聴き取りにくい声 1

いままでの自分の一生で、最もよかったことは、もちろん、モニさんと出会ったことだった。
もしモニさんと会わなければ、ぼくは一生というものが、どういうものであるべきか、考える事さえなくて、ふらふらと町を歩いて、土曜日の朝には知らない女の人のベッドで眼をさましていただろう。
人間には、生きるに値する生があるのだと考えるようになったのは、まったくモニさんのおかげで、そう考えてみると、現実にそうであるよりもなにであるよりも、そう考える姿勢でのぞむ一生のほうが、遙かに快適で、意味が感じられて、満足がおおきいのがわかった。

まるで、かすれがちな鉛筆のスケッチが、色彩のついたペイントに変わるくらい、モニさんと会う前と会ったあとでは、自分の一生がまったく異なってみえたのは、不思議なほどだった。

だから、質と次元が異なるので、「二番目によかったこと」というようなものはないが、数学を勉強したことは、「頭をちゃんと動かす言語」を手にいれた点ではよかったとおもう。

あんまり詳しく書くわけにはいかないけど、ぼくの学歴は変則で、他のひとよりもずっと早く大学までを通過している。
こっちのほうは、どうだろう、いま考えて見ると、まわりに較べて自分が子供すぎて、といっても体格はおなじくらいで、あまつさえ、もしゃもしゃ髭を生やしていたので、少なくともパッと見た目は判らなかったかもしれないが、学校という制度への異和感は、周囲とのちぐはぐな感覚からできたのかもしれなくて、あんまりよくなかったのかもしれない。

あれは多分、女の人に生まれたほうが、男たちの女の人一般に対する、「保護」というような勘違いが功を奏して、まったくのミスマッチがマッチする結果になって、人よりもはやく大学を卒業することに、それほど奇異な感覚をもたなくてもいいのかもしれない。

迷路のパズルは出口から入り口をめざしたほうが簡単なのは知っているでしょう?
あれは論理よりも心理的なものではないかとおもうが、オカネを稼ぐのもおなじで、一生の終わりにおける富貴と安定をめざすよりも、出だしで、どおおおんと稼いでしまったほうがいい。
最近は、実際、高校生くらいで一生を楽に暮らせてしまう金額を稼いでしまう、例えばプログラミングが好きな人がたくさんいるので、案外、このブログを10年後くらいに読む人は、「なんで、こんな誰でも考えることを、わざわざ文章にして書いているのだろう?」と訝るかもしれないが、ぼくが大学で一生をすごす考えに見切りをつけて、自分では「冒険」と呼んでいた生活に乗り出したころには、そういう考えをする人間は皆無で、ひどい人になると、「きみは、いざダメでも家が富裕だから、いいよな」と言ったりするつもりで、家のオカネに手を付けるという、それだけは、一生のおおきな心の傷になるので、避けようとかたく心に決めていたぼくは、えらく腐ったものだった。

でも初めにオカネを稼いでしまったのは、やっぱりよいことだった。
それは、これから世の中にでてゆくきみには、役に立つ知識なのではないかとおもっています。

このあいだは、他人の目のなかで生きるな、他人の期待のなかで生きるほど悲惨をまねく生き方はない、と言ったのだけれど、自分で自分に期待しすぎるということもやはりないとはいえない。

自分には他人にないなにかがあるはずだ、と信じて、実際、それはきっとあるんだけど、たいてい、自分があると感じる方向とは見当違いのところに存在することにも、人間の不幸は起因しうる。

聴き取りにくい声を聴くのは、このブログのメインテーマのひとつだが、自分の内なる声にもおなじことがいえて、例えば、ギターの弦を弾いて、「あれ、いまの音、楽器がたてた音とはべつに、心のなかでした音はなんだろう?」とおもう。
数学ができて、物理が得意で、ところが、ほんとうは音楽のほうに天才が存在してギタリストになった人がいる。
あるいは、アメリカンフットボールのプロとして、つまりNFLで、オフェンシブラインの要に立って、巌のようであった人が、実は、数学者としてのほうが遙かに才能があった、ということがある。

少し話が変わるが、男として育ってきたけれど、内心の声は、どう聴いても女の人の声で、おもいきって女として暮らし始めたら、堰を切ったように幸運と幸福が押し寄せてきた人がいる。

ときどき、野球がない国に生まれたら、ベーブ・ルースはどんな一生を送っただろう、というような話で、パブの立ちテーブルを囲んで笑い声が響くことがある。
だが、科学がない世界に生まれて、科学そのものばかりか、科学に必要な道具まで生み出してしまった人もいる。

このアイザック・ニュートンという人の際立った特徴は、ほかの天才がなべて持っている「幼少時の天才ぶりを示す逸話」が皆無であることで、どんなに調べてみても、精巧な風車小屋をつくった、という記録しか残っていない。
それが突然、という印象で万有引力と二項定理を発見したのが1665年、バローが「あれ?この若者はもしかしたら、大変な才能をもっているのではないか」と疑問におもいだしてから、たった2年後のことで、人間の才能というものは、あぶりだしのための化学薬品がなければ不可視なのだ、ということが、これほど判りやすい人はいない。

しかも、この人は自分がいったん達成してしまったことに対しては、徹底的に無関心で、有名なプリンキピアは、ハーレーが彗星の運動の法則性について、はるばるオックスフォードからケンブリッジまでやってきて、ニュートンを訪問しなければ、世の中には出ないはずの本だったのは、いまでは、よく知られたことだと思います。

このアイザック・ニュートンと、つかみあいの喧嘩じみた、大喧嘩を「誰が初めに解析学を創始したか」について延々と繰り広げたライプニッツも、実は、同類といえば同類の人間で、この人は、ちゃっかり、「世の中の人に判りやすい受け狙いの哲学」と「どうせ誰にも理解できはしないが、自分では確信している、ほんものの哲学」にわけて、後者は公表にいっさい興味をもたず、前者でらくちんなオカネ稼ぎをして暮らしていた。
一方で、精魂こめて書いたはずのジョン・ロックに読ませるためのめっちゃでっかい論文は、ロックが死んでしまうと、公刊もせず、誰にもみせずに、ほうっぽらかしてしまうという体たらくだった。

この仲が悪かったふたりから、真への衝動はなにか、人間を突き動かすものはなにか、ということを読み取るのは、そんなに難しいことではないような気がする。

きみは、違う答えを期待していて、え?とおもうかもしれないが、人間を深いところで突き動かして、真に偉大な知的活動に導くのは、魔術的な衝動ではないかとぼくはおもっています。

かーちゃんの知恵で、家事を面倒みてくれるひとたちとともに農場にほっぽらかしでいさせてもらえる時間をすごしたぼくは、退屈が極まって、膨大な余剰時間のなかにおかれると、人間は、不思議な情熱を感じるようになることを学んだ。
自分で考えて、いちばん可笑しかったのは、頭では、そんなことはありえないと熟知しているのに、ロトの番号を予知する方法があるのではないかと考えた期間があったことで、いま考えても信じられないというか、普通の精神状態ではなくて、ばかばかしくて情けないが、ところが、このときに、まったく同じ魔術的な時間と精神状態のなかから、あとでインベストメントでおおきな利益をもたらすことになる、非公開なのでまさか言わないが、方法をみいだすことになった。
魔法の薬を調合したり、錬金術師の精神状態とおなじであるはずで、考えて見ると、アイザック・ニュートンが最後に没頭した研究も土から黄金を生みだす錬金術だった。

賭けてもよいが、アイザック・ニュートンは、魔術的状態に陥らない、平板な理性とともにある状態では、錬金術など、可能であるわけがない、と考えていたはずです。
土くれから黄金ができるわけがないのは知っていたが、土から黄金をうみだす方法がみいだせるのではないかと魔術的な確信をもっていた。

いつか、きみに「科学の両親の片方が魔術であると知らないのは、日本の科学思想の不幸な点であるとおもう」と述べたでしょう?
したり顔で「あのくらいの放射能が安全であることは科学の鏡に照らして常識に類する」と述べたがるようなタイプの教室科学者には、理解のよすがもあるわけはないが、科学はもともと暴走どころか、魔術の後身とみなすことができて、例えば数学者には、いまでも魔術的な感興で、少し身体が浮いている人がたくさんいます。

身体は男だが実は自分が女であったり、論理の向こう側から、いままでに既知の論理ではありえない論理が呼びかけてくる声が聞こえたりすることには、共通の聴覚が必要で、この聴覚は、平々凡々たる人間が、幸福な一生を送るためにも、まったく違わず、寸分おなじ能力として必要なのだとおもう。

この記事を読んでもわかりにくければ、また、もどってくるよ。
タイマーが鳴って、
さっきから煮込んでいた酒の肴のアイアリッシュシチューが出来たようだから、残りは、また。

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1 Response to 聴き取りにくい声 1

  1. Hermes Trism says:

    AI、仮想通貨、グラフ理論等々。

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