初心者のペナン_1

黒いSUVを4,5台連ねた一団が正面玄関に到着すると、なかから、ニカブをかぶった黒装束の女の人の一団が子供達と一緒に降りてくる。
とても礼儀正しい一団で、リフトのドアを開けて待っていると、「わたしたちは、まだ時間がかかりますから、どうか先にいらしてください」と述べる英語が、心地よい発音の見事な英語で、どうやらアラブ世界の上流階級の人々のようでした。
ニカブでバシッと決めた女の人たちと、無茶苦茶行儀がいい子供たちの後から、銀髪のおっさんがおりてきて、オットーさんであるようだったが、ポロシャツにショーツで、まるでわしであるかのようなノーテンキないでたちで、ひとりでマヌケな感じを漂わせているので、我が身を省みて、おもわぬ親近感を抱いてしまった。
天女が舞い降りて人間のふりをして歩いているようなモニに並んで、見るからにデヘヘへな姿のわしは、だいたい、他人の目には、このおっちゃんのように見えているのではあるまいか。

マレーシアは中近東のイスラム人たちから観ると、イスラム世界の最東端のひとつであることに加えて、文化や生活の面での非イスラム世界との緩衝地帯という側面を持っている。
ペナン観光の中心地のひとつにあって観光客でごったがえすGurney Plazaの地下の、東京でいえば紀伊國屋スーパーかナショナルスーパーに当たりそうなスーパーマーケットに行ったら「NON HALAL」というでっかい看板を出したサラミ屋があってモニさんとふたりで大笑いしてしまったが、この頃は世界のどんな町に住んでいても「Halal」という看板は見慣れたものになっていても「NON HALAL」という看板は初めてで、マレーシアだのお、と感心します。
ジョージタウンという町は、一面、シンガポールを中心とした客家移民文化圏とインドネシアやマレーシアを中心とするイスラム文化圏の、摩擦の多い、表面は宥和的でも深層では鋭く対立しつづけるふたつの強力な文化圏が、ブルが頭をぶつけあって、角を交叉させてゴリゴリゆわせている東南アジアの最前線でもあって、シンガポールが独立せざるを得なかったのも、そのためだったことは誰でも知っていることであると思います。

スラマッパギ〜(おはよっす〜)、と脳天気に述べながら朝七時半のディムサム(点心)屋へ入っていくと、もう客は二巡目か三巡目で、なにしろ朝6時から開いている店もたくさんあるくらいで、エネルギー最充塡で、働き者のマレーシア人たちは、どんどんオートバイにまたがってでかけてゆく。

衛生的でなさそうなものは、いっさい口にしないモニさんは、ジャスミンティとセサミボールだが、およそゴジラが食べられそうなものなら、なんでも食べて、いつかはイギリス人とオランダ人の八人のグループでバンコクで食事に出かけて他の7人とも重篤な食中毒で病院に搬送されたのに、ただひとりなんともなくて、「不死身」「生きた解毒剤」と謳われたわしのほうは、なあんとなくたまり水で食器を洗う店の人の手先に視線を送っているモニさんの正面に腰掛けて、ガツガツと、焼売やチャーシュー饅頭、豆腐の魚肉詰め、揚げ豆腐と貪り食べている。

ペナンは地元の人が喜んで認めるとおり、町全体が食道楽のヘンな町で、しかも英語でいうcheap eats、日本語でいうB級グルメに特化していて、考えてみると、記憶のなかの日本の人の生活の好尚にぴったりあいそうな町でもある。

実際、空港でも町中でも、たくさん日本の人が右往したり左往したりしていて、見た目ではもちろん、数字の上でも人口の40%を占めると地元人が述べていた中国系マレー人や、中国人、韓国人と区別がつかないが、例えばすれちがいざまに、あっ、いまの人、日本語で話してたな、と思う事が何度もある。

海辺のGurney Plazaからは離れたところにある島の東北端の旧市街にはGAMAという恐ろしげな名前のスーパーマーケットがあって、ペナン人が、あの日系スーパーは50年以上前からあるのさ、と、うそおおおんなことを述べていたが、そのスーパーに限らず、あっちにもこっちにも日本の食品や製品が並んでいて、Prangin Mallにはベスト電器まであるので笑ってしまった。

笑ってはいけないが、日本のプレゼンスが世界中で後退・縮小しているいまの世界では、数少ない「ニッポン」が目立つ町で、なるほど、だから日本の人がたくさん年金生活をしにやってくるのね、と、正しいか正しくないか、えーかげんで判然としない納得をする。

シドニーやメルボルンで、おおきな企業でマジメに勤め上げれば月に30万円〜40万円だという年金をあてにして退職生活をするべく計画して移住してきた日本の人達は、オーストラリア経済の大繁栄とともに生活費高についていけなくなって、あらかた日本に帰らざるをえなくなった、とニュースになっていた。
ニュージーランドでも事情はおなじで、まだいまのところは生活費が落ち着いたレベルのクライストチャーチには残っているが、オークランドにはとてもではないが住めなくなって、日本に帰らざるをえなくなったひとが多いようでした。

ペナンは、例えば一杯のチャーシュー麺が7リンギ(180円)くらいで食べられるところが、通りの、あそこにも、ここにも転がっていて、しかも味の水準がびっくりするくらい高いので、おなじチャーシュー麺が14NZD(1200円)はして、このチャーシュー、なんだかヘンな臭いがするんじゃない?の、オークランドとは較べるべくもない、自分が月30万円の年金を頼りに暮らす日本人年金生活者であるとすれば、やはり、一も二もなくペナンを選んで住むだろうと思います。
ペナンは、日本の人にとってはパラダイスなのではなかろーか。

英語人にとっても、楽ちんなところがあって、地元の人は英語は覚束なくても、なんというか、マレー語を話せないアンポンタンな英語人に馴れている。
ひとの国にやってきて、あろうことか英語でまくしたてる横柄な態度に対して歴史が培った寛容で接する術を知っているので、タイランドのような国に較べると、英語人にとっては格段に楽です。
アジアだとはいってもコモンウエルスなので、例えばスポーツの趣味は共通していて、普段の生活にバドミントンやスクォッシュ、テニスが溶け込んでいるのはニュージーランドとまったく変わらない。

マレーシアは歴史的にコモンウエルスのなかでもニュージーランドと結び付きが強い国で、例えばColombo Planによって、富裕なマレーシア人の子弟は大量にニュージーランドに留学してきていた。
中国人や日本人が土地開発に大金を投入しだすまでは、ニュージーランドでアジア系の投資家といえば、だいたいにおいてマレーシア人だったのでもあります。

珍しくも用事があってペナンに来ているが、なにしろ大庭亀夫さんの「用事」などは、遊んでいるのと区別が判然としない「用事」なので、大半の時間は好物のNasi KandarやNasi Lemakの探索に費やされている。
あるいは子供のときからTe Tarik評論家なので、広々とした店内の天井で、ゆっくりとシーリングファンがまわっているカフェに座って、一杯1.5リンギ(40円)のテタリックを飲んでいる。

ペナンはマレーシアのなかでも客家的な町だが、人気(ひとけ)のないカフェで、そうやってのんびりテタリックを飲んでいると、中国圏であるよりもマレーで、マレーシアはいいなあ、と思う。

ありがとうは、テリマカシ、で、どういたしましてはサマサマだけど、甘くないアイスコーヒーは、コピ オー コソン アイス、かな?

コソンと言えば、0,1,2,3,…は、コソン、サトゥ、ドゥア、ティガッだよね。
ティガッまでは簡単におぼえたが、4のアンパッをすぐに忘れてしまう。

頭の中で、ぶつくさとつぶやきながら、クソ暑いカフェのテーブルに座って、なんだか幸せである、と考えました。

(画像はte tarik 英語人はテタリックと言うが、ほんとの発音は、カタカナでは「テタレ」に近い音だとおもいまする)

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2 Responses to 初心者のペナン_1

  1. Tetsu Ito says:

    私がマレーシアで覚えた言葉が「Te tarik」でした。どこででも頼みました。
    中華系ベジタリアンレストランで「ないよ!」と中国語で怒鳴られたなぁ

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  2. いまりん says:

    旅行で仲良くなったマレーシア国籍の中国人は、客家と言っていました。
    家では客家語、外では広東語、学校では英語、日本系企業で働いて日本語もペラペラ。
    賢いだけでなく人柄にも感心させられました。
    私とは、日本語で会話しました。楽しかった。
    その思い出とともに、ガメさんの文を読んで、マレーシアに、いってみたくなりました。

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