見られて、昭和天皇のダメ天皇ぶりを怒ったという記録は至るところにある。

宮内庁は、戦後、上流階級を中心に起こった昭和天皇への軽蔑の風潮を、大衆レベルにまで広げないことに必死で、父親の血をひいて奇矯な振る舞いが多かった昭和天皇の性格を逆手に利用して、学者肌で朴訥な人柄として全面に押し出すことにした。
ちょうど安倍政権における電通にあたる広報世論形成係は、東宮侍従長入江為守を父にもつ入江相政という切れ者の侍従で、この人は筆がたったので、後年には「侍従とパイプ」というベストセラーを書いて、いま流布している、国民おもいの平和を愛好する学者肌の昭和天皇像を固定することになる。

芝居がかった安っぽい英雄像が好きだったダグラス・マッカーサーの臭いがぷんぷんしている昭和天皇との初会見への証言
「自分は処刑されてもよいから国民を助けてくれ」は、当時、国際コミンテルンの支配下にあった日本共産党を中心として日本人のあいだでも強かった天皇処刑論をかわすために、現実の発言の言い方を工夫して変えてGHQと日本政府がつくりあげた作り話だろうが、国民を感動させることに成功して、昭和天皇の象徴の座をゆるぎないものにした。

日本の皇室の伝統は、「責任をもたないこと」で、これだけは、奈良時代から終始一貫している。政治的な情勢の一方に荷担して、その勢力が運つたなく敗北を喫すると皇室の責任が問われて、そこで皇統が絶たれてしまうからで、万世一系で、神武天皇から綿々とおなじ血統で営業してきたという血の永続性が一枚看板の天皇家としては、なにごとによらず責任をもつようなとんでもない跳ねっ返りはやるわけにはいかなかった。
当然の帰結として政治に積極的に容喙するのは天皇家にとってのタブーで、特に西園寺公望が英王室のありかたというようなことを述べなくても昭和天皇は、皇室として政治判断を示すことが家としての禁忌であることをよく知っていたはずです。

13世紀の1221年には、承久の乱ということがあって、当時の後鳥羽上皇は、皇室の人間としては異例なことに憎み嫌っていた北条義時を倒すために西国の侍を糾合して鎌倉に攻め上る内戦を起こす。
これが天皇家が自発意志で重要な政治的行動を決定した殆どゆいいつの例外で、
後年の錦の御旗ですら有効であったように、誰の目から見ても皇室に手向かえるものはあるはずはなくて、上皇の不戦勝であるとおもわれたのが、英雄北条政子の日本の歴史にチョー有名な

皆心を一にして奉るべし。これ最期の詞なり。故右大將軍朝敵を征罰し、關東を草創してより以降、官位と云ひ俸祿と云ひ、其の恩既に山嶽よりも高く、溟渤よりも深し。報謝の志これ淺からんや。而るに今逆臣の讒に依り非義の綸旨を下さる。名を惜しむの族は、早く秀康・胤義等を討取り三代將軍の遺蹟を全うすべし。但し院中に參らんと慾する者は、只今申し切るべし。

という言葉の力によって、勇奮、西に向かって殺到した鎌倉武士たちによって、あえなく企図は挫折して、あろうことか、下地のものに皇室が惨敗する結果になる。
このときの後鳥羽上皇の、命からがら続々と落ち延びてきた西国武者たちへの冷淡さは有名で、「おまえたちが勝手にやったことではないか。俺の知ったことではない。自分を頼られるのは迷惑しごくだから、さっさと門の前を立ち去れ」と言う。

その結果ある者は栂尾を頼り、あるいは河原で惨殺されて、日本の歴史に皇家を信用した場合、うまくいかないとどんなことになるかという、良いお手本をつくることになった。

天皇が悪人であるとか善人であるとかは、どうでもよいことで、天皇家が日本の歴史で
果たしてきたふたつの役割、ひとつには、民族感情の底深いところで基調底音をなして、日本人というものそのものの殆ど意識されないアイデンティティであること、ふたつには国家の休止中の機関として、一朝ことがあれば、再び全力で始動して、いまの天然全体主義が、明瞭に形を顕した全体主義となったときの、国民を情緒的に圧倒的に服従させるための機能を持つことと、そのふたつのみが天皇家を考えるときには重要でしょう。

昭和天皇の現実の言動には、入江相政たちが吟味して、地下(じげ)の者にも判りやすい、誤解がないものばかりが伝えられているが、日本のふつーな人間が怒りで青ざめそうなものが多くある。

帝王学、というが、西郷隆盛が実質の侍従長をつとめた後の近代天皇家の教育は帝王をつくるためにあって、「良い人」をつくるためにあったわけではありませんでした。
日本の皇室に特徴的なことですらなくて、王室という王室は、北欧の「開かれた王室」であってすら芯のところでは帝王学たることを変えていない。
いまの今上陛下は、若いときには、その「帝王教育」の部分に激しい反発を示した人で、沖縄二紙の購読に固執して昭和天皇を激怒させた逸話に見られる昭和天皇との確執は、他国の上流階級人ですら知悉している。

いま「明治様」にかわって「昭和様」という言い方が生まれたと聞いて、なるほどなあ、という間の抜けた感想をもちます。
昭和様という昭和天皇への愛慕の念をこめた呼び方には、アジア人からみると、日本がほとんどアジア全土でおこなった侵略や虐殺、女たちの性奴隷化、男たちの強制労働と使い捨てへの強い肯定を含んでいる。
日本人側からすると、この25年、坂道を転げ落ちるように落ちてきた民族の自信の低下から抜け出そうという必死の試みのひとつなのでしょう。

昨日も、豪州人ルークのツイッタTLに遊びに行ったら、もう当然のようにわしを「反日ガイジン」と呼んでいる人がいて、なんだまたニセガイジンから反日ガイジンに戻ったのか、と可笑しかったが、「昭和様」を思慕する日本の人たちが、どんどん力をつけてゆくアジアのなかで、どんな未来をつくっていくのか、まだまだ興味がつきないよね、と考えました。

また、戦争をやるのかしら?
それとも「日本は素晴らしい」の妄想に自閉して籠もってゆくのか。
いずれにしても歴史には稀な国としての行き方で、おもしろいなあ、と思います。

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One Response to 昭和様

  1. daisukf fuwa says:

    蛇足ですが、秋篠宮が浅川マキのふぁんだと30年くらい前のインタビューにあって嘘っそだぁ〜と笑った事がありました。成る程全方位皇室性と言うやつなのかぁ。

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