Monthly Archives: November 2017

杞憂をめざす

1 Lounger、という。 日本語ではデッキチェアと呼ぶのではなかったかと思うが、もうおぼえていない。 芝生の上に、モニの分とわしのとがふたつ出ていて、まんなかには小さなテーブルが置いてある。 寝転がって、身体の重みをかけて背もたれを倒すと、目の前に、濃い色のサングラスをかけて、まぶたを閉じていても、なお暫くすると眼が痛くなる深い青色の空が広がっている。 ニュージーランドは世界一UVが強い国で、皮膚癌もだから世界一位だか二位だったかで発生する。 オゾンホールのせいだということになっていたが、ずっとむかし、研究者の年長友に聞いたら、「ああ、あれ、予算獲得のためのウソ。ああでも言わないと研究費でてこないから。ニュージーランド? あそこの紫外線が強いのは、単純に空気が世界でいちばん綺麗だからなんだよ」とあっさり言われたことがあったので、ほんとうの理由でないことは知っていた。 オゾンホールが縮小しても、案の定、紫外線は一向に弱まらなくて、皮膚癌の発生率も世界一の王座を保っている。 ヒマなので、と言って、いつもヒマなわけだが、日本語インターネットではどうなっているかとおもってパラパラとサイトを見て歩くと、「アフリカがいちばん紫外線が強い」「オーストラリアですよ、オーストラリア」といろいろな意見が、いつもとおなじで満腔の自信をもって述べられているが、英語のサイトには研究者の論文がナマでたくさんあがっていて、やはりニュージーランドがダントツの最悪で、紫外線のインデックスであるUVIが13を越えるというすさまじさで、普通は10を越えないので、とんでもないというか、真に健康で幸福な生活をめざせば空調完備の宇宙線遮断にすぐれた宇宙服を着て暮らさなければならなさそーです。 だいたい同緯度の北米諸都市と較べても40%くらい紫外線量が多いと述べられている。 アダムとイブが食べたのはインターネット知識のりんごに違いなかったので、ラウンジャーで、のんびりと、ろくでもない紫外線についての知識を思い浮かべながら、危ないから、30分したら、あの花棚の下に行ってサングリアを飲み直さねば、と考えながら、ウトウトする午後は、ニュージーランドの夏の醍醐味であるに違いない。 気が付くと、一時間くらいも眠り込んでいて、あとで鏡を見たら、顔が、真っ赤というのもバカバカしいくらい赤くなっていた。 2 生活にかかせないもの、を考えると、そんなにたくさんはなくて、モニさんや小さな人々はもちろん不可欠だが、これは欠かせないものというよりは生活そのものなので、欠かせないもの、なんて呼び方をしたら、小さな人たちは憤慨して、ふたりで横断幕をもって、ホールを練り歩いて抗議デモをするだろう。 そういう途方もなくおおきなもののほうではなくて、ごく小さなもの、細部について述べようとしている。 まずエスプレッソマシンがないと困る。 家にはおおきなイタリアから輸入された業務用のマシンがあるが、これは管轄が異なって、と書くとなんとなくお役所みたいでバカバカしいが、料理の人やなんかの管理下のものなので、関係がないといえば関係がない。 ここで「エスプレッソマシン」と呼んでるのは、モニとわしが使っていて、ねむたいよおー、ぐわああああーと呟きながら、ひょろひょろと起き上がってきて、マイクロウエーブでびょおおおーんとカフェコンレチェのカップに半分のミルクを温めて、ぎゅわあああーんとコーヒー豆をひいて、カチンッ、くるっ、パチッとportafilterを留めて、ぐわんぐわんぐわんと抽出すると、うめーになる、あれです。 家では7年前には最新機種で、Brevilleの市販品では最も圧力が高いNZD$4000のチョーおいしいコーヒーが抽出される「むほほ」なのを使っているが、いまはタッチパネルのもっとカッチョイイUKで£2000だかなんだかで売っているThe Oracle Touchがニュージーランドでも売り出されるようになったので、いまの機械が壊れないか、虎視眈々と狙っているが、最近の家電は丈夫で、なかなか壊れてもらえない。 クルマも必要で、そんな前世紀の遺物いらんやん、ときみは言うだろうが、なにしろ高校生のときからずっとクルマと一緒の生活なので、馬さんや犬さんや猫さんとおなじで、クルマがいない生活は索漠として耐えられない。 もともと、ギアを変えようとするとギアチェンジのスティックがすっこぬけてしまうようなチョーおんぼろが好きなのは、前にも書いた。 走行距離計が巻き戻されて9万マイルにされているクラブマン(←もとは多分19万マイル)だとか、片目しか開かない初代ユーノスロードスター(NA)とか、前輪が外れてコロコロコロと交差点のまんなかに転がっていってしまうモーリスマイナーとか、そんなんばっかり乗っていたのが、最近はSUVに乗ることが多くなって、発売以来、不動の新車故障率世界一を誇るレンジローバーや、それとは逆に、「故障?故障って、なんですか?」な優等生ランドクルーザーで、坂が多いオークランドの町を、ぐおー、ぶおーと走り回っている。 クルマのようなものでも、ずっと乗っていると、病膏肓というのか、ヘンなものが好きになるが、去年オレンジカウンティで乗り回して遊んでいたInfinityのQX80は、5.30mX2.03mX1.92m、ぶっかぶかにおおきくて、エンジンもV8で5.6Lの時代に盛大に逆行するエンジンで、とても気に入ってしまった。 テールゲートがリモコンで、ういいいいーんと開くので、おもろくて、もっか買っちゃおうかなあー、どうしようかなあーと煩悶中です。 このあいだカリフォルニアの友達とスカイプで話していたら、最近はテールゲートの下の空気を手ですりすりすると、ふおおおおーんとテールゲートが開くオプションもあるとかで、ますます、ふはーと物欲のタメイキが出る。 あと速いコンピュータとスマホがあればいいので、生活に必要なものなんて、ビンボでもオカネモチでも、あんまり変わらないやんね、と考える。 おいしいコーヒーとボロくてもよく走る健気なクルマとオンラインの端末さえあればいいわけで、なんという安上がりな世の中になったものだろうと考えていると、世界中で階級というものが稀薄な概念になってきて、影になって歴史の霧に溶けてゆこうとしているのが、あたりまえのように思えます。 3 だからLoungerもいらないといえばいらなくて、芝生の上でゴロゴロしながら、高空を流れてゆく、夏の積雲をみている。 世界はどんどん酷くなってゆくように見えるが、歴史の教訓は、世界はどんどん滅茶滅茶になるように常に見えながら、「ダイジョブに決まってる」派のひとびとの手によってではなくて、「もうダメだ、このままでは破滅だ」派のひとびとの手によって、なぜか良いほうに向かって進んできたことを教えている。 個々の国で見ても「ダイジョブに決まってる」派が多数を占めた国は、ほどなく破滅して、ひどければ戦争をおっぱじめて国ごと忘れ去られて、「ダメだあー。もうダメだあー。どうすりゃいいんだあー」とジタバタしてきた国は、どーにかこーにか、どころではなくて、不思議に繁栄している。 なにより世界は全体が3%4%と成長を続けていて、増大する人口やビンボによる社会の決壊を食い止め続けている。 ほら、日本の詩人、岩田宏も 悲観とはただの習慣だ と言っているでしょう? 人間の本来の姿は、空を仰いで、「神様、助けて下さい。もう、ダメです」と息苦しいおもいをしながら、なんとかかんとか、どーにかこーにか、弱い腕を、お互いの肩にまわして、助けあって、まるで善意という1本の細いザイルに全身を託す人のようにして、この峻険な文明の山を登ってきた。 杞の人は、この深い青空を見てさえ、崩れ落ちてくると心配したそうだが、いやいやいや、ダイジョブですよ。 … Continue reading

Posted in Uncategorized | 3 Comments