災厄日記 その6 4月2日 菜園が教えてくれたこと

ブラックスワンに備えるのは愚か者のすることだ、という。

オカネの世界の話です。
世界戦争や地震、疫病パンデミックなどは「起こらない」と前提することで資本主義経済はなりたっている。

予想を越えた、とんでもないことは、起きてから心配することになっていて、いまのように現実にブラックスワンがもたらされると、現実は、結局、いいとしこいたおとなのカネモチやリーダーたちが右往左往することになっている。

家庭菜園拡充計画について、主にツイッタでなんども述べたので、おぼえている人もいるとおもう。

だいたい去年のあいだに計画は完了して、モニも小さいひとびとも、「自分の割り当ての区画」があります。

ぼくは2mX2mX0.8mのマルチで満たした、花壇に似た、完全に地面からもちあげられているブロックを6個、自分用に持っている。

家のひとびとが興味をもたないアジア系の野菜などは、みなここで育てる。

長ネギがあって、コリアンダーがあって、唐辛子がある。

それとは別に、マイクログリーン、カイワレやもやしをキッチンの隅で育てている。

ブラックスワンが起きた時の救荒野菜のつもりだったが、やってみると、新鮮な野菜を補う当初の目的より、毎日、水をやって、いろいろな生命が、少しずつ育ってゆくのを見るほうが主眼になってしまった。

自分だけのオタク菜園区画を別にしても、玄関の脇にあるオリブの木がびっしりと実を付け、なかなか結実しないライムが、たった一個だけ、それでも立派な実をつけると、収穫して、恭しくコロナ・ビールにいれて「やっぱり自分の庭でとれたものは味が違う」とひとりごちる。

自分の庭でとれたって、プロが栽培したって、コロナビールにいれて使うくらいで、ライムの味の違いなんてあるわけがないが、そうやって簡単に理性を失って愚かにも有頂天になれるところが、自分で菜園をもつ楽しみなのであるとおもわれる。

鶏も飼う予定だったが鶏舎を購入して、裏庭に設置したところで、めんどくさくなって放っておいているうちに、今回のパンデミックが来てしまった。

これも庭でとれた、でっかいお芋さんを輪切りにして、天ぷらにしたのを頬張りながら、これでしばらく「新鮮な卵」の夢はついえてしまったではないか、と、がっかりする。

ただし、そこで自分の怠惰を責めたりしないところが、テキトー人生のこつであって、なりゆきまかせというか、自分の場合、人生における最大の不確定要素は自分自身の気まぐれだが、それはそれで、与えられた初期条件ということになっている。

スーパーマーケットに人が押し寄せて、隣国のオーストラリアではトイレットペーパーの取り合いで殴り合いになったふたりの女の人の動画が世界中に流布されて、「やっぱりオーストラリア人は流刑人のなれのはてだけあって粗暴である」と連合王国人たちを喜ばせていたが、次の週には、ロンドンで、ふたりの人の殴り合いどころか、トイレットペーパーの奪い合いで、十数人の集団が入り乱れての乱闘が伝えられて、今度はアメリカやダウンアンダーのひとびとに無上の娯楽を供したりしていた。

我に返って落ち着いてみると、せっかく競争者を殴り倒して手にしたトイレットペーパーを使用するためには、まず食べることが必要で、考えてみると、トイレットペーパーの備蓄はあっても、食べ物の備蓄は心許ないので、今度は、またも延々と行列して、食料を買い出すことになった。

トイレットペーパー騒ぎがおさまると、パスタが真っ先に売り切れたようです。

そのつぎが、世間をちょっと驚かせたことに、米。
ロングライス、ミディアムライス、ショートライス。

バスマティ、ジャスミン、ジャポニカ。

本来、米を食べない人が米を買ったからでしょう。
炊飯器まで売り切れている。

多分、まっさきに売り切れると予想された小麦粉は3番目で、多分、ライフスタイルがいつのまにか変わっていて、パンを焼くという時間が普段の生活から消滅してしまったせいではないかと推測される。

いまは小麦粉が見事なくらい棚から消えてしまったので時間差だけで、やっぱり必需品なのが判ったが当初は買い占められなかったのは「パンはベーカリーで買うもの」ということに、なってしまっていたのかもしれません。

英語ではnosyという。

隣家から話し声が聞こえると、さっと二階の部屋にあがって、カーテンの隙間から、隣をのぞきみて、おやおや夫婦で口論しているな、旦那のジョンに若い愛人でもできたかな、第一、奥さんのアイリーンはこのごろだいぶん太ったようだ、ジョンの不倫のストレスだろうか、というようなことをやる人を「nosyな人」といいます。

ロックダウンちゅうだがスーパーマーケットだけは行ってもいいことになっている、という屁理屈をこねて、モニと一緒にスーパーマーケットへ「偵察」にでかけた。

駐車場をゆっくり走りながら、見たものは、多分、一生、光景として忘れられない。

若い人も、年寄りも、でっぷり太った人も、ガリガリくんに痩せた人も、足下にマーカーが描かれてでもいるのか、きっかり2mの間隔をあけて、じっと長い入場順番待ちの行列にたちつくしているひとたちで、いざとなると、最近のチャライ風潮から我にかえって、伝統のドマジメな姿をみせるKiwiたちの姿を見て、もしかしたらニュージーランドは意外と早くCOVID-19が終熄するのではないか、と述べて、モニさんに「ガメは、あまい」と笑われたりした。

ふと思い出してみると、菜園を始めたときは、つまりはコモ湖の周辺に暮らす人たちが、花などには見向きもせずに、トマトやカボチャ、実用に徹した野菜の栽培に庭のすべてを使っている記憶で、イタリア人のまねっこで始めただけのことで、芽がでても、育っても、トマトの赤い色につられたTuiやマイナーバード、ブラックバードの鳥たちが食い荒らしたときに腹がたったくらいで、感情が菜園に向くことはなかった。

ところがパンデミックの渦中では、生命が芽吹くことの、なんともいわれない美しさに心が動いて、「大地のめぐみ」というような陳腐な表現まで頭に浮かんでくる。

なんだか、自分でもびっくりしてしまうが、大地から生命が生まれることに感動している自分を発見する。

意想外なことに、菜園は、新鮮な野菜よりも心の健康のために最もよかったわけで、自分の生命だけではなく、人間という存在の無条件な生命への愛情の強さが実感される、という不思議な結果になった。

もともと1年分程度の食料の備蓄はある家で、その上に買い足したものができたので、
もっかはウォークイン冷凍庫も、チェスト冷凍庫も、冷蔵庫も食物でいっぱいで、お菓子の家に住んでいるみたいというか、家自体が食べ物だらけで楽しいが、報道を読んでいると、「収束に向かうまで2,3年はかかりそうだ」という予想も出ていたりして、なんだ1年分なんかじゃ足りなかったのか、と、いまさらながら「えらいこっちゃ」と呟いたりする。

ニュージーランドはアーダーン首相が比較的に頭がしっかりした人で、適切と国民が納得する決断を毎日つづけて、それがこのひとの特徴で、断固として、妥協のない態度で徹底的に実行しているが、
なんども書いたように、パンデミックには国境などない。

物理的に人口過密な地帯から遠いので、やや有利だが、欧州からが多い、数千人の帰国者がおおく感染していて、医療施設に負荷がかからないように、個々の良心に信頼した自宅隔離に任せているのでわかるとおり、ニュージーランドも感染の洪水を免れるわけにはいかないでしょう。

いまはさまざまな、現実には願望にしかすぎない「自国文化に特有な理由」で感染爆発をまぬがれていても、やはりパンデミックの理(ことわり)どおり、イタリアやスペイン、アメリカの地獄に足を踏み入れるのは時間の問題であるようです。

自然に国境はないのだから、あたりまえといえばあたりまえだが、これほどあたりまえのことでも、人間の恐怖心と、安心したい一心の心の傾きというのは仕方がないもので、本人は平静に分析しているつもりでも、「もう我が国では感染の危機は終わった」
「結局、我が国だけは感染爆発は起こらなかった」と、愚かな妄想にとびついてしまう。

そういう人間の心の弱さも、地面から、やっと頭をもたげかけた芽を見ていると、すっと、胸にはいってくるように了解される。

ビタミンや繊維だけではなくて、光を求めて生命の限り、のびつづける植物は、見つめているだけで、さまざまなことを教えてくれるもののようでした。

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2 Responses to 災厄日記 その6 4月2日 菜園が教えてくれたこと

  1. もうめい says:

    発達障害と呼ばれる子ども達の教育に関わっていて、野菜や花を育てることや小動物のお世話をすることを事あるごとにお勧めしてきたこと、間違いではなかったと再確認できました。ありがとうございます。

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  2. niitarsan says:

    我が家のような狭いベランダのプランター菜園であっても、日々草木が成長する姿を眺め土に触れることは、収穫の利よりも遥かに多くの精神衛生上の利がありますね。心が沈んでしまった時期にも朝日の中で緑に触れて過ごす一時が生きる力を与えてくれました。

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