若いプログラマへの手紙

第二次世界大戦の爆撃機の後部銃手たちについて、まとめて、何冊か本を読んでいて、きみのことを思い出していました。
われながらあんまり良い表現ではないが、きみの遺伝子の半分を占める英語国民の血のせいか、軍事にも興味があるらしいきみはきっと知っているだろうけど、爆撃機の後部銃手は、戦闘機からすれば目の仇で、真っ先に沈黙させにかかる銃座で、もともと戦死率が高い爆撃機クルーのなかでも、特に戦死率が高いポジションで、しかも、例えばB17の後部背面旋回機銃塔やランカスターの後部旋回機銃塔は、小さな人でも身体を屈めて、まるで屈葬されるネアンデルタール人のような姿勢で、
必ず零下になる高空を、閉じ込められた空間にひとりぼっちで、9時間を越える滞空時間を孤独に戦いながら飛ばねばならなかった。

本から本へ、読み渉っている途中で、なつかしいRandall Jarrellの詩に、ひさしぶりに行き当たった。
こういうのです。

From my mother’s sleep I fell into the State,
And I hunched in its belly till my wet fur froze.
Six miles from earth, loosed from its dream of life,
I woke to black flak and the nightmare fighters.
When I died they washed me out of the turret with a hose.

あの人らしい、というか、この詩は、これで全部なんだよ。
いったいに、戦争ちゅうにパイロットだったひとびとは、
ロアルド・ダール、サンテグジュペリ、Randall Jarrellと、いったいに、感情からなにかが削げ落ちていて、素っ気ないが、この詩もそうで、
短くて、もの足りなくて、それでいて完結していて、なにかを足しようもない。

When I died they washed me out of the turret with a hose.

は、もちろん、旋回銃塔のなかの銃手が死亡したときの、後始末の手順を描写しているだけだが、その手順は、現代の世界で、生産性向上のためのツールとして酷使される、若い人の死を、うまく象徴しているとおもう。

事務的で無関心で冷たい手が、きみが流した血を洗い流して、そこには、人間性というような曖昧なものが介在する余地はない。

ぼくは、この世界の冷たさに驚くことがあります。
ただ運がよかったせいで、いままで、気が付かなかったんだよ。
まだ世界がよく視界として見えてきさえしない若者に、世界は襲いかかって、プログラムの能力があれば、コーダーとして、プログラマとして、あるいは生物学者としての才能があってさえ生物学者として、現代の世界は、若い才能を消費して、食い尽くしてしまう。

それが正しいことでないのは、皆が知っているが、明日のことより先の心配をする余裕がないので、申し訳ないとおもいながら、若い人のエネルギーに甘えるのね。
あるいは、なかには、若いちからは消耗品だと割切っている人もいるのかも知れないが。

ぼくは、子供からおとなになって、なんだかぼんやりしているうちに、物質的に成功して、よく世界を認識しないうちに、他人を雇うほうになってしまった。
自分の会社で直截雇っている人もいるし、自分が雇っている(という表現は変なのだろうか)会社が雇っている社員の人もいる。

自分で直截雇用しているひとびとは、日本語で書いたってわかりゃしないので平気で書くと、ぼくより、ずっとビジネスの世界では優秀なので、雇っているといっても内実は一味郎党のようなもので、向こうも、「自分がいないとガメはとんでもないことしか考えないからしっかりしなければ」というような理屈で仕事をしているもののようです。

なにしろ自分の会社の社屋に、いつものように、半ズボンとTシャツで出かけていって、警備員のおっちゃんに入れてもらえないで押し返されるくらいダメな社主なので、生産性もなにも、もしかしたら帽子の飾りみたいなものなのかも知れないが、それはそれで、ひらひらしていて、見栄えがいい羽根飾りになればいいけど、とその程度の考えで会社の社主をやっている。

だから、あんまり、ああだこうだと述べる資格はないんだけど、やっぱり、やっぱりがつくような日本語表現はダメなのだと日本語の先生に教わったが、やっぱり、
いまの世界の若い人への態度は、文明として間違っているのではあるまいか。

若い人は、マヌケでいいんです、とぼくの大学の先生は述べていた。
いま考えてみると、本人も若かったんだけどね。
社会の役割は、マヌケな若い人に、失敗をするだけの余裕をつくって、なんどかみっともない失敗を繰り返しても、見て見ぬふりをしてあげることなんです。
若い人に生産性を期待するような社会は、社会として失格であるとおもう。

で、ね、ぼくはこのごろ、この人が述べたことの正当性と重大さのことを、よく考える。
若い人間を、社会というプレスにかけて、最期の一滴までエネルギーをしぼりとるような、いまの世界は、ほんとうは、狂気に陥っているのではないだろうか。

先週、ぼくは、あることのインタビューにやってきた若いレポーターと話していて、その人が苦闘して、内心の苦しみと格闘して、おなじ家のフラットメイトと性的放縦のなかで乱交してみたり、ドラッグに救いを求めたり、ひどいディプレッションに陥って、手首を切ってバスタブに浸かっていたりしていた話を聞いていた。
「どっちがインタビューに来ているのか。ガメさんは、不思議な人ですね」と言って苦笑いをしていたが、この20代前半の人の話は、ぼくがいろいろな若い人から聞いている話と符丁があっていて、しかも、暗然とさせられるようなものだった。

多分、われわれが生きているこの世界には、だんだん個々の人間に対して冷酷になってゆくはっきりとした傾向があって、20代の若者から始まって、10代へ、さらに若い未成年へと、noviceを標的にして、消費しつくしていく、人間に対して容赦をしない性癖があらわになってきているのだとおもう。

きみは、「ここ二日で35時間も働いている」とツイッタで述べている。
自分は、こういうことをやっていると死ぬのではないかと何度も述べている。
でも、それが、ただの風景として聞き流されて、誰も慌てないくらい個人の運命に冷淡な世界を、ぼくやぼくの年長の友達たちはつくってしまったのではないだろうか?

現代の世界は、そのまま、むきだしの、悪意そのものに似ている。
若い人間にとっては、特にそうで、きみの肩をつかんで、生産マシンに放り込もうとする。
もしきみが女に生まれれば、状況はさらに最悪で、ハンディキャップを負わされた職場に向かうきみのスカートからでた足を、ほら、向かいの席に座ったおっさんがなめるような視線で見ているでしょう?

なぜ、こうなってしまったのか、ぼくには判らない。

と、ここまで書いたら、メモのつもりで書いたRandall Jarrellの詩に、きみがfavouriteのマークをつけている。
偶然が伝えようとすることは、時に、深刻であるとおもいました。

死なないで。
頑張ってしまうのは、どんな理由によっていても、よいことではない。
お母さんの国なのかな?きみが愛する日本の文化は、残念なことに、自分を愛する個人を殺すことを躊躇しない。
自分を愛する者から食い尽くす文明なのだと思います。

ぼくにはHermes @Hermes_trismというチョー変人の弟がいるが、アホで、スコットランドにいればよかったのに、到頭、日本の九州にいて、きみとおなじように過労死しかけている。

日本という狂気には、日本に愛情をもつ若い人には魅力があることは、ぼくの貧しい想像力でも判る。
でも、その魅力は、疲れ果てた人の目の前にあるクビを吊るロープの魅力に、似ていないだろうか?

やってみる価値があるだろうか?

ぼくは、いつかきみやhermesに、会いたいと思っています。
日本語という言語で出来た文明の体系をどう思っていたか、聞きたいとおもっている。

いや、くだらない理由づけをする必要はないか。
きみやhermesが歩いたアンビバレンツの道が、ぼくには、ほんの少し判る気がするから、と正直に言ったほうがいいのかも。

ふたりとも肉親としかおもえないのは、ぼくにとっては外国語である日本語の技量への見栄なのかもしれないけど。

どうしても、会いたいとおもっています。
だから、ひとりぼっちで、タレットのなかで死なないで。

ホーズから流れ出る、冷たい水で洗い落とす死を、死なないで欲しいと真剣に願っています。

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