タウポ

タウポにときどき出かける。
オークランドから南に300キロくらいくだったところだが、と書こうとおもって、いまたしかめてみたら、275.4キロだそうだが、まあ、クルマでのんびり行って4時間くらいのところです。

儀式のようなものであって、まずワイカトに入る前にマクドナルドに立ち寄る。
モニさんは何によらず夫をあまやかすのが趣味のような人で、そのうち、猫をじゃらす糸の先に子ネズミのおもちゃがついた棒をもって、
「ほらー、ガメー、きゃっ、きゃっ」と遊んでもらえそうな気がするが、それはともかく、食べ物の安全だけは厳しい人で、助手席で、あ、マクドだー、おなかすいたなー、食べたいなー、と述べても、知らん顔で通り過ぎてしまう。
にべもない。

ワイカトのこのマクドナルドだけが例外で、いかにもちょうどいいところにある上に、日本でいえばサービスエリアで、駐車場が広いので、らくちんだからでしょう。

そこからハミルトンを通って、ケンブリッジを抜けて、タウポへ向かう。
ハミルトンの手前までが高速で、そのあと、ハンフリーからはオープンロードだが、最近は新しいオープンロードが整備されて、制限速度が100km/hから110km/hに上がった。
そのまま、ずんずん南へくだっていくと、タウポに着きます。

タウポには、家族用の露天風呂がある。
鉄の引き具で、ぐがっと栓を開けると、日本式に述べれば天然掛け流しの鉱泉がドバッと出てくる。
日本にいたときも、なにしろモニさんが大層温泉好きなので、行きたかったが、わしがむかしから、あの有名な秋の風物「チンポコ潜水艦」をして背泳ぎをするのが好きだった箱根も、湯河原も、男女に分かれていて、モニとふたりでお盆を浮かべて熱燗というわけにはいかなかったので、どうしても温泉に行きたくなれば福井まで出かけていた。

そこには家族用の温泉風呂があって、ときどき出かけてはキャッキャッと喜んでいたが、なにしろ遠いので、難儀でした。

タウポは、男女が一緒に入るのは西洋温泉なのであたりまえだが、そのうえに、塀や植え込みで周囲の視線から遮蔽されているので、裸で、うふふふが出来る。

さらにさらに。

タウポの湖畔をちょうど5000歩あるいていくと、タップのギネスをいれるのが滅法巧いバーテンダーのおっちゃんがいるパブがあって、ギネスは嫌いなモニさん用にベルギーのビールもあるので、温泉で火照ると、冬ならば冷たい風をついて、ほっぺを赤くしながら歩いていきます。

顔なじみのおっちゃんに「やあ」と述べて、黙っていれば、ちゃんとギネスとベルジアンビールが出てくる。

ベラボーにおいしいリブアイステーキを食べて、3パイントも飲む頃になると、すっかりいい気分になるので、えいこらせと腰をあげて、また5000歩、もと来た道を戻ると、あたりまえで、戻らなかったら困るが、ちゃんと部屋にもどって、また温泉につかれます。

タウポはアメリカ人が多い町だが、休日は、もともとテイクアウェイで過ごすニュージーランド人とは異なって、レストランで団欒をすごす人が多いので、料理屋もちゃんとしている。
テーブルが準備されるのを待つあいだ、あちこちから聞こえてくるRの音がおおきいアメリカ訛りの英語を聞いていると、ああ、タウポだなーとおもう。

なんとなく、幸せになる。

最近、悪い癖がでて、またぞろ新しいボートが欲しくなった。
言うと、モニさんに呆れられそうな気がするので、何隻目かは、ここにも書かないが、先手を打っていいわけをすると、カタマラン(双胴船)は食わず嫌いだったのが、カタログを見ると、どうにも広くて居心地が良さそうです。
何のことはない普通のラウンジが、そっくりそのまま船の上に乗っていて、キッチンも広々している。

本来はカタマランといえど、そこまで広々しているはずはないのだけれど、ボートスタジオに工夫があって、どうやら、もともとはレース用のヨットだった船体をディスプレースメントに改造したらしい。

ディスプレースメントというのは、簡単にいえば、おっそおおーいけれども、乗り心地がいい、一週間くらい船上で過ごしてもへっちゃらなボートのことをいう。

ふにゃあ、これはいいなあ、とおもって、ゴロゴロしながらカタログを見ている。
このレース用のカタマランをディスプレースメントに改造する、というのは、ボートに乗るのが好きな人なら直観的にわかる「グッドアイデア」で、カタマランの欠点は高速時にピッチングが起きることだが、ディスプレースメントは、なにしろ、ゆっくりしか走らないのでピッチングの心配はない。

問題は、ある。
長さの45フィートは良いとして、幅の15フィートは、広すぎて、バース(停泊桟橋)が甚だしく限られてしまう。

ディスプレースメントはオーストラリアの海には向いていないので論外だとして、ハウラキガルフがあるオークランドには、東から、パインハーバー、ハーフムーンベイ、OBC、オラケイマリーナ、ウエストヘーブン、ヴァイアダクト、ホブソンウエスト、ベイズウォーターとマリーナがある。
ブルーウォーターを越えてやってくる外国籍ヨットと観光ヨット用のやや特殊なヴァイアダクトを別にすると、7つマリーナがあることになるが、このうち最も大きくて有名なウエストヘーブンは月極になってリースは出来なくなった。
残り6つのうち、サイモンという事業家がもっているパインハーバー、ハーフムーンベイ、ホブソンウエスト、ベイズウォーターは、なにしろ長いことボートやヨットに乗っていればわかるが、とにかく評判が悪い人で、このあいだはバースの持ち主たちにひとり新規工事分費用をひとり頭20万ドルを負担させようとして、とうとう、みっともないことにバース所有者の組合ができて、訴訟の準備に入ったりしていた。

家から最も近いのはOBCとオラケイだが、オラケイは、夕方になると中国から来た観光客が無断で観光地として立ち寄って、最近は日本の観光客などよりずっとマナーがいい中国観光客といっても、田舎からの人達なのでしょう、トイレは汚すは、どうかすると勝手にヨットに入りこむはで、それまでは考えられなかった施錠をするボートも増えた。

OBCが、家からも近いし、クラブも上品でいいが、いかんせん、橋をくぐってハウラキガルフに出なければならないので、曳汐でも、おおきな船は難しい。

そうすると、オークランド湾の北にあるノースランドのマリーナということも考えなくてはならないが、今度は、そうすると家からクルマで、たださえ渋滞が多い橋をこえて、どうかすると二時間はかかりそうです。

つまり、そういうことを考えて、タウポのホテルで、うだうだしている。

タウポはスーパー火山で、巨大な湖と見えているものは、実は火口です。
初めの頃はぜんぜん判っていなかったが、オークランドからこの辺りは火山の密集地で、うかつにも、Mt Wellington、Mt Hobsonという地名の、その「Mt」が火山だとおもっていなかった。
いや、おもうこともあって、ときに、酔っ払って「火山だよね?」と訊いたりしていたおぼえはあるから、ぼんやりと判っていたのだとおもうが、ぼんやりした理解などは、そんなもので、いつかタカプナの浜辺で、ランギトトの話を聞いていたら、「600年前の噴火で出来た」というので跳び上がりそうになったことがあった。

跳び上がりはしなかったが、ぎょっとした顔になったのでしょう、相手は、可笑しそうに笑って、「ガメ、大丈夫だよ、600年も前のことなんだから」という。

あな恐ろしの新興国。

日本の人が聞いたら、反対の意味で笑い出しそうになるはずで、火山で「600年」は「たった600年」で、いってみれば「先週のこと」くらいなものです。

家に帰って調べてみたら、オークランド市にも専門家はいて、ちゃんと世界最大の「100万人避難計画」が立ててありました。

もっともタウポが本気で真剣にぶっ飛んでしまうと、北島はおろか、南島も、オーストラリアもチリもアルゼンチンも無事にはすまなくて、日本でいえば阿蘇山のようなもので、それこそ手持ちの最高速船に家族を乗せて、トンガ→ガラパゴス→チリ→メキシコと逃げていくしかない。

タウポに来ると、「温泉はいいねえ」という話に始まって、源泉付きの家を買っておく?という話になって、この辺は飛行機をとばしやすい、小さいボートを買って鱒釣りをしてもいいね、という話にはなるが、これもいつもの、お決まりのしぼみかたで、でも遠いから、なかなか来ないよね。
最後は、それに、火山!
ということになっている。

なあんだ、と言われそうだが、そういう話をするのが楽しいので、現実は、たとえば、いつも泊まるホテルからあまり遠くないところに友達が別荘を買ってもっているが、あまり使わないので、両親の引退生活の家にした、と述べていた。

ニュージーランドは、国の歴史が始まって以来初めて、「ふつうの暮らしをしていては家がもてない」という大問題に直面している。
いまはまだ、どんな通りの名前のところでも家を持つのが不可能なのはオークランドとクイーンズタウンだけの問題だが、かつてのスラムのようなところでも一億円を越えてしまう、例の世界中の英語社会の都会人にとっておなじみの問題はタウロンガ、ウェリントン、クライストチャーチと広がりはじめている。

例えば家を購入できても、高収入の共稼ぎ夫婦で70%近くがホームローンの支払いに消えて、普通の会社員とパートタイムの主婦という組み合わせでは夫の収入のすべてが家賃に消える、いまの英語社会の生活では、人間が幸福に暮らせるわけはなくて、例えばロードレイジ、自動車にハンドルを握ると狂った人のようになって、自転車が邪魔だと体当たりしたり、相手の車を停止させてレンチで殴りかかったりする事件が、たいへんな勢いで増えている。

海外組は、もっと悲惨で、例えば東京には、生活の見通しがたたなくて母国にもどれなくなって日本人の女の人のヒモ同然のイギリス人などは掃いて捨てるほどいる。
わしブログに出てくる、六本木で遊びほうけてきたイギリス人やアメリカ人たちも、仄聞すると、悲惨を極めていて、昔のようにタイに移動すると行っても、生活費はどんどん日本に近付いているし、第一、タイ人自身が、そういう、特に昔からタイ人に対して横柄を極めていた白人を毛嫌いしはじめていて、farangが軽蔑語になってしまいそうな勢いであるらしい。
やむをえず、日本の女の人と結婚して、故国の友達には「日本人と結婚してしまったので日本にいるしかないんだよ」と言い繕うが、なにしろ、事情は広まってしまっているので、聞いているほうも同情が顔に浮かばないように用心して、とぼけるのに苦労する。

考えてみれば、故国に帰らない、のと、故国に帰れないのでは、えらい違いで、英語世界全体の狂ったような土地暴騰の、彼らは、もしかしたら、いちばんの被害者かもしれません。

なぜ、こんな話を長々としているのかというと、トランプやBrexitのファラージュをもちだすまでもなく、もっかは「1930年代に戻ったのか?」と言いたくなるような白人優越主義が荒れ狂っている。
その背景には、家賃やホームローンの支払いに区々としている、(下品だが)オカネの問題がありそうな気がすることがあるからです。

このごろ、パブで友達と話していて、いつもは温厚な人間であるのに、「アジア人は許せない!」というようなことを叫ぶように言う人が増えた。
本人たちには悪いが、わし観察では、「なぜ優秀なはずのおれが、アジア人なんかの下目に暮らさなければならないんだ」という気持や、「ホームローンのプレッシャーで胸がつぶれそうだ」という悲鳴をあげたいような気持に押し潰されそうになっている。
皮肉なことをいえば「優秀なはずのおれ」という前提がすでに間違っていて、だって、ガッコでも中国からの留学生に成績で勝ったことないじゃん、とおもうが、そんなことを言うと乱闘になりかねない血ののぼりかたなので、言いません。

もう少し判りやすくするために付け足すと、英語社会は外からは見えにくいが、容赦のない「勝者が敗者をみくだす社会」で、例えば、英語社会で家賃を払って家に住むというのは、長屋以来の長い借家文化がある日本で家賃を払ってすむのとは、まったく異なる。
「来週、出ていってね。新築するから」なんていうのは、普通のことで、借家人の権利がものすごく限られている。

貸しビル会社のオーナーである友達が、このあいだ、自分の家は他の町に土地を買った人に売って、半分に切って移動させて、そのあとに新築している最中だったが、あまりに大家が横柄なのに閉口して、レストランが静まった一瞬の間隙に
「なんだって、普通の人は家賃を払って住んだりするんでしょう!」と大きな声で述べたのがレストランじゅうに響いて、はなはだしくばつが悪いことになったが、ともかく、家賃を払って生活することの惨めさにめざめて、自分が住居用ビルに投資するときには、管理会社によく言っておかなければ、と述べていた。

英語社会では敗者は徹底的に敗者として足蹴にされるような目にあうので、どこかで間違えて沈没しているひとたちは、人種の形で鬱憤を晴らしているのかもしれません。

さて、ひさしぶりにお友達相手に、よもやま話をしようと考えたら長くなってしまった。

日本の社会には、多分、ほかの煮え切らないところとおなじ理由で、敗者が英語社会のように痛みを感じなくてもすむ文化的な仕組みがあるんです。
わしは、それを5年11回の滞在を通じて、よく知っている。
案外と、日本の復興には、そういうことが鍵になるのかもしれません。

では

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