世界を救いにきたマヌケ

ゲートを出ると、近所のおっちゃんが通りかかるところだった。
近所のおっちゃん、ではあるけれども、オーストラリアやニュージーランドでは、わりかし有名なバンカーです。

ビール友達だけどね。
パブで、立ち飲みのテーブルをはさんで、日本の新橋サラリーマンというか、政治や経済の話をする。

今日は、休みなんだよ、わたしは、と述べてから、ちょうどいいや、いつもヒマな青年よ、一緒にオイスターバーに行かないかね、という。

「あそこは不味いっちゅう評判ではないですか」と述べると、
「そう、それでクビがまわらなくなって、もうすぐ潰れるらしい。
そうすると牡蠣が食べられなくなるから、いまのうちに食べておこうとおもって、散歩のついでに牡蠣とビールの天ぷら、間違えた、ビールと牡蠣の天ぷらを食べに行こうというアイデアなんだけどね」

と妙な理屈を述べて勧誘されたので、一緒にバーへ行くことになった。

17番地のひとたち、といまでも語り草になっているそうでした。
おっちゃんが住んでいる通りには、大邸宅と言うべき家が並んでいるが、そのうちのひとつの持ち主が、夫が入院したら、24歳年下の愛人が出来て、アメリカにしばらく住むことになって、家が空くことになってしまった。
貸しに出したが、なにしろ、家賃が高いので借り手がつかない。

管理会社が「グループオブピープル」に貸せば良いのではないかと提案したときに、もう少しちゃんと考えるべきだったとおもうが、おばちゃんは、なにしろ、若い恋人と一刻も早く新生活を始めたかったのでしょう、たいして考えもしないで、アドバイスの通りにすればよいと思ったようでした。

記録のために実名を記しておくと、このチョーとんでもない提案をした会社はCrockersという、ニュージーランド最大、ということになっている貸家管理会社です。

手をあげて入ってきたのは、契約書上は5人だが、実際には26人という人数の若い人達だった。
プールもあれば、テニスコートもある家なので、パーティをして遊びほうけるにはもってこいだと考えたのでしょう。

そのあとに起きたことは語り草で、毎週末どころではなくて毎晩、パーティパーティパーティ!で、パーティの騒音には寛容なニュージーランド人にとってさえ忍耐の限度を超える大騒音の毎日になっていった。

「P」、という。
Methamphetamineのことで、日本語でいえば「シャブ」だろうか。
どうやら「Pパーティ」を毎晩開いていたようで、近所の人の話では、どうやら、そもそも借主の胴元が、表向きはクルマの会社の役員だが、裏では麻薬販売の幹部だったのではないかという。

「いやあ、あのときは参った」と銀行家おじちゃんが、ブラフ・オイスターを食べながら飲む白ワインでだいぶん酔っ払って述べている。
近所で寄るとさわると、いったい、どういう考えで大騒ぎをするのだとか、今日は珍しく静かだったのは、さすがに近所の手前反省したんだな、とか、推測して話すのだが、ことごとく外れで、いったいなにを考えているのか、ちっとも判らなかった。

次になにが起きるか、弁護士のPや、医師のC、議員のK、みんなで推測してもあたったことがない。

ニュージーランド人のコミュニティは、滑稽なくらい、「事を荒立てない」ことを好むが、さすがにこれではどうにもならないということになって、近所会議を召集して、ああでもない、こうでもない、あんた、新聞になんか書いてもらってしまったら自分の家を売りたい人の価格に影響してしまう。

そのうちに、若い建築家のRが立ち上がって、ようがす、わたしが友達の事務弁護士に法的なレターを書かせます、ということになって、結局、この提案は良いアイデアで、家の借主になんらかの疚しいことがあったのでしょう、レターが届くと、すぐに引っ越していってしまった。

「トランプのことを考えると、おれは、いつもあの17番地のひとびとのことを思い出すんだがね」と、よっぽど気に入ったのか二皿目のブラフオイスターの天ぷらを頬張りながら銀行家が述べている。

結局、バカの考えることは、いくら知恵をしぼって推測しても判らないのではないか。

「世界を救いに来たマヌケ」という大論文をフォーラムに寄稿した。
うまくアメリカ大統領になりおおせたドナルド・トランプについての記事です。

誰がいくら知恵をしぼっても、この、ジャクソン以来と言っていいほど知力が際立って低い大統領の行動が予測できないのは、多分、なんだか冗談みたいでも、トランプ自身が「なにも考えていない」からでしょう。

話を聞いていても、どうやらトランプという人は5分以上のブリーフィングは頭が受け付けないらしい。
マジメな顔をして「おまえたちのデータより、おれの勘のほうが信頼できる」と述べるのだそうでした。

やっていることは滅茶苦茶と言うしかなくて、前に、アメリカ人の友達が、「トランプは結局再選されて8年やるだろう」と述べてから、ちょっと沈黙したあとに
「8年後も、この世界があればね」と付け加えたのをおぼえている。

ところが。
ところーが。

信頼しているチャイナウォッチャーによれば、平静を装っている表面とは異なって、中国は、いったんは買収に成功したはずの、買収に成功したと思われたトランプが、突然貿易戦争を挑んできたことに狼狽している。

抜群の眼力をもったチャイナウォッチャーである彼女の意見では、「このまま貿易戦争が勃発して続けば中国経済は崩壊する」という。

オーストラリアとニュージーランドでは、Clive HamiltonのSilent Invasion

http://theconversation.com/book-review-clive-hamiltons-silent-invasion-chinas-influence-in-australia-93650

を、古風な言い方でいえば「要路」にある人間の全員が読んでいる。
世界を理解するための必読書の趣です。

北京オリンピックのときに、聖火リレーを待って、チベット弾圧に抗議する群衆に対峙する、数に数倍した五星紅旗を並べた中国人留学生たちに「ここは、きみたちの国ではない。オーストラリアだ」と諭そうとするオーストラリア人たちを暴力で襲撃するショッキングな出だしをもつこの本を読めばわかるが、口にしないでいるだけのことで、オーストラリア人の中国に対する警戒心は、すでに、レッドアラートを越えている。

ヨーロッパでも、アメリカでも西洋的価値に正面から挑戦する中国文明の力は、日本の経済繁栄の時代とはまた異なった、思想的な緊張をもたらしている。

あるいは北朝鮮の問題では、政治にあかるければ誰もが知っているとおり、ヒラリー・クリントンが大統領ならば、とっくにアメリカは軍事的に北朝鮮を先制攻撃して、日本の主要都市と米軍基地都市の壊滅と引き換えに金正恩政権の息の根を止めている。

ところが、酔っ払いが、ふらふらと歩いているようなトランプ政権は、まともな知能がある人間ならば絶対にとらないリスクをとって、中国に貿易戦争を挑み、北朝鮮とは「あいつは、いいやつだ」で、もう終わったことにして、ましてロシアのプーチンに対しては「ほんとはプーチンから高給をもらってアメリカ大統領をやっているんじゃないの?」と、あちこちで言われるほどの、飼い犬ぶりをしめして、
CIAやFBIよりも、ロシア人を信用していることを何度も公言している。

これほど滅茶苦茶なアメリカ大統領を、われわれは目撃したことはないが、ところが、政治というものは面白いもので、トランプが結局は、恥知らずな変心や、厚顔なウソを繰り返しながら、任期をまっとうして、世界を安全運航のレールにもどす可能性は厳然と存在する。

いまのところの見積もりではヒラリー・クリントンよりマシだった、というのが、例えば中西部のアメリカ人の平均の口にしない見積もりでしょう。

自分が知性をもつ人間だ、あるいは、自分は知的人間の世界につらなる人間だ、とおもう人は、あたりまえだが、トランプに悪罵を浴びせる。
英語世界では「自分は頭の悪い人間ではない」とあらためて述べるのとおんなじことです。

それはそれで、いい。

でも政治というものは、文字通り得たいの知れないバケモノで、当の「ヒラリー・クリントンもトランプもダメだが、ヒラリーなら次を待てばよい。だがトランプになったら、そこで世界は終わってしまう」と考えてトランプ大統領の誕生に息をのんだ人々は、予想通り、理屈にあわない、デタラメを繰り返す自分たちの大統領が、中国人や日本人たちに対しては意外に有効な力をふるっているのを見て驚いている。

日本の首相などは、見ていて恥ずかしくなるくらい、尻尾をちぎれるほどふっての忠犬ぶりで、アメリカが、この面従腹背の、一筋縄ではいかない同盟国に対して、いまほど安んじた気持で、あれこれ一方的に命令できた時代はなかった。
いまの日本の首相の祖父が、文字通りのアメリカの犬で、CIAから給料をうけとるエージェントとして日本の首相をつとめていた時代でも、これほど顎でつかえる国ではなかった。

トランプが出てきたときに、世界中の人間が「これは拙い」と考えたのはバノンで、ただでさえ思想家という存在は人類を破滅の淵につれていきやすいものだが、バノンはなかでも政治思想家で、しかも破滅の炎のなかから白人種が再び支配人種として蘇ることを夢見る、北海文明の、アポカリプスのビジョンをそのまま現代にもってきた人間だった。

ところがトランプは娘婿と折り合いが悪いという卑小な理由で、自らのうちの最大の暗い炎を吹き消してしまう。

「トランプは、結局、世界を救ってしまうのではないか」という笑い話じみた考えは、「いや、まさかそんなことはないだろう」という常識と「もしかしたら」という気持のあいだで、ときどき、頭のなかに閃いては消えます。

われわれはすでにソビエト連邦を理不尽というほかない理屈で追いつめて崩壊にみちびき、苛酷だった冷戦の終結をもたらしたロナルド・レーガンという例をもっている。
一方では、アメリカ中の叡知を集めたはずのケネディの政権がどうなったかも憶えている。

トランプという、「現代アメリカの奇現象」と呼びたくなる下品・無知・ウソツキの三拍子揃ったおっさんを迎えて、政治という怪物が、ここからどう反応していくのか、興味がつきないところだと思います。

通常の知力がある大統領ならば、到底負えるはずがないリスクを、トランプは平然と負ってしまう。
しかも、それがリスクであることすら理解していない。
こんなことが起きるのは初めてなので、どんな「ベスト&ブライテスト」も、ただ絶句して見守っている。

いまの情勢では、ほぼ間違いないトランプの二期8年の任期のあとで、世界はどうなっているか。
存在しているのか。
それともバノンが夢見た核の業火に結局は焼かれているのか。

一緒に、見ていこうと思っています。

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2 Responses to 世界を救いにきたマヌケ

  1. says:

    私は歴代の米国大統領の顔歴史を見てて誰も親しみを持てなかった、そして初めてオバマが出てフ〜ン嫌悪感が湧かない顔だ〜と気がつく(自分が白人でない事も改めて自覚)。そこにトランプが舞い降りて来て、皆がバカバカだと言うし、やる事が可笑しくて、初めて笑える米大統領に近親感を持ちました。そして驚くべき事に私が嫌悪する組織や機関と対立しているので、このバカにされてる大統領の敵が私の敵と同じ〜又もや笑いがこみ上げる、そうだ,これが米国が変身しなければならない時代に待ってた運命の人がやって来たか?〜とも〜注意しつつ(ここ大事)見張って行きたい〜

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  2. 皆の答え says:

    トランプ大統領が当選した時、世界が終わったな。と思ってました。けど朝、夕で流れてくるニュースを聞いていると、この人は個を大切にしている人なんじゃないかと思いました。世界は貿易が活発に行われているけど、結局は金持ちの国が後進国に不当に安く作らせているだけ。世の中、皆、わけわかんない事をして、いい人ぶってる。しっかりとした確信なく。皆がそう言ってるから。そうじゃなくて、新聞紙、本の知識ではなく、本当の自分から見た物の考え方、”個”ってものが大切で、トランプは本当に自分で理解して行動しているのではないか?それがただの変人、馬鹿と言われようと、いい気になって、結局何もわかっていない学者先生よりはマシ。

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