自分の顔

戦後ドイツ人は自分たちがドイツ人であることのアイデンティティを「自分たちが戦時中にユダヤ人をシステマティックに集団虐殺した民族であること」に置き換えた。
「民族として、戦争中に行ったことを反省している」というようなことではなくて、自分たちが再出発するに当たっての自己定義をホロコーストに求めたのでした。

子供のときに、学校で、さまざまな国の反差別教育のドキュメンタリを観たことがある。
例を挙げると、8歳児のクラスで、ある朝登校してみると、いつもやさしい先生が
「今日から金髪で目が青いお友達は、窓際に固まって座ってもらいます」という。
ええええー、どうしてお友達と一緒に座っちゃいけないの? とびっくりする子供たちに、先生が「金髪で青い目の子供は、そうでない人間よりも劣っているのが判ったからですよ」という。
だから、教科書もおなじものは使いません。
授業も青い目のお友達たちだけ別の内容の授業にします。

自分たちが、なにも期待されず、なにも評価されない、教室のなかのお荷物になったのだと気が付いた金髪碧眼の子供たちは、だんだん元気を失っていって、一日の授業の終わりには目に涙をいっぱいためて、「ぼくだって、がんばればみんなと一緒にやれるのに、先生、ひどい。先生は、どうして、ぼくたちが嫌いなの」と哀しみに打ちひしがれてしまう。

もちろん、放課後に先生は皆に向かって、今日は人種差別を教えるための日だったこと、金髪でも暗色の髪でも、碧眼でも栗色の瞳でもヘーゼル色の目でも、人間は能力もおなじで、平等に機会が与えられないということは差別される側にとって死にたいと思うほどの苦しみであること、を言って聴かせる。

金髪碧眼の子供たちは、ほっとした様子で、でも観ていて子供同士ながら、「トラウマになるんちゃうか」と考えたりした。

一連の番組が紹介した授業のなかでも、最もすさまじかったのがドイツの14歳くらいの子供を対象にした授業で、自分たちの祖父の世代がいかにひどいことを欧州で行ったか、家を追い出され、家畜用の貨車に積み込まれて強制収容所につれていかれて、次々と虐殺されていくユダヤ人たち、しかも銃殺の手間と銃弾コストを節約するためにガス室をつくって「効率よく」殺していったこと、大量の死体がつみあげられた大きな穴、アメリカ軍が進駐してきて強制収容所の地獄絵図を観て驚愕して町の人間が詰め寄られたときに、「知らなかった」と言い逃れようとするドイツ人たちを「おまえは、この町中に立ちこめる屍臭に気が付かないというのか!」と述べてドイツ人たちを怒鳴りつけ、怒りのあまり銃床でウソをついて言い逃れようとした男たちを殴り倒す光景まで、これでもかこれでもかという調子で執拗に、自分たちドイツ人がいかに酷い民族で、どれほど悪魔のような行為を繰り返したかを教師が解説してゆく。

ひとりの女の生徒が耐えかねたように立ち上がって、「わたしがユダヤ人を殺したんじゃないわ! どうして、わたしがこんなものを見せられないといけないの!
不公平よ! こんなのが学校の教育であっていいわけがない!」と叫ぶと、教師が、ではきみはドイツ人ではないのか。過去におこなった犯罪を直視しないで、ドイツ人としての誇りを保っていけるというのか、と、観ていてちょっと怖くなるようなド真剣な怒りの表情で女の生徒がいうことを完膚ないまでに論破してゆく。
女の生徒が泣こうが喚こうがおかまいなしです。

どっひゃあーと思いながら、観ていました。

あるいは、このあいだ反ナチ啓蒙教育の現場を紹介するドキュメンタリを観ていたら、教室のなかには中東人たちも座っていて、インタビュアーが「なぜ白いドイツ人が犯した犯罪であるホロコーストについて、きみたちが学ばないといけないのですか?」と訊ねると、
「ぼくはドイツ人として生きていこうという選択をしたので、ドイツ人であるために必要なことは知っておきたい。ナチのユダヤ人虐殺は、だから、ぼくの問題でもあるんです」と述べて、こちらは、それこそ「蒙を啓かれた」ような気持ちになったりしていた。

アメリカではドナルド・トランプが極く平然と人種差別発言を繰り返している。
このひとは少なくともマンハッタンの社交の世界では誰がどうみたって人種差別主義者で有名な人で、これも白人至上主義的な体質で眉を顰められているアメリカのロシア・東欧コミュニティに入り浸って、「なにも創造はしないが狡く立ち回ってオカネを稼ぐのが上手なアジア人」の脅威や、どうやってこの世界に白人の揺るぎない優位を取り戻すか、茶飲み話にする人間であることは誰でも知っていると思います。

中国の習近平主席と会えば「立派な人物だった」と述べて見せて、安倍首相と会えば「安倍はいいやつだ、一緒にやっていけるだろう」と言ってみたりするのは、いつものその場しのぎで、誰がみても考えている事とは反対のオオウソをぬけぬけとつける、この人の最大の能力の発露である。
心の中では「アジア人? あんなネズミみたいなやつら、油搾り機にかけてぎゅっとしぼってカネを取ったら用はないよ」と思っているのは、別に特別に、あの醜い顔をした老人の心理について調べてみなくても、簡単にわかって、支持者ですらよく知っている事情であるとおもう。

この人種差別主義の権化のようなおっさんが、なぜアメリカの大統領に選ばれてしまったかという事情を考えると、なかなか面白くて、前にも何度か書いたように、ヒットラーの「アーリア人種」とかいう寝言を中心にした優生学的な人種差別主義主張は、実はアメリカが淵源で、ヒットラーはアメリカ人の人種差別理論の見事さにうっとりして、ドイツに輸入して実行したのに過ぎない。

ある物理学者への手紙3
https://gamayauber1001.wordpress.com/2014/06/20/odakin3/

アメリカ人は、ナチドイツを戦争で破壊することによって、自分たちは正義の側に立ち、ナチの敵なのだから人種差別の破壊者という、なんだか子供じみた理屈の「人種差別主義者の敵は反人種差別主義者」の単純な欺瞞を使って「正義の国」の演出に成功したが、ここで考えてみると、面白いことに気が付いて、
ナチを生んだドイツ人たちは、徹底的に自分たちの内なるナチズムを批判して、あまつさえ、反ナチを自分たちのアイデンティティとして戦後に再出発したが、当のヒットラーを感動させて称賛の声をあげさせたアメリカ人自身のほうは、ただのいちども自分たちの手で生みだした優生学的な人種差別主義を、社会として俎上に載せて批判的に検討したことはなかった。
アメリカ人の、気心のしれた白人同士で話している時は、想像を越えて、びっくりするほど人種差別的であるのに、気心が知れない相手や、まして有色人に聞こえることが判っている場では、えええ?とおもうくらいpolitically correctな発言に、恥も外聞もなく、といいたくなるほど徹底的に終始して、こちらが観ていて笑いを噛み殺すのがたいへんなくらいの綺麗事のオオウソを並べ立ててみせる二重性は、結局は、アメリカという国の人種に関しての歴史的な二重性から由来している。

連合王国は連合王国で、ヒットラーが政権にあって、最もぶっくらこいたのはイギリスが仲間になってくれなかったことだった。
イギリス人がドイツ人などより遙かに人種差別主義的であることは、当時の欧州では常識で、そのなかでも差別意識の総本山のようなチャーチルが首相になったので、アーリア人同士、仲良く他の人種をこきつかおうね、と持ちかけたのに、このウインストン・チャーチルという人種に優劣があるなんて当たり前でしょう、な、しかもイギリス人にとってすら鼻つまみの右翼じじいは、ドイツ人への差別意識を剥き出しにして、イギリスがイギリスであることに国運を賭けてしまった。
皮肉ないいかたをすれば、ヒットラーはイギリス人の差別意識の猛烈さを予測できなかった。

ナチ支持者のリンドバーグを熱狂して迎えたイギリス人たちは、ドイツ人がわれわれはイギリス人と兄弟であると述べながら、優越意識を持ち始めていることを敏感に嗅ぎ分けて、激しく抵抗して、そのあとの事情はアメリカと似ているというか、
え?ぼくが人種差別したって、あんた何いってんの?
アレクサンダーグラハムベル?フランシスゴルトンって誰?と言って戦後を過ごすことになる。

ところが批判されなかったものは必ず息を吹き返して社会にもどってくるので、ファラージュの、あの卑しい笑い顔と声は、要するに、その頃の亡霊が蘇った姿なのでしょう。

もちろん日本も、戦争中の国家を挙げての悪魔的な行動を自己批判したことはいちどもなくて、左翼が政府や右翼を攻撃するという、日本人自身の民族的責任という観点からは「ずいぶん都合がいいやりかたを考えたね」とほめてあげたくなるような方法を編み出して、批判はしたもん、ぼくが日本人だからって言われても困るんだよね、という遁走術を考案していまに至っているが、ここで、もうそんなことを述べても仕方がない、という気がする。

ただただ「物事を正面から直視する」ということの難しさを考えて、溜息をついているところです。

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ver.6 https://leftlane.xyz もあるよ
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